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再会 #3

 クロムが目を覚ました時は、窓から淡い冬の日差しが差し込んでいた。

 ずっとベッドの上のアンバーを眺めていたはずなのに、気がつけば椅子の上で毛布をかぶって寝ていたようだった。

 そしてそのアンバーがいないことに気がつくと、ハッと目が覚める。

 キョロキョロと辺りを見回したが、アンバーの姿は見当たらない。

 しかし、程なく扉の向こうから話し声と、アンバーの笑い声が聞こえてきた。

 軽く身支度を整えて部屋の扉を変えると、アンバーともう一人の女性が朝食の準備をしていた。

 ほんの少し、楽しげなアンバーの姿を見届けると、クロムはアンバーに話しかけた。


「おはよう、アンバーちゃん。相変わらず早起きだね」

「あ、クロムさん。おはようございます」

「よく眠れた?」

「え? あ、あの……」


 アンバーは、クロムの質問にちょっと答えづらそうに口ごもるが、すぐにぺこりと頭を下げて答える。


「私の横にいてくれたんですよね。ありがとうございます」

「いいよ、気にしなくて。アンバーちゃんの寝顔を見てただけだし」

「わ、私、なんか変な顔してました?」

「ううん、可愛い寝顔だったよ」


 クロムのベタ褒めに、アンバーは顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 その会話がひと段落するのを待っていたかのように、アンバーの隣にいた女性がクロムに話しかけてきた。


「やあ。初めましてかな?」

「初めまして、クロムです」

「おれはモテット。ここでヴェルブンクさんの手伝いをしてる」


 モテットと名乗った女性を、クロムはまじまじと眺める。

 背丈はクロムよりほんの少し大きく、ややがっしりとした体躯をしている。

 髪の毛はアンバーの茶色に少し赤みが足されたような感じで、ショートヘアーに揃えられている。

 全体的にボーイッシュな雰囲気を漂わせていた。

 そんなモテットの腰に、見慣れた杖がぶら下げられているを見つけると、クロムは思わず問いかけていた。


「その腰の杖…… もしかして、モテットさんは魔法使い?」

「ああ、そうだ…… おっと、いけねえ」


 そういうと、モテットはコンロにかけてあるフライパンの方に駆け寄った。

 フライパンの中では、スライスされてミルクと卵を溶いた液につけられたパンが狐色に焼き上がり、バターの香りを漂わせていた。

 一つ一つのパンの焼き色を確認しながら裏返しつつ、モテットは会話を続けた。


「何年か前に学校を出てから、いろんな場所で働いてたんだけど、最近面白そうな募集を見つけたから来てみたのが、ここだったんだ」


 学校、という言葉にピンときたクロムは、恐る恐る尋ねてみる。


「魔法の学校というと、もしかしてジュリアード魔法……」

「お、そうそう。ジュリアードだよ。もしかして、あんたもそこの卒業生?」

「あ、院に進んだので、まだ学生なんですけど……」

「そっか、まだ学生かあ。そりゃあ楽しそうで、羨ましいねえ」


 そう言いながらモテットは、手慣れた手つきで焼き上がったパンを皿に盛り付けていく。

 その作業をこなしながら、さっきからずっと固まったままのアンバーに、声をかける。


「アンバーちゃん。悪いんだけど今手が離せないんで、みんなを起こしてきてもらえるか?」


 それを聞いたアンバーは、は、はい、と返事をするとみんなを起こしに、隣の部屋へと駆け出していった。

 今日の朝会っただけなのに、アンバーちゃんとすぐに打ち解けているみたいで、この人何者? という気持ちのクロム。

 そんなクロムの戸惑いに気がつく様子もなく、モテットはクロムに料理の準備の手伝いを依頼する。

 言われるがままに、スープを器によそい、茹で上がったソーセージを大皿に並べて机の上に置いたところで、ラーセンとオリーブがあくびをしながら部屋から出てくる。

 そして、アンバーに手を引かれながら、ヴェルブンクもゆっくりとやってきた。

 全員がテーブルを囲むように座ると、モテットは両手を広げて食事の準備ができたことを皆に告げた。

 それを合図に、全員がゆっくりと食事に手をつけ始める。

 アンバーは相変わらずヴェルブンクにベッタリで、幼い頃の話やこの旅で起きた話などをしている。

 ラーセンとオリーブは、半分寝たまま本能的に食事を流し込んでいる。

 そのため、必然的にクロムはモテットとペアになる。

 ただ、話のきっかけが掴めずどうしようかと思っているところへ、モテットの方からクロムに話しかけ始めた。


「そういやあ、院生ってことは指導教官がいるんだよな」

「え、ええ、シノクサ先生です」

「シノクサ、シノクサ…… ああ、しーちゃん先生か」

「ご存じなんですか?」

「ああ、四年生の時のおれの担任だったからな」

「え?! じゃあ私の先輩、ですか?」

「ああ。しーちゃんでずっと通してたからな。シノクサっていう名前はド忘れしてたよ」


 そういうとモテットは、ふわふわのパンをフォークで刺して、一口で頬張った。

 クロムも同じくパンを、フォークで器用に一口大にして口にする。

 程よくミルクと卵を溶いた液で柔らかくなっているパンは、口の中でとろけてなくなる。

 美味しい! と思わず声を上げたクロムに、モテットは満足そうに頷いて見せる。


「そうだろ、そうだろ。何せこのパン料理は、おれの得意料理なんだよ。ところでクロムは、なんで院に進んだんだ?」


 その質問に、かつて小夜亭のブーレの一人娘であるポルカに同じようなことを聞かれたな、ということをクロムはふと思い出した。そして昔を思い出しながら、言葉を選びつつ答えていく。


「えーと、私はジュリアードで近代魔法を学んでいたんですけど、ユニゾン効果をなかなか他の人と合わせられなかったんですね。周りに合わせて手加減できないタチなので」

「なるほど、そういうタイプか」

「でもあるとき、そこにいる師匠から古典魔法のことを教えてもらったんです。それとハルモニー効果のことも。これなら周りに合わせて手加減する必要もないし、ハルモニー効果は学べば学ぶほど、奥が深くて楽しい」

「古典魔法にハルモニー効果か。優秀なんだな、あんた」

「いや、まだまだ学ぶことは多いです。ですのでフィールドワークを兼ねて、師匠と一緒に失われた魔法陣を探す旅に同行させてもらっているんです」


 そう答えたクロムの顔を、モテットはじっと見る。

 やや長く不自然に眺めていたので、クロムは不思議そうにモテットを見返す。

 少し考え事をするように腕を組み頭をひねるが、突然何かを思いついたかのような表情を浮かべる。

 そしてヴェルブンクを様子を伺う。

 モテットより早く同じ考えに辿り着いていたヴェルブンクは、モテットの考えに同意するように笑みを浮かべながら答えた。

 それをみたモテットは、クロムの手をぎゅっとつかむ。


「も、モテット先輩。これは?」

「確認したいことがある。ちょっと裏庭まで来てもらえるか」

「は、はい。大丈夫です。て、待ってください」


 クロムの返事を待たずに、モテットはクロムを連れて裏庭に移動する。

 村外れにポツンと立っているヴェルブンクの家には、家の大きさからするとだいぶ広い裏庭があった。

 少し離れたところに、土壁がいくつか立っている。

 モテットはそのうちの一つを指さすと、クロムに尋ねた。


「あの土壁、わかるか?」

「は、はい」

「クロムの魔法が見たい。おれと一緒に初級火魔法でユニゾン効果を試してもらえるか?」


 そういうと、モテットは腰から杖を取り出す。

 なんだかわからないけど、雰囲気に押されて、クロムもカバンから最近久しく使っていなかった、ジュリアード魔法女学園からもらった近代魔法用の杖を取り出す。


「いくよ、クロム!」

「はいっ、先輩!」


 そういうと、モテットは初級火魔法の魔法陣を描き始める。

 それは、クロムの同級生たちに比べると圧倒的に威力の高いもので、エオリアン公国の宮廷魔法使いたちと同等のものだった。

 その魔法陣を見て手加減不要と判断したクロムも、力を込めて魔法陣を描く。

 魔法陣が準備できたところで、二人が息を合わせてユニゾン効果を発動させる。

 モテットの合図で魔法陣を発動させる。

 すると、二つの魔法陣は溶けあって一つの魔法となり、土壁目指して飛んでいあった。

 土壁はユニゾン効果で強化された魔法を受けて、粉々に粉砕される。

 それを見たモテットは、知りたいことが知れた満足げな表情を浮かべた。

 きょとんとしているクロムの手を取り、モテットはクロムに大事なことを伝えた。


「お願いしたいことがある!」

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