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私らしさ #6

 自警団と行動を共にした。その日の夜。

 クロム達はミュゼットに誘われて、町の中心にあるレストランに来ていた。

 荒くれ者の多い職人の町に相応しく、テーブルの上に置かれた数々の皿には、あふれんばかりの料理が載せられていた。

 ミュゼットは、同席しているバスピエに対して、やや興奮気味に話をしている。


「……というわけで、団長が弾き飛ばされて、ああもうダメっ、と思った瞬間、クロムさんの魔法が、こうビュンっと飛んでいって、ビッグホーンの心臓を……」

「わかったわかった。ビッグホーンをどうやって倒したのかについては、よーくわかった」


 バスピエは、初めこそ肉団子やソーセージをつまみながら、話を聞いていた。

 しかし、いつまでもクロムの武勇伝を語り続けるミュゼットに痺れを切らして、ようやく制止をする。

 それでもバスピエは、ミュゼットの変化を感じ取っていた。


(たった一日で、こんなに変わってしまうたぁ、外部からの刺激っていうのも、馬鹿にならねえな……)


 そしてバスピエは、パンを一口かじると、本質的な内容に触れ始めた。


「で、結局どういう杖を作るかは、決まったんか?」

「んー、それがですねぇ……」


 杖の話になった途端、ミュゼットが突然言葉に詰まる。

 おやと思ったバスピエは、手元のジョッキに注がれたエールをごくりと飲み込む。

 ミュゼットは、胸の前で手を動かしながら、何か正しい言葉を探し出すようなそぶりをしている。


「あ、思いつかねえのか?」


 バスピエの一言に、ミュゼットは勢いよく立ち上がると、ブンブンと大きくかぶりを振る。


「いいえ、アイデアの元みたいなのは、た、たくさんあるのですが、どれがいいのか、き、決められなくて……」


 杖の話になると、途端に言葉に詰まるミュゼット。

 一旦水を飲んで気分を落ち着けると、テーブルに座ったクロム達を見て語りかけた。


「なので、クロムさんと、クロムさんをよく知るみなさんとお話しさせていただいて、イメージを固めさせてもらえればと思ってます」


 そういうと、ミュゼットはトスンと椅子に座り直す。

 長い長い親方と弟子のやり取りを聞き終わったクロム達は、食事の手を少し止めて、そんな二人を眺めていた。

 そして最初にオリーブが、サラダを手元の小皿によそいながら、話を再開する。


「なるほどね。ようやく今日の夕食が、バスピエさんの奢りの理由がわかったわ」

「ガハハ、そういうわけだ。悪いが、不精な弟子の助けになってはくれねえか?」

「お安い御用よ。ね、アンバーちゃん」


 オリーブに突然話を振られたアンバーも、コクコクと首を大きく振る。

 誰かから話を聞き出すのは、酒場で働いていた時からのオリーブの特技だ。

 手元のサラダを食べながら、あえてミュゼットから目線を外し、あまり緊張しない雰囲気を作りながら、オリーブはミュゼットと話し始めた。


「それでミュゼットちゃんは、どういう杖がクロちゃんに似合うと思っているのかしら」

「は、はい。クロムさんは近代魔法がとてもお上手です。なので、近代魔法と古典魔法と、両方使えたらいいんじゃないかと思ってます」

「それはいいわねえ。クロちゃんが近代魔法を使ってくれないと、あたしばっかり魔法を使わされちゃうからね。じゃあその案、採用」


 わずか二言三言で結論を出してしまったオリーブに、思わずクロムが抗議する。


「ええっ?! もうちょっと考えてくださいよ!」

「でも、悪くないんじゃない? せっかく学校で習った近代魔法を使わなくなるのは、勿体無いでしょ」

「確かにそうですけど……」


 そういうとクロムは、チラリとアンバーに目を向けて助けを求める。


「アンバーちゃんは、どう思う?」

「あ、あの、私は……」

「うんうん」


 言いたいことを言っていいかどうかためらっていたアンバーだが、意を決したように答える。


「私は、古代魔法も使ってほしいです」

「え?」

「旅の途中で、一緒に魔法の練習をしてましたけど、クロムさんは古代魔法もとっても上手です。だから……」


 これ以上主張をするのが恥ずかしくなったアンバーが、目を伏せると手元のリンゴを手に取って食べ始める。

 それを聞いたオリーブは、目を瞑りながら首を振って同意する。


「そうねえ。アンバーちゃんの大好きなヴィルも古典魔法を使ってたし。クロちゃんには近代、古典、古代の三つの魔法を全部担当してもらいましょう。そうすればあたしたちは、後ろで楽させてもらえるわ」


 突然ヴィルの名前が出てきて、アンバーは思わず顔を赤らめる。

 クロムは、アンバーに助けてもらうつもりが、逆に使う魔法が増えてしまって、二の句が継げずに固まる。

 そんな二人をオリーブは満足そうに眺めながら、ミュゼットに話しかけた。


「というわけで、古典魔法用と古代魔法用の二本、お願いね。そうねぇ、クロちゃんの二つ名はさしずめ『三本杖のクロム』ってとこかしら」

「『三本杖のクロム』、いいですね! それじゃあその案で早速作り…… あいた!」


 オリーブの悪ノリに乗せられて、あらぬ方向へ進んでいきそうなミュゼットの頭を、バスピエが軽く小突く。

 えっ、という表情で覗き込むミュゼットを、バスピエは呆れたように諭す。


「三本も杖をぶら下げて旅する魔法使いが、どこにいるんだ。一本だ」

「は、はい……」

「三本分の働きを一本にまとめるのが、腕の見せどころだろ」


 その言葉を聞いて、ミュゼットの表情が変わる。

 さらりと焚き付けるバスピエにオリーブは、弟子の性格をよくわかっているのね、と心の中で感想をつぶやいた。

 そしてもはや自分の意思と関係なく、自分の使う杖のことが決まっていき、硬直してしまったクロムの手を取って、ミュゼットは満面の笑みで語りかける。


「みなさんのおかげで、クロムさんの新しい杖の方針が決まりました! あとは、この方針を実現できる杖の形状について、一緒に詰めていきましょう」

「は、はあ」


 そんな二人を眺めながら、バスピエはラーセンに語りかけた。


「よかったな、古典魔法の後継者ができたぞ。これでおめえも、いつでも引退できるな」

「どうかな。まだまだ危なっかしいところも多い。それに、魔法以外にも伝えたいことはある」

「ガハハ。伝えたいことがなくならないのは、俺たち教え子を持つものの宿命だな」


 そう言うと、バスピエとラーセンは、ともに手元のエールを飲みながら、つまみを食べ始めた。

 オリーブとアンバーは、ヴィルの名前をきっかけに、この前の砂漠の都市での思い出話に花を咲かせる。

 そして、ミュゼットはクロムに、新しい杖の完成形について食い気味に質問を重ねていく。

 ミュゼットの質問攻めに、たじたじとなるクロム。

 クロムの新しい杖の方針が決まった夜は、このような雰囲気で過ぎていった。


 それから数日の間。


 クロムはミュゼットの働く工房に通い詰めた。

 ミュゼットが次々と出すトンデモアイデアを、時には否定して、時には改善案を提示して、少しずつ現実的な形に杖のイメージが出来上がっていく。

 試作品が出来上がると、町外れの広場に出かけて、試し撃ちをする。

 そして改善ポイントを見つけては、また工房に戻り修正をする。

 一心不乱に杖を作り続ける二人を、師匠と親方はただ見守っていた。

 そして何度目かの広場での試し撃ちを終えたクロムとミュゼットは、顔を見合わせた。


「これは……」

「多分……」

「完成じゃあ……」

「ないんでしょうか!!」


 冬の気配が混じり、肌寒い風が吹く朝の広場で、二人は諸手を挙げて喜び合った。

 寝食を惜しんで作り上げた杖が、とうとう出来上がった瞬間だった。

 クロムは宿屋へ、ミュゼットは工房へと戻った。

 そして、昼食を食べ終わったら新しい杖のお披露目をすることを、皆に伝えた。

 それぞれが食事を済ませ、試し撃ちをしていた町外れの広場に全員が集まった。

 クロムは、皆から少し離れたところに立つと、振り向いて大きな声で始まりを告げる。


「それじゃあ、見ててくださーい!」


 そういうとクロムは、くるりと振り向きなおし、正面にある大きな岩に相対する。

 この岩は、魔法の試し撃ちをするために、クロムが土魔法で作り出した的だ。

 肩からかけた魔法のカバンから、新しい杖を取り出すと、的に向けて構える。

 その杖は、見た目は以前のものとそれほど変わっていないように見えた。

 オリーブがそれを見てつぶやく。


「あらあ、クロちゃん、間違って元の杖を出してない?」


 その言葉を聞いたミュゼットが、ふふんと鼻を鳴らしながら答えた。


「いいえ、あれがクロムさんの新しい杖なんです」

「あら、そうなの」

「結局、使い慣れた近代魔法の杖をベースにするのが、一番よかった感じでした。ただし、多少重さを増やして、大き目の古典魔法の魔法陣も無理なく描けるようにしています。近代魔法の魔法陣も今まで通り描けるよう、重心を少し後ろの方にずらして……」

「はい、そこまで。クロちゃん、やる気みたいよ」


 杖の特徴を話し始めて止まらなくなりそうになったミュゼットを、オリーブが制止する。

 そして、皆が注目する中、クロムは魔法陣を描き始めた。

 まずは、初級火魔法の魔法陣を描く。

 元々の杖でも力強い線で描かれていたが、この杖になってさらに力強さが増したように見える。

 描き終わった魔法陣を固定したまま、重ねるように古典魔法の魔法陣を描く。


「いきます!」


 そういうと、クロムは両方の魔法陣を同時に発動させた。

 二つの魔法陣が重なり、一つの複雑な魔法陣になったかと思うと、そこから火矢が飛び出す。

 そして次の瞬間には、的になった岩を砕いていた。

 それを見たクロムは、ラーセンの方に向かって問いかけた。


「師匠、どうですか? 私の古典魔法は」


 ラーセンは想定した以上の魔法を見て、思わず笑みをこぼす。

 そしてそれに気がつくと、その笑みは苦笑いに変わった。


「うん、まあまあだな」

「まあまあって。まあ、合格点ということで受け取っておきますね」

「好きにしろ」


 そのあとは、飛んできた小鳥をヴィルばりの古代魔法で捕まえて、アンバーを喜ばせる。

 新しい杖の出来栄えに満足したクロムは、その後も何度か試し撃ちを繰り返していた。

 そんなクロムを見て、バスピエが当時を思い出すかのように笑いながら、ラーセンに話しかけた。


「昔のおめえみてえじゃねえか」

「俺は、あんなにはしゃいではいなかったが」

「顔だよ、顔。喜びを隠しきれてないところが、そっくりだ」

「そんなもんか」

「ああ、いい弟子をとったな」

「あんたの弟子も、いい腕の職人になりそうだな」

「ガハハ、まだまだひよっこだがな」


 一通り魔法を打ち終えたクロムのところへ、アンバーとミュゼットが駆け寄っていく。

 出来上がった杖をアンバーに渡すと、思ったより重かったのか取り損ねて落としそうになる。

 謝るアンバーに、笑顔で答えるクロム。

 オリーブは、それを遠くから見守る。

 もうすぐ、冬が訪れようとしていた。

クロムが、とうとう新しい杖を手に入れました。

次回はオリーブを育てたアルマンドが宮廷魔法使いとして活躍していた国を訪れる予定です。

お楽しみに。

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