ダンジョン
あれから月日が経ち、学園入学まで残り一ヶ月を切った。
フィオナは王妃教育に励んでおり、俺は日々剣術に磨きをかけ、ステファンとも魔法の特訓を続けている。もちろん勉強も忘れてはいない。
万が一悪役令嬢に仕立て上げられたフィオナを危機から救う為にはあらゆる局面において対処できなければならない。
処刑されそうになれば、周りの奴らを薙ぎ倒してでも救ってやる覚悟だ。その後は異国でスローライフも良い。
覚悟だけはあるが、ヒロインが現れるまでの間に俺に出来ることと言えば、剣術、魔法、勉学全てにおいて磨きをかけることくらいなのだ。
「随分と自分のモノになってきたではないか。さすがはクライヴだ」
俺を褒めるこの男はステファン・レイヴェルス。御令嬢を見ると甘い言葉を次々に連発する特技は変わらず健在だ。一応俺の友人ということになっている。
「ありがとう。念の為、シールドとか戦闘用に攻撃魔法も習得したいよな」
ステファンのアドバイスと日々の鍛錬のおかげで、普通に氷塊を具現化したり、風を操って物を飛ばすこともできるようになった。
ついでに言うと気圧と冷気を操って雪を降らせることにも成功した。いつぞやの霙はこれの失敗例だったのだろう……。
次のステップには良い頃合いだ。そう考えているとステファンから提案された。
「そういうのは実践が大事だからな。ダンジョンに行ってみるのはどうだ?」
ダ、ダンジョン……!?
「ダンジョンあるのか?」
「あるに決まっているだろう。今まで知らなかったのか?」
「誰も教えてくれないし……」
横目でルイを見れば、笑ってごまかそうとしている。キッと睨めばルイが話し出した。
「記憶が無くなる前のクライヴ様は、それはもう動くのもお嫌いで……。生き物に関しては虫、動物、魚全般苦手で、魔物に至ってはもってのほかでしたのでダンジョンのことは伝え忘れておりました」
てへッ! じゃねぇよ。
「行きたい行きたい! 今から行こう! 武装とかもするのか? パーティーも組みたいよな。俺とお前と……その場で適当に見つけるか。ポーションとかもあった方が良いよな。怪我して途中で脱落するのは嫌だもんな」
「待て待て待て、クライヴ落ち着け」
興奮してしまった俺はステファンにステイを食らった。
「色々手続きもあるし、明日にしよう。それにしても初めて聞く割にダンジョンについて詳しいんだな」
「ま、まぁな……」
前世ではRPGは腐るほどやった。乙女ゲームではなく、そっち方面に転生したいと思うほどに。
「本でな……チラッと見かけてな」
誤魔化してみたが無理がある。本で見たならこの世界にダンジョンがあることも載っているはずだ。
「そうか。クライヴ、お前は勉強熱心だもんな」
信じるんかーい! 変なとこポンコツで良かった。
それにしてもダンジョンとは、何とも男のロマン溢れる響きなんだ。転生して良かった。
「では、明日早朝に迎えに来るから準備して待っていろ」
「了解!」
◇◇◇◇
「なんか俺だけダサくね?」
「仕方がありませんよ。昨日の今日なのですから」
昨日、ダンジョンに行くことになったと父に話したら『私のとっておきを貸してやろう』と言われたので戦闘服を借りることにした。
借りたのは良いが二十年前の型落ちだ。周りを見れば華やかな戦闘服が多い。
「ルイは騎士服っぽくて格好良いな」
「私はクライヴ様の執事兼護衛騎士ですから。仕事着です」
「え? ルイ騎士なの? いつから?」
「最初からですよ。今回もクライヴ様に危険があればすぐお助けしますのでご安心下さい」
全く気付かなかった。執事の割に筋肉質だと思ったことはあるが、まさか騎士だとは思いもしなかった。今度手合わせ願おう。
ステファンも緑の髪に赤と白を基調とした戦闘服が良く似合っている。ついでに色気まで増し増しだ。
「また自分に合ったものを買えば良いじゃないか。とりあえず冒険者登録をしに行こう」
ステファンに宥められ、俺は受付に向かった。
「初めての方ですね。こちらにお名前と連絡先、魔力属性等、分かる範囲でお書き下さい」
言われた通りに書いていき、ダンジョンの説明を受けた。
もちろん俺は初心者なのでEランクだ。魔物を倒していくとランクは自動的に上がっていく仕組みらしい。
弱い魔物だけを狙い、数をこなしてランクを上げるタイプ。強い魔物を倒し一気にランクを上げるタイプ等、人によってランクの上げ方は自由だそうだ。
俺はやはり後者が良いな。ラスボス倒すの格好良いしな。
「へー、お前Bランクなんだ。流石だな。ルイは……え、Sランク!?」
魔法も得意で、何でも卒なくこなすステファンがBランクなのは納得だ。
それに比べて、先程までただの執事だと思っていたルイがSランクだなんて……。
相当強い騎士なのだろう。どうして執事をやっているのか甚だ疑問だ。俺がフィオナを守るより、ルイに任せた方が確実な気がしてきた。
フィオナを寵愛し歪んだ性格に成長させなかった今、俺はお役御免なのかもしれない。ルイにバトンタッチをしようか本気で悩む。
「駄目だ駄目だ! 一度やると決めたことは自分でしないと」
「どう致しました?」
つい、心の声が漏れてしまった。
「何でもない。俺も早くレベルアップしたい! 行こうぜ」




