ダンジョン
「お義兄様、今から王妃教育を受けに行って参りますわ」
「ああ……無理するなよ」
――先日、アレンとフィオナが二人で話した後、フィオナは笑顔で言った。
『わたくし、アレン殿下と婚約致しますわ』
『私の想いがフィオナ嬢に通じたようで良かったです』
二人は結婚を約束したのでした。
めでたし、めでたし――――。
「じゃない! 良いのか? これは良い選択なのか?」
これはこれで悪役令嬢ポジになるのではないだろうか。そもそもゲーム内でアレンは婚約していたのか?
アレンルートがさっぱり分からないから判断ができない。ヤンデレって情報しかない……。
ヤンデレってことは、フィオナは執着されて愛されるわけだ。
それにしても、フィオナはクリステル殿下が好きなのだと思っていた。スフィアが婚約者になったから実らぬ恋ではあるが、フィオナよ、失恋したのに立ち直りが早すぎやしませんか。
もしや……イケメンなら誰でも良いのか!?
ステファンともお互い愛称呼びだし、初めて求愛された時は耳まで真っ赤になっていた。
俺がイケメンだったら禁断の兄妹愛、ウフフアハハな生活があったのだろうか。いかんいかん、たらればでエロい妄想をしてしまった。
脱線したので話を戻そう。
あれから何度もフィオナを説得してみたが、フィオナの意志は強く、アレンとの婚約を解消する気はないようだ。
こうなったらアリスがアレンルートに進まないよう全力で回避するしかない。
もしかして、アリスがクリステルルートに進むように手助けすれば王位継承争いも酷いことにはならず、自動的にクリステルが王になったりして。
クリステルとアリス、アレンとフィオナ、双方互いに相思相愛でハッピーエンド。
そんな安易な考えの相関図を頭の中で描いてみた。
(あ、駄目だ。クリステルとスフィアは婚約しているんだった)
あの子を不幸にする訳にもいかない。残るはステファンと、アリスの幼馴染アルノルド、この二択か。
恋のキューピットになれる気がしないが、アリスがこのどちらかのルートに進むよう善処するしかない。
(でも、フィオナ、何だか変なんだよなぁ)
引っかかるのは、アレンと婚約したはずのフィオナが心なしか元気がないように見えることだ。何かされたのだろうか。
アレンがフィオナを害するようなことがあれば、反逆罪になろうが剣を差し違えてもフィオナを守るつもりだ。
だから、今日も今日とて、朝から剣術の特訓を済ませ、今はステファンとも魔法の特訓中だ。
覚悟だけはあるが、ヒロインが現れるまでの間に俺に出来ることと言えば、剣術、魔法、勉学全てにおいて磨きをかけるくらいなのだ。
「随分と自分のモノになってきたではないか。さすがはクライヴだ」
俺を褒めるこの男はステファン・レイヴェルス。御令嬢を見ると甘い言葉を次々に連発する特技は変わらず健在だ。一応俺の友人ということになっている。
「サンキュ。念の為、シールドとか戦闘用に攻撃魔法も習得したんだけど」
「んー、実戦向きのやつだな」
「そう。頼む、ステファン、教えてくれ!」
ステファンのアドバイスと日々の鍛錬のおかげで、容易に氷塊を具現化したり、風を操って物を飛ばすこともできるようになった。
ついでに言うと気圧と冷気を操って雪を降らせることにも成功した。いつぞやの霙はこれの失敗例だったのだろう……。
故に、次のステップには良い頃合いだ。そう思って、ステファンにお願いすれば、淡々と提案された。
「そういうのは実戦が大事だからな。ダンジョンに行ってみるのはどうだ?」
ダ、ダンジョン……!?
「ダンジョンあるのか?」
「あるに決まっているだろう。今まで知らなかったのか?」
「誰も教えてくれないし……」
横目でルイを見れば、笑ってごまかそうとしている。キッと睨めばルイが話し出した。
「記憶が無くなる前のクライヴ様は、それはもう動くのもお嫌いで……。生き物に関しては虫、動物、魚全般苦手で、魔物に至ってはもってのほかでしたので、ダンジョンのことは伝え忘れておりました」
てへッ! じゃねぇよ。
「行きたい行きたい! 今から行こう! 武装とかもするのか? パーティーも組みたいよな。俺とお前と……その場で適当に見つけるか。ポーションとかもあった方が良いよな。怪我して途中で脱落するのは嫌だもんな」
「待て待て待て、クライヴ落ち着け」
興奮してしまった俺はステファンにステイを食らった。
「色々手続きもあるし、明日にしよう。それにしても初めて聞く割にダンジョンについて詳しいんだな」
「ま、まぁな……」
前世ではRPGは腐るほどやった。乙女ゲームではなく、そっち方面に転生したいと思うほどに。
「本でな……チラッと見かけてな」
誤魔化してみるが無理がある。本で見たなら、この世界にダンジョンがあることも載っているはずだ。
「そうか。クライヴ、お前は勉強熱心だもんな」
信じるんかーい! 変なとこポンコツで良かった。
それにしてもダンジョンとは、何とも男のロマン溢れる響きなんだ。転生して良かった。
「では、明日早朝に迎えに来るから準備して待っていろ」
「了解!」
◇◇◇◇
「なんか、俺だけダサくね?」
「仕方がありませんよ。昨日の今日なのですから」
昨日、ダンジョンに行くことになったと父に話したら『私のとっておきを貸してやろう』と言われたので戦闘服を借りることにした。
借りたのは良いが二十年前の型落ちだ。周りを見れば華やかな戦闘服が多い。
「ルイは騎士服っぽくて格好良いな」
「私はクライヴ様の侍従兼護衛騎士ですから。仕事着です」
「え? ルイって騎士なの? いつから?」
「最初からですよ。今回もクライヴ様に危険があれば、すぐお助け致しますのでご安心下さい」
全く気付かなかった。侍従の割に筋肉質だと思ったことはあるが、まさか騎士だとは思いもしなかった。今度手合わせ願おう。
ステファンも緑の髪に赤と白を基調とした戦闘服が良く似合っている。ついでに色気まで増し増しだ。
「また自分に合ったものを買えば良いじゃないか。とりあえず、冒険者登録をしに行こう」
ステファンに宥められ、俺は受付に向かった。
「初めての方ですね。こちらにお名前と連絡先、魔力属性等、分かる範囲でお書き下さい」
言われた通りに書いていき、ダンジョンの説明を受けた。
もちろん俺は初心者なのでEランクだ。魔物を倒していくとランクは自動的に上がっていく仕組みらしい。
弱い魔物だけを狙い、数をこなしてランクを上げるタイプ。強い魔物を倒し一気にランクを上げるタイプ等、人によってランクの上げ方は自由だそうだ。
俺はやはり後者が良いな。ラスボスを倒すの格好良いもんな。
「へー、お前Bランクなんだ。流石だな。ルイは……え、Sランク!?」
魔法も得意で、何でも卒なくこなすステファンがBランクなのは納得だ。
それに比べて、先程までただの侍従だと思っていたルイがSランクだなんて……。
相当強い騎士なのだろう。どうして侍従をやっているのか甚だ疑問だ。俺がフィオナを守るより、ルイに任せた方が確実な気がしてきた。
フィオナを寵愛し歪んだ性格に成長させなかった今、俺はお役御免なのかもしれない。ルイにバトンタッチをしようか本気で悩む。
「駄目だ駄目だ! 一度やると決めたことは自分でしないと」
「どう致しました?」
つい、心の声が漏れてしまった。
「何でもない。俺も早くレベルアップしたい! 行こうぜ」




