第23話:『愛』の賢者
第23話です。
「──うぇっ!?……え、どこ?」
──それは、平が召喚される約150年前のこと。
ハント王国は、魔の侵攻に対抗するために異世界の英雄を召喚した。
このとき召喚された人間は20人。
全員16歳〜17歳の高校生だった。
また、実は平の世界基準で言うと150年の時間差はなく、ゲームなどの普及により多くの生徒がある程度の理解はあった。
「……い、いせかいしょうかん……?すてーたす?」
しかし、状況を全く理解できていない人間ももちろんいた。
『朝山雪』はその1人であった。
彼女はゲームをやっていないし、異世界モノのアニメやラノベも見たことがなかった。
「ちょっと、お家に帰してください!!弟がご飯待ってるんですよ!?」
「……申し訳ありませんが、それはできません」
王子とみられる人物が、雪の疑問に答えた。
「なんでですか!」
「帰還方法は用意しておりません。皆さんには、この世界を救っていただきます」
「…………は?」
「我々は滅亡の危機にあります。皆さんがこの世界を救って下さった後、元の世界に帰る手助けを全力で行うことを約束いたします。また、この世界での生活は何不自由ないように準備してあります」
王子はその後、この世界の人類の状況について詳細に説明した。それを聞いて、多くの生徒は何か目覚めたように協力的になった。
だが一方で、雪は疑心暗鬼になりつつあったのである。
***
「──よしっ、もう大丈夫だぞ!」
異世界から雪たちが召喚されて3ヶ月が経った頃には、彼ら彼女らは異世界に馴染みつつあった。
「ユキさん、私の方もお願いします!娘が怪我をして死にそうなんです!」
「任せて!」
雪の役職名は、『賢者』だ。
賢者は、他の魔法系の役職と異なり、複数の属性の魔法を使うことが可能で、雪の場合、使用できる属性は『回復、光、炎』の3種類だ。
だが、雪は争い事を嫌い、攻撃系の魔法は使わず回復属性の魔法ばかりを使っていたために、街の人間からは『医者』のような扱いを受けていた。
ひたむきに他人のために動くその姿は、街の人間から評判で、日に日に依頼は増えていった。
「ん?」
そしてある日のこと。
クラスメート全員に対し、突然王子から招集がかかった。
「……あれ?」
雪が王城にやってくると、その場にいた全員が深刻な表情をしていた。
「──これで全員ですね。本日はお集まりいただきありがとうございます。早速ですが緊急会議を行いたいと思います」
王子が前に立った。
「……え、全員?」
この場にいるのは、王子を除くと雪を合わせて15人だった。クラスメートは20人いたはずなので、5人足りない。
「あ……朝山さん」
「亜美、何かあったの?」
「そ、それは……」
雪の友人の亜美は、何かを口にするのを躊躇っている様子だった。
それを見て、王子が近づいてくる。
「失礼、それについては私の方から話させていただきます」
「は、はぁ……??」
「ユキ様は回復魔法重視での活動でしたから知らないのだと思いますが、単刀直入に言います。ここにいない5人の英雄は、全員この世を去りました」
「……………………え?」
「人間族を長きに渡って苦しめてきた『魔人』が、昨日攻撃系の英雄と接触し、その場で5人が殺されたのです」
雪は頭が真っ白になり、何も考えられなくなった。
「……殺さ……れた?え、でも、この世界ならすぐに生き返らせたりとか……」
「できません。死者の蘇生は、人間の魔法では不可能と言って良いものです。魔人に襲われたとき、不意を突かれて即死だったと聞いています」
「…………そんな」
「お気持ちはわかりますが、今は我々が魔人に滅ぼされぬよう、冷静に策を練らなければなりません」
「冷静って…………あの5人にだって、元の世界に大事な人がいたかもしれないんですよ。何で何も悪くないのにこんな目に遭わないといけないんですか!」
「………それは」
「や、やめようよ、雪!今は協力し合わないとダメだよ!」
雪が王子を問い詰めていると、クラスメートの1人が雪と王子の間に入った。
「……で、でも!」
「雪さん、場を分断するようなことはやめないか?もちろん君の気持ちは分かる。でも、今ここで王子様を追求しても、仕方がないだろ?」
クラスの学級委員だった男子生徒が、雪の腕を抑える。その口から放たれた言葉は、まるで『脅迫』のようで、何か雪に違和感を覚えさせた。
「…………分かったわ」
「分かってくれたなら良かった。王子様からこれからの作戦について話があるんだ、聞こう」
雪は、溢れ出そうな何とも言えぬ感情を、その胸にしまい込んだ。
その後、残った15人の英雄は攻撃系・支援系・その他に別れ、バランスを考慮しながら複数人で行動することになった。この世界の人間族を守るため、レベルを上げ魔人と対峙する上で、これ以上誰も欠けるわけにはいかなかった。
「……仕方ないのね」
それは雪も例外ではない。
今まで戦闘には一切参加せず、レベル上げなどにも参加していなかったため、雪は人を回復させることで得られる僅かな経験値しか得ていなかった。魔人と対峙するにあたって、もっと強くならなければならない。
そして何より、雪はクラスメート20人のうちで唯一『攻撃』と『回復』の両方の属性を持っている。魔人と戦うにあたって、雪なしでというのはあり得なかった。
「……ふぅ」
「お、雪ちゃんないす!」
「さすがですね、雪さん」
雪は3人グループに所属した。『水の勇者』の男子と、『魔法使い』の女子だった。
攻撃系2人と、回復もできる雪の、比較的バランスの良いパーティーだった。
3人は元の世界では交流が多かった訳ではないのだが、全員人当たりが良いところが似ていて意気投合した。
「よしっ、次は魔物が村に出たらしいから早く助けに行こう」
15人がそれぞれのグループに分かれて早3か月。王子の狙い通り、バランスの取れたパーティーで強くなることを優先した結果、ここまで1人たりとも欠けることなく魔人を一定数撃破することに成功した。
そして雪のパーティーは、魔物などに襲われた人を助けることに尽力していて、強力な魔物も軽々と倒せるまでになっていた。
「えーと、この村かな。もしもーし、誰かいませんか?」
「……!?もしや英雄様でございますか?」
村長らしき人間がやってきた。
「──なるほど、このあたりに今まで見たこともないような虫型の魔物が出現して、村の外に出た人間を食べている、と……」
「はい……今回あなた方に依頼を出せたのも、奇跡としか」
「わかりました。その魔物を倒します」
雪たちは、村長が言った方角へと向かった。
するとすぐに、目的の魔物が現れた。
「……『鑑定』──なるほど……この魔物、かなり強いわ。しかもこの見た目、ほぼアイツじゃない……」
「う…………」
「……」
「え、ちょっと大丈夫!?」
その姿を見て、2人が倒れた。
どうやら、アイツが苦手らしかった。
大きさは5mを軽く超えるので、確かに怖い。
「『メガ・ボルケーノ』」
雪は、容赦なく最大級の魔法を放つ。
あっけなく、虫型の魔物は死滅した。
「……さて、もしこの魔物が仮に私の知っているようなやつなら、多分……来る」
雪の予想通り、死体を囲むように新たな同じ種の魔物が10匹以上現れた。
雪は覚悟を決めた。
そして1時間の激戦の末、雪は累計30匹以上の魔物を仕留め、帰還した。
ー第23話 完ー
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