3-2 貴族の対処法
森を抜けるとそこは壁であった。
俺たちはそこからサングレートへ入国する。
え?他にはって?ないけど?
森抜けたぁーー!って思ったら目の前に壁があるんだもん。
ここはサングレートの隠し門らしい。国の上層部とかしか知らない、お偉いさんの非常口のようなものだ。
まぁ、国の裏口である。
そりゃあ、国家機密のくせにこんな大所帯で正門から堂々と入ったら、国民に訝しられるだろうからな。理解はできる。
しかし、だ。
それを俺に教えていいの?
言っちゃなんだけど、なんで信用してくれんの?俺たち会って間もないよ?1時間も経ってないよ?
しかも俺魔王よ?侵略する予定なのよ?
まぁ、知らないだろうけどさ。
神金剛石ということで、信頼してくれているのかもしれない。いずれその信頼を裏切ることが確定しているので、少し心苦しい。
だがそんなことを気にしていては先に進めない。早々に割り切ってしまおう。
裏口にしてはなかなか立派な造りの門をくぐって俺たちは今度こそサングレートへ到着する。
そうそう、あのヘラクレスだけどさ。一角虫という名前らしい。そのまんまだな。
一応ここらで1番強い魔獣ということで、ランクはB。
魔獣にはランクというものがあって、そのランクに合わせて討伐依頼が出されるそうだ。
死体はギルドに売った。魔石もそこそこ大きいし、こいつの外殻はBランクの鎧の材料になるそうで、結構な金が手に入った。
ランクやらクラスやら、ややこしいな。統一すればいいのに。征服したら統一するか。だって分かりにくいし。
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ハウル達とは国に入ったところで別れた。転移魔法陣にて、他の神金剛石達を迎えないといけないらしい。大変っすね。頑張れ。
さて、ここがどこかと申しますと、ギルド本部です。あの裏口はギルド本部のこれまた秘密部屋につながっていた。この世界の住人、秘密部屋が大好きかよ。
ギルドマスターのハウルは不在なので、副ギルドマスターに顔合わせの時間を教えてもらった。
4時間後だそうだ。
微妙な時間だな。
「4時間かー」
「どうします?」
どうするって言われてもな。
「あー、じゃあ、アレだ。観光しようか。」
「おお、その手があったか。お兄ちゃんナイス」
「サングレートは果物が美味しいんですよ。私のオススメは梨ですね」
「.........なぁ、フェイ。お前ちょっとあれだよな?すごいよく食べ」
「何か言いました?」
.........⁉︎ 気温が下がった......だと⁉︎ フェイのやつ、いつの間にこんな魔法を......!
「い、いや、なんでもないです。えと、ほら、な、梨食いに行こか!」
「はい!」
「.........お姉ちゃん怖っ(ボソッ)」
ルイがフェイを見てビビっている。交代してください。
そんなわけでサングレート内を散策することになった。一軒目はギルドの向かいにある見るからに高級そうなレストランだ。実に楽しみである。
意気揚々とギルドを出るが、俺たちの足はすぐに止まった。周りの人も全員止まっている。
目の前に奴隷を連れた貴族が現れたからだ。周りには、護衛と思われる屈強な男達が数人いる。
「さっさと歩け!このクソ犬が!」
「ウグッ!」
貴族の男が振り回す鞭が犬型の獣族の女性の背中を叩く。獣族の女性は服を着ていない。じゃあ、肌が惜しげも無く晒されているのかといったらそうでもない。犬のような体毛で覆われているのだ。犬耳などではなく、人みたいな犬である。しかし、背中は長く鞭打ちをされてきたせいか、毛が無くなっている。首には鎖が繋がれ、護衛の1人が反対側を持っている。
あれが奴隷か。なにげに獣族見るのも初めてだな。
「ひ.........いや、やぁぁ.........!」
「.........フェイ?」
フェイが震えながら俺の腕に抱きついてきた。男が鞭を振るうたびに体をビクつかせている。
どうやらこの間の一件で、鞭がトラウマになってしまったようだ。顔は真っ青になり、脂汗を垂らして、ガクガクと震えている。
俺はフェイを抱きしめて頭を撫でる。
「大丈夫。大丈夫だから」
「ウゥッ、ひぅぅ.........」
ルイが複雑そうな顔をしている。
俺も同じような顔なのではないだろうか。
フェイがこうなってしまった理由の1つには、俺の無脳が含まれているのだから。
責任を取らねばなるまい。
俺がフェイを落ち着かせていると、護衛の1人が貴族に何か言った。
「......チッ、餌の時間か。......おい、犬。餌だ。食え。」
護衛のポケットから出されたのは、しなしなの野菜の葉っぱが2枚。獣族の女性はそれを受け取ると、一心不乱にむしゃぶりついた。よほど腹が減っていたらしい。
しかし、葉っぱ2枚が腹にたまる量なわけがなく、すぐに葉っぱは無くなった。物足りない顔で女性は腹のあたりをさすった。
「ふぅー、フゥゥーーー。.........落ち着き、まし、た。ありがとうございます」
「いいよ別に。もうちょっとこうしてるか?」
「あ、えと、じ、じゃあ、お願いします.........」
「いや、お願いしますじゃないでしょ。はいはい、離れる離れる!」
ルイが俺たちを引き離す。フェイが少し残念そうな顔をしているのは気のせいだろうか?
改めて、男を見てみる。歳は40〜50歳といったところか。小太りで、小物感溢れるおっさんだ。身なりはそれなりに整ってはいるが、護衛の数からして、大した貴族ではないんだろうと思う。
その時だった。近くで遊んでいた子供のボールが転がっていったのは。
ボールは俺たちの反対側から転がり、おっさんの足に当たって止まった。
そこへボールを取りに来る男の子。
ボールを拾ってごめんなさいと一礼し、雑踏に戻ろうとする。
おっさんはその子供を思いっきり蹴った。
...............あ?
鳩尾に入ったのか、子供が腹を抱えて崩れ落ちる。泣きながら咳き込んでいる。息が苦しそうだ。
「貴様のせいで私の服が汚れてしまっただろうが! このクソ平民が! 死んで償え!やれ!」
おいおい、汚れたゆーてるけども、そのボール自体あんまし汚れてないよ?
男の言葉に護衛の1人が子供へ向かって剣を抜いた。それを見た周囲の人間が息を飲むのを感じる。
殺すのか?
「お待ちください!愚息が申し訳ありません!ただ、息子はまだ5つでして、見逃してはいただけないでしょうか?」
子供の母親と思しき女性が割って入った。それを見て男はさらに怒る。
「喧しいわ!シャギフ!その女もろとも切り捨ててしまえ!」
シャギフと呼ばれた男が苦い顔で親子に剣を向ける。彼も、いやいややっているのかもしれない。
シャギフが剣を振り下ろした。
観衆から悲鳴が上がる。
.............................................。
しかし、何も起こらない。何の音もしない。血が飛び散ったりもしない。
それもそのはず。だって今、俺が剣止めてんだもん。親指と人差し指で挟むようにして真剣白刃取り。
シャギフが目を見開いている。それと同時に、安堵したようなため息をつき、
「すまない。ありがとう」
と、俺にだけ聞こえるような小さな声で話しかけてきた。
「あんたも大変だな」
「全くだ。代わってくれよ」
「やだね」
「だろうな」
シャギフと少し話していると、貴族の男が俺に気づいたようだ。
「何だ貴様は?シャギフ!その男もや」
「まぁまぁ、お待ちください貴族様」
男の声を嗜めるようにして止める。男は驚いて後ずさる。目の前にいきなり人が現れたら誰だってびっくりするよな。
「貴族様ともあろうものが、子供にブチ切れてどうするんですか?器が小さいと思われてしまいますよ?だいたい、その程度のこと自分でしたらどうなんですか?まさか子供に負けると思っておいでで?わー、素晴らしいほどに謙遜なさってますねー。すごいやー」
「なっ..................!」
男の歯ぎしりが聞こえて来るかのような顔を見て、俺の顔が笑顔に歪む。しかし、こんな詭弁に言い返しもできないこいつってかなりのたわけなんじゃねぇの?
「わ、私が子供ごときに負けるわけがないだろうが!」
「そうですか?うちの子の方が強いと思いますけど」
そう言ってルイを見せる。男は顔を真っ赤にして怒る。うわー、この沸点の低さよ。ゴミかな?
男は味方はいないかと辺りを見回す。その途中に、俺の後ろにいる絶世の美少女に目がついた。
「おい貴様。そこの娘だ。私の嫁となるがいい。そうすれば、その男のことは目をつぶってやらんでもないぞ?」
何を言っているのでしょうかこのボケは。まだ優位に立ってるとお思いで?
まぁ、フェイに目が行くのはわかるよ?だって可愛いし?スタイルいいし?正統派ヒロインな感じするよねー。
だからってお前の嫁になるわけないじゃん。この子多分お前より権力あるよ?多分俺も。
それにまずお前がダメだ。
「え、いや、あの、馬鹿にしてるんですか?」
フェイが素で不思議そうに首をかしげた。
お、おう、結構なこと言うね。
観衆が笑いを堪えているのが分かる。
「ーーーーー‼︎ .........分かった。そうかそうか。おい貴様。私が子供に負けると抜かしたな?」
「言いましたねぇ」
「その言葉、撤回させてやる」
え、そこ?
男はルイを指差して言った。
「そこの子供!貴様に決闘を申し込む!場所は西の闘技場。そこで貴様を待つ!」
「.......うわー。あー、はい、分かったよー。じゃあ、僕が行くまでそこで待っててねー」
盛大に大人気ないことを口にした男に向けて、観衆が軽蔑の視線を向ける。
それに気づかない男は、奴隷を連れて去っていった。
さて、西の闘技場か。俺はフェイとルイに話しかけた。
「飯食いに行くか」
「そうですね」
「お腹減ったー」
闘技場?知らんな。行く予定がない。別にルイは『行く』なんて言ってないし。『行くまで待ってろ』って言っただけだし?別に行く理由もない。
ということなので、俺たちは予定通り、近くの高級店に入った。飯が楽しみである。
おっさん?どうでもいいね。




