銃撃戦
「ふんふん、なるほどぉ。そういう訳があったのね? なんか独特な喋り方だからてっきりくさかちゃん達は思春期独特のアレな病気なのかと思ってたよ。早熟でかわいいと思ってたけど、理由があったのねえ?」
ゲーム内にてひろみが納得顔で頷いているが、誤解とは言え謂れのない非難を現在進行中でうけている草鹿は手を震わせながらも耐えている。
「ですので、お姉ちゃんにお手伝いをして欲しいのです。私達は一般プレイヤーとの接触は出来るだけ避けないと、子役派遣のプロダクションに怒られてしまうのです」
つらつらとでっち上げた嘘を片石三尉はひろみに吹き込んでいる。
「任せておいてよ! お姉ちゃんがくさかちゃん達を守ってあげる! ロケテストが終わればくさかちゃん達も自由に遊べるのよね?」
「お、おう……」
草鹿が目を逸らしながら頷く。
「ふんふん、じゃあまずはレベル上げないとだね、せっかくガチャで出たレア武器もステータス不足で使えないんじゃあもったいないし」
「出来るだけ人気の無い場所をお願いしたいのだが」
「任せておいてよ! これでも一応ゲームやりこみ日数的に廃人とまで言われているんだから!」
任せておいてよを連発するひろみを草鹿は心配そうに見ているが、ひろみ本人はどこ吹く風で草鹿の手を引きながら初心者の町を後にする。
コボルトを複数で倒した事によりレベルが上がり、レベル2になった草鹿小隊の面々が連れて来られたのは、洞窟の様な場所だ。
「福田、東富士演習場に洞窟なんてあったか?」
「ここはファンタジー別世界ですよ?」
どうしても現実世界とのギャップに今ひとつ乗り切れない草鹿が不満気な顔をする。
「本日はこの洞窟の入り口で狩りをしようと思いまあす! 出てくるモンスターは虫ばかりだから気楽に倒せますので、みんな頑張ってくださいねえ!」
ひろみを先頭に草鹿小隊が洞窟に入ると、洞窟の岩肌がひろみの魔法により照らし出される。
「黒い岩肌か、視認性が狂うな……それに油っぽくて滑りそうだ」
草鹿が独り言を呟いた途端黒い岩肌がピクリと動く。
「ん?」
ガサリと音を立てて動いたのは壁一面に張り付いた巨大なゴキブリだった。
「のわああああ! 各自抜剣! ばっけええええん!」
草鹿の叫び声に刺激された巨大ゴキブリが一斉に動き出す。
「あ! 言い忘れたけど、ここでは大声は禁止しまあす。声や物音に反応してモンスターが次々に寄ってきますんで、別名無限湧き地獄とも言われてますんでえ、大きな音はだめですよ~」
「早く言えええええ!」
「もう! くさかちゃん、大きな声はダメだって言ったでしょ」
草鹿幼女スケール的には小型犬並の大きさのゴキブリが、幼女達の背中に伸し掛かり耳元でやさしく「ぴぃ」と囁いた。
「ひいい!」
流石の猛者達もこれには取り乱し連携が取れなくなっている。
「全員岩場を背中に預けて密集隊形! 緊急事態だMP7を出す! 福田三尉、片岡曹長、銃保持姿勢の介助を頼む!」
「了解!」
草鹿がアイテムメニューより猫を装備して縮みモードにして、現れた猫の後ろ足と前足を両手でがっちりと掴みホールドする。福田三尉と片岡曹長が草鹿の肩と腰を支えて反動で体勢を崩さない様に固定する。草鹿は迫り来るゴキブリ達に向かいフルオート射撃で弾幕を張り、射撃体勢を保持していない者達に近距離まで接敵しているゴキブリをサンマ型ナイフで仕留めさせる。
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ」
モンスターの密集隊形が崩れてくると、フルオート二点バースト射撃に切り替えて次々にゴキブリを駆除して行く。
「にゃにゃーん! にゃにゃーん!」
フルオート二点バーストは射撃の跳ね上げ反動による無駄弾を防ぐ為に、フルオート連射の際に「指切り」動作をして二射づつ連続で撃つ射撃方法だが、草鹿達特殊作戦群のエースともなれば意識もせずに二点バーストでも三点バーストでも思いのままに切り替えられる。
「にゃにゃーん! にゃにゃーん」
元々MP7はFNP90に対抗する為の新しいカテゴリーの銃だが、取り回し的には断然MP7の方が優れていると草鹿は信じている。ケプラー製ヘルメットやボディアーマーすらも貫通する威力に、携行時に邪魔にならない重さとコンパクトな大きさ、ショートストロークピストン式を採用した機構なども実に考えぬかれた銃であるがなにより、「にゃにゃーん! にゃにゃーん! にゃにゃーん! にゃにゃーん! にゃにゃーん!」命中精度もMP5と比べても段違いに性能がアップしている。200メートルの射程距離は短機関銃として「にゃにゃーん! にゃにゃーん! にゃにゃーん! にゃにゃーん! にゃにゃーん!」改良型のMP7A1が発表された時にも草鹿は「にゃにゃーん! にゃにゃーん! にゃにゃーん! にゃにゃーん! にゃにゃーん!」
「やかましいい!」
草鹿は構えていた猫を地面に叩きつけると猫が「カッ、カッ、カッ」と音をたて始める。
「毛玉でも吐くのか?」
福田が猫を拾い上げあちこち撫で回して結論を出す。
「ジャミングです」
後日猛抗議をした草鹿の現場意見を取り入れて、支給された縮み猫オプションは「ちくわ型サプレッサー」縮み猫の口に咥えさせると射撃音が軽減される消音器だった。
「これだから……民間は……」
思っていた銃撃戦と違う