良い子の教育
明日はちょっと用事があるので、本日2日分の量を投稿しちゃいますね
「はい! みんなちゅうもーく!」
すっかり保育士気取りのひろみが、ぱんぱんと手を打ち鳴らし草鹿班の注目を集める。
「みなさんお疲れ様です。ゴキの泉洞窟の適性レベルをオーバーしましたので、次の狩場に移動しようとおもいまーす!」
草鹿班の面々は巨大ゴキブリを延々と狩り続け、この狩場でのレベルアップ経験値限界を超えたところであった。狩場での経験値限界を超えると、獲得経験値の下方修正が入る為にこの狩場は卒業と言う形になる。
草鹿達はレベルアップによるステータスの恩恵により、ようやく猫銃を撃てる筋力にまで成長していたが、生身の身体とかけ離れた身体能力に四苦八苦している状態だ。
「出来れば八九式を携行して遠距離からの狙い撃ちをしたいのだが、重さがネックだな……MP7なら何とか携行と射撃保持は可能なのだがな」
草鹿はブツブツと不満を漏らすが、筋力ステータスの上昇は遅々として進まずに、本日のレベルアップでようやく軽機関銃型の猫が満足に撃てる様になった状態だ。
「ですが手足の短さに慣れぬうちから急激に筋力アップをしても、下手をすれば自分自身にダメージが入ってしまいますから、ここは堪えて地道に行きましょう班長」
苛立つ草鹿を抑える副長の福田も諦めた様に猫の口にちくわをねじ込む。
通常ゲーム内ではスキルシステムにおいて、モンスターに気付かれにくいスキルや、身を隠す魔法などでモンスターに接敵するが、特別仕様の幼女アバターは本来の目的である遠隔操作用人型兵器のスペックに擦り合わせていく様に調整をされているので、一般プレイヤーと比べると格段にレベルが上げにくい、ゲームシステムに頼らずにプレイヤーの身体能力のみに頼る特殊アバターは、まさに歴戦の猛者にしか扱えないアバターであった。
「次の狩場はコボルトゾンビの平原でーす!」
次にひろみが案内した場所にはやたらリアルな犬の腐乱死骸が、二本足で歩き回る地獄の様な場所だった。
「まて、ひろみ、このゲームは何かこう特殊な性癖の者が集まる快楽殺人者養成機関か何かなのか? あまりにも人の嫌悪するシチュエーションが多過ぎる気がするぞ」
「だってぇ、くさかちゃんが人気の無い場所が良いって言うから〜、ゲーム内でも不人気の場所で経験値の良い場所を調べて案内しているのに〜、そのお兄ちゃんクエストってゲームのタイアップで内緒なんでしょう?」
ひろみが些かむくれた様に唇を尖らせた。
「あ、いや、すまん。わたしが悪かった」
むくれるひろみに素直に頭を下げる草鹿を見て、ひろみがニヤリと笑う。
「本当に悪いと思ってる?」
「ぬ?」
「悪いと思ってるならこれを付けてみて」
ひろみがアイテムトレード申請を行い、草鹿達全員に配った物は猫尻尾であった。
「な、何だこれは! こんな物戦闘時に不必要ではないか」
猫耳猫尻尾で猫を抱えた幼女が地団駄を踏みながら、顔を真っ赤にして怒る様は可愛い以外の何者でもないのでひろみは大満足である様だ。
「慣れると思い通りに動かせるスグレモノだよ?」
「VR技術の為せる技ですな小隊長、この技術の応用が義手や義足などに転嫁されるとの噂もありますし、協力員の顔を立てて見ても宜しいのでは?」
思わぬ副官の援護射撃場で、草鹿班全員が猫尻尾の着用を義務付けられる。
「自衛隊でも猛者の集まりと言われる特殊作戦群が猫尻尾とは……」
項垂れる幼女草鹿に副官福田が耳打ちする。
「ゲーム内では盗聴の恐れがあるから細かい事は言えないが、これがもし、我らの士気低下を狙う為であるなら逆に積極的に受け入れてしまう事で、敵対勢力のやる気を削ぐ事にもなるのでは?」
「ひろみのやっている事はどうも計画的な物では無く、素でやらかしている気がするのだが……」
「ですが、あそこまでピンポイントで我々の嫌がる事を周到に用意して来るのは、天性の物とは言い難いです」
コソコソと話し合う二人の間に割り込んで来るひろみが草鹿と福田に頬ずりをする。
「なんのお話し? お姉さんも混ぜて〜」
「いや、あの、ひろみ立派な尻尾をありがとう。大事にする」
草鹿はとびきりの苦笑いでひろみに礼を言う。
「尻尾の毛が逆立っているけど、まあいいわ。じゃんじゃん狩ってレベルアップしてね! 折角の不人気狩場の貸切なんだから!」
「お、おう……」
草鹿達はゆっくりとだが着実に、陸自最新の人型決戦兵器船坂一号のスペックを満たして行ったある日、草鹿達のゲーム内でのキャラクターの立ち位置を決定付ける事件が起こった。
いつもの様にひろみに引率されてゲーム内を散策していた所に、サーバー内でも札付きの不良プレイヤーに絡まれたのだ。
VRゲーム内ではプレイヤーを狩る行為をする者はプレイヤーキラー、略してPKと呼称されアバターに大きく赤いバツ印が現れる。
その印はどの様な装備を着用しても必ず視認できる場所に出現し、優良プレイヤー達に注意喚起を促すシステムであった。PKプレイヤーの多くは自分の装備の強さやステータスの高さを誇り、弱小な一般プレイヤーを屠る事により自分達のアウトサイダーっぷりを自慢する若者達であり、運営側としてもVRとは言え殺人の恐怖感からゲームを引退する者も多く、不良優良の区別を付けて不良プレイヤーの討伐をした者には一切の殺人ペナルティは無く、逆に大量の経験値が入るシステムとなっていた。
彼等PKはゲームシステムの隙をつく事に長けており、魔法の詠唱時間やスキル使用時の弊害を上手につく事により、一瞬でプレイヤーを屠った挙句、スクリーンショットでその画像を保存し、自分達のホームページにアップする事で悦に入っていた。
PKに長けた彼等にとって自称廃人のひろみも、単なる得物であり与し易いターゲットであった。
「くさかちゃん、みんな早く逃げてログアウトして! 早く!」
突然現れた集団にひろみは果敢に立ち向かうが、一瞬で殺されてしまう。
VRとは言えそこそこにリアルな殺しっぷりに、草鹿達全員が呆気にとられてしまった。
「こいつらが噂のチビッ子か? ロケテスだかタイアップだか知らねーがチヤホヤされてて気に食わねぇな、寝小便が再発するまで殺してやるか!」
PKの一人が下卑た笑いを浮かべ、草鹿達に手をかけようとする。
「班長、ひろみは死に戻り状態となってますので、今頃は初心者の町で復活している頃だと思います。急いでここまで戻ったとしても十五分は要します」
「成る程十五分か」
幼女達の落ち着き払った様子にPK達が毒気を抜かれる。
「そうだぜチビッ子、十五分もあればお前ら全員死体になってるぜ、泣いてストリップでもしたら二十分は待ってやる」
ゲラゲラと笑うPKに対し草鹿の吐いた言動は、彼等の頭に血を昇らせるには充分な一言だった。
「ああ……お前ら幼児性愛者か? 道理でな……」
つまらなそうに頭を振る幼女に向かい、PKの一人は無言で異形の剣を振り下ろした。
「ひぎゃあ!」
悲鳴と共に剣を取り落とすPKに対し、幼女はまたもつまらなそうに呟く。
「そんなデカイ剣を振り回しても、持っている手を狙えばもう持てないだろ?」
幼女は青く輝くサンマを手の中で弄びながら、ブツブツと呟くが何かを思い出した様に一転笑顔になる。
「そう言えばお前らPKはペナルティとして、痛覚設定が最大になっているんだったな? 実際の痛みよりは遥かにマシらしいが、そこそこに痛いと噂に聞いたぞ? どうだ? 痛いか?」
ケラケラと楽しそうに笑う幼女にPKは頭に昇った血が沸騰する感覚を覚え、再度剣を握り締めた瞬間に目の前の幼女が両の手を大きく打ち鳴らす。
「さて……我等幼女は一体何人編成だったろうかな?」
慌てて辺りを見回すPK達は、目の前の幼女以外全員が居なくなっている事に気付き、歯噛みする。
「逃げ足だけは達者な幼女だな、逃げ足スキルでも磨いたか?」
まんまと目の前の幼女に誑かされて、本日の獲物を纏めて逃がしたPKが懸命に幼女を煽る。
「幼女相手にまんまとしてやられて可哀想になあ……」
「このガキ!」
再度攻撃を仕掛けようとPKが剣を握り込んだ時に背後から悲鳴が聞こえる。
「相手の注視する方角の死角を突くってのはな、こうやるんだよ坊や」
木の上で潜んでいた伏兵が首を切り落とされて落ちて来る。厳密に言うとモザイクに覆われているが、大きなモザイクの塊と小さなモザイクの塊が木の下でハジけて消えた。
木の上でこちらに向かって、にこやかに手を振っているのは恩田曹長であった。
「残り三つかな?」
悲鳴に気を取られて背中を向けていた幼女から声をかけられて、PKが慌てて向き直ると今迄隣にいた魔法使いらしき風体の男が、下顎から脳天に向かい青く光るサンマを突き刺され、モザイクに包まれて消えて行った。
「てめぇ俺らに喧嘩売るって事だな? 狩場をうろつけない位粘着してやるからな?」
「それは助かる。探す手間が省けるからな、あと二つ」
茂みの中で姿を透明にする魔法を使って隠れていたPKが、脳天にサンマを突き刺され悲鳴をあげる。
「姿を消しても影が残っているんだよ、バグなのかわざとなのか知らんがな、気づかなかったのか?」
消え去るモザイクの傍で、地面のオブジェクトである草や小枝を身体中に貼り付けた小さな物体が立ち上がる。
「姿を消すってのは、ああやるんだよ素人が」
獰猛な肉食獣の様な笑みを浮かべた幼女が一歩前に出ると、気圧されたPKが無意識に一歩下がる。
目の前の幼女から目を離せないPKは、必死に逃げ道を探す。
「だから接敵した状態で敵から目を離すなと言っているだろう。愚か者が」
二人並んだPKの重装備を着込んだ男が、カクンと膝の力が抜けた様に地べたに寝そべり、後ろから忍び寄った恩田曹長に首を踏み折られる。
「あと、一つ、ストリップでもして命乞いをするなら、五分位なら待ってやってもいいぞ小僧」
薄ら笑いを浮かべた幼女が手に持ったサンマで男の膝頭を切り飛ばす。
「ひゃあ!」
「なあ、知ってるか? 八九式銃剣てのはな、剣と鞘を組み合わせるとワイヤーカッターになるんだよ、ワイヤーカッターってのはな、拷問にも使えるんだぜ?」
幼女が手に持ったサンマをスライドさせると、大きな枝切ハサミの様に顎を開き、男に迫る。
「出来るだけ殺さない様にな、こう端末から切り飛ばして行くのがコツなんだ」
バツン、バツン。とモザイクに覆われた指らしき物が地面に転がる。
「ぎゃあああああ! 痛い痛い」
「痛くねえだろ? 痛覚設定が最大でも大した事は無い筈だ。俺らと違ってな」
「班長、そろそろお時間です」
「じゃあな、小僧。粘着待ってるぜ? あまり待たせるとお迎えに行っちゃうぞ?」
幼女が笑いながら首を切り落とし、最後のPKがモザイクに包まれて消えた。
「点呼」
「迎撃班、班長含め総員三名異常無し!」
「追撃班は今頃仕事の最中かな?」
「班長が時間を稼いでくれましたので、初心者の町周辺に着いている頃でしょう。町から一歩でも出てくれれば、もう一度同じ教育が施されると思います」
「あいつらは一人では何も出来ない、集団で襲って一瞬でカタをつける奴らだ。全員が死に戻ったのを確認して、雁首揃えて福田三尉の前に出て来るだろうさ」
つまらなそうに溜息を吐く幼女の耳に、ガサガサと大柄な女が走りこんで来る音が聞こえて来た。
「まったく、教育隊のガキ共の方がまだ面白い、これだから民間は……」
幼女が独りごちた。
幼女怖い




