退院
入院生活も二週間が経過し、俺は無事に退院することになった。
入院費は黒スーツの男、山田正義が言っていた通り、一万円ぽっきりという格安だった。
(100万円を渡されてるから一万円の出費でも99万のプラスか・・・
というか、二週間の入院費と治療費を合わせて一万円って安すぎないか・・・?
これが山田さんが手を回した結果だとしたら、恐ろしい物があるな・・・)
正義の味方の裏方で仕事をする人たちの手腕の良さに俺は恐怖を感じる。
「ありがとうございました。」
「「「お気をつけて」」」
お世話になった医師と看護師に見送られて病院から出ると『正義の味方派遣協会』から俺を監視しに来た『田中 花』さんが立っていた。
黒スーツの男とこの監視役の女性を見て思うのだが偽名ではないだろうか?
俺は花さんに一礼した後、今までのお礼を言う。
花さんも頭を下げてから顔を上げた後、「いいえ、これも仕事ですから」と言葉を返す。
「では、さようなら。」
「ええ、お大事に。」
お互いに簡素な挨拶のみを交わして去っていく。
これは二週間の間に俺達がお互いを理解して距離を縮めるということがなかったのが原因だろう。
まぁ、相手が正義の味方のサポーターみたいな立場の人だったので、俺が悪の組織の一員なので必要以上に接触や干渉をしなかったのが原因なのだが・・・
自宅に帰る途中、近所のおば様方に「最近どうしたの?」と話を振られた。
俺は「事故に巻き込まれて入院してました」と嘘をついた。
「正義の味方に人違いで襲われた」だなんてことを言ったらどうなってしまうかわからない。
他にも「最近、彼女ができたの?」という質問が飛んできた。
おそらく、山田さんのことだろう。
俺は「知り合いの人で、そう言うのじゃありません。」とキッパリと断った。
おば様方は残念そうな顔を浮かべて去って行った。
女性はいくつになっても恋バナが好きなんだなと思いながらも、人のことなのだから放っておいてほしいと思った。
自宅につき、部屋に入ると室内は俺が住んでいたころよりも清潔感に溢れていた。
山田さんは掃除に洗濯と家事が上手なんだなと感心した。
(ただ・・・ これはいやがらせだろうか・・・?)
部屋の真ん中には紐できつく縛られた大量のお宝本が置いてあった。
(お宝本がここにあるということは、部屋の隅々まで掃除してくれたんだという証拠か何かなのだろうか? それとも、本当にただ単なるいやがらせ?
いつの間にか捨てられているという状況よりも人道的?な気がしないでもないが・・・)
俺は頭を抱えて悩みこみながらも紐で括り付けられた本達の救出を試みる。
(俺のだけならいいけど、なぜか先輩のもあるんだよな・・・)
先輩が俺の部屋に来た時に「これ隠しといて!」と置いて行った本だ。
なんでも、恋人に見つかると白い目で見られるので自宅には置いておけないらしい。
(はぁ、面倒な・・・)
俺はお宝本を宝物庫|(部屋の隅)に隠すと散歩をしに出かける。
病院内ではほとんどベッドの上だったので本当は体を軽く動かしたいのだが、医師から「それはまだ早いよ」と釘を刺されているので、仕方なく従うしかない。
まぁ、社会人として今はできるだけ早く怪我を治すのが先決なので当然のことなのだとは思う。
散歩途中、近くの公園を通ると子供たちが元気に遊んでいた。
夏休みに入り、昼前でも遊べるためだろうか。
子供達は元気いっぱいに公園内を駆け回っていた。
(最近はゲームばかりして外で遊ぶ子が少なくなったって聞いていたけど、そんなこともないんだな…)
俺は感心しながら一人頷く。
「あ! にいちゃんだ! にいちゃ~ん!!」
公園内で遊んで子供の一人が俺に気づいたようで俺に向かって手を振りながら駆け寄ってくる。
その他の子供達もそれに続いて駆け寄ってくる。
毎日通学路での補導員をしていたせいかだろう。
俺は子供たちに大人気なのだ! 悪の組織の一員だけどね・・・・
俺は子供達にせがまれて少し遊ぶことになった。
そして、後悔する。
彼らの「無限に等しいのか?」と思わせるかのような体力と運動量に・・・
おまけに、俺は怪我からの病み上がり&経過観察中の身の上なのですごくしんどい・・・
俺は子供たちに惨敗して公園を去ることになった。
いや、お昼になって子供達が帰ったのでようやく解放されて帰ることになった。
俺は公園のベンチに腰かけた後、少し休んでから帰路につこうと歩き出し、公園を出たところで一人の少女に捕まった。
少女は俺の手にしがみ付き「お願いがあるの!」そう言って懇願するようなかをで俺を見上げる。
両目の端には涙が浮かんでいた。
少女はいつも通学路で顔を合わせるあの正義の魔法少女リリカルハニーだ。
正義の味方が正体を知らないとはいえ、悪の組織の一員である俺に頼み事とは世間も末だな。
俺は一つ溜息をついた後、「いいよ。どうしたの?」と少女に優しく語りかける。
少女はにこやかに笑った後、困ったような顔つきで語りだした。
「最近、家の近所に変なおじさんがいるの・・・」
少女、高町 香ちゃんの話によると最近、家を誰かが監視しているらしい。
(またストーカーか?)
俺は御近所の治安の悪さを再確認してこれからはもっとパトロールを頑張らねばと決意を新たにした。
彼女の家の周辺につき辺りを見渡すと確かにいかにも「怪しいです僕」とでも言いたげな帽子にサングラスとマスクをつけた男が家の様子をうかがっていた。
俺は香ちゃんに「大丈夫、俺に任せて君は帰りなさい」と言って家に帰した。
香ちゃんが家に帰る間、男は一瞬香ちゃんから隠れる行動をとった後、再び家の中を監視している。
(サングラスをかけているから分かりずらいが、行動を見る限り狙いは香ちゃんではないな。)
俺は日頃している。ヒーローへの追尾、追跡で磨き抜かれた観察眼でそう推理した。
(夏休みとはいえ平日の昼間なので狙いは香ちゃんのお母さんかな?)
相手に気づかれない様に背後へと移動して怪しい行動と視線を探ると家内にいる一人の25歳ぐらいの女性が男の目的だろうと予想がついた。
(あれは香ちゃんのお母さんかな? ずいぶん若い気がするな・・・)
香ちゃんは小学四年生の年齢は9歳か10歳のどちらかなので25歳ということはないだろう。
それでも、見た目だけならば20代前半だと言われても信じてしまいそうな容姿の女性だ。
あれだけの美人ならばストーカーが現れても不思議ではないだろう。
この辺も俺のパトロール範囲内ということもあり、俺は男の背後から近づき肩に手をかけた。
「!」
突然の事態に男は手を払い除けようとするが俺はそのまま相手の暴れた腕を掴んで男の体を壁に押し付ける。
「大人しくしろ! さもないと警察に通報するぞ!」
「ひぃ それだけは勘弁してください! あっしも仕事なんです!」
男は俺に組み伏せられて逃げ出せないと観念したのか。
アッサリと事情を話し出した。
なんでも彼は元正義の味方の女性限定で襲撃を行う悪の組織『エロゲー』に所属しているらしい。
『エロゲー』の目的は元正義の味方を襲い、凌辱と調教により悪落ちさせることらしい。
(ネイル先輩が聞いたら喜びそうな内容だな。)
俺は別組織とはいえ同じ悪の組織に属しているので男を離してやることにした。
「おりゃ!」
手を離した瞬間に男は俺の顔面目掛けて拳を振るってくる。
俺は振り返りながら振るわれた拳を手に取りそのままの勢いで相手を投げつけた。
背負い投げである。
「ぎゃ!」
男は地面に叩きつけられて悲鳴を上げる。
何せここは共用の道路なのでアスファルトで舗装されている。さぞ痛いだろう。
「こっちに来い。」
俺は仕方なく男と共に人気のない場所に移動して、こちらも悪の組織の一員だということを話して対話を求めた。
男は俺の話しを聞いて安堵したのか、その場にへたり込んだ。
場所を移動する時に泣き叫ぶので顔面に一撃入れたためか頬が張れ、涙と鼻水で顔がボロボロだった。
なお、マスクとサングラスに帽子は背負い投げをした時に取れてしまっている。
「ここは悪の組織『匿名希望☆』の縄張りなのに活動していいのか?」
俺は男に質問を投げかける。
本来、組織の縄張り内での他組織の活動は御法度である。
これを破れば悪の組織同士の縄張り争いか、違反した隊員の極刑をもってなかったことにするのが規約である。
「内の組織は他の組織と違って引退した人を限定で襲ってますからね。 なんでも、上との話は事前についているそうで問題ないと教わりました。」
どうやら男の独断での行動ではないらしい。
「とりあえず、あそこの家の子に君のストーキングがバレているからやめなさい。」
「え?! ほ、本当ですか?!」
俺はあの家に住む少女、香ちゃんから怪しい男がいるという情報を聞いて来たと言うことを男に伝える。
それを聞いて男はガックリと項垂れた。
「はぁ・・・ うまくいっていると思ったのに・・・」
男は大きくため息をついて明らかに落胆して疲れた顔をする。
「追跡の手ほどきは受けなかったのか? いくらなんでも怪しすぎるよ。」
「いえ、内は弱小組織なのでそういうのは自分で身に付けないといけないんです。」
俺は男のことを不憫に思って手を引いて立ち上がらせると一緒に昼飯を食べに行くことにした。
「ぷはぁ! 昼間から飲むお酒は美味しいですね!」
男は俺の奢りだと聞いて気分を良くしたのか、昼間からビールを飲んで食事を始める。
「まぁ、仕事の邪魔をした手前。別にいいんだけど飲んじゃって大丈夫?このあとも仕事じゃないの?」
「いいんですよ。相手の子供にもばれてるんじゃ。元正義の味方の奥さんにもバレてるだろうし!
あの家には当分近付かずにどこかで追跡技術を磨いてから別の人のお所で頑張りますよ!」
俺の心配をよそに男は盛大に酒を飲み笑って言った。
「う~ん。 じゃ、俺が教えようか? 病み上がりであと二週間ほどは暇なんだ。」
「! 本当ですか?! お願いします!」
男は俺に頭を下げて素直にお願いしてきた。 よほど切羽詰まっていたのかもしれない。
こうして、俺は男にストーキング技術。もとい、追跡技術を教えることになったのだった。
男とまた会う約束をしてから別れた後、俺はスーパーへと買い物に出かけた。
「やぁ、こんにちは。」
「・・・! い、いらっしゃいませ・・・!」
スーパーで橙子ちゃんを見かけて挨拶をすると妙によそよそしい返事が返ってきた。
(仕事とプライベートを分けるタイプなのかな? それにしてもぎこちない様な・・・)
俺は前回のおすすめ品がおいしかったと感想を伝えて他のおすすめ品を尋ねる。
「こ、これは最近出た物で結構おいしいですよ。 あ、いらっしゃいませ~ では!」
一品だけ指さした後、橙子ちゃんは他のお客さんの方へと行ってしまった。
まるで、俺から逃げているようなそぶりに少し寂しさを感じながら彼女のおすすめしてくれた品を手に取り、その場を後にした。
帰る途中、日差しの暑さに喉が渇きコンビニによると紫原さんが友達と楽しそうに屯していた。
ただ、コンビニの入り口前でしているのでお店の人も通行客であろう人々も迷惑そうに彼女たちを見つめている。
「そこにいると通行の邪魔だよ。」
「ああ? ・・・! おっす! すみません!」
俺が背後から声をかけるとその中の男の一人が振り返りながら嫌そうな声を向けてくる。
ただ、俺の顔を見た瞬間には礼儀正しくなり道を開ける。
それを見ていた他の子達も順々に道を開けてくれた。
「楽しいのは分かるけど、人の邪魔にならないようにね。」
「「「「「はい!」」」」」
俺の言葉に紫原さん以外の子達が気持ちのいい返事を返して去って行った。
紫原さんだけは俺とチラチラと見ながら余所余所しく立ち去って行った。
(橙子ちゃんといい、紫原さんといい、なぜか余所余所しいな・・・ 何かしたかな・・・? !!)
そこでようやく、俺は彼女たちに先輩や上司にもらったエロ本を彼女たちに見られたことを思い出した。
(ふぅ・・・ これは嫌われたかもしれないな・・・)
俺はため息交じりにコンビニへと歩を進める。
きっとその背中は寂しげに見えるだろう。
俺はコンビニで飲み物を買い、自宅に帰ると夕飯の準備をすることにした。
体が治りきるまではジョギングなどできないし、仕事もないので凝った料理に挑戦することにしたのだ。
その後、二週間ほどは昼間は料理作りを試行錯誤し早朝と夜はパトロール代わりに香ちゃんの母親にストーキングしていた男、高跳 逃に追跡、尾行技術を教えて過ごした。




