補講授業
私有地の盗賊問題を片付けるために数日の休みを取っていた私とリヒトは、休んだ分の授業について補講を受けることになった。
盗賊の問題は急務であったし、移動時間を考えればまとまった休みが必要だった。……まあ、私が一人で走るか、リヒトを抱えて走るなら週末の二日で片付くのだが。それだけはやめてくれとグレゴリオから頼まれて、公休として時間を取り盗賊に対応したのである。
「では、お二人が休みだった間の授業をしましょう」
「よろしくお願いいたします、ウラノス先生」
「よろしくお願いします」
学園の休日にわざわざ教鞭をとってくれることになったウラノスは、いつも通りの朗らかな笑顔で頷いた。他の生徒と進捗に差がでないように、同じ内容の魔法の講義をしてくれている。
「同じ効果の魔法を使っても、魔力の消費量は人によって異なります。これにはその人の理解力と想像力が関係していて、明確に起こしたい事象のイメージを持つこと、具体的に想像できることで消費魔力を抑えられるというもので――ところでロメリィさんの竜の息吹はどのようなイメージで作られていますか?」
――他の生徒と変わらないと言ったが訂正する。生徒が二人しかいないため、少しばかりウラノスの趣味に走った、教科書には乗っていないような部分の講義も含まれているようだ。
普段の授業よりも少し濃い、ウラノスの趣味が反映された講義を終えた後、私たちは「一緒にお昼をどうですか?」という彼の誘いで三人で食事を摂ることになった。
「教師が生徒と個人的に交流を深めるのはあまり推奨されませんが……家族としての仲は深めて悪いことはありませんからね」
ふわふわとした笑顔で笑いかけられ、リヒトは戸惑いつつもこくりと頷いた。この二人は養子縁組をして親子関係になった。とはいえ元々は他人である。家族になるには時間が必要だ。
(家族の情に血のつながりは必要ないがな。……私もそうだ)
私にとっての親はオーガ村の長をしているタンダであり、すでに亡くなっている両親のことはほとんど記憶にもない。タンダとは種族も全く違うが、それでも私は彼の娘で、あのオーガが大事な父親だ。
「私たちが親子として過ごすのは、卒業までの時間がほとんどでしょう。お二人は卒業後、ジリアーズ領へと移るのでしょうから……せっかく息子ができたのに、なんだか寂しいですねぇ」
縁があり親子になった二人だが、この養子縁組はリヒトを貴族にしてジリアーズに嫁がせるためだけのものだ。だから親子としての情を育む必要もなく、その時間も少ない。ウラノスはそれを残念に思っているらしい。
「リヒトくん……いえ、リヒトのような息子と魔法の研究に明け暮れるなら、家族を持つのも悪くなかったかもしれません」
しかしやはりどこまでも魔法の研究が大好きな彼らしい理由だ。オーガも武術に明け暮れる者が多いので、気持ちは分からなくもない。好きなものに打ち込んで極めたい、それを共有できる家族がいると幸せだと思うのは当然だろう。
「ああ、それならウラノス先生も、自由になられた際には私の村に来るというのはどうでしょう?」
「ロメリィさんの村に?」
「ええ。私、実は新しい村を作りましたの。オーガと人間が共存する村ですわ。子供のオーガたちも魔法に興味を持つようになって、最近は魔法の練習をする子もいますし、先生が来てくださったら喜ぶかと」
「……オーガが魔法を?」
ウラノスの目が輝きだした。どうやら興味を持ってくれたようだ。学園の講師というのは永久就職する仕事でもなく、ふさわしい人間が選ばれるのだそうだ。ウラノスがこの仕事から外れる日が来たら、私の村に来てくれないかと誘ってみた。……どうやらこの誘いも無駄にはならなさそうだ。
「そうしたら、リヒトとも一緒に魔法の研究ができますでしょう? 今後も親子として過ごせますわ」
「あはは。……それはいいですね、楽しそうだ」
そんな私たちの会話を静かに聞いていたリヒトが、ぼそりと呟いた。
「俺に親ができるの……不思議な感じだ」
リヒトの家族はいない――正確には、捨てられたと聞いている。魔力を持つ子供であるリヒトを、魔力を持たない平民の両親は気味悪がって捨てたのだと。
魔力が発現するまでは普通に可愛がられていたのに、突然自分を愛してくれていた家族を失った。私のように最初からすべて覚えておらず、家族を亡くした自覚がないよりもつらかっただろう。
「リヒト。……これからは私が貴方を、家族として愛するわ」
「っ!?!?」
大丈夫だ、これからは私が家族として彼を愛して大事にする。だから何も心配することはない。そう伝えたつもりだったが、リヒトは真っ赤になって固まってしまった。
「お二人は本当に仲がいいですねぇ。じゃあ僕も、今後も父親としてリヒトを可愛がりますから、是非父上と呼んでください」
「あら、それでしたら私の父も……家族になるなら、親父殿と呼んで差し上げるとよろこびますわ」
ウラノスは相変わらずふわふわとした様子で笑っていて、リヒトも落ち着かない様子ではあったが嫌がってはいないようだ。小さな声で「父上……」と口にして、照れたような顔をしている。
(これぞ家族のだんらんというやつだな。親父殿もこの場につれてきたいものだ)
きっと、とても楽しい一家団欒ができるだろうから。
学園にオーガをつれてくるのは大騒ぎになるとおもうの。
本日はオーガ令嬢コミカライズ第一巻の発売日です。
私も書き下ろしSSを書かせていただきました。
是非よろしくお願いします!




