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日常の隙間  作者: 東堂柳
1/1

影踉

 “かげろう”という言葉を、耳にしたことはあるだろうか。

 熱で空気が揺らめいて見える陽炎や、昆虫の蜉蝣のことではなく、影踉と書くかげろうのことだ。

 ご存知ない?

 ならば、是非知っておいたほうがいいだろう。そして、その忌まわしい存在に注意を払うことも重要だ。

 では、今からその影踉にまつわるお話をするとしよう。


 *


 一人の少年が、暗い夜道を急ぎ足で帰路についていた。

 

 ――すっかり帰りが遅くなっちゃったなあ。


 遅くなったと言っても、たかだか中学生の部活動だ。時刻は午後六時半を回った頃合い。

 それでも師走の半ば頃ともなれば、陽はとうに暮れて、辺りは真っ暗になる。

 その上、少年の住む街は、どちらかと言えば田舎に属する方。四方を山に囲まれ、隣町の明かりも見ることはできない。最近では駅の近くにコンビニやスーパーが出来てきたりもしたが、住宅街と田んぼが入り混じっている構図は未だに変わらない。少年の通る通学路には、店など一軒も建っておらず、高い塀に民家の明かりも遮られる。さらに今日は空も雲がかっているようで、月や星の光もおぼろげで不明瞭。

 必要最小限の間隔で建てられた街灯が、時々足元を照らしてくれるだけだった。

 電車は三十分に一度。バスも一時間に一本。それ故、この辺りではどこへ行くにも車が必須だ。昼間は住宅地の路地でも車の通りは多い。

 だが今は、まるで街から住民が消失したかのごとく、車は一台も通らず、それどころか人の影すらない。

 昼と夜とでは、街の見せる表情は一変する。

 不気味なほどに静まり返り、生気をなくした街。

 その中を少年は歩いた。

 部活の友達は学校の近くに住んでいる。そのせいで、彼は一人で帰るのが常だった。

 中学に入ってから八ヶ月が経っている。暗い中を一人で歩くのも慣れてきたところだが、元々小心な彼は、表に出さないようにしているだけで、内心では色々なことを考えては怯えているのだった。


 そうこうしているうちに、川にかかる石橋の袂まで少年はやってきた。

 彼はこの場所がどうにも好きになれない。

 それは、橋の欄干に立て掛けられた、ある看板のせいだった。


『目撃情報求む。行方不明者 〇〇瑞希ちゃん(十才)、□□雄一くん(九才) 十九〇×年一月十五日以降消息を絶ったまま、現在も見つかっておりません。もしも何か情報をお持ちの方は、以下の電話番号までお知らせください。どうか宜しくお願い致します』


 赤い文字で大きく書かれたその下に、二人の写真が貼ってあるのだ。二人とも笑顔の写真だが、これが結構古いもので、すっかり色褪せてしまい、雨風に晒されたせいで縞模様がついてしまっている。その模様が丁度両目尻のところにかかっているので、まるで二人とも笑いながら涙を流しているように見えるのだ。

 暗い夜に一人でこんなものを見ると、それだけで気が滅入りそうになる。


 ――今、後ろから誰かに襲われて、連れ去られてしまったら、明日には二人の代わりに自分の顔がここに貼り付けられているんじゃないだろうか。


 少年の心のざわめきを表すかのように、橋の下でざわざわと雑草が揺れる。ざあざあと水が流れていく。

 欄干から下を覗く。そこには暗闇が広がるばかりで、水も草も見えはしない。どこまでも黒い川だ。


 ――今、ここから突き落とされたら、流れに乗って海まで行っちゃいそうだ。そうしたらもう見つからないかもしれない。


 そんな想像を頭の中で繰り広げて、少年はぶるりと身体を震わせた。

 と、一気に首を回転させて後ろを確かめる。

 今何か、すうと後ろを通り抜けていった気がする。

 だが、誰の姿もない。

 気のせいだ。びびっているからそんな風に感じたんだ。

 ほっと胸を撫で下ろしながら、彼はなるべく立て看板を見ないようにして、橋を渡りきった。


 橋から少し離れたところで、ようやく少年は思い出した。

 今日が火曜日であることを。


 ――そうだ。楽しみにしていたテレビの特番が七時からあるじゃないか。


 それは彼の友達もみんな楽しみにしている番組だった。

 学校から彼の家までは、片道三十分はかかる。この橋からでもおよそ二十分はするだろう。今からだと走っても間に合うかどうか。しかし部活でへとへとに疲れているから、なるべく走りたくはない。だからと言って馬鹿正直に遠回りな通学路を歩いている暇はない。

 番組を見損ねたら話題についていけない。

 少年はそれが嫌で、抜け道を使うことに決めた。


 先ほども言ったように、少年の住む街は田んぼと住宅街が入り混じっている。

 少年の歩いている、両側に家の立ち並んだこの道も、一本脇に逸れれば、すぐそこが畔道だ。

 ここを突っ切れば、殆ど一直線に少年の家まで辿り着ける。通学路より半分の時間で帰れるのだ。

 しかし普段から少年は、両親や祖母から、夜は畦道を通らないようにと念を押されていた。

 当然、舗装された通学路よりも遥かに暗く、足を踏み外す危険もあるからだ。

 だが今は、収穫の季節もとうに過ぎ、こんな時間に田んぼに誰がいるわけでもない。

 そう踏んだ少年は、この畦道を通り抜けようと決めたのだ。

 が、決心したものの、親の言いつけを破ることなど自分で進んでやることなどない少年には、まだどこか後ろめたさがあった。誰かに見られて告げ口でもされないだろうかと、冷や冷やしながら辺りをきょろきょろと見渡す。

 その行為を何度も何度も執拗に繰り返して、ようやっと彼はその小道に入り込んだのだった。


 畦道は通学路よりも一層暗い。まるで黒い沼の中を一人歩いているかのようだ。

 収穫は終わっているから稲はないが、そこかしこに雑草が生え繁っているらしい。一歩踏み進める度、ガサリとする音に、少年は肝を冷やした。

 静けさが支配する冬の夜道は、音が周囲に反響して、自分の出した音でも、まるで背後から音がしているように聞こえるのだ。

 一歩進む度に少年は後ろを振り返る。

 誰もいないのに、誰かに尾けられている。誰かに見られている。視線を感じる。

 そんな気がしてならなかった。

 と、その時だった。


 ――ガサッガサッ。


 ひっ、と少年はその音に身を竦める。

 それは田んぼの雑草から聞こえた。慌てて少年は立ち止まり、そこに目をやる。

 だが、今はもう何の動きもない。

 きっと風のせいだ。きっとそうだ。

 そうして自分を奮い立たせてまた歩き出そうとした時、


 ――ザザッガサッ。


 聞こえた。

 今度はさっきよりも近い。それに少年は、田んぼの雑草が揺れ動くのをしかと見た。

 一部しか動いていない。風の仕業ではない。

 明らかにそこに、何かがいる。

 少年は身構えた。


 ――ガサガサガサッ。


 今の音は目の前だった。

 目の前で雑草の影が揺れ動いた。

 少年の頭の中には、学校の図書室で読んだお化けの本の内容でいっぱいになっていた。そこで目にした、ありとあらゆる化物が、入れ代わり立ち代わり次々と現れる。

 今そこにいるのは、それらのうちのどれかなのか。それとも――?

 逃げないと。

 少年は頭の中でそう命令したが、身体が言うことを聞かない。

 膝がすっかり笑ってしまっている。

 もうだめだ。こんなことならこんな道、通るんじゃなかった。

 少年が全てを諦めて、そこに潜むものに身を委ねようとすると、待ってましたとばかりに雑草から何かが飛び出してきた。


 ――ミャオン。


 その甲高い声に、少年はびくりとしながらも拍子抜けした。

 叢から飛び出してきたのは、ただの一匹の猫だったのだ。

 一瞬のうちに脳内に蔓延っていた化物たちが姿を消す。

 鋭い跳躍を少年に見せつけた猫は、満足気に畦道を彼が来た方向へと歩いて行った。


 ――なあんだ。ただの猫か。


 少年は未だに激しく鼓動を打ち続けている心臓に手を当てて、何度か深呼吸した。


 ――そりゃそうだよね。お化けなんてそんな、そうそう見えるもんでもないよね。


 心臓の音や唾を飲む音、激しい呼吸音が収まり始め、ようやく自分の中に静けさを取り戻してきた少年が、正面に向き直って再び歩き始めようとした、その時だった。

 向こう側から何者かがやってくるのに気が付いた。

 明かりもないせいで、それはただの影にしか見えない。背景よりもずっと真っ黒な人影だ。


 ――しまった。誰かに見られた。


 と思ったのも束の間、少年はその影の異様さに目を奪われた。

 影は肩で風を切るように歩いている。いや、足を引きずっているのか。いや、千鳥足で歩いている……?

 あれは一体誰だ?

 少年は暗闇に目を凝らした。

 しかし、見えるものはただの影だ。それ以外には何も見えない。顔も服も真っ黒。

 そのうち少年の背中に、ぞぞっと悪寒が走った。

 その影の輪郭は、まるでじゅぶじゅぶと形を持っていない液体のように蠢いているではないか。黒い炎に包まれているみたいに揺らめいているではないか。

 確かに頭部があり、胴体があり、手足がある。人間のように見える。しかし形状がはっきりとしていない。

 奇妙な歩き方に見えたのは、そのせいだったのだ。

 

 ――あ、あれは一体“何”なんだ……。


 その時、上空の雲が流れ、月が顔を出した。

 辺りが月光に照らされていく。徐々に闇が散り散りになっていく。田んぼの雑草の緑が見える。地面の砂利が見える。足元が明瞭になる。少年の顔さえも照らし出す。

 だがそんな中で、あの影は未だに影だった。

 月の真下にその影が佇んでいる。

 まるで四肢がそれぞれ独立した生物であるかのごとく、ぐねぐねと身を捩らせているのだ。

 

 少年はついに腰を抜かした。

 影だけで、“それ”の顔さえも見えていないのに、その双眸に今はっきりと捉えられた気がしたからだ。

 そしてそれは気のせいではなかったようだ。

 影は今、少年に向かって歩みを進める。


 ――ひっ。こ、こっちに来る。


 だが、少年の足はまたしても泥沼に嵌ってしまったように動かない。上半身だけが後ろに退くばかりだ。

 そうこうしているうちに、影が距離を詰めてくる。

 少年は無意識のうちに反らした身体のバランスが取れずに、そのまま地面に腰を打った。

 ぶよぶよとした影は、しかし一個の個体の形を保ったまま、足なのか何なのかわからないものを動かして、一歩一歩近づいてくる。


 ――どくんどくん。


 心臓が慌ただしく波打ち始める。 

 少年は今更ながら助けを呼ぼうとしたが、声を出す前にまず息を吸うことができない。

 じりじりと迫る影に、殆ど手の力だけで後退り距離をとる。

 砂利のせいで爪が割れた。

 びりっと強烈な静電気のような痛みが指先に走ったが、涙も出なければ悲鳴も出ない。


 ――どくんどくんどくん。


 影はさらに近づく。少年の後退するスピードよりも、影の前進の方が僅かに早い。

 今や、殆ど見下ろされるような格好だ。影の影に、少年の身体が侵食されていく。


 ――どくんどくんどくんどくん。


 強烈な不安と焦燥感に支配された少年の耳に、影の声が聞こえてきた。

 それは、少女の声でもあり、少年の声でもある。様々な声がぐちゃぐちゃと聞こえて、混沌としている。

 ただ、はっきりと聞こえたその言葉は――、


 ――たすけて――


 その一語だった。

 少年の顔が影の影に蝕まれる。

 その時、少年の目には影の顔が見えたような気がした。

 その顔は――、

 少年は唇を震わせた。血の気が冷め、真っ青になった彼の顔に冷たい夜風が当たる。皮膚の表層は氷のように冷えきっていた。そこに血の通いを感じることができない。

 少年が自らの死を悟った時だった。背後で猫の威嚇する声が聞こえた。

 かと思うと、少年の脇をすり抜け、影の足元まで進み出て、再び大きな威嚇を浴びせた。長い尾を立たせ、全身の毛を逆立てている。

 まるで、影をそのまま切り裂いてしまいそうな声だ。

 猫のこんな声など、少年は聞いたことがなかった。

 しかしそのおかげで、少年の身体に再び意思が通じるようになった。

 まるで動かなかった下半身に力が入る。少年は転びそうになりながらゆっくりと立ち上がった。

 立ち上がると、影の高さはそれほどでもない。少年より少し高い程度だ。

 だが、少年には猫のように立ち向かう度量はなかった。

 彼はようやく取り戻した身体に鞭打って、必死に元来た道を逃げ帰った。

 あとはもう無我夢中だ。

 脱兎のごとく駆け出した少年は、何度も足を田んぼに踏み外し、全身泥だらけになりながらも、息がはち切れそうになりながらも、走るのを止めなかった。

 背後から猫の呻き声が聞こえた気がしたが、振り向くことはしなかった。

 それからは、どうやって帰ったのか、少年は覚えていなかった。ただ街中を駆け回り、気がつけば自宅の玄関に泥塗れの状態でぐしゃぐしゃに泣いていたのだと言う。


 少年の両親や祖母は、誰かに虐められでもしたのだろうと思ったが、話を聞いてみるとどうもそうではないらしい。しかし今の取り乱した状態では、まともに順序立てて話すことも酷だということで、一旦彼が落ち着くのを待ってから、話を聞くことにしたのだった。

 暫くすると少年も泣き疲れたのか、ようやっといつもの様子に戻り始めていた。そうして、ぽつりぽつりとだったが、自分の体験を洗いざらい家族に伝えたのだ。

 両親は目をぱちくりとさせながら顔を見合わせた。そんな話、とても信用ならない。だが、少年が帰ってきた時の異常な程の混乱や格好、そして今の話す素振りを見ても、それが嘘だとも思えない。

 そんな中で、祖母だけがはっとした表情で彼を見返していた。


「ああ……そんな……」


 まるで信じられないとばかりに首を振る。しかし、それは両親の感じている不信感とはまた違うものだった。自分の孫がそんな体験をする羽目になったことが信じられないのだ。

 どれだけ逡巡していただろうか、しかし結局祖母はある話を始めた。


「昔からな、この辺りじゃあ“影踉”言う、妖怪とも幽霊とも神様ともつかない、それは忌まわしいものがおったんじゃよ」


「かげ……ろう……?」


 少年は首を傾げた。祖母は彼はおろか、娘である彼の母親にもそのことについて話すことを避けていた。彼が影踉の存在など、知るはずもないのだ。


「そうじゃ。影はその真っ黒な姿を指し、踉はふらふらと歩いている様を指す。まさに、お前さんが見た影の見たままそのものじゃよ。影踉を見たものは、どこかへ連れて行かれるだの、取り殺されるだのと言われておったが、その話を聞いた子供達は避けるどころか、信じようともせず、肝試し気分で影踉を探し、近づいてしまった。そのせいで何人もの子供が行方知れずとなり、何人もの子供が正気を失った。それ以来、わしらは徒らにこの話をすることをやめたんじゃ」


「それじゃお義母さん、畦道は危ないから行かないようにといつも言っていたのは、そのためだったんですか?」


 少年の父がそう問いかけると、祖母は頷いた。


「そうじゃ。詳しく話すより、その方がいいと思うてな。まさか、こんなことになろうとは……。いや、お前さんが無事に戻ってこれたのなら何よりじゃ。きっと、お前さんの日頃の行いを見ていたお天道様が、助けてくださったんじゃろう」


 祖母は涙を流しながら、少年を抱き寄せた。


 それから数日の間、少年は二度と畦道を通ったりなどするものかと心に固く誓ったようで、あの場所に近づくこともなかった。特におかしな言動も見られず、このまま元の平穏な生活に戻っていく。

 めでたしめでたし。

 ――とはいかなかった。

 少年が平静を保っていられたのは、そのほんの僅かな期間だった。それは嵐の前の静けさというやつだったのか。

 それから、徐々に何かが狂い始めていった。

 少年の母が二階から少年の喋り声を聞き、いつの間に誰か友達を呼んだのかと思い、部屋に挨拶に向かったが、そこにいたのは少年一人だけ。

 彼はぼそぼそとうわ言のように何かを一人で喋っている。窓の外に向かい、その言葉を投げかけている。

 だが、母が彼の目線を追っても、そこに誰かがいるようには見えない。

 その上、あれだけ嫌がっていた畦道に、また行くようになり始めた。毎日のように足を泥だらけにして学校から戻ってくるのだ。

 どれだけ注意しても、少年はどこか上の空だ。まるでもう既に、心はこの世に存在していないかのように。

 家だけでそんな様子を見せるのならよかったが、次第に少年の行動はエスカレートしていく。

 学校でも奇怪な言動を繰り返し始めた。授業中にも宙を見ながら独り言を呟き、ノートを次々とマジックで黒く塗り潰し始める。

 保健室に連れて行かれ、両親は先生に呼び出された。

 暫く学校は休んだ方がいいだろうということで、少年は家で療養することになった。

 しかし今度は、深夜に家から抜け出し始めるようになる。

 ある朝、両親が起きてくると、玄関から泥の足跡が中へと伸びているではないか。

 泥棒かと驚いた両親だったが、足跡は中へと続く一組しかなく、それは一直線に二階へと進んでいる。

 まさかとその跡を辿っていくと、やはりそれは少年の部屋へと続いていた。

 彼は両脚を泥だらけにして眠っていた。

 愈々両親は彼を病院に連れて行ったのだが、どこにも異常は見当たらない。一応入院させたものの、途端にぱたりと異常は治る。だが、退院すると直ぐに元に戻ってしまう。それの繰り返しだった。

 祖母の勧めでお祓いの出来る神社へと赴いたが、何の効力もなかった。

 少年の両目からは生気が失い、今やその焦点はどこにもない。自らの手で黒く染め上げた部屋の中で、蹲りながらぶつぶつと呟いている。


「あの子たちが呼んでる。あの子たちが呼んでる。あの子たちが呼んでる。……」


 そして新年を迎えた一月十五日、少年は忽然とその姿を消したのだった。


 *


 ――と言うのが、影踉に関する有名な怪談話である。

 しかしこのような民間伝承は、何もこの少年の地域のみに限らず、全国各地でその存在が確認されている。もちろん、影踉の呼び名はその場所ごとに異なり、関西や東北では御黒様おくろさま影攫かげさらいなどと言う地域もある。出会す場所も畦道であったり路地裏であったり普通の道路であったりする。被害に遭う人物の性別や年齢もまちまちだが、“それ”は決まって夜に現れ、輪郭がぼやぼやとした、何よりも黒い影であるという点は全く同じなのだ。

 いずれにしても夜道を歩く際は、十分に気を付けたほうがよろしいだろう。

 変質者はもちろんのことだが、夜という日常でもあり、一種非日常的な空間には、人でないものも時折その姿を現すのだから。

 今一度よく確かめてみるといい。

 貴方の正面から歩いてくる人影は、本当に“人間”なのだろうか。

 もしそうでなかったとしたら、その時は――。

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