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第五話 面会

 数日後、Y崎は幸雄に事件の詳細を聞く為に留置所へと向かった。

移動の電車内、中吊り広告がY崎の視界に映る。




『週刊文秋

コメンテーターY崎の見事な手のひら返し!

息子が逮捕となるや途端に冤罪主張!


痴漢撲滅を訴え続けて来たY崎が自分の息子が逮捕されたら

一転して無罪、冤罪を主張の矛盾を見よ!

この女にコメンテーターの資格はあるのか?』




 Y崎は無言でうつむき、ただ駅に着く事を願った。

電車が着くまでの時間を果てしなく長く感じていた。

今この瞬間も周囲から好奇、嘲笑、軽蔑の視線を浴びてるかも知れない。

スマホで撮影してる奴がいるかも知れない。

そう思うとY崎は顔を上げられなかった。

一秒でも速く電車が駅について欲しいと願う事しか出来なかった。


 留置所でY崎は幸雄と面会する。

生気を失い疲れ切った様子の幸雄が入って来た。


Y崎

「……幸雄……」

幸雄

「……何?」

Y崎

「……どうしたの幸雄、元気なくしちゃって

ちゃんとご飯食べてるの?痩せたんじゃない?」

幸雄

「平気だよ、ちゃんと出されたご飯食べてるよ」

Y崎

「幸雄、母さんは何があってもあなたの味方よ!

母さんがあなたの無罪を証明してあげるからね」

幸雄

「・・・・・」

Y崎

「……ねえ幸雄、もう一度事件の事、最初からちゃんと全部教えて」 


 Y崎は弁護士として詳細を把握する為に幸雄に改めて

事件の一部始終を聞く。幸雄は話し始めた。


幸雄

「電車で普通に立ってただけだよ。そしたら急に前の女が俺の方振り向いて

やめて下さいって言ったんだよ」

Y崎

「手には何か持ってた?」

幸雄

「確か左手はつり革で、右手は空いてたと思う」

Y崎

「右手は女性の体に当たらなかった?電車が揺れたとかは?」

幸雄

「絶対当たってない。電車が揺れて俺の手が当たったとかも無い。

全然揺れてなかったよ」

Y崎

「他の人が触ってなかった?」

幸雄

「分からないよ、普通に立ってただけだから。気がついたらいきなり

やめて下さいって言われて、その後横の男が俺の手掴んだんだ」

Y崎

「その男性はその時何処にいたの?」

幸雄

「俺のすぐ右隣だよ。俺触ってないのにいきなり俺の右手掴んで

引き上げて、お前痴漢だろって言ったんだ」

Y崎

「……じゃあ、あなたの目の前に女性であなたの右隣にその男性、

あなたと男性は同じ方向向いてたって事で間違いない?」

幸雄

「うん、それで間違いない。その後その男は俺が放せって言っても

放さなくて、電車のドアが開いて俺は男を振り払って逃げたんだよ」

Y崎

「逃げたの?……それからどうなったの?」

幸雄

「その男が追って来て追いつかれて、取っ組み合いみたいになって、

その後その男に取り押さえられたんだ。俺なんにもしてないのに。

その後警察が来たよ」

Y崎

「その取っ組み合いの時に相手の袖とか襟とかいっぱい触ったの?」

幸雄

「そうだよ」


 


 違和感を感じたY崎は幸雄に改めて聞いた。


Y崎

「……女性がやめて下さいって言ってから右隣の男性が

あなたの右手を掴むまで何秒くらいだった?」

幸雄

「え?……すぐだったよ。一秒くらいしか無かったんじゃないかな」

Y崎

「……じゃあ、痴漢に間違えられてから駅に降りるまで

何秒くらいかわかる?」

幸雄

「えーっと……そいつと電車の中でもみ合いみたいになってたから、

大体10~20秒くらいかな?」

Y崎

「じゃあ、電車がもうすぐ駅に着くタイミングで

女性がやめて下さいって言ったって事ね?」

幸雄

「そういえばそうだったな……」

Y崎

「……わかったわ幸雄、母さん頑張るからね!あなたの為に

出来る事何でもするからね!だから幸雄、あなたも頑張るのよ!」

幸雄

「……うん、わかったよ」




 Y崎は留置所を後にし、歩きながら幸雄の証言内容を

頭の中で整理した。




(女性がやめて下さいと言ってから取り押さえられるまでが

うまく行き過ぎてる気がする まるで最初から駅のホームで

取り押さえるのが目的のようにも思えるわね)




 Y崎はそう推測し、無罪の可能性を感じると同時に、

残酷な現実にも対面するのであった。




(だとしても証拠がない すべてこっちの推測 思い込みでしか無い

ただ単に駅に着く間際に痴漢しただけと説明出来てしまうわ

れに 幸雄がその場から走って逃げた事が厄介だわ

反省してない 悪質性が高いと判断されて判決に響くかも

無実を証明する材料が少なすぎるわ)




 痴漢事件においては被害者の証言は証拠として重要視されるが、

容疑者の証言は罪を逃れる為に嘘をつく動機があるという理由で

証拠として扱われない事がほとんどである。

容疑者が触っていない事を証明する事は極めて困難である。


 Y崎は痴漢事件の弁護士として、容疑者の無実を証明する事の

難しさを突き付けられるのであった。


つづく

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