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第三話 SNS

〈1ケ月程前〉

 リビングのテーブルでY崎と幸雄が夕食を囲んでいた時、

無言でうつ向いていた幸雄がボソリと話し始めた。


幸雄

「……ねえ、母さん、SNSの投稿さ、もうやめたら?」

Y崎

「どうしたの?急に」

幸雄

「母さん痴漢撲滅運動とかやるのはいいんだけどさ、

ちょっとSNSの発言言いすぎじゃない?

さすがにヤバいんじゃない?こういうの……」


 幸雄は自分のスマホでY崎のSNSの投稿をY崎自身に見せた。




『Y崎    20××年×月×日

痴漢は犯罪です。決して許される行為ではありません。

痴漢を大した事ないと思わず重大な犯罪行為だと扱う社会を

皆で築いて行きましょう。

#一般社団法人痴漢撲滅活動プロジェクト #痴漢は犯罪』




『Y崎    20××年×月×日

女性の皆さん、泣き寝入りせずに痴漢の被害にあったら

必ず警察に通報しましょう。

そして痴漢の厳罰化を皆さんで訴えて行きましょう。

#一般社団法人痴漢撲滅活動プロジェクト #痴漢厳罰化』




『Y崎    20××年×月×日

最近痴漢冤罪が問題視されてるような風潮がありますが、

そんな事はありません。痴漢達をつけあがらせるだけです。

皆さん騙されてはいけません。

大体電車内で挙動不審だったりやましい考えがあるから

痴漢に間違えられるんです。だから例え冤罪でも

間違えられた男に非があるのです。女性は悪くありません。

冤罪にあった男を社会が庇う必要なんてありません。

#一般社団法人痴漢撲滅活動プロジェクト #冤罪は男が悪い』




 Y崎のそれらSNSの投稿を、幸雄がスマホの画面を

スクロールしながらY崎に見せる。


幸雄

「ネット上で母さんのアンチ増えてきてるみたいだよ、

もうこういう投稿やめた方がいいんじゃない?」

Y崎

「アンチなんて気にしてちゃダメなのよ。

母さんはね、世の中の女性の為に頑張ってるのよ。わかった?」

幸雄

「…でもさ、冤罪にあった人にまで文句言うのは言いすぎじゃない?」

Y崎

「そんな事ないの、それぐらいキツく行ってやらないと

痴漢はなくならないのよ。わかった?」

幸雄

「……今日さ、会社の昼休みに同僚が言ってたんだよ。

俺このY崎とか言うコメンテーター大っ嫌いなんだよなって。

母さん、もうこういう投稿やめたら?」

Y崎

「そんな奴の言う事気にしてちゃダメなのよ。

そいつはその程度の男だって事よ。

あなたもそんな奴とは関わらないようにしなさい」






〈現在〉

 Y崎は夕食を一人で食べていた。

顔を上げても向かいの机に幸雄は居ない。

1ケ月程前の幸雄の助言がY崎の記憶をよぎる。


 もし、今回の痴漢事件が、幸雄が言ってたようにいわゆるアンチの

捏造やでっちあげなら、自分のせいで幸雄は冤罪被害にあった事になる。




(私が悪いの? いえ、違うわ でっち上げたやつが悪いのよ

それにまだアンチの仕業だと決まった訳じゃないわ) 




 弁護士としても現実的に事件を調べなければと、そう思い

Y崎は アンチ 捏造 そういった事は考えない事にした。

幸雄の無実を証明する為にも自分がしっかりしなければと、

改めてそう思うY崎だったが、一人で食べ進める夕食に

幸雄の不在を気づかされ、その信念は蝕まれて行くのであった。




翌日


キャスター

「昨日、痴漢撲滅活動でも有名なコメンテーター、Y崎さんの息子が

痴漢の現行犯で逮捕されました。

逮捕されたのは東京○○区に住む会社員Y崎幸雄容疑者(22)です」


 テレビのニュースを見てY崎は愕然とした。

マスコミが嗅ぎ付け、息子の痴漢事件がニュースになっていた。


 テレビのニュースのテロップに表示される

“Y崎幸雄容疑者(22)”の文字にY崎は言葉を失った。


 恐る恐るネットニュースを見てみると、

同じくそのニュースが載せられていた。

ニュースのコメント欄をY崎は覗いてみた。




『あのクレーム女Y崎の息子が痴漢で逮捕とかクソ笑うわ

Y崎は自分の息子でも許さないんだよな?』


『ゴメンこれは笑う。あいつ自分の子供になんて声かけるんだろうな』


『痴漢撲滅活動家の息子が痴漢wwwww

もう痴漢撲滅活動も出来ないんじゃね?』


『このY崎とかいう勘違いコメンテーター

今日テレビ出るんじゃねえの?流石に出れないか?』


『今年一番の大ニュース確定!

痴漢は決して許される行為ではありません紛れもない犯罪です。

そうだよなY崎お前そう言ってたよな?』



 コメントは誹謗中傷で溢れていた。

もしかしたら息子を擁護してくれる人が居てくれるかもと思っていたが

そのようなコメントは皆無であった。

 痴漢の容疑者となった幸雄を庇う者など一人も居なかった。

誰もが幸雄を痴漢だと決めつけ嘲笑を積み重ねて行った。


 Y崎は出演するワイドショーの番組制作班に電話し、

今日の出演は休む事を伝えた。




(息子の痴漢事件が全国に報じられてしまった

もうコメンテーターも出来ない 

息子が痴漢で捕まったコメンテーターが痴漢撲滅について

何を語るというの

もう弁護士も続けられないかもしれない)


 Y崎は今まで経験した事のない不安に襲われた。

事件の余波が幸雄の人生だけでなく、

Y崎自身の仕事、キャリア、信用、それらに侵食し始めていた。


つづく

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