第一話 99.9%
この物語はフィクションです。
実在する人物、団体とは一切関係ありません。
第一話 99.9%
司会
「本日最初のトピックです。俳優のEさんが先日、電車内で痴漢をした容疑で
逮捕された事件について掘り下げて行こうと思います。
スタジオには、一般社団法人痴漢撲滅活動プロジェクトに参加し、
現役女性弁護士でもあるY崎さんにお越し頂きました。
Y崎さん宜しくお願いします」
Y崎
「宜しくお願いします」
司会
「さあY崎さん今回の騒動、どう思いますか?」
Y崎
「決して許されない犯罪行為だと思います。
こういう場合、容疑者はよく酒に酔ってとか言って言い訳するんですけどね、
どんな理由であれ痴漢は紛れもない犯罪ですので、
きちんと裁かれるべきですね」
司会
「Eさんは冤罪だと、容疑を否認してるようですが、
これに関してはどう思いますか?
Y崎
「ありえないですね。痴漢の犯人は大抵否認するんです。
最近は冤罪を問題視して、まるで男が被害者みたいに言う人も居ますけど、
そんな事は決してありません。悪いのは痴漢した男です。
潔くEさんは罪を認めてつぐなって欲しいと思いますね」
司会
「成程。ではここで街頭インタビューの…」
Y崎
「それと、いいですか?
弁護士として言わせてもらいますけど、
痴漢は紛れもない犯罪です。言い逃れ出来ると思ったら大間違いです。
この国の裁判の有罪判決率は99.9%です。※
当然ながら無罪判決率は0.1%です。
勝ち目は無いと思った方がいいですね」
原作:ゼロイチ
私の息子の痴漢冤罪
~「お願い信じて!私の息子は痴漢なんてしてないわ!」~
Y崎は今日も自信に満ちた態度で鋭いコメントを電波に乗せ
日本中に発信する。
現役で弁護士を続けながらワイドショーのコメンテーターとしても活動し、
女性の性被害や痴漢問題に対して熱心に取り組み
一般社団法人痴漢撲滅活動プロジェクトにも自ら参加し、
特に痴漢に対しては絶対に許さないという意見と姿勢を
テレビや自身のSNSで広く社会に発信する。
Y崎とはそんな女性であった。
SNSを積極的に利用し世の女性達に
痴漢に対して泣き寝入りしないよう鼓舞するような投稿を
多く重ね、それによって女性のフォロワーも多く獲得し、
知名度も地位も兼ね備えた女性であった。
強気な発言からSNSではいわゆるアンチからクレームの返信なども
多いがY崎は相手にはしなかった。
自分の活動が社会の為、そして全ての女性の未来の為だと信じ、
自分の信念を曲げる事は無かった。
司会
「本日も最後までお付き合い頂き、有難うございました。
また明日も、この時間にお会いしましょう」
ワイドショーの生放送が終わり、自分の意見をはっきり発信出来たという
満足感を感じながら、Y崎は楽屋に戻る。
スマホを見てみると見知らぬ電話番号から着信と留守電メッセージが
残されていた。詐欺電話かと不審に思いながらも
Y崎はメッセージを再生した。
「〇〇警察署の△△と申します。
Y崎幸雄さんのお母さんで間違いないでしょうか。
本日息子の幸雄さんが痴漢容疑で現行犯逮捕されました。
現在当署にて身柄を預かっております。
これを聞きましたら折り返しご連絡願います」
Y崎は内容が理解出来なかった。新手の詐欺か?と思った。
だが金銭の要求も無い。
(?…息子の幸雄が痴漢?何言ってんの?そんな事ある訳ないじゃない)
何かの間違いだろうと思いY崎は事実確認の為に
〇〇警察署に折り返しの電話をかけた。
△△
「はい、○○警察署です」
Y崎
「あの、Y崎幸雄の母親ですが……」
△△
「ああ、お母さんですね。息子さんが痴漢容疑で現行犯逮捕されまして…」
Y崎
「何かの間違いでしょ!?うちの息子が痴漢なんてする筈がないわ!
他の男と間違えてませんか?」
△△
「いえ、貴方の息子さん、幸雄さんです。
こちらで身分証も顔写真も確認してそちらに連絡しております」
Y崎
「……本当?……ほ、本当なんですか?ちゃんと調べましたか?」
△△
「お気の毒ですが間違いありません。本日、駅で現行犯逮捕されました。
それで、息子さんは容疑を否認してますので、お帰し出来ません。
数日間当署にて拘留する事になります」
Y崎
「……え、待って……ほんとに?うちの息子が?……幸雄が?
嘘でしょ?何かの間違いでしょ!?ちゃんと調べたの!?」
△△
「落ち着いて下さい。お母さん、息子さんの着替えと日用品を
持って来てくれますか?」
Y崎
「今からそっちに行くわ!息子に会わせてちょうだい!
幸雄が痴漢なんてする筈無いじゃないの!」
△△
「いや、お会いする事は出来ません。
逮捕から48時間は弁護士の方しか面会出来ない事になってますので…」
Y崎
「私は弁護士よ!」
そう言うとY崎は一方的に電話を切り、大急ぎで○○警察署へと向かった。
(幸雄が痴漢なんてする筈が無い 私の愛する一人息子の幸雄が
大学も卒業して社会人になったばかりなのに
あの子の人生これからだって言うのに あんなに良い子に育ってくれたのに)
警察署へと急ぐ道中、Y崎は愛する一人息子の幸雄の無実を祈り続ける。
(何てことなの 痴漢撲滅活動プロジェクトにも参加してるのに
SNSでも痴漢は許さないって散々言って来たのに
息子が痴漢で捕まったなんて事になれば
もうテレビにも出られないかも知れないわ)
自分のこの先の仕事やキャリアへの影響を予感し、
Y崎はこんな時に愛する息子の心配と同時に
自分の地位や保身が頭をよぎる自分を憎むのであった。
つづく
※出典
犯罪白書(法務省発行)




