PROLOGUE:GALS RETURN
「えぇ~前回の授業の最後に話したとおり『水』とはH2Oの分子構造で出来ている物。いわゆる物質だ。今日勉強するのはその物質がもたらす力学になるぞ。みんなは『水圧』っていう言葉を目にしたことはあるか? または耳にしたことでもいいぞ? 太田。どうだ?」
「えぇ……と……聞いたことはあるかもしれません」
「うん。そういえば今日はプールの授業があったな。深くもぐると耳がキーンとなることがあるだろう? 簡単に言えばああいう水中で受ける圧力のことを言う。物体のうえにのしかかる水の重さによる圧力だ。教科書Aの36ページを開いて。そこにあるイラストを参考にしようか。左上にある絵だ。その水面から深さHのところにある物が受ける水圧を求めてみようか。そこに赤字で書いてあるように面積Sは約分して消える。だから水圧は面積に無関係で深さだけで決まると言うことが分かるな。おい、野村。聞いているのか?」
「……はい」
「いま、何の話をしていた?」
「水と熱がどうのっていう?」
「バカヤロウ」
物理の教師である高畑は生徒である野村の頭を持っていた本で軽く叩く。
「さっきから窓ばかりみているからだ」
「ごめんなさい。だってあそこに……」
野村は窓に映るグランドを指さす。
そこに自転車の2人乗りでグランドを走りまわる女たちの姿が。
「バカヤロウ」
蛇口を捻る。水が流れる。
当たり前の物理をボーっと眺める。
鏡に映るのは黒人にして日本人の自分。
片目に大きな傷を負って隻眼となった自分。
視線をサーッと流れ続ける水に戻す。たっぷりの泡で優しく撫でるように洗う。すすぎは目をしっかりと閉じて水や泡の侵入を防ぐようにする。
もう慣れた筈なのに面倒に感じてしまうのは何故だろう。
顔を洗って適当なメイクやジャージを着て職安に向かう。
錆びが目立つアパート。
でも、今朝はなんか違った。
「あっ」
「おう」
駐輪場へ向かおうとしたところで懐かしい友と出くわす。
「里琴……久しぶり」
「久しぶり。元気?」
「えっ? まぁまぁ」
「今もしているの?」
里琴が格闘の素振りをしてみせる。
「いや……もう……こういう感じだしさ」
「いや、眼帯の格闘家とか強そうでしょ」
「冗談きつい……里琴はどうなの? 今は有名人になって変装しているとか?」
「そうだったらいいけど。違うよ。無職。国からお金を貰って何とか生きている」
里琴はオシャレなレースパーカーのフードを深々と被っている。でも真っ黒なサングラスに大きいマスクをつけているのはオシャレが目的という訳でなさそうだ。
「これから職安にいくの?」
「そうだね……もしかして里琴も?」
「うん。このへんに引っ越してきて」
「そう……」
「終わったあとって暇?」
「暇と言えば暇かな……でも、金ないし」
「ニケツやる? 私が乗せてもいいよ?」
何年振りだろうか?
その言葉を耳にするのは――
ーー映画「ギャルズ・リターン」にコメントを!
いでっち51号:僕自身とても大ファンですし、尊敬もしている如月文人さんと「芸能界になろう」っていうモノの中でこうしてコラボレーションができることをとても光栄に思っております。彼はあまり表立ち長々と喋るような作家さんではなく……本当に素朴な感じで真面目さと誠実さが光るタイプの作家さんなのかなと思っていますけど、彼と何かで交われた時にすごく嬉しい気持ちがあるんですよね。タイプ的に全然違う世界の人間だからかもしれないですが(笑)でも、そういう触発が何か良いモノをつくることって意外とあるものだと思っていて。それは本作の里琴と流美の2人のように。そんな何かを味わうように読んで貰えたら楽しい作品になっていると思います。最後まで彼女たちの物語にお付き合いくださいーー




