⑯【従属契約の主】に敗北するメリル
絵が正位置に戻り、しばしの沈黙──
やがてみんなが見つめる中、絵がほのかに光り出した。扉が光ったときと同じ光だ。
精霊たちが物も言えずにスーっと消えていく……
ソルと王子には元々見えていないし、声も聞こえない彼らだけれど、メリルとウィルはその様子に覚えがあってぎょっとした。
(これは……精霊たちが『気に当てられる』って言ってたやつだ……)
精霊が姿を保っていられないほど、相手の存在がすごいってことなの? ……まあ、姿は確かに色々すごいのは間違いないけれど──
絵がゆらりと揺らぎ、バニー姿の男がぬるりと顔を突き出す。
キョロキョロと目だけを動かし、上下左右を見回したあと、首をコキコキと鳴らし、手を額縁にかけた。
タイツを履いた脚でガニマタ気味に「うんせ」と跨ぎ、ゆっくりと絵の中から出てくる──
(ずっと逆さまになってたんなら、首も凝るか……)
みんながそう思いつつ隠れながら、男のなめらかな動きに呆然としていると、バニーが目だけを左右に動かしながら、くつくつと喉を鳴らした。どうやら笑っているらしい。
"隠れても無駄よぉ? 出てらっしゃい。お・見・通し・よ"
バレてーら。
仕方ないのでみんなソファの陰から立ち上がると、男は嬉しそうにニタっと笑った。
"んまっ。何て綺麗なカワイ子ちゃんたちなぁ~んでしょ。……これは是非契約しちゃわないと……キヒヒ……ッ"
最後の声は、金属が軋んだような耳障りな音で、その異様さにぞくっとする。
「その口調……その服……自分の好みで着てたのかあ」
メリルの言葉を見事に無視して、男がソルをまじまじと見ながら目を見開いた。
"……あら? この子……アタシが一度契約した子じゃない……なんで解除されてんのよ……"
ぶわっとソルから怒りのオーラが立ち昇った。
やっぱり、コイツが──
我を忘れて攻撃に転じようとしたが、メリルの存在がソルにとっては何よりも大きかったので、衝動を抑え込む。
「気を付けて下さいお嬢様! コイツは相手の意識が無くても一方的に従属契約出来るんです!」
従属契約と聞いて、メリルは真っ先にソルにかけられていた呪いを思い出した。
「従属契約……? お前が、ソルを!?」
無理矢理そんな呪いをかけられて、暗殺者として使われて、どんなに、どんなにソルが傷ついたと思っているの!?
許せない……
"ああ、そんな名前だったっけ? ……まあイイわ。掴めばすぐに分かるし……二度と逆らえないように、アタシ好みに育ててあげるからぁ♪"
それを聞いたメリルの中で、どこかがプチっとキレた。
「違う! 乗っちゃダメですお嬢様! それがコイツらのやり方なんです!」
誰にも止められない怒りで、メリルは暗闇の中、男の声のするほうに近づこうとする。
原初の闇を感じる恐ろしい気に足が竦んでいたのだが、怒りがそれを上回った。
薄っすらとオーラが立ち昇り、彼女の体を包み込んでいく。
体の周りでバチバチと火花が飛び散り、鋭い光の放電が眩しく弾けて何度も消えた。
メリルが放とうとしている魔法は──
【雷魔法 Lv10 MAX】
おそらく、昔読んだ神話の絵本にあった、天罰の雷を想像したからだろう。
歩きながら魔法を打ち出そうとして、手のひらから魔法の光が零れる──
……だが、今回の相手はただの人間ではなかった。
"……ふぅん。それなりに力があるのねアンタ……でもまだまだね。その程度のツラでしゃしゃり出てくるなんて……女は引っ込んでなさいよ。アタシはそっちのオトコノコたちに用があるの!"
男の瘴気のような魔力がぶわっと巻き上がり、メリルに襲い掛かった。
神々しいまでのオーラが途端に消失し、光が闇に覆われ消えてしまうと、全身が魔力の塊に叩き付けられる。
「きゃあっ!」
「メリル……っ!!」
(くっ……防壁で防がなきゃ!)
【光魔法 Lv10 MAX】!
メリルが光魔法で咄嗟に展開した防壁は、敵の魔力に触れた瞬間、金色のひび割れを起こし、音もなく砕け散った。まるで闇が光を侵食したかのように……
メリルはその衝撃で吹っ飛んで、勢いよく壁に打ち付けられてしまい動かなくなった。
再び部屋を闇が支配する──
その様子を見て変態……いや男はニヤリとする。
"……キヒヒッ。その程度の光なんかアタシの闇で舐めとって終わり、よ"
"……そう。この女メリルって言うの……心配そうな声を出しても飛び出してこないのね……『まとも』だわ。ホントはもうちょっと壊れてるほうが好みなのよねぇ……♪ この女を完全に壊してやったら、どんな顔になるのかしら──"




