空っぽ
視界が徐々に元に戻る。目の前の床と壁がごっそりと削れて青空が見えた。天使が光の砂塵となり消えた。エミリーは身体の自由を取り戻した。
「……あれは自滅魔法もぐ〜。まさか光の神を消すために使うとは思わなかったもぐ〜」
ーー「ノームとウンディーネを神の器と認めます」
運命の女神は淡々とそう告げた。ノームとウンディーネは光り輝く。ノームは筋肉マッチョの大男になる。ウンディーネは肌が鱗に覆われ、耳が尖った。
「おいらの筋肉美サイコーもぐ〜。あっもうもぐ〜はやめるかもぐ〜あっ」
「あ〜あ〜。喋れる」
ウンディーネは言葉が通じるようになった。
私はダークが消えた場所を呆然と見つめた。頭が真っ白で何も考えられない。
オットーが珍しく心配そうに私の顔を覗く。
「大丈夫か? ……大丈夫なはず無いよな」
城がガラゴロと崩れてきた。光の神の力を失った影響だ。
「大変!? 崩れるわ!!」
エミリーがそう叫ぶが私は何も感じなかった。
ヒビが入る壁に天上。ファビアンがエミリーを引っ張って部屋からでる。それにニクセとオットー、ウンディーネ、ノームが続いた。
焦るアーダルベルトが私の手を取り引っ張ってきたが抵抗した。
「……離して。ダークがいないの。いるはずよ。ダークは私をもう裏切らないわ」
「何言ってんだ!? おかしい女だと思ってたが、今の状況を理解できないほど愚かじゃないだろ!? あいつは死んだんだよ!!」
「っっ!?」
ーーどうしてそんなことを言うのだ。ああ。アーダルベルトは私のこと嫌いだったわ。
「……」
「たくっ世話の焼ける!」
動かない私に焦れたアーダルベルトは私を抱えて走り出した。ジタバタと暴れるが男の力には敵わない。
「いやよ。何でよ!? 私のこと嫌い何でしょ!? 離して!!」
「……残念ながらその通りだ。だがな、俺は王になる。助けれる国民を見捨てる訳にはいかないんだよ!」
私は大人しくなった。
ーーそっかぁ。アーダルベルトはそんな想いで王様を目指してたのか。きっと立派になるわ。そんな人を死なせる訳にはいかないな。でもさ。でもさ……
「うわあああっっ!!」
涙が溢れて視界が滲んだ。
「ダーク私は貴方を……」
愛してる
キーンと耳鳴りが聞こえた。周りの景色が白黒の静止画となる。時が止まった。
ーー「運命を変えたいですか?」
「運命の女神?」
エミリーの声なのにエミリーではない声。
「やり直しはもうなしだったよね?」
私が死にたいと願ったから、今世で終わりだった筈だ。
ーー「はい。やり直しはしません」
「だったら、何の用?」
ーー「シャーロット・ファン・エルマー。又の名を川崎 愛。貴女は四精霊を従え神と戦い世界を破滅から救いました。その功績は大きいです。よって貴女を神の器として認めます」
ーー神だって? ちっとも嬉しくない。ダークがいなきゃ意味がない。
「辞退するわ。ダークが生き返るのなら別だけど……」
ーー「愛があれば可能です。ダークを貴女の天使に生まれ変わらせます」
その女神の言葉に私は嬉しくなって涙がまた溢れた。
「愛してるわ。私を女神にして」
ーー「わかりました。貴女を女神と認めます」
光の眩しさで思わず目を瞑った。




