第二話 容量無限の荷運び
翌朝。
冒険者ギルドは、朝から騒がしかった。
「おい聞いたか!?
《蒼銀の剣》が撤退したらしいぞ!」
「第二十七階層で補給切れだってよ!」
「あり得ねぇだろ、あのパーティが?」
酒場スペースでは、朝からざわめきが広がっている。
俺――レクトは、
隅の席で静かにスープを飲んでいた。
……まあ、そうなるよな。
むしろ、
よく二十七階層まで行けたと思う。
あいつら、
予備ポーションの本数すら把握してなかったし。
「おいおいマジかよ」
受付嬢ミリアまで驚いていた。
栗色の髪を揺らしながら、
彼女は資料をめくる。
「遠征物資の管理担当って
……確かレクトさんでしたよね?」
「まあ、一応」
「え、じゃあ今まで全部一人で?」
「全部ってほどじゃない」
嘘だ。
実際は、ほぼ全部だ。
どの階層で何本ポーションを使うか。
保存食の消費量。
水の残量。
毒消しの予備。
全部、俺が記録していた。
だが戦えない俺は、
評価されなかった。
「……信じられません」
ミリアが呆然と呟く。
その時だった。
ギルドの扉が勢いよく開いた。
「誰か!! 荷運びできる奴はいないか!!」
入ってきたのは、
砂だらけの商人だった。
護衛たちまで疲弊している。
「どうした?」
「魔物の群れに襲われて馬車が壊れた!
荷物が運べねぇ!」
商人は半泣きだった。
「今日中に運ばなきゃ、契約違反で終わりなんだ!」
周囲の冒険者たちが顔を見合わせる。
「無理だろ……」
「量は?」
「保存食が四十箱、薬草樽が二十、鉄材が――」
その瞬間、
ギルド内が静まり返った。
誰も受けたがらない。
荷物が多すぎる。
馬車なしで運べる量じゃない。
すると、
ミリアがこちらを見た。
「……レクトさん」
「ん?」
「もしかして、できます?」
周囲の視線が集まる。
俺は少し考え、
スープを飲み干した。
「場所は?」
商人が勢いよく地図を広げる。
「西門の外だ! 今すぐ頼む!」
「分かった」
俺は立ち上がった。
その瞬間。
「お、おいレクト」
近くの冒険者が苦笑する。
「さすがに無茶だろ」
「そうか?」
「その量だぞ!?」
俺は肩をすくめた。
そして。
西門の外に停まった、
壊れた馬車の前へ向かう。
積み上がる大量の木箱。
普通なら、
十人いても運搬に半日はかかる量。
商人が青ざめる。
「本当に一人で……?」
「まあ、見ててくれ」
俺は木箱に手を触れた。
――《収納》。
次の瞬間。
巨大な荷箱が、
音もなく消えた。
「…………は?」
商人の口が開く。
周囲の護衛たちも固まった。
俺はそのまま、
次々と荷物を収納していく。
木箱。
樽。
鉄材。
保存食。
一瞬で。
まるで、
世界そのものに飲み込まれるように。
十分後。
山のようだった積荷は、
完全に消えていた。
「終わったぞ」
静寂。
風の音だけが響く。
商人の顔が引きつっていた。
「……い、今、どこに……?」
「アイテムボックスの中」
「いやいやいやいや!!」
護衛が絶叫する。
「こんな量入るわけないだろ!?」
俺は首を傾げた。
「そうか?」
その時だった。
後ろで、
誰かが呟いた。
「……化け物だ」
振り返る。
そこには、
ギルド職員たちが立ち尽くしていた。
そしてミリアが、震える声で言う。
「レクトさん……その容量、
いったいどれくらいあるんですか?」
俺は少し考えた。
正直に言うべきか迷う。
だが――
「分からない」
俺は答えた。
「今まで、一度も限界になったことがないんだ」




