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旧)黒きエルク  作者: ヘアズイヤー
黒き光

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103/104

高地4


 魔王軍から大きな歓声が上がり、竜たちが高らかに澄んだ声を上げた。

 幾つもの黒と赤の旗、大きな角が白く染め抜かれた旗が広げられ、宙に浮くエルクのもとに進んできた。


「あれは、あれはエルクのパーティの紋章!」

「エルクがいつも身につけている紋章! 魔王軍があの紋章を!」

「エルクが魔王!」


 エルクは黒いベレー帽を取り出してかぶった。


「そう、僕が魔王エルクです。……さる王家の後継者ってのは、魔王国の後継者ってことだったんだよ」


 

 エルクは角の旗を後ろに従えて地に降りた。

「魔王討伐軍の王たち、兵士たちよ。魔王国は皆さんと戦う意志はない。聖教会にだまされてきたのは我ら魔王国も同じ。戦う意志はない」


 王たちがエウスタキオ主座たち聖教会の者をにらんだ。


「……勇者が……魔王? 勇者エルク様が魔王エルク?」

 放心する、セロが乗り移ったエウスタキオ主座。


 その後ろに従っていたクアトゥロ司教が隣の司教に命じた。

「スィンコ司教! 魔王を攻撃させよ!」

 スィンコ司教と呼ばれた痩せて猫背気味の男が、身体に似合わぬ大声を上げた。

「魔王討伐軍全軍! 聖教会騎士団! 聖教会が命じる! 魔王エルクに突撃せよ! 魔王軍を滅ぼせ!」


 討伐軍前面に展開していた聖教会騎士団が、騎乗してエルクに突撃してきた。各国の督戦についていた騎士たちも参戦する。


「フラゼッタ王国軍は参戦するな! 魔王エルクを攻撃してはならん!」

 ベランジェ王太子の命に他の王たちも習い、自軍に攻撃しないよう命令を出した。


 ……かわいそうなのは馬たちか。改造されてしまった騎士団、馬たち……良き転生を。


 突撃してくる聖教会騎士団を見て、エルクが右手を上げた。

「魔王国陸軍弓兵隊! 前に!」

 進軍してくる魔王軍から白い鎧姿で長弓を持った一団が抜け出してきた。

「目標! 聖教会騎士団! 他の討伐軍には当てるな! 魔王軍! 攻撃開始!」


 弓兵隊の指揮官の合図で一斉に弓が引かれ、上空に矢が放たれた。

 騎馬の速度に合わせたエルフの矢は、雨のように騎士団に降りかかり、多くの者が落馬し、馬もまた落命した。


「魔王国竜空軍! 空対地戦! 聖教会騎士団以外には当てるな!」


 隊列を組んだ竜たちが左右に飛び、戦場の横から細く絞ったブレスを、騎士団に向けて連射して通り過ぎた。その後には焼け焦げた死体が残された。


 弓と竜のブレスで二千騎ほどいた聖教会騎士団が壊滅した。

 だが、横を駆ける味方が次々と戦死しても、声一つ挙げず、生き残った数十騎がなおもエルク目掛けて突撃してくる。


「魔王国陸軍! 聖教会騎士団を殲滅せよ!」


 魔族、獣人、ドワーフの混成部隊が生き残った騎士団に向かって走り出す。三人一組で一人の騎士に当たり、馬を倒し、落馬したところを槍、剣、斧で屠っていく。

 騎士団の槍や剣は、魔王軍兵士の直前で全て弾かれ、一人の兵士にも届かなかった。



 聖教会騎士団は全滅した。

 未だ息のある騎士団員と馬たちに、情けの一撃を加える魔王国軍を背に、エルクが進んできた。

 レーデル、ラドミールたち、軍旗を持つ者が合流し、討伐軍の天幕に進んできた。


 ベランジェ王太子が近づき、声を上げた。

「レーデル王女! 王女がなぜ魔王軍に?」

「ベランジェ王太子。私はハーフエルフ。聖教会が敵視するエルフの血を持つものよ!」



「さて、王たちよ。どうする? 聖教会に報いを受けさせるか? それとも魔王軍と戦ってみたいかね?」


 王たちは押し黙り、聖教会の者たちを見た。

 白ローブたちがエウスタキオ主座、クアトゥロ司教、スィンコ司教を守るように囲んだ。

「……まだ、抵抗するかね、セロ」

 エルクの問いに、呆けた顔のエウスタキオ主座は答えずに、クアトゥロ司教が答えた。

「……やれ」

 白ローブたちが一斉にローブをはためかせて、セロとクアトゥロ司教を隠した。


 ……グッ! これは魔力濃縮液! 埋めたか!


 白ローブたちは手に持った空の瓶を投げ捨て、小聖剣を発動させた。

 防壁で小聖剣を囲い、白ローブを重力で抑え込もうとした時に、レーデルとラドミールがエルクの眼前に飛び込んできた。

「エルク!」

「エルク様!」

 同時に横合いから兜を深くかぶった革鎧姿の男が飛び出し、白いものをエルクに押し付けた。


 ……大聖剣! 防壁を! レーデルたちにも! こいつにも魔石が!


 革鎧姿の男、大聖剣、白ローブ、小聖剣を防壁で包み重力で押さえつける。

「下がれ! レーデル! ラド!」

「やっとだ。やっと成功させたんだよ……エルク」

 革鎧の男は防壁と重力に抗い、なおも大聖剣をエルクに押し付けてくる。

 大聖剣の粒子分解がエルクの防壁を分解し、その刀身をエルクに埋め込んだ。


 刺される激痛、全身を焼かれる痛み。


「ボリバル司祭! お前! 自分に埋めたのか!」

「はは、理性を持ったままで、人造魔石が勇者にしてくれる!」


 ……まずい! 放射線被曝が! ボリバルごと大聖剣を! 守らないと! 守らないと!


 大聖剣の白い光に混じり、エルクの身体から黒い光が溢れた。


 エルクの防壁に包まれた白ローブと小聖剣が、さらに黒い光に包まれ、粒子になって消えていく。

 エルクは大聖剣をつかむ。

 ボリバル司祭と大聖剣を、黒い光の粒子に変えていった。


「エルク!」

「だめだ! 近寄るな! レーデルを押さえてくれ!」


 ベランジェ王太子とラドミールがレーデルを押し留めてくれる。


 ……クッ! 止まらない。大聖剣の粒子分解が止まらない!


 エルクはレーデルを見た。エルクに向けて手を伸ばすレーデルの頬を、涙が伝った。


 ……ああ、また泣かせてしまった。……ほんと、僕は……詰めが甘い……。


「レーデル……ごめんね」

「いや! いや! エルク! いやー!」


 エルクの身体は黒い光の粒となって、消えていった。


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