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コインの表と裏4

「自分でもバカだなって思ってはいるんですよ。十代後半で恋愛にのめり込んだって意味ない。大人として働きながら好きな人ができて恋人になったり、家族になるのとは、わけが違う。いずれは、わかれが来るって……」


「どうして、そんなことを言い切っちゃうのかな?」と三上さんは静かに語りかけるような口調で言った。


 まばたきを繰り返しながら、ぼくは「だって高校生なんですよ。大学に行って就職すれば世界は広がるし」


「確かに、ある意味、それはあたっているね。でも半分は間違っているとも言えるんじゃないかな?」


「どういう意味ですか?」


 なんのことだか、さっぱり意味がわからなくて、眉間の間に力が加わる。


 車を法定速度で走らせている三上さんが形のいい唇を開いた。


「世界が広がるっていうのは広げたい意思がある人だけなんだよ」


「つまり……?」


「積極的に多くの人と交流しようと思うと価値観や性格の不一致を否が応でも思い知らされる。当然だ。人はそれぞれ違った場所、違った環境で育つ。昔より言葉が均一化されて、新幹線や飛行機で、どこでも行ける。SNSなんて便利なものもあるしね。だとしても北海道から出てきた人と沖縄県から出てきた人がSNSで以前から交流もしてなかったのに、出会ってすぐに百パーセント意気投合するなんて話があると思うかい? お互いの方言や風俗習慣、家で教わったこと、学校の友だちなんかとの交流の仕方でビックリすることもあるんじゃないかな。ましてや海外の人となら、なおさらかも」


「ど、どうでしょう? ぼくは関東のことしか知らないので、なんとも言えません……」


 三上さんも、健太くんも生粋の東京生まれ。聡太先輩は茨城出身で、先輩の奥さんは栃木。お母さんは群馬、お父さんは千葉。隼人や、おじさん・おばさん、学校のみんなは埼玉の出だ。


「同じ県の人や関東なら関東、日本なら日本みたいに自分となるべく接点のある人と交流したい、そばにいたほうが安心だって思っちゃうんじゃないかな。だから大学に行っても、いつも同じメンバーとだけ深い交流をしたり、会社で働きながら外で新しい友人や恋人を作ろうというのは、なかなかできないんだよ。年を取れば取るほど時間とか体力、キャリアとか、いろいろなものに縛られていくしね」


「はあ……」


「遊びの恋愛とか、軽いノリで付き合うのが悪いって話ではないんだよ。若い頃に酸いも甘いも知ったら、年を取ったときにむちゃをすることはないし、芸の肥やしにもなる。個人的には、お互いに言葉の刃で互いを傷つけあったり、どちらか一方が本当に死ぬまで追いつめるようなものは、なるべくならしないほうがいいと思うけどね。そんなまじめなことを思っていたら、同じ高校を出ている奥さんと結婚することになったんだけどね」


「おふたりは以前から顔見知りだったんですか!?」


 口をあんぐり開けていれば、「まあ、ね」と、うれしそうに三上さんがまなじりを下げた。


「といっても仲のいいグループとか、友だちではなくて、友だちの友だちみたいな。当時から、かわいい子だなって思ってたんだけど、当時は女性に話しかける勇気なんてなかったんだ。卒業後、高校の友だちの結婚式で会って、話してアドレス交換したよ。でも、それっきり。このまま、あのときと同じように近づくことなんてできないと落ち込んだ。当時は、こんなに名前が知れ渡るなんて毛頭思ってなかったよ。大した仕事をもらえてなくてバイトをしながら生活を極限まで切り詰めてね。そんなとき、たまたま、東京でお互いがヒューマン・トランスフォーマーの関係者だって知る、できごとがあったんだ」


「それが、おふたりが付き合い始めた、きっかけなんですね」


「そうだよ」


 ドラマや漫画みたいに運命的な出会いだなと感心しながら、世間ってなんて狭いものなんだろうと心の中でツッコミを入れる。


 首都・東京に住んでいる人も、働いたり、勉強するために県外から来ている人はもちろん、観光しに来る人は日本国内に留まらない。


 十年、二十年前は今と違うけど携帯がなくなったら、仕事の人や友だち、家族、恋人と会うのも一苦労するのは変わらないはずだ。


 ましてや話もしたことのない知人程度のもと同級生。そんな人と電話やメールもなしに再会するなんて、なかなか難しい話じゃないだろうか。


「だから、今、きみが好きな子と、この先の未来でどうなるかなんて誰にもわからない。大概は子どものときの初恋なんかで終わるんだろうけどね。だけど大人になって、いろんな人と出会って恋をしても、『この人』って思えるようなしっくり来る人がいなくて、最初の人と一緒になるなんてこともあるんだよ」


 てっきり、ほかの人たちみたいな意見を三上さんも口にするのかと思っていた。


 大人になったばかりのぼくですら隼人との恋は永遠に続くはずがない、いずれ、わかれの日が来るのが当然だと考えていたのだから。


「ヒューマン・トランスフォーマーと人間が契約を結べば、たとえ恋仲になれなくても絶対的な絆が生まれるからね。でも、それは、きみにとってはハイリスクで、契約を締結するのが難しい。それで仮契約ができる人間をさがすことにした。あたってる?」

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