192 色んな教科
午前中は「基礎魔法」に続いて「経済」の授業だったけれど、こちらは先生の自己紹介と一年間の学習範囲の説明の後、基礎の基にあたる部分のレクチャーだった。
先生側は簡単な質問を個別に振って、生徒の力量を把握しようとしていたみたい。
私は、「あ。全部知っている。補足説明もめちゃくちゃ理解できる!」と、バッチリついていける自信がついた。
ソフィアも同じだったらしく、授業が終わると二人で意気揚々とラウンジに向かった。
◇◇◇ ◇◇◇
「ねえ、マルティーヌ。初回はどの授業も子ども向けのおさらいみたいだったわね」
ソフィアが迷わず決めたローストビーフのランチを頬張りながら午前中を振り返った。
私はお肉は夜に取っておくことにして、メインは白身魚にした。
ラウンジのランチは、前菜、スープ、メイン、デザートのプリフィックスコースが定番となっているらしい。
「そうね。最初だけかもしれないけれど、落ちこぼれずにすみそうで安心したわ」
おほっ。
白身魚がプリップリで美味しい!
マスタードのソースもいいな。
「それにしても先生たちはとっても個性的ね。マルティーヌはオースリヴァン先生の覚えは今ひとつだったけれど、ええと、基礎魔法のグリーンヘアの先生――サンフォード先生には気に入られたみたいね」
「うん。私が、というよりは、公爵の家の鉱山がね」
「うふふ。それでもいいじゃない。なんとなく鉱山見学を企画してほしそうだったけれど。鉱山って面白いところなのかしら?」
絶対に違うと思う。
前世と今世とでは労働環境が違うかもしれないけれど、顔を汚しながら汗水垂らして働く姿を見て、貴族の子息はどう思うんだろう?
ルシアナたちは「見苦しいわ!」とか言いそう。いや、その前にドレスが汚れるから不参加かもね。
「鉱山の話は出さないように気をつけるわ。そんなことで公爵に手紙なんて書きたくないし」
「まだ学園に入学したばかりだものね! 他に報告することがたくさんあるわよね! 私は帰ったらお母様に先生のことを報告しなきゃ。お母様がご存じの方もいらっしゃるかもしれないし。経済のクラプトン先生は経済学者として有名な方らしいけれど、見た感じは執事長って言われた方がしっくりくる感じだったわね」
そうか。
先生たちって私たちの親世代と近い人もいるんだ。
学生時代が被っている可能性もあるのか……。
「午後は歴史とマナーと刺繍かぁ。食べ過ぎちゃうと眠たくなっちゃうかも。ねえ、マルティーヌ。刺繍はどれくらいできるようになった?」
「実はあんまり……。先生からは基本的なステッチは大丈夫って言われたけれど、デザインの才能がないみたい」
「それなら大丈夫よ。前期はステッチを正確に刺せたら合格らしいわよ? 後期の最後に、順位付けのための課題を制作するって聞いたわ。そこでどんなデザインでどれくらいのボリュームにするのかを決めればいいのよ」
ソフィアは六歳の時点で大人顔負けの刺繍をしていたもんね。
だから軽く言っているけれど、私の不器用な手つきを側で見たら驚くかもしれない。
サッシュバル夫人でさえ、「あっ!」って声を上げることがあったもの。
「じゃあ前期はなんとかなるかな……。優しい先生だといいなぁ。暗記の歴史は大丈夫だと思う」
「えぇぇ! マルティーヌって暗記が得意だったの?!」
あれ? 子どもの頃ってどうだったっけ?
「この一年の猛特訓で身につけたのよ」
「すごい!」
他のテーブルでも話が盛り上がっているようで、みんな午後の授業が始まるギリギリまで席を立たなかった。
◇◇◇ ◇◇◇
まだ学園で授業を受けることに慣れていないせいか、座学だけなのにものすごく疲れた。
校門でソフィアと別れ、迎えの馬車を探すと、なぜかドニが立っていた。
「ドニ。どうしたの? 送迎はシェリルだけでいいって言ったはずでしょう? ローラの付き添いも断ったのに」
「はい。これは私の落ち度でして。中でご説明いたしますので、まずはお乗りください」
「そう」
なんだか大袈裟だけど、落ち度って?
馬車が走り出すと、向かいに座ったドニが新聞を差し出した。
え? なんで今頃?
「こちら、本日の新聞でございます。ダイニングテーブルにご用意しておりましたが、今朝は目を通されていなかったようですので」
そっか!
王都だから、その日の新聞がちゃんと朝届くんだ。
「マルティーヌ様がどのタイミングで新聞を読まれるのかお聞きするのを失念しておりました。大変申し訳ございません」
ぐぬぅ。
テーブルにあったのはちゃんと目に入っていたけど、そこまでの時間的余裕がなかったら手に取らなかっただけじゃないの!
ドニはいつからそんな嫌味ったらしいことを言うようになったの?
……あ。公爵邸に行ってからか。
それでも今日は授業初日とあって、さすがに登校時は遠慮したんだね。
「本来は朝食の前後でお読みいただくべきものですが、どうか今日の分は馬車の中でお読みくださいませ。明日以降はローラにお部屋に持っていかせるようにしましょうか?」
そこまでしなくても。
「朝食後に読むことにするから今日と同じでいいわ。それに時間がないときは行きの馬車で読むから」
「かしこまりました。ご学友の皆様も新聞はお読みだと思いますので、誌面の話題になったときにマルティーヌ様がお困りになることのないよう、私も気を引き締めてまいります」
「そ、そう。よろしくね」
そうだよね。
きっとドニはレイモンから、私に恥をかかせることのないよう気をつけろと指示されているんだろうな。
ちゃんと読んでおかなくっちゃね。
…………。
…………。
…………。
大きな話題がないときの記事って、こんなものなの?
誰々が国王陛下から、こんなお褒めの言葉を賜ったとか、昨日のなんとか邸での茶会のメニューはこんな感じで素晴らしかったとか。
あ、でも。茶会のメニュー情報は役に立つね。近々で茶会を開催する人はメニューがかぶらずに済むもんね。
他は、高位貴族の子息令嬢たちの恋模様――というか、どの家からどの家に、そろそろ婚約の打診をしそうだとか。
こういう情報は信頼度をABCでランク付けしてほしいな。
あとは、高級菓子店のオープンとか、どこかの領地で何かを掘り当てた農民のインタビューとか、使用人募集の記事とか。
領地にいたときも読んでいたけれど、何もないときは本当につまらないんだよね。
そうかと思えば、社交界のゴシップを連日記載するときもある。事実かどうか怪しい噂話満載なんだけど。
それでも流行に疎いのは社交下手だとされるから知っておく必要があるんだよね。
ドニが要約して報告してくれると楽なんだけどなぁ。
……あ。レイモンのことだ。
私がそういうことを言い出す可能性には気がついているはず。絶対に私自身に新聞を読ませるようドニに言ったんだな。
危なかった。ドニから残念な報告を上げさせてしまうところだった。
気をつけなくっちゃ。
カドコミで「転生した私は幼い女伯爵」の第11話①が更新されています。
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