190 ラウンジで噂話
カドコミで「転生した私は幼い女伯爵」の第10話②が更新されています!
ラウンジは、去年の年末にお邪魔した公爵邸のサロンのような部屋だった。
もちろんラウンジの方が広いんだけど、日当たりの良い南西にあるところとか、窓側の一部の屋根が温室のようなガラス張りでテラス席になっているところとか、そういう空間デザイン的なところが似ている。
高位貴族の間で一時期流行った様式なのかな?
先客は十人にも満たない数で、席は選び放題だ。
ルシアナも私たちと同じことを考えていたのか、彼女はケイトリンとエロイーズと一緒に席に着いていた。
向こうもこちらに気がついて、ルシアナとソフィアがバチバチした視線を飛ばし合っている。
まあまあ。落ち着いて。
「マルティーヌ。本来ならあなたが一番いい席に座るべきだと思うけれど、学園のルールを尊重して譲ってあげるのよね?」
えー! ちょっとちょっと!
ソフィア、頼むから聞こえよがしに私の名前を出さないで。
ルシアナが言い返してくるかと思ったら、ヒソヒソと囁く声があちらこちらから聞こえてきた。
「まあ――見て! 二本線よ! それもあんなに太く!」
「それって――ああ、あれが――」
「へえ。あの子がねえ――」
さっき見なかったから一年生じゃないな。二年生か三年生だろう。
私、制服のせいで目立っちゃってるよ!!
やっぱ裾に二本のラインってやりすぎだったんだ。これ――どうしたらいい?
意図せず「私が女伯爵よ」的なデビューになっちゃった。
「マルティーヌ。ごめんなさい。私が大声で紹介したみたいになっちゃったわね。あっちの方にする?」
「うん」
窓側の方にいるルシアナや先輩方を避けて、部屋の奥の方のテーブルにした。
「お嬢様。こちらがメニューです。どうぞゆっくりご覧ください。迷われた場合は洋梨のタルトがお勧めです」
学園が雇用しているだけあって、給仕係もスマートだ。
メニューと睨めっこした結果、私はお勧めのタルトを、ソフィアはいちじくのタルトを、それぞれ紅茶と一緒に注文した。
ここではお茶会のように、「おほほほ」と仮面を被る必要がないので、自室にいる感覚でリラックスしていただけた。
「うわあ。美味しい。学園の料理人たちは王城にも引けを取らない腕前っていう噂は本当だったみたい」
「え? そんな噂があったの?」
「そうよ。引退した、公爵家や侯爵家の元料理人っていう噂よ」
すごい!
じゃあランチは期待できるってことね!
楽しみだなぁ。
「コホン。そんなことよりも。ねえねえ、マルティーヌ。さっき教室で、ディラン・スチュワートグリーンのことをチラチラ見ていたでしょう? ああいうのが好みなの?」
……は?
いやいやいや。違うって。
スチュワートグリーン辺境伯領が、イコール馬の産地なだけで。
「私はてっきり教養コースを卒業した頃にフランクール公爵と婚約するのかと思っていたわ」
「えぇぇぇっ!! どうして!!」
「『どうして』って――。だってフランクール公爵はご婚約がまだでしょう? それにマルティーヌとは仲良くやっているみたいだったから、これはもしや?! って、ずっと打ち明けてくれるのを待っていたのよ?」
いやいやいやいやいやいやいや。
ないない。それはないよ。もう絶対にないって言えるよ。
「そんなこと想像すらしたことがなかったわよ。あー、びっくりした」
「え? 本当に? 恥ずかしくてマルティーヌが言えないだけだと思っていたのに。社交界じゃ、当然そういう話題が持ち上がっていると、みんな思っているみたいよ?」
マジで?
「おば様がそうおっしゃったの?」
「うん。あと、お父様もね」
ガーン!
私と公爵がそんな風に噂されていたなんて!!
公爵と? あの公爵と?!
無理無理無理無理無理ぃー!
いや、まあ。公爵の方だって願い下げだよね。
軽く聞き流しているんだろうな。
「あのね、ソフィア。おじ様とおば様に伝えておいてほしいんだけど、ん?」
ソフィアは私ではなく、ラウンジの入り口の方をガン見している。
見れば、ソフィアだけでなくラウンジにいる全員の視線が一人の男性に集中していた。
……うわっ。
あ、こっちに来る!
「やあ、マルティーヌ嬢。入学おめでとう。それと――そちらは――」
「ガイヤール殿下。お初にお目にかかります。ソフィア・カッサンドルでございます。こうしてご挨拶させていただけましたこと、この上なく光栄に存じます」
「ああ、カッサンドル伯爵の……一年生はみんな初々しいね」
出たな王太子。
もうチャラいモードだよ。公私でキャラを使い分けているのかな。
……いや。こっちが地で、オフィシャルモードが特別な気がする。
「教養コースは卒業してしまったから、もうこっちの棟に来ることはないんだけど、ついつい足が向いてね」
ええと。今、私に話しかけているのかな?
まずはご機嫌伺いをしないとね。
「殿下。本日は私たち一年生のために祝辞をいただきありがとうございました」
「えぇぇ。そんな堅苦しい挨拶はいいよ。そんなことよりも、マルティーヌ嬢にはあのオーベルジュについて色々と聞きたいことがあるんだ」
えー? ここで? 今?
あら?
殿下の後ろに控えている方々はご学友かな?
うわぁ。貴族名鑑にイラストが載っていた人たちだ。高位貴族の子息たち。
将来の側近なんだろうな。
そんな令息たちに値踏みされているんですけど。
「殿下。そろそろお戻りになりませんと」
「え? もう?」
「はい。お時間です」
「そうか。ではまた今度――そうだ。君たちを招待して茶会でも――」
「殿下。参りましょう」
「あ。うん」
すごい。厳しい表情の金髪イケメンさんは未来の宰相かも。
有無を言わさず王太子を私たちから引き剥がした。
『王太子主催の茶会が開催される』なんていう言質をとられる前に。
王太子一行がラウンジを出ていくまで、誰も口を開かなかった。
「……で?」
ソフィアが逃してくれそうにない。
「王太子と随分親しそうにしていたんですけど?! 聞いていないんですけど?!」
「あは、あははは」
もう笑うしかない。
「歴代最強の魔女なんて肩書きはいりません。母になって最高に幸せなので愛息と平穏に暮らしたいだけです」があと少しで完結します。
8万字ちょっとになりそうです。下にリンクがあります。
ブクマ&☆☆☆☆☆評価いくつでもいいのでよろしくお願いします!




