189 先生とクラスメイト
「自分たちで決められないようだから、私が決めることにする」
あー、先生がキレちゃった。
おっと。この隙に後ろの席をゲットしておこう。
それとソフィアの分も取っておこう。
窓際の最後列に座って、その隣の席の椅子にハンカチを置いた。
「ショーン・ローリーボー。君は廊下側の一番後ろだ。次、カルロッタ・ウッド・君はローリーボーの前だ。次――」
さすが貴族。前世みたいに、「えー!」などという声は上がらない。
結局、先生が席を決めて、全員無事に着席した。
ソフィアの身のこなしの早いこと!
これは無理そうだと思った途端、私の隣に済まし顔で座ってルシアナにドヤ顔をした。
それってマウントを取ったことになるの?
出遅れたルシアナは先生にソフィアの前の席を指定されてしまったから、負けたことになるのか。
ルシアナの子分みたいな取り巻きの二人は引きが強いのか、ルシアナの前にケイトリン、カルロッタの前にエロイーズだ。
結局、麗しのフェリックスの左隣は、ディラン・スチュワートグリーンが指名された。
スチュワートグリーン辺境伯! 馬の産地だ!
ぜひお近づきになりたい。いや、ならないといけない。
黒髪の眼鏡男子だ。ちょっぴり神経質そうだけど……。
「一年間、君たちを担当するオスカー・オースリヴァンだ。数学を担当している」
へぇ。この人が担任の先生か。
ウエーブのかかった黒髪に、緑色の瞳か。
……あ。公爵と同じ色合いだ。色だけだけど。
オースリヴァン先生って、『専攻は呪術』って言われた方がしっくりくる外見だなぁ。
誰かに対する妬みとか恨みとかを動力源にしていそうな……いやいや。先生に対して偏見が過ぎるぞ。
セオは私の前の席で、ルシアナはソフィアの前の席だ。なんだか微妙だな。大丈夫か?
「なあみんな!」
突然セオが声を上げた。
「同級生で、身分を気にしなくていいんだろ? じゃあ、お互いに名前で呼び合おうぜ! そっちの端からディランにフェリックにマーゴットだろ? オレ、こう見えてもちゃんと覚えてきたんだぜ」
セオぉぉ! 周りを見て。空気を感じて。このままだとヤバい人認定されちゃうよ?
「ああいう子、いるよね。額面通りに真に受けて無作法を働く子」
ソフィアが仏頂面で囁いた。
「ちょっと、あなた」
ルシアナは面と向かって言うタイプだったか。
背筋を伸ばして顔だけ左に向けている。
「ん? ルシアナだよな? なんだ? オレのことはセオって呼んでくれ。隣同士よろしくな!」
「信じられないわ。私のことを呼び捨てにするなんて。それに皆様のお名前も。まだお許しが出ていないでしょう?」
「えぇぇ。堅苦しいこと言うなよぉ。な、マルティーヌ!」
うぇっ!? ちょっ、待って! 私を巻き込まないで!
ソフィアまで、そんな胡乱な目で見ないでよ。
ここは安易に迎合しちゃダメだよね。
「セオ様。呼び捨てはよくないと思います」
「えぇぇ?!」
いや、あなただって貴族なんだから、家庭教師からそう習ったでしょう!
「私はフェリックスで構わないよ。セオ――でいいんだね?」
「おう!」
全女子が、心の中で、「きゃーっ‼︎」て叫んだのが聞こえた気がした。
振り向きざまの美少年の控え目な微笑みの破壊力よ‼︎
おまけに、爪弾きにされそうになったセオを助けてあげた。
侯爵家のご子息が「それでいい」と言うのだから、私たちはお互いに名前を呼び捨てにすることが決定したね。
「いい加減にしたまえ」
うわっ。
オースリヴァン先生の一言で、ピンク色の空気が一瞬で霧散してしまった。
「自己紹介なら各自、教室の外でやるように。そのような時間を取ることはしない」
きっびしぃー。
「明日から早速授業が始まる。座学はこの教室だが、科目によっては教室を移動するので、今日中に学園内の施設を確認しておくように」
ふむふむ。
「それと、一年生の代表を決めておきたいのだが。立候補する者はいるか? マルティーヌ・モンテンセン。まさか一番身分が高いのは自分だから、当然自分がなるべきだと主張したりしないだろうな?」
……へ?
えーと……え?
物凄く睨まれているんですけど?
それに、何? その言いがかり的ないちゃもんは?
どうして?
私、フェリックスの隣の席争奪戦にも加わらず大人しくしていたのに?
不用意な発言もしていないよ?
「先生。その任、私がお受けしたいと思います」
おぉぉ。ディランが立候補した。
見た目通りの委員長タイプなんだ。眼鏡クイッとかやるのかな。
「そうか。他にいないようならディラン・スチュワートグリーンに決めるが」
先生がぐるりと見渡したけれど誰も発言しない。
「では決まりだな。今日は以上だ。後は各自、自由に過ごしてよい」
そう言い放って先生は教室を出て行った。
先生が出て行った途端にセオが立ち上がり自己紹介を始めた。
「オレはセオ・コラージェだ。さっきも言ったがオレのことはセオって呼んでくれ」
隣の席のルシアナが睨みつけている。
意外にも最前列に座っていたマーゴットが、「わかったわ、セオ」と返事をした。
「私はマーゴット・アーバンリッチよ。私も敬称なしの、ただの『マーゴット』で構わないわ。フェリックスもそれでいいのでしょう?」
「ああ。私のこともどうか、ただの『フェリックス』と呼んでほしい」
「じゃあ、どうかしら。皆さん。学園内では互いに名前で呼び合うといいのは?」
侯爵家の二人からの提案なので、反対する人などいるはずがない。
ここからは『フェリックス』に向けての自己紹介が始まった。
「フェリックス!」
「あの、フェリックス」
先陣を切ったのはソフィアとルシアナだ。
始まったよ……。
「ソフィア・カッサンドルですわ。どうか私のことも、ただの『ソフィア』とお呼びください」
「ルシアナ・ドーリングと申します。ぜひ『ルシアナ』とお呼びくださいませ!」
……すごい。
二人とも譲らず同時にしゃべってる。
そして明らかに、フェリックスだけを見て言っている。
うーん。
「いちいち名乗らなくても、ここにいる全員は互いの名前を知っているはずだ。学園内では名前で呼び合うと決まったのだから、それでいいだろう。私はこれで失礼する」
ディラーン!
そういう人だったか。これはガードが固そう。仲良くなれる機会をもらえないかもしれない。
「あのう。私も今日は家に早く帰らないといけないので。あ、カルロッタ・ウッドです。じゃあ、また明日!」
カルロッタもピンクブロンドを揺らして教室を出て行った。
「あ、あの――僕は――ショーン・ローリーボーです。よ、よろしくお願いします」
あれ? キョドってる。恥ずかしがり屋さんなのかな?
「なあ、ショーン! この後予定あるか?」
すごっ。セオはあっという間に距離を詰めるよね。
「な、ないけど?」
「じゃあ、一緒にどっか行かねーか?」
「どこかってどこに――」
「決まりだな!」
「え? えー?」
セオがショーンを引っ張って教室を出て行った。
「私も今日は失礼するわ」
「私も予定があるのでね」
マーゴットとフェリックスがいなくなると、教室には私とソフィアと、ルシアナたちだけになってしまった。
ルシアナは先に教室を出た方が勝ちだと思ったらしい。
「ケイトリン。エロイーズ。行くわよ」
「は、はい」
「はい」
三人が出て行くのを見て、ソフィアが肩を窄めた。
「たかが教室を先に出たからって私に勝ったつもりかしらね!」
「あはは」
「ねえ、そんなことよりもマルティーヌ。先生と面識あるの?」
「え? まさか」
「だよね。でもなんだかマルティーヌに対して冷淡というか、敵対視しているというか、変な感じだったね」
「うん。どうしてかなぁ?」
「まあ、マルティーヌを引き合いに出して、身分の上下に関係なくっていうのを強調したかったのかもしれないしね。それよりもラウンジに行ってみない!」
「うん!」
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