188 王立学園の入学式②
入学式の会場となる大ホールは王城のホールにも引けを取らない豪華さだった。
ここからは私もソフィアも微笑を貼り付けて貴族令嬢モードになる。
私たち新入生は最前列に座るらしい。
既に数人が着席している。
おぉぉ! フェリックス発見!
目立っているなぁ。
あ! マーゴットも姿絵通りの美人さんだ。
その横の男子は――ローリーボー伯爵の次男のショーンだ。ふっくら体型だ!
もしや、特産品のフルーツを食べ過ぎて?
ショーンの横にソフィアが、その横に私が座った。
壇上には教師の方々が控えられているので、もう一言もしゃべれない。
後からやって来た新入生も黙って席に着いていく。
……‼︎ え? 誰?
私の横にキラキラ女子が座った。
見たことがないということは、上位貴族じゃないってことだ。
艶々の髪の毛はピンク色だ。いやこれも金髪の一種か? ピンクがかった金髪?!
一応真正面を向いたまま視界の端に意識を向けていたんだけど、ピンクブロンドの彼女はぐいっと私の方を向いて、「初めまして」と笑った。
え? ここで挨拶しちゃう?
焦っていたら、壇上から、「コホン」と咳払いが聞こえた。
うわっ。司会者席にいる人がギロリとこっちを睨んでいる。先生なのかな?
危なかった。
さすがに無視は感じが悪いので、気持ち右を向いて、ほんの少しだけ唇の両端を上げてみせた。
これくらいが限界だ。
◇◇◇ ◇◇◇
全員の入室が完了するとドアが閉じられた。
だだっ広いホールなのに、一気に空気が緊張していく。
壇上の端で咳払いをしていた人は本当に司会役だったみたいで、澱みなく式次第を進めていく。
挨拶をするはずだった学園長が出席できないと詫びた後、教師陣の紹介に移った。
いや、入学式を欠席する学園長って――えぇぇ。
最後は在校生代表として専門コースに進まれた王太子のガイヤール殿下が紹介された。
「――殿下は、領主コースに籍を置かれておりますが、他の騎士コースや文官コースについても広く学ばれる予定です。そして――」
ひとしきり王子を褒め称えて、ようやく本人登壇となった。
それにしても普通の人の数倍も履修しなきゃいけないなんて、相当大変だよね。
まあ、将来の国王ということは一国の主人だから、求められる素養は多くなるよね。
「新入生諸君。入学おめでとう。ここにいる在校生は全員、君らを歓迎している」
おっとっと。集中、集中。
それにしても壇上の王子は、新年祝賀パーティーで会ったときとは別人みたい。
あのときはヘラヘラしていたよね。
今日はシャキッと凛々しい先輩っていう感じで、生徒たちの視線を釘付けにしている。
制服姿だから?
生徒にしては無駄にキラキラしているけれど。
「君たちの緊張した顔を見ていると、三年前の自分を思い出す。今日という日を迎えるにあたって、どれだけ準備をしてきたか。これからの学園生活にどれほど期待を膨らませていたことか。本当に昨日のことのようだ」
うんうん。
勉強大変だったよ、本当に。
みんなもそうなんだね。
「君たちの中には慣れ親しんだ領地を離れ、王都にやって来た者もいると思うが――」
……ん?
今、王子と目が合った気がしたけれど気のせいだよね。
「王都での新生活に浮かれることなく、しっかり勉強してほしい――」
聞き飽きたセリフだ。なんか公爵からの手紙を読んでいる気分。
「それぞれ描いている夢は違うだろうが、隣に座っている者たちとは、これからの六年間――おそらく君たちの想像以上に濃密な時間となるであろう六年間を共に過ごす仲間だ。茶会などと違って、その場しのぎは通じない。友人でありライバルとなる者同士、切磋琢磨してほしい。ここ王立学園は、我ら貴族にとっては社交の場でもあるが、学園内では同じ生徒同士だ。身分の上下に関係なく接する規則を忘れないように。あっ、そうそう。知っている者もいると思うが、楽しいイベントもある。生徒同士が競うものから学年対抗の一大イベントまで様々あるので頑張りたまえ。君たちの学園生活が実りあるものになることを祈っている。本日学園長から祝辞をいただけなかったのは残念だ。まさか欠席されるとは……あの方にも困ったものだ……はぁ……」
最後の方はなんだか愚痴のようになっているけれど、大丈夫?
司会役の方が、小声で、「あの、殿下」と声を掛けると、王子は、「あー、すまないね。とにかく色んな経験を積んで成長してもらいたい。以上だ」と切り上げた。
その途端に司会役が大きく手を叩いた。さっすが。
会場内にいる人たちも全員が遅れまいと拍手を始めた。
もちろん私だって一生懸命手を叩いた。
その気になれば、「王太子殿下バンザイ」だって言えるよ?
◇◇◇ ◇◇◇
無事に入学式を終えた私たちは一年生の教室へ案内された。
どうやら引率してくれた先生が担任(という単語があるのかどうかわからないけれど)らしい。
「席は決まっていない。自由に座りなさい。殿下もおっしゃっていたが、身分の上下で席を分けるようなことはしない」
……!
思い出した!
席! 席順! 一番大事なやつ!
窓側の一番後ろがいい!
「ねえ、ソフィア。後ろに並んで座ろうよ。あれ? ソフィア?」
ソフィアがいない。ホールから教室まで一緒に歩いて来たのに。
――というか。
女子が全員最前列で押すな押すなの肉弾戦を繰り広げている。
……は?
「あ! マルティーヌ。アレに参加しなくていいのか?」
セオか。
アレねぇ。
「あの一番前の真ん中に座っているのって、フェリックスだよな。その右側がマーゴット。フェリックスの左側の席を取り合っているのか」
確かに生フェリックスはヤバい。もうヤバいなんてもんじゃないくらいヤバい。
隣に綺麗な人がいると思うだけで、毎日学園にもうっきうっきで登校できるし、勉強が辛くても一日我慢できるもんね。
美人て、目の保養だけじゃなくて、心にも効くからね。
爵位的には、ソフィアとルシアナの勝負になるけれど、さっき、『身分の上下に関係なく接すること』って言われたもんね。
新連載を始めました。下にリンクがありますのでよろしくお願いします。
「歴代最強の魔女なんて肩書きはいりません。母になって最高に幸せなので愛息と平穏に暮らしたいだけです」
記憶喪失の主人公(前世コミュ障、現世では最強の魔女)が愛息との平穏な日常を取り戻すお話です。
*カドコミで「転生した私は幼い女伯爵」の第10話①が更新されています。




