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【書籍化】錬金術師さまがなぜかわたしの婚約者だと名乗ってくるのですが!? (旧題『シークレット・ガーデンにようこそ!』)  作者: 葉月クロル


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じゃーん、わたしのお庭です 2

 ノームのノムリンが生き生きとした様子で庭を農地に変えている間に、わたしとお狐ちゃんは小屋の中にある素朴な木の椅子に座ってのんびりする。


「あの子は働き者だねえ」


「土いじりをしている時が一番幸せらしいのう。それ、茶を淹れたぞ」


 小屋の中にはちょっとした台所もあって、水道や謎の燃料で使うコンロもあった。


「ありがとう、お狐ちゃん。……ああ、美味しいな。紅茶やハーブティーもいいけど、やっぱり緑茶は落ち着くね」


 狐のお耳にふわふわ尻尾の幼女が淹れてくれた煎茶はとても美味しかった。木造の小屋の雰囲気も良くて、子狐茶屋って感じがする。


「そうかそうか。それ、お茶請けに甘いものもあるぞ」


 魅惑的な尻尾をふっさふっさと振りながら、お狐ちゃんが美味しそうなお饅頭を勧めてくれた。


「うわあ、和菓子だ! 超嬉しいんだけど! ありがとう、お狐ちゃん!」


「うむ、たんと食べるが良いぞ」


 どうやら転移場所を間違えたことにかなりの罪悪感があるらしく、お狐ちゃんは大サービスをしてくれる。お茶と一緒に山盛りの栗饅頭まで出してくれた。かえって申し訳ないが……栗饅頭は大好物なので、遠慮なく食べるよ。残った分もお土産に貰うよ。


 お茶と栗饅頭を楽しみながら、わたしは奈津子お姉さんの後から神殿に落ちて、それからどうなったのかを説明した。


「それで、神殿にその人の加護がわかる石板っていうのがあってね、そこに手を乗せたら『箱庭の力』がわたしにあるって出たんだよ。ここがその箱庭なんだね?」


「そうじゃよ。理衣沙が草花を好きなように育てて楽しめる、特別な庭を用意したのじゃ。どうやら畑になるようじゃがのう」


「うん、まずは畑にしちゃうつもり。この国ではのんきにお花を愛でてはいられなそうなんだもん」


「確かにのう」


 まあ、野菜作りもまた一興じゃ、とお狐ちゃんはお茶をすすった。


「そうだよね。野菜にもチャレンジしてみたかったから、大丈夫だよ。美味しくできたら、お狐ちゃんも一緒に食べようよ」


「それは楽しみじゃ」


 幼女はふうふう、と冷まして熱いお茶をすする。

 栗餡の甘さが日本を思い起こさせる。まだ一日しか経ってないからいいけれど、そのうち日本食が恋しくなりそうだ。


「ちなみに、ここでの時間の進みは外界よりも速くなっておるぞ。ここでの一日が外の一時間くらいになる」


「ふうん……ええっ、てことは、ここにいるとわたしだけ年をとっていくってことになるの?」


 ひとりでどんどん老けて、おばあさんになったらどうしよう?


「いや、身体の老化の速さは外のままじゃから、老けないぞ」


「あー、よかった! びっくりしたよ」


 気がついたらディアライトさんより年上になっていた、なんてことになったら辛すぎる。わたしはほっとしてお茶を飲んだ。


「異世界での生活に疲れたら、こちらに来て昼寝でもするがよい。瘴気だ魔物だと騒がしく、おそらく理衣沙の力もあてにされるだろうからな。じゃがまあ、奈津子ががんばってくれるはずじゃから、徐々に住みよく安全な世界に変わるであろう」


「奈津子お姉さん、がんばれー」


 異世界に来るなり聖女の仕事に取りかかっている奈津子お姉さんにエールを送る。

 と、小屋の入り口にノムリンがぴょこんと顔を出して言った。


「耕し終わったんだよ。腐葉土も肥料も混ざっていい畑ができたんだよ。ノムリンはリーサと種まきしたいんだよ!」


「さすがだね、ノムリン。お仕事が早いね」


 わたしはドレスのポケットにしまっておいた種の入った包みを取り出した。テーブルの上でそっと開いてノムリンに見せた。


「これなんだけど……あれ?」


 ほんのわずかな差なのだが、中に数粒、大きさの違う種が混ざっていた。


「リーサは勘がいいんだよ。これは少し違う薬草の種だよ」


「そっか。じゃあ、これは別に植えてみようね」


「どんな薬草が育つのか、楽しみだよ」


「そうだね。蕾の時に収穫すると、回復薬が作れるんだけど、花を咲かせたら駄目みたいなんだ」


「そうしたら、数本は花を咲かせて種を取るといいんだよ。それを植えればどんどん増えて、たくさんの薬草が育てられるよ」


「うん、そうしようね」


 外に出ると、見事に一面の畑ができていた。ちゃんとうねもできている。その一部に、わたしとノムリンは薬草と謎薬草の種を蒔いた。


 お狐ちゃんがジョウロで水やりを手伝ってくれた。このジョウロもノムリンがポケットから出したもので、とても軽いのに傾けると無限に水が出てくるという便利な道具だ。


 ノムリンが大きく口を開けて、お狐ちゃんに水を注いでもらっていたので「飲んでも大丈夫なの?」と聞いたら「美味しい水だよ」と答えたので、わたしも湯呑みに入れて飲んでみた。


「冷たくて美味しいね。お狐ちゃん、この水でお茶を淹れたら美味しさ倍増するかも」


 すっきりとしてほのかな甘みがある、山奥の湧き水のような美味しい水だ。


「これは精霊の水だよ。植物にも人間にも美味しいよ。とても身体にいいよ」


 ジョウロの水を頭から浴びてもまったく濡れないノムリンが、にこにこしながら言った。


「この場所には不思議な力がたくさんあるんだよ。だから、精霊の魔法でいろんなことができるんだよ」


「ふむ、我らの神力に満ちた箱庭であるからな。精霊にも神の眷属にも心地の良い場所となっておる」


 お狐ちゃんは、なんだかすごい場所をくれたようだ。聖女の力もすごいけど、この箱庭だって全然負けてないよ。


 種を蒔き終えてから、ノムリンは小屋の脇を掘り起こして小さな花壇を作った。


「理衣沙がお花の種や苗を手に入れるかもしれないから、作っておくよ」


「ありがとう、ノムリン」


 ひと段落したので、あとはノムリンに任せて解散することにした。


「我もまたそのうち顔を出させてもらうぞ。理衣沙、息災で暮らせよ」


「うん、ありがとう。お狐ちゃん、またもふらせてね」


「仕方がない娘じゃのう。我の尻尾は最高にもふもふであるからな、すっかり魅惑されてしまったのか」


「もう夢中だよ」


 幼女に娘扱いされてもピンとこないんだけどね。

 お狐ちゃんは素敵な尻尾をもっふもっふと振って、竹垣を抜けて帰って行った。


「それじゃあ、あとはお願いね、ノムリン」


「うん、畑のお世話をしておくよ。また種や苗を持ってきて欲しいんだよ」


「そうだね、ナオミさんに頼んでみるよ。じゃあね」


 箱庭で数時間が過ぎたけど、外の世界は二十四分の一になるから十分くらいしか経っていないはずだ。


「ねえ、ノムリンはずっとひとりでここにいるの?」


「僕がいたいと思うだけいるよ! 僕は土の精霊だから、土のあるところならどこでも行けるんだよ。でも、このお庭はすごく楽しい場所だから、たくさんたくさんいたいんだよ!」


「気に入ってもらえて嬉しいよ。わたしもここが大好きだよ」


 わたしはノムリンにバイバイと手を振って、扉を開けて箱庭の外に出た。そこはわたしの寝室だ。

 閉めると、扉は消えた。念の為に鍵を持って構えてみるとちゃんと扉が現れたので、安心して、わたしはそのままベッドに横になってぐっすりと眠ったのであった。


 薬草の種、早く芽が出ないかな。

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