超、回復させちゃおう 4
この部屋には誰も入れないようにアランさんに頼むと、わたしは奈都子お姉さんに言った。
「ちょっと箱庭に行ってきます」
「理衣沙ちゃんが貰った加護の力だね。了解、戻るまで待ってるよ」
「すぐに戻りますね」
わたしは胸に下がった誰にも見えない鍵を持ち、現れた扉を開けて抜けた。
「消えた! どうなってるのかな」
「後でリーサの説明があるだろう」
扉の向こうにふたりの姿が……いや、ナオミさんの姿も見えた。相変わらず気配を消すのが上手すぎる。プロフェッショナルな、『異世界くノ一』女性だ。
そういえば、奈都子お姉さんとアランさんの間には、初対面の時のようなギスギス感がなくなっている。
仲良くなってくれると嬉しいんだけどな。
あっ、でも、わたし以上に仲良くなって大接近したらちょっとモヤるかも……なあんてね。
別に、アランさんのことを意識しているとかそういうんじゃなくてね、乙女心は複雑なの。今は天使だなんだと持ち上げてくれているけど、それがいつまで続くかわからない。異世界からやってきたという上げ底がなくなったら、あの美形エリートさんの隣にはとてもじゃないけど立てないよ。
少女マンガなら、平凡な女子高生の一発逆転的な話になるけど、ここはマンガの世界ではなさそうだしね。
なんてことを考えるわたしの前に、ノムリンとアドリンが飛び出してきた。
「あれ、リーサだよ!」
「リーサ、こんにちはですの。見て見て、小屋を可愛くしたんですの」
「ノムリン、アドリン、こんにちは! すごいね、グレードアップしてくれたんだね。すごく可愛くできてるよ」
扉こそ付いていたものの、床は土間だし壁は板切れだし、いかにも農作業用の小屋だったのが、ちょっとおしゃれなログハウス風になっていた。木の扱いが上手なアドリンが改装してくれたようだ。中に入ってみると家具も素朴なカントリー調で、可愛らしい花柄のファブリックが増えている。
「この布も、アドリンが用意してくれたの?」
「そうですの。木綿や麻の布を織ったり草木染めをしたりして、とても楽しかったですの」
「すごいね。わたしの趣味にぴったりだよ」
「僕たちはリーサの精霊になったから、気持ちがわかるんだよ!」
「わかるんですの!」
幼児と幼女が笑い合っている……可愛すぎる……なごむ……。
いや、なごんでいる場合ではなかった!
「実は上級回復薬を取りに来たんだ。ノムリン、この三つの薬の瓶も、この前みたいな感じで首からかけられるようにしてもらえる? すごく便利でよかったんだ」
「もちろんだよ! リーサの役に立てて嬉しいんだよ!」
箱庭で育てた極薬草からできた薬は五本で、ひとつはカミーロさん、ひとつは奈都子お姉さんに使った。
そして残った三本の上級回復薬を、わたしとアランさん、奈都子お姉さんで所持しておこうと考えたのだ。
特に奈都子お姉さん、あの人には絶対に持たせないとダメだ!
次は右腕か、それとも足か、なんて心配してこっちが眠れなくなってしまう。
「お狐ちゃんは来てないかな? お狐ちゃーん、お願いしたいことがあるんだけど」
遠くの方から「ちいと待つのじゃー」と声がしたので外に出ると、しばらくしてお狐ちゃんが竹垣を越えてやってきた。
「こんにちは、お狐ちゃん。今日も元気だね」
「ほれ、おやつじゃ!」
にこにこ顔のお狐幼女は、エコバッグを差し出しながら高らかに言った。
おやつの準備が一番か!
「餡子ときなこの付いた草餅じゃぞ!」
「うわーい!」
反射的にバンザイをしてしまったが……いや待て、違うよ。
「ごめんね、今、ちょっとバタバタしてるから、おやつは三人で食べておいて。お狐ちゃん、この三つの瓶も、わたしとわたしが渡した相手以外には見えないし使えないようにしてもらえるかな?」
「お安いご用じゃが……おやつ、しないのか……」
お狐ちゃんに不思議なお呪いをしてもらい、わたしはひとつを自分の首にかけた。
「草餅を食べたいのはやまやまなんだけど……」
いくら時間の進み方が違うといっても、みんなを待たせておいて自分は草餅を食べるとか、人としていけない行動な気がするよ。
「リーサにも事情があるのじゃろう、仕方がない。では、たくさん持ってきたから、向こうで食べるがいいぞ」
お狐ちゃんに、竹の皮で包まれた草餅を渡された。
もうこれ、絶対に美味しいやつじゃん!
「いろいろありがとうね、お狐ちゃん」
「気にせんでよい。リーサが異世界でがんばっていることは承知しておるからな。また皆で楽しく遊ぼうぞ」
「うん、リーサ、がんばるんだよ! 僕たちはいつでもリーサを待ってるんだよ!」
「ここはとても楽しいところですの。リーサとゆっくり遊べる時を楽しみにしているんですの」
アドリンが抱きついてきた。
柔らかほっぺの幼女、マジ可愛い。草餅より柔らかいぞ。ぷにぷに。
名残惜しいけれど、みんなにバイバイと手を振って、わたしはパラダイスのような箱庭をあとにした。
「お待たせー」
「はやっ! 全然待ってなかったけど、大丈夫なの?」
お姉さんが驚いている。
「諸事情により、まったく問題ないんです。あ、お土産に草餅を貰ったからみんなで食べちゃわない?」
奈都子お姉さんが目を輝かせた。
「嘘、マジ、草餅? 大好物だよ、また食べられるなんて」
「餡子もきなこもついてるの」
「神かよ! 神としか思えないよ!」
「うん、神様からもらった草餅だよね」
「そうだった!」
わたしと奈都子お姉さんが謎のコントをしていたら、いつの間にか姿を消していたナオミさんが部屋にティータイム用のカートを運んできて手早くお茶を入れて、草餅用のお皿を並べてくれた。
「ありがとうございます、ナオミさん。一緒に食べてね。日本のおやつなんだよ、甘くて美味しいよ」
ものすごく切迫した状況だというのに、わたしたちは王様たちを待たせておいて、ゆっくりとお茶と草餅を楽しんだのだった。
アランさんは首を傾げながらも「これは薬草が練り込まれているのか? いい風味だな」と草餅が気に入って食べていた。
きなこにむせそうになるイケメン、尊い。
ナオミさんも「我らが祖先コサブローも食べたかもしれないお菓子なのですね!」と、感慨深そうにしている。
お口の周りに餡子がついてるよ。
いち早く食べ終わったアランさんが、動きを止めた。
「これは……魔力の限界が上がった気がするが?」
お狐ちゃんに貰った草餅は、魔力の限界突破効果があった。ナオミさんも「わたしもです。成人してから魔力量が増えることはほとんどないと言われていますが、確実に増加を実感しております」と驚いている。
わたしはお姉さんに言った。
「神さまに貰ったものを食べると不思議なことが起こるって話、日本でもあったよね。お稲荷さんの草餅にもあったのかな?」
「うん。食べ物やお酒は神さまへのお供えに使うし、やっぱり魔力や神力に深い関係があるのかもね」
「なるほどね。ちなみに、魔力がまったくないわたしには変化はなさそうだよ」
「わたしもなんともない」
人間が耐え得る限界まで、容赦なく力を盛られている奈都子お姉さんの魔力量にも変化がなかった。
「これ以上増えたら、神の領域に片足を突っ込んじゃいそうだからね。増えなくて助かったわ」
お姉さんが人外にならなくて、わたしもよかったと思う。
「あと、お姉さんとアランさんに、上級回復薬を持っていてもらいたいんだ。残りは三つ。まだわたしたち以外には渡さない方がいいと思う。ちなみに、神さまの眷属に頼んで、わたしたち以外には見えないし使えない仕様にしてもらってまーす」
わたしがアランさんの首にノムリンが作ったペンダント状の瓶をかけると、彼はなぜか嬉しそうな顔をした。
そして、奈都子お姉さんにもかけると、彼は少し悔しそうな顔をした。
仲良くなったと思ったけど、謎の対抗心は健在のようだ。




