不条識な狼の理74
♗74
結局キアラより先にヒカミの方が目を覚ました。ってもヒカミの場合完全にただの貧血で倒れただけなんだけど、取り敢えず医者には献血の後なんだから過度な運動は、駄目だって怒られてた。倒れた時に顔から着地したみたいで、鼻に絆創膏を貼ってた。どうしてゴロツキと喧嘩しても無傷なのに、トイレで転んで顔に怪我するんだろう。普段が凄い分たまにこういった盛大なヌケを披露するのが流石はヒカミといったところだ。
ハクスイも結局戻って来なかったし、もう面会時間も終わったで、仕方なく繁華街の裏通りの安宿を抑えた。布団がぶんながってるだけの最悪な安宿だ。
『ヒカミって最近ずっと難しい顔してるけどどうしたの?』
「そんな顔に出てたか?」
『うん。』
「そうか。」
そしてまたヒカミは黙ってしまった。本当は放っておくべきなんだろうけど、あたしは性格上ヒカミにはそれが出来ない。ハクスイ相手だったら出来るんだけど。
『で。何をそんな悩んでるの?』
「悩んでるってか、おれも考えが纏まらないってのが本音かな。」
『何を?』
「この世界の根本だよ。」
纏まってないと言いつつもヒカミは語り出してくれた。
「まずさ。やっぱりおかしいんだよ。この世界がここまで繁栄してるのが。あと、迷わず通貨で円が出て来たあたりだ。」
『本当に何度も思うんだけど、通貨が円だとそこまでおかしいの?』
「感覚の問題だよ。新しく世界を作ろうってじゃあ通貨を流通させようってなった時、その時の当たり前を撒くと思うんだ。だとすると、この世界自体。おれたちの大和国の金融破綻前の時代の人間が作ったって事になる。その時代の人間なら円が馴染み深いから。更栄の大改革が十八年前だから、まあ二十年近くこのW・Iシステムの開発に時間をかけたとして。
佐竹の本体って何処にいると思う?」
『そりゃその辺に複数いるって話じゃないの。』
「それは、A・Iの話だろ。おれは本体の佐竹の話をしている。」
『あ……』
「そして、二場は多分ゴールにいるんだろ。それでいて殺す気は無いけど魂に負荷を与えたい。魂を負荷を与える為に、この世界を通貨を流通させてまでしっかりと繁栄させることに意味はあるのか?」
「だから、あくまで予想だ。完全に証拠も何も無い。おれの予想。
佐竹の本体ってこっちの世界じゃなくて元の大和国にいるんじゃねえのって。それで歩たちの一派とか、技術を持った。というかこっちの世界に持ち込みたい技術や知識を持った人間を意図的にこちらの世界に入れようとしている。
歩だけが、最初の迷路の攻略法を元の世界で電話で聞かされていた。
貴志さんは姿こそああなったけど、結局あの迷路を越えるだけの力を手に入れたわけだし。」
『それってどういう意味?そもそも何で?』
「二場は人間の魂を進化させる為の壮大な研究というまあニュアンス的には宇宙規模で言う神になる為に、この世界の魂を出来るだけ苦しめてゴールに向かわせる。
しかし、佐竹はまるでこのW・Iシステムというこの世界で、趣味の異形を作って、人々を繁栄させてまた新しい世界を作ろうとしている。つまりこの地球規模で神になろうしている。だからクリアさせないよういこの世界で暮らす事をある種の幸せであるようにしている。
ハクスイの言っていたクリアの妨害って一言からここまで妄想しただけなんだけどな。」
『ごめん。分かりやすいようで、まだ分からない。なんていうか納得いかない。』
「ならもっとスケール小さく説明するよ。ほら前社会の授業で街作りシュミレーションのゲームやったの覚えてるよな。」
あったあった。そんな授業。まっさらな土地から水とか引いて、山とか家とか作って人間に移住してきてもらって資産を増やすシュミレーションゲーム。ちなみにこのゲームでヒカミはクラスで断トツトップの成績を収めた。ランクは大統領とか表示されていたし。
『覚えてるよ。あたし一瞬で借金まみれになったやつ。』
「そう。それをやってるのが佐竹。んで、その隣で人間の進化論とは?って本読んで本書きながらも魂の構造学とか理科やってるのが二場。」
『ああ。それならわかりやすい。』
「そうだな。スケールを小さくしちまえばたった二人の人間の遊びと探求でしかないのに。如何せんスケールがデカすぎてみんなが苦しむから納得がいかねえんだよ。」
そう考えれば、完全にあたしはヒカミ派だ。現状に兎に角納得がいかないと異議を唱える側。
「二場はクリアを望んでるのに、佐竹はクリアを望んでいない。一体この二人の関係に何があったのか。あと、佐竹はA・Iとしてちょいちょいお邪魔モブしてくるのに二場が干渉して来ないのも謎だ。」
『それさ。いや思い出したんだけど、一年前だから結構曖昧なんだけど、最初に二場があたしに説明する時に契約に魂が入ってる以上、私もソレ相応のなんちゃらで私だって元の世界に戻れなくて困ってるみたいなニュアンスの事言ってたんだよね。』
「二場の魂もこの世界に縛られてるってか……
おれ達と同じ位に二場も何か背負ってるのかもしれねえな。」
ヒカミが難しい顔して黙り込んでしまったので、あたしは次の言葉まで暫く時間を空けた。
『ねえ今更なんだけどさ。あたしの狼の呪いってさ。なんだろう。こう上手く言えないけど。そもそもこの世界に巻き込まれたのってあたしが変なもの視える所為じゃん。それってさ。二場条理論にしてみればあたしがこの世界に巻き込まれたのも条理でこの狼の姿になったのも条理で。
元の世界では、呪いで視える体質だったけど、こっちの世界では視えない代わりに狼になって、鼻と耳が凄く良くなってそれで気付いたんだ。あたしはどれほど自分の視える体質に甘えてたんだろう。あれだけ視えるのが怖いって騒いでたのに、視えるお陰でヒカミがどんな気持ちなのかも視えたし、ハクスイの事を今日みたく怖いと思った事は無かった。感情がそのまま視えたから。でもいまそれは全く視えない。視えない状態で判断しないといけない。』
「それさ。薄々おれも感じてたんだよ。
何で結果主義のおれがこうも情け論で動いてしまうのか。そのキアラさんの怪我の件も含めてさ。
その場の感情論より冷静に結果を見据えて人の命を数とか考えられないおれの身の起きたのは、君達が対価を払ってまでおれの魂を取り返す契約だ。こんなのどう考えてお情けの話なんだよ。そんな面倒な事しないで、おれの命はさっさと一つの犠牲として結論付けて残ったメンバーで早くゴールしてクリア特典の願い事でおれの魂諸共全ての魂を救済すれば良い。
サクにここまで発想は無くても、ハクスイだったら少し冷静なればそうしてくれるはずだ。あとリアリストの歩もだ。
それなのに、何故キアラは死神と契約する手立てを持っていたのか。そしておれの魂を取り返すまでに至ったか。
君は何故一年もの間誰とも再会出来なかったのか、何故ハクスイの対価は記憶なのか、何故歩は希望だったはずの利き腕が対価で、代わりにあの絶望の腕を与えられたのか。
何かに気付かないと決して進まない。
歯車が一つ足りないと動かないように。でもたったい一つの歯車が填まった途端に動き出すように。
全てが、魂の負荷。試練と宿命の為出来ている世界。それが、二場の言う、この世界の条理。」
『めちゃくちゃ難しいけど、神様に選ばれた魂は奇跡的助かってみたいなのと一緒?ほら大きな事故で奇跡にの生還とかの人ってそのあと世界規模で凄い功績残したりするみたいな。』
「まあ近いっちゃ近いけど、選ばれるだけじゃなくて自分でも乗り越えて、初めてこの世界をクリア出来るみたいな?」
『ヒカミは見えてるの?自分の試練ってか越えるべきものとか。』
「どうだろうね。ただ、今までの結果主義の人道を無視した冷徹な考えは違うような気がするって今になって思い始めたんだ。それはおれがおれとして生まれてくるずっと前から。
ずっとずっと見る前世の夢の時から。だからずっと失敗して終わったんじゃないかと。」
そうえばヒカミはいつも、中佐の夢を見ると言っていた。一年も前の話だから忘れかけていたけど、全てを犠牲にして残酷な判断を下して戦い続けた中佐は最終的には仲間に裏切られて殺された。その夢をいつも見るって。
一概に、人の命を数だけで見るのは間違いなのか?少なくとも、本来人間は自分の命と仲間の命が贔屓して大切な筈なのに、時と場合によってはヒカミの中の感覚って他人であろうと等しく一の命としてカウントされてしまうのがたまに怖い時があった。
『じゃあキアラの死ぬかもしれないってのは、』
「これは正直言ってわからない。呪いも対価も本人の抱える条理もそうだけど、なによりシキさんっていうジョーカーがいる。シキさんの歯車にも巻き込まれてるような気がしてならないんだ。そもそもあの二人が元の世界にいたころどんな関係だったかだよ。親友って説明はあまりにも曖昧過ぎる。」
ヒカミはその後もずっと考えてるみたいだった。馬鹿なあたしにはわからないけど、全ての出来事は条理だし、意味があって、そしてそれに気付けて乗り越える事が出来た人間だけがあの塔を登りきる事が出来る。
で纏めた。これ以上は無理。




