エピソード3-2
どれだけ寝ていたのか。目を覚ましたのは、石の床の上だった。
冷たい。かび臭い。頭の芯が、まだ薬で痺れている。
身を起こすと、目の前に古びた鉄格子があった。天井は低く、明かりは廊下の松明ひとつきり。地下牢だった。
牢のなかには、他にも人がいた。
子供が七人と、若い娘が三人。みんな、壁ぎわに寄り集まって床に座り込んでいる。
その手前、牢の真ん中には、大きな黒い塊があった。
(……?)
男だ。
寝転がって、腕を枕にしている。とにかく大きい。夜のように黒い肌に、短く刈った白い髪。腕も肩も、岩を積み上げたような筋肉に覆われている。
左右の耳の上から、艶のある黒い角が突き出していた。こめかみから首筋の辺りが、松明の火を受けて、きらきらと光っている。
(鱗だ。……竜人族かな? 初めて見た)
その手首と足首から、太い鎖が伸びて、壁の輪に留められている。
いびきをかいている男に、レギウスは近づいてみた。
「起きてよ」
返事はない。
「起きてってば」
レギウスは、その大きな肩をつついた。
ゆっくりと開かれた目は、琥珀色だった。
「……なんだ、小僧」
(また、それか)
「僕はレギウス。薬をかがされて、連れてこられたんだけど。ここ、どこかわかる?」
「城の地下だな。二日ほど世話になっておる」
「世話に……なってるの?」
男はあくびをして、身を起こした。鎖が、じゃらりと重い音を立てる。
「わしはストークだ」
「ストークは、なんでここに?」
「飯をたらふく食った」
「うん」
「酒も飲んだ。美味かった」
「……うん?」
「食い終わったら、店の者が金を出せと言う。わしは人族の金を持たん。金はレェルが持っておる」
「レェルって誰?」
「わしの従者だ」
「じゃあ、その従者を呼べばよかったんじゃ」
「はぐれた」
「はぐれたって……」
「よって、身体で払えと言われ、ここにおる。まあ、道理だ。食った分は返さねばならん」
「道理じゃないよ! それ、無銭飲食で奴隷にされるってことだよ!?」
「かもしれん」
ストークは、実に堂々とうなずいた。
(堂々とすることじゃない)
レギウスは、ふと、男の手首に目を留めた。鎖の輪が、歪んでいる。
「ねえ、ストーク」
「うむ」
「その鎖、いつでもちぎれるよね」
琥珀色の目が、初めてまともにレギウスを見た。
「……ほう」
「輪が内側から歪んでる。鉄は、力がかかった向きにしか曲がらない。人形の金具といっしょだ。……でも、手首に傷がない。暴れてないのに、輪だけ歪んでる。一度、力を入れかけて、途中でやめたでしょ」
「よく見ておる」
男は、感心したように顎をなでた。
「そのとおりだ。だが、ちぎらん」
「どうして?」
「そこに、人がおるからだ」
ストークは、廊下のほうへ顎をしゃくった。松明の下に、槍を持った看守の影が見える。
「わしの神は、なるべく人を殺すなと言う。この鎖を引きちぎれば、あの男は驚いて槍を突き出すだろう。うっかり、あれを殺してしまっては面倒だ」
「面倒って」
「それに、寝床と飯がある。しばらくここで暮らしてみるのも、悪くない」
「僕は、ここから出たい。みんなも連れて。……手を貸してくれない?」
「断る」
「即答!?」
「わしは急いでおらん。人族の百年など、わしにはまばたきほどのものだ」
ストークはまた寝転がって、腕を枕にした。話は終わりらしい。
(僕の百年は、まばたきじゃないんだけど)
(大丈夫。きっとブレイジールが助けに来る)
(……お姉さんたちの話を聞き終わったら、だけど)
そこへ、膝を抱えていた小さな影が、こちらへにじり寄ってきた。柵のそばで、妹がいると言った赤毛の男の子だった。
「……ごめんなさい。本当は、妹なんていないんだ。……そう言えって、命令されてた。言うことを聞いたら、村に帰してくれるって」
「きみ、名前は」
「テオ」
「テオ。顔を上げて」
レギウスは、その頭にそっと手を置いた。
「僕が勝手に路地に向かった。それだけだよ」
「……お兄ちゃん、怒らないの?」
「怒ってるよ。きみにじゃないけど」
テオは、鼻をすすった。それから、ぽつぽつと話しだした。
一週間前、テオの村を、夜のうちに男たちが襲ったこと。若い娘と子供だけがさらわれたこと。テオも姉といっしょに荷車に積まれて、この城の地下へ連れてこられたこと。
テオは、壁ぎわを振り返った。赤毛の娘がひとり、顔を伏せている。
「あれが、姉ちゃん。ここに来てから、ずっと、ああしてるんだ」
「村には、誰か待ってるの?」
「母ちゃん。……おれたちがいなくなって、きっと、泣いてる」
「じゃあ、姉さんといっしょに帰らないとね」
「お兄ちゃんも、売られちゃうの?」
「売られないよ。迎えが来るから」
「迎え?」
「連れがいるんだ。顔だけはいいのが」
テオは、すこしだけ笑った。それから、声をひそめた。
「番号をもらった人は、昼に上の広場に出されて、売れなかったら戻ってくる。……でも、夜に呼ばれた人は、戻ってこないんだ……」
「戻ってこない……?」
「うん……。それにいつも、その後――」
遠くで、女の悲鳴が上がった。
石の天井の、ずっと向こうから。しかし、すぐに聞こえなくなった。
壁ぎわの赤毛の娘が、両手で耳をふさいでいる。テオが、レギウスの袖をぎゅっと握った。
(上で、なにが?)
「勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~」3-2を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
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※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
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