20.エピローグ
その後、リリーは聖印が消えたことに納得せず地下牢の中でもぎゃあぎゃあ喚いていたが、力尽きたのか今は大人しくしているという。
正確には「こんなはずじゃなかった」と独り言をぶつぶつ呟いているそうだ。近いうちに女性専用の労働施設に送られるとのこと。
リリーに加担した異母兄も同じく労働施設に入れられたそうだ。冷静になった彼はリリーの口車に乗ったことを後悔しているらしい。
二人とも今後の生活の仕方によっては刑期が短くも長くもなる。腐らず頑張ってくれればと思う。
ホワイト男爵は責任をとって当主を退き、長男が跡を継ぐことでこの件はひと段落となった。
「ようやく片付いたな。お前達、ご苦労だった」
労いの言葉をくれるクリストファーだが顔が死んでいる。
なぜならリリーが学園を去ってもフランチェスカが留学から帰ってこないからだ。
「ううう。フランが、フランがぁぁ」
「仕方ありませんよ。今年度はまもなく終わりですからね。タイミング的にも来年度から戻られた方が」
「だが私はこれで卒業なんだぞ!フランとの学生生活がないままじゃないか!」
それも仕方がない。
18歳になるクリストファーは今年卒業で、ひとつ下のフランチェスカは最終学年にあがる。
フランチェスカは留学先が楽しいらしく本当は卒業まで隣国にいたいと願っているが、王太子妃になる以上国内の社交は疎かにできない。仕方がないのでイヤイヤ帰ると言っていた。
「私だって学園のテラスでイチャイチャしながらランチをあーんってしたかったのだ!」
「そんなことお姉様は絶対やらないから。婚約を取りやめたいまた言われるのが嫌なら、多少の自由は許してあげてください」
そう言うとクリストファーはしぶしぶながら納得した。
「はぁ、仕事に戻るか。今回の件で業務が溜まっているからな。お前らも気を引き締めてくれ」
ヴィヴィアンが席に戻ろうとするとセレスティンに止められる。
「殿下、何を勝手に締め括っているのですか。私達の願い事を聞いてくれる約束ですよね?」
クリストファーがギクリとしたのが全員わかった。
「あ、ああ。そんな、ことも、あった。かな?ハハハ」
「誤魔化そうとしても無駄だよ。僕達ちゃんと考えてきたんだから」
「そうだ。男に二言はない」
「だってお前達!めちゃくちゃ言いそうじゃないか!」
「そんなことないですよ。ちゃんと現実的なものです」
クリストファーは疑いの眼差しで三人を見る。
「それならとりあえず言ってみろ」
セレスティンがクリストファーに珍しく笑顔を向けた。
「私は三か月間の休暇です」
「まてまてまて!三か月も休暇とはなんだ!」
「ちやほや期間の半分ですよ。フィオナを悲しませましたから」
「相手があの聖女候補じゃ悲しむもなにもなかっただろう!」
「それはあくまで結果論ですよね。しかもこちらは半分に譲歩していますが?」
セレスティンの冷たい笑顔にビビったクリストファーは黙るしかなかった。
「僕はヴィーと過ごすための別荘。うちの領地にある湖畔にドンッと建ててよ。殿下のポケットマネーで」
シャルルはヴィヴィアンを手招いて腰をぎゅっと抱き寄せた。
「いいでしょ?ヴィー、楽しみだね」
「ちょっと待て!そんなものマジェスター家で賄えるだろ?!」
「リリー嬢が神殿を壊した補填、あれマジェスター持ちになってるんだよね。請求先がないからって」
「だ、だがお前は人工魔石の特許もあるんだから金なんて降って沸いてくるだろ?!」
「その人工魔石のおかげで他国から招待状がバンバン届いてるんだ。道中はヴィーに快適に過ごしてほしいしドレスも新調しなきゃだし、お金なんていくらあっても足りないから」
クリストファーはきゅっと唇を噛みしめた。どれだけむしり取られるのかと不安になっている。
その横でノアがクリストファーに熱い視線を向けた。
「俺はミスリーを望む」
「ミスリー?」
「宝物庫のミスリル剣ですよ」
セレスティンに教えられたクリストファーがギョッとする。
「ノア!あれは私では無理だと言っただろ!」
「だが欲しいんだ!殿下はいうことをきくと言ったじゃないか!」
詰め寄るノアに、セレスティンが提案する。
「ノア、今は無理です。殿下が国王として戴冠するとき、近衛騎士隊長になっていれば賜ることができるでしょう」
「じゃあそれまでに近衛の隊長になる。俺の愛は不滅だ」
クリストファーは黙るしかなかった。セレスティンのいうように戴冠時ならミスリル剣を施すこともできるだろう。
どれもこれも微妙なラインで、絶対無理とは言い難いが負担はかなりのものだ。
シャルルの別荘もきついがセレスティンの休暇。これは痛い。だけど怖くて駄目と言えなかった。
眉尻を下げたクリストファーはヴィヴィアンを見た。
「ヴィヴィ、お前は?そんな無茶は言わないよな?」
「私ですか?んー。考えてなかったんですよね。最近評判になってるケーキ屋さんを貸切とか」
「ヴィヴィ、もっときちんと考えてから答えなさい」
「そうだよ、ヴィー。それをしたいなら僕が叶えてあげるから」
「いやいやそれでいいぞ!控えめなお前はなんてかわいモガモガモガ」
クリストファーはノアに口を塞がれた。
(そんなこと言われても、何を願えばいいのかしら)
ヴィヴィアンの腰に手を回すシャルルを見上げると「ん?なに?」ふわっと笑ってくれる。
ずっとずっと心の奥に眠らせていた一番欲しかったものは、もう手に入れた。
それならこの先の未来に思いを馳せて。
「決めたわ」
ヴィヴィアンはにっこり笑って宣言した。
「もう極秘任務は請け負いません!」
END
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