表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

182/191

第1話「育児と在宅、ふたりの決断」


それでは、シリーズ完結編――

『陽翔10年目在宅ワークと結衣隠れ社長編』開幕です。




「……陽翔、明日から正式に“在宅”ね」


「うん、決めたよ。会社には、もう“出社する前提の仕事”はしない。

今後は、完全に“家庭軸”で動く――この家を、仕事場にする」


夜のリビングルーム。

眠りについた陽葵と悠翔の気配がベビーモニター越しに流れる中、

テーブルを挟んで座るふたりの声は穏やかだった。


ソファの上に広げられたPCとタブレットには、陽翔がまとめた新しい就業スケジュール、

結衣が構築した「リモート主導の社長機能分散モデル」の資料が並んでいる。


どれも精緻で、プロフェッショナルな仕上がりだ。

けれどそれ以上に、そこには“生き方”の選択が滲んでいた。


***


「もう“家庭とキャリアは両立しないといけない”という意識自体が、

どこか無理を生んでる気がするの。

私たちは“同時にこなす”んじゃなくて、“切り替えて選ぶ”ことにした」


結衣はそう呟いて、紅茶を口に運ぶ。


この10年。

氷室結衣は“完璧な社長”としてルクシアの全権を担ってきた。

だが今は――橘理沙に社長代行を委任し、表舞台から身を引いている。


表向きは“健康上の理由による長期療養”。

だが実際は、隠れ社長として全社の流れをモニタリングしながら、子どもたちの成長を最優先にしていた。


「あなたが理沙を選んだのは、正解だったわね」


「彼女は完璧だよ。あの人の経営判断、俺なんかより遥かに先を見てる。

でも……“この会社の心臓”は、やっぱりあなたなんだ。

理沙さんも、それは分かってる」


「……そうかしら。今の私は、子どもたちにミルクあげるだけで精一杯だけど」


「それが、一番大事なことだよ」


陽翔はそう言って、結衣の手を取った。

ふたりの指が静かに重なる。

10年を歩んできたパートナーとしての“答え”が、そこにはあった。


***


翌朝。

ルクシア本社のエレベーター。

企画部の村瀬翼が手にした新規事業案の資料を抱えたまま、ある違和感に気づいた。


――あれ?

40階にアクセスがかかったのは久しぶりじゃないか?


かつて、社長・氷室結衣が毎日出社していた頃は、40階のアクセスランプは朝昼晩と点灯していた。

だが今では、橘副社長が完全に現場を仕切っている。


そして、エレベーターの扉が開いたその瞬間――


「……あれ?」


エレベーターの中から現れたのは、ラフなシャツにジャケットを羽織った瀬川陽翔。

手には、赤ペンの入った資料ファイル。

その表紙には、企画部の新イベント案のドラフトが挟まれていた。


「……瀬川さん……!」


「……おお、村瀬くん。タイミングよかった」


「てっきり、もう完全に“出社しない”って聞いてましたけど……!」


「ん。基本は自宅勤務。でも、今日はついでがあったから寄っただけ。

この資料、データ更新されてなかったから。……はい、預かってた分」


陽翔が手渡したその資料には、結衣が添削した箇所も細かく赤で修正が入っていた。


「これ……社長の筆跡じゃ……」


「んー……誰のだろうね」


涼しい顔で陽翔が笑う。

その一瞬、村瀬は――すべてを理解した。


(……結衣社長、まだ完全に引退してなんかいない。

“家庭”という戦略領域に移動しただけだ)


***


その日の社内チャットでは、赤井美波と進藤あかりも村瀬からの情報に軽くどよめいていた。


【村瀬】

今日、40階で瀬川さんに資料手渡された。社長の赤字入ってた。

結衣さん、完全引退してない。間違いない。


【美波】

……えっ、それ本当?

じゃあ、“在宅社長&在宅マネージャー”ってこと……!?


【あかり】

ルクシア、もはや“社長室”が家庭の中にあるのか……すごいな……


画面の向こうで、ふたりの赤子が同時に泣き始める。

それを見て、陽翔と結衣は視線を合わせ、同時に立ち上がる。


「陽翔、哺乳瓶お願い。私はおむつ」


「了解。育児班、出動します」


戦場は、いまやこの家の中にある。

けれど、そこから会社も未来も――動いている。


(つづく)



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ