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転生して、【自然神】(一応人間)になってまったり暮らしてただけなのに‥  作者: 瑞浪弥樹
第二章〜乙女ゲームの世界?〜
92/113

傷つけられた怒り -キリア目線ー

今回は、突然の叫び声を聞き取ったキリアちゃん!魔の森の中で見た光景とは………


※今回はグロシーンがかなり多めに入れてあります。苦手な方は、この話だけ飛ばしてお読みくださいm(*_ _)m

 何かあった時の為に魔力を温存しながら、声の場所を探して森の隅々まで転移を繰り返す。明らかな人の声が森に響いた。普通ならあり得ないことだ。今日以外は。

 私が、ある危険区域の近くに転移した時、声が一番近く聞こえてきた。その方向は、毒素の蔓延する菌糸類のはびこる森の一角だ。もしやこの中に?

 毒は私の弱点。入るのに少しためらったが、次に聞こえてきた段々と弱々しくなる声に私は居てもたってもいられず体に簡単な浄化魔法をかけて森の中に駆け込む。


「…っはぁっ、はぁっ」


 浅く乱れた呼吸音が聞こえてくる。近くにいるわけでもないのに、はっきりとこの耳に。

 私は駆ける足を速めながら辺りの気配をとにかく探した。すると、ここから一キロ先程度の、この森の中で一番毒素のヤバイ霧が蔓延しているところになにかが集合しているのに気が付いた。私は迷わずその場所の近くに転移し、周りの木々を縫って誰かいないか探す。


「うわぁぁぁぁっ!!!」


 聞こえた!近くの…右手の池の近く!

 がさがさと腐った落ち葉を踏みしめてその場に行くと、私が想像していたよりももっと凄惨な光景が広がっていた。

 毒素の発生源である池のそばには、ランクSクラスに劣らないほどの毒性を持った池の主であるブラックポイズンスネークに、周りには口元に血を飛ばした大量のAランクの魔物たち。いずれも、瞳の奥には暗く光る赤い光が宿っており、正気を失っているようだった。


 そして、彼らの目線の前にいたのは…


「あ゛ァ゛っ……ぐっ、ヴぅ…」

「ひっぐ……やめて……やめてください…嫌ぁ……こっちに、こっちに来ないでぇ!」


 様々な深い切り傷や抉られた足をかばいながら苦痛に悶え、それでもなおセ(・)レ(・)ス(・)をかばうレ(・)イ(・)ト(・)と、体中がボロボロになりながらも魔物に魔法を放ち続けるセレスの姿だった。二人の周りには、二人から流れたであろう大量の赤い血と、毒素を吸ってからか咳に咽る声だけが響いた。

 何が起こっているのか、頭が一瞬理解しなかった。何故、何故セレスたちがここにいる?禁止区域であるこの場所に、賢いレイトが入るはずがない。それに、何だあの怪我は。

 ひたひたと心の中に怒りの雫が、静かに、そして沸騰するように心の中を憤りに染め上げていく。


「………………【繁栄ノ風】【衰退ノ風】」


 私は、無意識にも近い感覚で愛用の武器の名を呼んだ。私の意識に呼応するかのように二つの対の扇は手中に現れ、すぐさま臨戦態勢に変化した。


 ジリジリと魔物たちが重傷の二人に近づいていく。セレスの魔法はどこか変なところへ飛んでいき、全く魔物には当たっていない。混乱しているのだ。


「……っ!!!!!」


 私は要から抜いた【繁栄ノ風】の一つを横一直線に並んだ魔物に向かって全力で投擲した。すると、薄いはずの扇の一枚は全ての魔物の核を一瞬で全て貫き通した。魔物は少しの間だけ動いていたが、次第に自分の核が壊れたことに気が付いてもだえ苦しみ、さらさらと砂になるようにして消えてしまった。

 私はすぐさまレイトとセレスの元へ駆け寄り、二人の状態を確認する。


「レイトっ!セレスっ!」

「っ……ガハッ!?ゥ……あ…キ……リア……さ」

「喋らなくてもいい!ここにいる間はできるだけ息を吸わないで!ここは毒素に満ちてる!」

「………ぁ、ぅ……ゲホッ」


 死に際のレイトに大声で聞こえるようにそう言いながら、私はセレスを見た。焦点が合っていない。セレスの方は完璧に毒素に侵されているみたいだ。恐らく、幻覚系の何かか、神経に直接作用するもの。


「……シャァァァァァアアアッッツ!!!!!!」


 二人の容態を確認していると、背後にいた蛇が雄叫びのように声をあげた。辺りの毒の濃度がどんどん増していく。このままでは私も危なくなってしまう。


「……池の主、貴方はここまで落ちぶれていたか?私の知る貴方はもっと高尚な、誇り高き主だったのだけど……

『それは絶対的な力。

 抗う事の出来ない世界の掟。

 誰も逆らえない、逆らわせない。

 私は全てを見守るもの【自然(ネイチャーズ)の(・)摂理(ヒストリー)】』戻れ、輪廻の輪に!」


 詠唱をしていくたびに、対の扇が光を発し、混ざり合って一つの大きな扇へと変化する。魔力を込めたそれを蛇の魔物の喉元に全力で投げつけると、ジュワァッと音を立てて変な感覚が空に消えるようにして浄化されていった。浄化の光は蛇の体全てを包み込み、元に戻していく。元あった池の主の姿に。


「ちっ……時間がない。レイト!セレス!」

「……あ、ぅ…ッガぁ……」

「……ッ、ちょっと痛いかもしれないけど我慢してね」


 私は傷と毒に苦しむ二人を抱え上げて、取り敢えず毒素の蔓延する森を転移で抜ける。抜けた先は、綺麗な水の流れる比較的水流の穏やかな小川だった。木の根元に二人を横たわらせ、急いで状態を確認する。


「レイト、ゆっくり、深く息をして。寝ちゃダメ、意識を強く持って」

「……ァ、ぐぅっ……」

「セレスも、もうちょっとでよくなるから、安心して」


 レイトの方は痛みに意識を取られているが、まだ時間は残っているようだった。私はすぐにレイトの方を優先して治療を始めた。傷口にしみるかもしれないが、水を当てて中に入り込んでしまった雑菌や異物を取り除き、魔法の力で再生力を高めて修復させる。

 所々骨が折れて臓器すれすれまでに深く突き刺さっていたり、多量な出血のせいで体が異様に冷え切っていたが、それも何とか治してあげることができた。体の中に入ってしまった毒素は、まだ血液中を巡っているものは異物として取り出せるものの、呼吸器官に入ってしまったものは時間経過とともに少しずつ排出していくしかなさそうだった。


「レイトの方は…これでいいか。セレス、ちょっと痛いかもしれないけど……」

「…ッ、ひぃっ!」


 容体を見るときに痛いところを触ってしまうかも、と言おうとした時に、セレスが異様に私を…いや、私の背後に向けてとても怯えたような声を発した。また幻覚?と思ったが、毒素の森を抜けてからそれなりに時間は経っている。自然に抜けた分の毒素で幻覚症状はある程度無くなったと思うのだ。それでも、何かに怯えている。

 そう思って後ろを振り向こうとした瞬間に、後頭部に向かって鈍い痛みが体を走った。一瞬だけ脳が揺れる感覚がする。ぐらりと視界が揺れた直後に、後ろから気味の悪い笑い声が聞こえてきた。


「は…ぁははっ…………あははははっはははははっはは!!!!!」

「いった…」

「や、嫌だ……何で、何でここに……」


 脳の揺れが収まってきたくらいに、セレスの絶望に浸ろうとする声が聞こえてくる。私の背後にいたのは、大きな金属製の鎚を持った男と、その後ろに武器や魔法を構えたままニヤニヤと笑っている、学(・)園(・)の(・)制(・)服(・)を(・)着(・)た(・)男たちがいた。


「あぁれ?まーだ生きてたんだ。しぶといねぇお前さんも。あの狂わせた魔物の群れでとっくに生贄にされてると思ったが……貴族のお坊ちゃんの方が何とかやったって感じか」

「あはははっ!貴族のお嬢ちゃんの方は顔も醜く腫れ上がってぇ、そんなんじゃもう嫁の貰い手なんてねぇな!」

「お、助けに来てたやつも魔力たけーじゃん。これなら、もっといい囮に使えそうじゃね?」

「それもいいな!」

「い…いやっ……」


 セレスが痛々しくはれ上がったその腕で私をギュッと庇おうとしてくれる。その時、私の視界に突如として映ったのは、ここの辺り一帯に渦巻く魔力に突き動かされるようにして群れを成す大量の魔物と、その先頭でぼろぼろになりながらも逃げ惑うレイトとセレスの姿だった。進路の横では、目の前にいる男たちが群れを成している魔物に向かって攻撃を放ち、必要な素材だけ取ってその後は二人を助けずに集まっていた。

 フッと映像が途切れる。それに合わせて、私の血が煮えたぎるように熱くなり、周囲の木がざわざわと不審な気配を知らせるように揺れる。


「……ない」

「あ?こいつ、まだ生きてたのか」

「……るさ、ない」

「なーに言ってんだ。ま、いいぜ。お前は今回の合同演習の俺らの大貢献のための生贄になる運命だからな」


 ガシッと男の手が私の髪の毛を掴んで上に引っ張る。男の顔がよく見える。醜い欲望に駆られた、濁りきってしまった瞳。汚い。


「絶対に、お前らは許さない」

「!?」


 私は地を這うような声と共に、私の髪を掴んでいた男の腕をへし折る。ぐしゃりと、骨が肉に食い込んで繊維が引きちぎれる音が耳に響く。パッと髪を掴んでいた手が離され、男が悲鳴を上げる。


「は……?ァガァァアアアアァ!??!?」

「私の大切な人に手を出した挙句、森の皆を狂わせて、その上で助けもしない?」

「は?……や、やめてくれよ……俺らは何もしてねーだろ!?」


 私は手中に一本の針を出す。そしてそれを男の首に打ち込むと、悲鳴を一切上げずにぱたりと倒れた。私はそのまま針を男の首から引き抜き、クルクルとまわす。


「したよ。私の大切な人たちを傷つけた。こんなにボロボロになるまで。たとえ自分の手を使っていなかったとしてもその事実だけは揺らぎはしない。だから、私は貴方たちを許さない」


 パチンッと指を鳴らすと、男たちの背後から大きな影が空を舞い、男たちを襲った。その影は男たちを襲い、肉を裂き、骨を割った。


「ウ(・)ル(・)フ(・)ァ(・)、死なないようにだけ、気を付けて」

『許すのですか?』

「いいや、許さない。今は…二人の治療が最優先だから」


 私はシルバーレッドウルフたちに男を任せ、フラフラとした足取りで二人の元へ向かう。きっと、至近距離で血を浴びたせいで体は血まみれだろう。

 私はセレスの前に立ち、その頭をギュッと抱きしめた。


「もう、もう大丈夫。一緒に帰ろう」

「……あ、あぁ……うわぁぁぁあああん!!!!!」


 安堵からか、セレスは糸が切れたように泣き叫んだ。その声は森に木霊し、どこまでも悲痛は声は響いた。






 夕暮れ、合同演習の終了時間の目前にもなる時間で、私はセレスとレイトを背負って皆の待つ領地へ森を抜け出た。


「!?お、おい、どうしたんだ!?」


 私を見つけた4年生の先輩らしき人が私に慌てたように駆け寄ってくる。それに気が付いた他の先輩や、先生も。


「ちょっとキリアちゃん!?なんでそんなに血まみれに……しかも、二人はどうしたの……?!」

「リィナ先生。……大丈夫です、これ、全部返り血なので。それよりも、この二人をお願いします。体に見られる怪我は全て治療しました。ですが、まだ毒が抜けきっていません。安静にさせてください」

「そ、それは分かったけど……」


 駆け寄って来てくれたリィナ先生に二人を渡す。ふらふらとおぼつかない足取りのまま、私は戻るようにして森へ視線を向ける。


「おい、森に戻る気じゃねーだろな!」

「………………」

「………グルルルルゥ……」


 森の入り口には、男たちを口にくわえたウルファたちがいた。その体毛には、鮮血が飛び散っている。


「!?皆、戦闘態勢に―――」

「ありがとう、ウルファ」


 私は先生の指示を聞かずにウルファに近寄り、その頭を撫でる。グルゥと小さく鳴き、口にくわえていた男たちを魔法で先生たちの元へ飛ばした。


「!?これは…」

「うん、もう戻っていいよ。ありがとう」


 私はウルファたちの頭を撫で、そのまま森の住処の方に返した。

 先生たちの元に戻ろうとすれば、皆がビクッと肩を震わす。


「キリア、よく話を聞かせてもらおう」

「分かりました。でもその前に、こいつら一発殴らせてください」

「駄目だ。何があったのかは知らんが、もう瀕死だろう」


 奥から出てきたクラヴィエント先生が拒否した。それもそうかと浅い意識で納得し、私はクラヴィエント先生に連れられて馬車の方へ連れられて行く。


「で、どうした。魔の森の中で一体何があったというんだ」

「………私にも、はっきりとした理由はよくわかりません。私が森の深部で警備から帰ろうとした時に、声が聞こえて、その場所に行ってみるとそこは禁止区域の毒素の蔓延する森の一角でした」

「そこにあの二人が入っていたのか?」

「あの二人は、魔物の群れに襲われてぼろぼろの状態であの森の毒素の根源である池の近くにいました。そこには狂ってしまった魔物たちがいて、魔物を殲滅した後に二人を治療するべく池から離れた場所に移動しました。二人を治療している間に、後ろから襲われて、その襲ってきた人たちはさっきウルファたちに咥えられてたやつらです」


 私はタオルで返り血を拭いながら、クラヴィエント先生に事のすべてを話す。クラヴィエント先生は時々質問をしながら、それでも何も責めずに私の話をただ聞いてくれる。


「多分、二人と同じグループの先輩です。そいつらは、魔物を狂わせて大量の魔力を保持した二人を囮にして群れを成した魔物を襲い、素材を回収していました。その間、二人は怪我を負いながらも逃げ惑い、毒素の森に入り込んでしまったのだと思います」

「ふむ……」

「私が見つけた時には、アイツらは居なかったけど、その後、二人を貶めるような事を言った。だから私は許せないんです。大切な人を傷つけられるのが、私にとって一番の嫌なことだから」


 薄らと再び心の中に怒りが湧いてくる。その小さな火種を、私は今起こしても仕方がないと無理やり押さえつけた。クラヴィエント先生がはぁ、と一息溜息をつく。


「お前の意見は分かった。あの者たちは後で処分に値する。お前も、教師として、一生徒の友達として二人をよく連れ帰ってきた。お前はきちんと自分の仕事を果たしたんだな」


 そういって、優しく私の頭を撫でた。暖かい少ししわがれた手は冷たくなった体の芯を溶かしてくれた。


「先生ッ!」

「!ユキ……」


 後ろから馬車に掛けられていた布をばさりと音を立ててめくって、ユキが中に飛び込んできた。


「どうした。そんなに焦った様子で」

「あ、話の途中すみません……レイトの容態が悪化して…!だから急いでキリアを呼ぶようにって!」

「?!案内して!」


 私は馬車の中から飛び降りてユキに案内してもらいながらレイトたちのいる救護用の馬車に入る。中には先生と、治療にあたっている先輩たちがいた。その中にフェニーもいることから治療科の生徒たちが集まっているってことでいいだろう。


「レイトは!?」

「キリアちゃん!それが……さっきまで大丈夫だったのに急に体が冷え切って呼吸も安定しなくなっちゃってぇ……!」

「見せてください!」


 治療にあたっている先輩方の邪魔をしないようにしながら私はレイトの容態を見る。外傷に問題はない、さっき直した分も、また開いたりしていない、なら……


「!魔力の枯渇に体力がついて行ってない……」


 レイトの体に触れてわかった。異様に脈が遅い。心臓に問題はないと思うが、その血液に流れている魔力が圧倒的に少ない。魔力は血と同義の物。魔力の枯渇は貧血と似たような症状を引き起こし、魔力の供給が間に合わないほどの枯渇、もしくは魔力を回復させるための体力の消耗に至れば体が正常な機能を保つことができずにこうして衰弱していくのだ。でも…なぜ今頃になって。

 いいや、今そんなことはどうでもいい。


「魔力を補填するから、フェニーは造血剤と栄養剤、それと、体を何か温められるものを持ってきて!」

「え、ええ!」


 指示を出しながら、レイトの手を握り、魔力を流し込んでいく。先の戦闘で何度も【繁栄ノ風】と【衰退ノ風】を使ったからか、私の魔力の残量も底をつきかけているけれど、そんなの関係ない。

 魂に宿る神力を魔力に変換しながら、レイトにただひたすら魔力を流し込む。途中でフェニーの持ってきてくれた造血剤を摂取させながら、足りない血を補い、体の機能を回復させていく。


「キリア、レイトは大丈夫なの…?」

「大丈夫…だけど」


 一通り元の量まで魔力を流し終わると、レイトの容態が安定する。判断はあっていたようだが……


「体力が持たなかったとはいえ、急に魔力が無くなるなんてありえない……帰る途中にも少しずつ魔力は流してたし……今も、少しずつだけど魔力が少なくなってる」

「え?それって…」


 体力を元に戻すために魔力が消費されているのではない。どこかに消えるようにして魔力が消費されていく。どういうことだ?まだ体の中に残ってる毒素のせい…?いやでも、あの池にそんな効果の毒素はなかったはず。


「とにかく、今は大丈夫。…目を覚ますのを、待つ、しか…方法は…ない」


 その時、私の視界がぐにゃり歪む。ッ、魔力の枯渇寸前の症状だ。少し無茶、し過ぎた…かも。


「え…キリア!!?」


 足元がおぼつかなくなり、私はその場に倒れて気を失った。





 誰かに呼ばれている。目を覚ましてみると、そこは何もない空間でただ一人私が暗闇の中に立っていた。いつぞや見た現象と同じ夢か?前に見たのは結構凄惨なものだったからもう見たくないのだけど。


 《……なぜ、その力を使って人を助ける?》


 前に聞いた時と同じような声が私の頭の中に響いてきた。威厳を持った、低くしわがれた声。その問いに、私は溜息をつきながら答える。


「私が、そうしたいから。ねぇ、貴方は誰?どうしてこの夢の中に出てくるの?」


 今度は声が出せた。いつも通りの自分の声。


 《我が何者だっていい。…………お前は、どうしてその力を持ちながらあ奴らを殺しはしなかった。お前の心にはあったはずだ。怒りが、憎しみが、抑えきれないほどの殺意が。なのにどうして…………》


 その声は酷く残念そうに、私を責めるようにそう言った。懐かしいはずの声。でも、頭の中がしたがってはいけないのだと警鐘が鳴り響く。


「…………なんでだろうね。でも、私は殺人衝動に駆られるままの快楽殺人鬼にはなりたくない。…………昔は、私もそうなりかけてたのにね。感(・)情(・)の(・)な(・)い(・)ただのロボットみたいに、言われるがままの存在だったから。もしかしたら、心のどこかで変わりたいのかも」


 私は、過去の記憶を懐かしむようにそう言った。過去、前世で過ごしていた時の私の封じ込めたい記憶。覚えていたくないのにしっかりと沁みついてしまった記憶は落とせなくて。


 《ならば、我はお前にとっていらない存在か?お前を傷つけるだけの我は》

「うーん……貴方がどんな人かは知らないけれど、必要だと思う」


 直感だった。悲しそうな声の主に、どう接すればいいのか分からなかったが、私の本心をそのままぶつけた。傷つけたくない。大切な人は、物は、ずっとずっと私の元にいて欲しい。失う恐怖を、傷つける痛みを、もう二度と感じたくはないのだ。偽りの感情は、もう。


「ねぇ、ここはどこなの。私、早く戻らなくちゃいけないの。皆が待ってる」

 《……もう、行ってしまうのか?》

「あんまり悪夢は見たくないの。この前の結構トラウマだし……」

 《そう、か。安心しろ、我はお前自身に危害を加えるようなことは出来ない。我はお前の一部、お前次第でどうとにでも変わる》


 その言葉を皮切りに、理解する間もなく私の意識はプツンと途切れた。





 意識の浮上する感覚。騒々しい声の中で私は目を覚ました。視界に一番に映りこんできたのは、青い深い海のような髪に、翡翠色の目。段々とはっきりしていく視界の中でそれがユキだと分かった。


「……ユキ?」

「!キリア、目覚ましたの!?」


 ユキが大声をあげて私の眼を覗き込んでくる。綺麗な翡翠色の瞳にはキラキラと光る涙が溢れていた。


「キリアちゃん!!」

「起きたのねぇ!」


 体を起こして周りを見れば、フェニーやアリス、ロイナスたちがいる。その中でレイトだけがいないのが気になったが、まず周りのみんなが涙目なのに私は戸惑いを隠せなかった。


「え、何でみんな泣いて…」

「心配したんだからぁ!ぐすっ、…キリアちゃん、いつもいつも無茶するし……」

「レイトの代わりに倒れるんだから心配するに決まっているだろ!キリアの馬鹿!」

「死んじゃったかと思ったんだからぁー!」


 え、ナニコレ私サラッと罵倒されてる気がする。ま、まぁ心配してくれているんだよね。

 身体を動かそうとして、まだ体の中に微弱な毒が混じっていることに気が付く。体が軋むように痛い。


「レイトは?」

「……今は、他の人が見てる……容体は、安定してるそうです」


 鼻をすすりながらセレスが答えてくれる。私はセレスの頭を撫でながら労わる。毒に侵されていたはずなのに、最後まで頑張ってそして今生きていてくれているのだ。頑張った。


「ごめんね、セレス。もっと早くに気が付いてあげられなくて」

「ひッぐ……そんな事、言わないでください…、キリアさんは、助けてくれたんですからぁ……」


 セレスはぼろぼろと大粒の涙を流しながら、そう言ってくれた。


「怪我は、体は痛くない?」

「だい、丈夫……です」

「そっか…よかったよかった」


 ユキやセレス、クラスのみんなが私に抱き着いてくる。ちょっと首が絞まり気味だけど、それでも少し嬉しいかな。


「と、取り敢えずみんな離れて……」

「「「「「やだっ!!!!!」」」」」


 ううむ、どうしたものか……それに、いつぞやの時と同じように後戻りしてしまった。心配かけないって言ったんだけどなぁ。


「はいはーい、皆ぁ、そろそろ帰りの支度をするわよぉ」

「ルミリナさん……」


 部屋の扉からノックをして入ってきたのは明るい表情をしたルミリナさんだった。とんでもない雰囲気ブレイカーである。有り難いけど。


「もうそんな時間ですか……」

「そうそう、だから。今日中に帰るためにも、皆は早く荷造りをするのよぉ?」

「…はい」


 皆が少し離れたくないと言わんばかりの表情をして、またね、とそれぞれ口にして部屋を出て行った。


「で、ルミリナさん。何か用があるんですよね」

「話が早くて助かるわぁ」


 ルミリナさんは私の寝ているベッドの横にあった椅子に座り、がさりと持っていた紙袋を私に手渡してきた。了承を得て中を見れば、真っ赤なイチカルの実がたくさん入っていた。どうしたのだろうか。


「これはね、キリアちゃんが倒れた後に噂を聞いた領の果実屋さんのおばさんが分けてくださったのよぉ。心配だからってね。キリアちゃん、ここの領民に慕われているのねぇ」

「あ…」


 いつも行っていたお店のおばさんだ。こんな状況でも……

 心の中にじんわりと優しさが浸み込んでくる。


「さて、本題に戻るけど……貴方、毒素の森に入って来てよく無事でいられたものね。それに、いくら強いとはいえ独断行動で返り血だけを浴びて傷一つなく重傷者二人を治療して帰ってくるだなんて……まるで、神様みたいな強さね?」


 ルミリナさんが、疑惑の視線を私に向けてくる。とっても確信をついた予想で。

 まぁ、到底おかしい話だからしょうがないよね。いくら私の事情を知らないルミリナさんとはいえ、元々10歳であるのにこの強さ、その上で魔の森の危険区域に助けに行って無傷で帰ってくる。

 そんなの、人外以外には考えられないのも納得である。


「私は…神様じゃないですよ?」

「………そうねぇ。でも、私から見た貴方は…少しいい方はきつくなるけれど、皆と同じ子供には見えなかったわ。大人のような行動に、子供にしては膨大な知識量…明らかに、普通ではないもの」


 ですよねぇ。だって私体だけ人間ですもの。魂は神様。嘘は言っていない。

 それよりもルミリナさんの予想が的確過ぎて痛い。魔の森に住んでいる時点で普通じゃないなんて言っちゃいけない。


「確かに私は、普通じゃないです。この体も、この力も、きっと皆よりも強い。でも、私はま(・)だ(・)人間です」

「………………そう。分かったわ。貴女個人の事情に深くまで関わるつもりはないもの。ありがとう。いい話を聞けたわ」


 そう言ってルミリナさんは私の頭を撫でて部屋を出て行った。静かになった部屋で、私はようやく溜息をつくことができたのだった。

読んでくださりありがとうございます!


キリア「疲れた……」

セレス「お、お疲れ様です!私も今回は大変でした……」

レイト「……ほとんど、痛かった」


みんなお疲れ様。クズどもは私の方で手配させていただくんで休んでくださいな。


次話は、やっと学園に帰れます!大変だった!お疲れ様みんな!後ちょっと!

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