合同演習当日 -キリア目線-
今回は、合同演習の当日!早速10年間の知恵を発揮するキリアちゃんに、勿論ユキくんたちは苦笑するばかりで……?
日々の流れも速く、気が付けば今日は合同演習の当日だった。朝早く、いつもよりも少し暗めの時間帯に起きて多めのお弁当を作り、皆を起こす。魔の森への遠征の為、早朝からの行動が大事だからだ。
まだ眠たいという皆を叩き起こして準備をし、荷物をもっていつものように教室……ではなく、学園の入り口に向かう。
遠征と言うだけあってすぐに出発するからだ。
「まだ眠たい…」
「今何時なの?」
「えっとね、大体6時くらいかな。流石に眠たいのは分かるけど起きなきゃ」
「んぅー」
返事ともわからない返事をし、アリスが大きなあくびをする。正門の方に集まると、一緒に行動する先輩方はもうぼちぼち集まり始めていた。
「リィナ先生、おはようございます」
「あら、おはよう。皆で来たのね」
「どこぞの誰かさんは目を離すと寝ちゃうものねぇ」
「だって眠たいんだもんー」
先にいたリィナさんに声かけをしてから、グループごとで分かれる。ここからは完璧に別行動になる。たまに点呼などで会うかもしれないが、それ以外は見てあげられない。
「キリア、行こっか」
「うん」
「ふぁい」
寝ぼけ眼のアリスを引っ張って、グループの場所に行けば、そこにはすでに先輩たちが固まって待っていた。
「お、一年か。俺は班長だ。よろしくな」
「一年fクラスです、今日はよろしくお願いします」
挨拶を済ませると、班長さんが興味深そうな目で私を見てきた。なんだろうか。
「お、そうか君か。ロイナスが言ってた女の子ってのは」
「?」
「キリアさんだろ?俺はロイナスのミラルカでの先輩だ。うわさはかねがね聞いてるぞ。今日の演習は好きなだけ暴れまくっていいからな」
ニコッといい笑顔で班長さんがそう言った。ロイナスの先輩らしく、とても明るい性格のようだ。だがロイナス、どういう内容を伝えたんだ?というか、私暴れること前提なのね。
「それなら遠慮なく。私はグループを外れての行動もあるので、その時は二人の事よろしくお願いします」
「おう、任せとけ!」
そう言って私はユキたちの元に戻る。戻った後はひとしきり人数が集まるまで待ち、先生方の話があった後移動用の馬車に揺られてるだけだったので特に何か起きるようなことはなかった。しいて言えば班長さんがとても馬車酔いしていて心配になりました。
馬車酔いした時は魔法で浮かせてあげて体調も良くなったので結果オーライ。ビックリされたことに関して私はもう何も思わないぞ。
いつぞやの王都に来た時の草原を抜け、余り整備のされていない林道に入る。途中で何度か馬の休憩のために止まったりしていたが、意外と早くお昼ごろにはレイアート領についた。
「んー、久しぶりの匂い。やっぱ安心するわ」
「そういえば、キリアちゃんの家って魔の森の中だったんだっけ。もしかしたら演習の時に寄れる?」
「いや、家は魔の森の中心部にあるから難しいかもなぁ。今回行くところは浅いところだし。行こうと思えば行けるけどね」
「あはは…」
一人事情を知っているユキだけが苦笑をする。まぁ、あんな光景誰にでも見せられるわけがないよね。特にアリスは喋っちゃいそうだから言えないかな。
「おっし、ここで昼休憩にすんぞー。馬車の周りなら使っていいから各自で協力して昼めし作れだってよー」
「はーい」
と言っても、私達は自分で作った弁当があるんですけどね。先輩方は持ってきた材料で野営をするらしい。
馬車の積み荷の裏に乗って、三人でお弁当を食べる。
「いただきまーす」
「わぁっ!今日は焼きおにぎり!?」
「うん、アリスこの前から食べたいって言ってたでしょう?ついでだし入れておいたんだ」
「ありがとう!」
中に入れておいた焼きおにぎりをアリスがニコニコ笑顔でパクッと頬張り、味わってから更に笑顔を深くする。可愛い。
「美味しい!」
「そう、良かった。まだまだあるからゆっくり食べるんだよ」
「うん!」
早く食べて詰まらないように言ってから私もゆっくりをお弁当を食べ始める。うん、我ながらいい出来。
お昼ご飯を食べなが領内を見渡すと、所々に獣人や人間以外の種族の人たちがいるのが見える。この前の奴隷にされてた人達の一部かな。
犬の獣人の親子が、町の花屋さんで笑顔になっている。子供が一輪花を買ってもらい、おまけで髪に小さめの可愛い花を挿してもらったようだ。とても微笑ましい光景である。
「ここも見ないうちに変わったね」
「人間以外の人が増えたからね。でも、こういうのっていいよね」
「うん…」
和やかな空気に包まれながらご飯を食べ進めていくと、後ろからにゅっと顔が現れる。私はびっくりしてのけぞるも、その正体に気が付いて慌てて体勢を取り直した。
「うまそうだな!」
「は、班長…驚かさないでくださいよ」
「お、すまんすまん!」
私達の後ろからいつの間にか現れたのは、相変らず明るい班長さんだった。その目はとても見逃せないほどに私の弁当を見ていた。美味しそうなのは誉め言葉だけど普通に言ってほしかった…
「それ、お前が作ったのか?」
「私ですが…?」
「すげーな!あっちにいてもいい匂いしてきたぞ!」
「そうなんですか?よかったら、何かおすそ分けでもしましょうか?」
今日の弁当作りで余ったのとか全部空間の中に入ってるからね。いつでも出せて作り立て。
「本当か!頼む、分けてくれ!」
「イイですよ。同じグループの先輩ですし」
「っしゃあ!おい皆!今年の飯は豪華になるぞ!!」
班長がその場で飛び跳ね、他の先輩方の方へ行ってそう叫んだ。そんなに嬉しいのだろうか。私にはよくわからない。取り敢えず、三人で食事を中断して先輩方の元へ行くと、余り食事の風景には見えない質素な料理ばかりが揃っていた。特に何も入っていないスープに干し肉、そして固そうなパン。生きるための食事のようだ。
「何か欲しい物とかあったら言ってください。余ってたらそれから出していきますので」
「「「「肉!!!!!!!!」」」」
全員一致で肉と叫ぶの、流石です。私は少し笑いそうになりながらも空間の中からあるだけの肉料理を出す。そのままの丸焼きの一部からハンバーグ、鶏肉をゆでたものなど、バリエーションが豊富である。
というのも、色々考えるうちに微妙に食べ切れずに余ったものたちです。先輩方には内緒で在庫処理をしてもらおうではないか。
「!すげー……!!!!」
「やったぞ!今年も味気のない料理ばっかだと思ったが……ようやく終止符が打たれる!!!」
そんな感じで過大評価をもらいながら昼食はみんなでワイワイ食べましたとさ。先輩方の歓喜涙するのはちょっと面白かった…かな?
「諸君!今から魔の森へと足を踏み入れるわけだが、魔の森はいつもの授業とはわけが違う!高ランクの魔物に、変わった環境!どれもが命の危険に密接に関係するものだ!その中で各自、己の力を最大限に発揮し、目標を達成して無事帰還することを命じる!!」
最初の挨拶でクラヴィエント先生がそう高らかに声を張り上げた。あの先生の言う事って説得力が凄いんだよね。雰囲気だけで歴戦の人って分かるからかな?
その後は何人かの先生の話を聞いた後、各グループにそれぞれノルマの紙が配られた。
「俺たちのグループはアイスロックグリズリーの毛皮を5枚集めることだな……これ位なら、ある程度分散した方がいいか?」
どうやら私たちのグループはアイスロックグリズリーと呼ばれる石みたいに固い氷の毛皮を纏った熊の魔物の毛皮を五枚とってくるらしい。簡単なノルマだな。この魔物は発見率が低いというだけであってcランクというそれなりにお手頃な強さだ。ユキたち二人でも十分に戦える。
「いや、この魔物なら分散せずに生息地にそのまま行きましょう。その方が効率もいいですし、何かあった時の対応が早くできます」
「それも分かる。だが、生息地がどこかが分からないだろう?」
「私知ってますよ」
サラッと先輩方の会話に混じって助言を出す。私一応教師ですから。それに、今回ばかりは私情を挟まざるを得ないのでね。早めにノルマは達成したい。
「「「「え」」」」
「ここから北西部の所を2キロほど森を抜けたところに滝がありまして、その滝壺の裏側の空間に彼らが住んでいるところがあるんです。見つかるか分からず行くよりもよっぽど手間はかからないでしょう?」
唖然とする先輩たち。私はこの森のすべてを知っているからね。これ位余裕余裕。10年間の経験を舐めるでない。私はここにいる誰よりもこの合同演習に対してのアドバンテージを持っている。さぁ先輩、存分に利用してくれて構わないよ?
「……………それもそうだな。よし、そうしよう」
「は!?お前正気か?」
「いいから言う事聞け。お前、この作戦にどれだけの自信がある?」
班長さんがしっかりと私の眼を見据えて心の中を覗くようにしてそう問う。自信……絶対、と言っても信頼度が低いからあまり意味はないかな。
「………私の持っているものすべてをかけられるほどには、ですかね?」
「それならいい。お前らも文句はないだろう」
納得してくれた班長さんが何も言えない圧をかけるようにして反対しかけた他の先輩に眼力だけで圧をかける。うおう、流石先輩だ。雰囲気がガラッと変わる。
「それじゃ、早速進むか!俺らもあんまり時間ねーし!」
班長さんがそれまでの雰囲気をぶち壊すように元の口調に戻して森に向かっておー!と叫んだ。私は満足してユキたちの元に戻り、先輩たちの後ろを歩く。
「キリア、やっぱりすごいね……流石って感じ」
「私、キリアちゃんと同じグループでよかった…というか、干渉はしないんじゃなかったの?」
「ちょっと気が変わってね。今回の演習には私情をバンバン挟むことにしたから、よろしくね。勿論みんなの邪魔はしないから安心して?」
「「怖っ」」
ユキとアリスが二人声をそろえてそう言った。私がとってもいい笑顔を浮かべているからかな?ふふっ、だってさ、あんなに言われちゃ私も受けるしかないじゃない?それに、そろそろキリにしたいと思ってた所なんだ…最高学年である4年生に知らしめれば私に突っかかってくる奴もそれなりには少なくなるだろ……!
「何かあったんだね」
「まーね、ちょっと先輩に勝負を吹っ掛けられたから採算度外視でその鼻っぱしへし折ってやろうと思って」
「キリアちゃんってたまにめっちゃくちゃ図太いよね……なんというか、怖いもの知らず?」
そうかな?仕掛けられた勝負は気が乗り次第全部受けてると思うけど。
「おーい一年!はぐれんなよー」
「はーい」
先頭から班長さんの声が届いてきた。私達は森の中に足を踏み入れ、しばらくの間目的の場所まで歩いていくと、急に前を歩いていた先輩が足を止める。
「なぁ、何か変じゃないか?」
「え?」
どこにも変な様子は見当たらない。周りにも敵対している魔物はいないし。どうかしたのだろうか。
「ああ、そうだな…ここまで、何の魔物とも会ってねぇ。魔の森の合同演習と言えばその中に足を踏み入れた瞬間から戦闘の渦中になるもんだからな」
「そうなんですか?」
「一年はまだ来たことないから分からねーか。魔の森は魔物の巣窟、入った瞬間に魔物の群れに遭遇することだって少なくねぇ。だってのに、今の今まで魔物の一匹にも会わねぇんだ。変に思うしかねーってこった」
そう言う事。それなら心配しなくてもいいのに。
「先輩方、別にそんなことで心配しなくてもいいですよ。只々皆の領域に介入してないだけですから」
「は?なんでそんなことわかるんだ」
「だって、この辺りに住んでる皆は基本的に自分たちの住処を荒らされなければあっちから私に手を出してくることはないんです。賢い子たちですから」
「………お前、ここに来たことあるのか?」
「先輩、来たことあるも何もキリアは魔の森に住んでるんですよ」
訝しむような視線を投げてくる先輩にユキが代わりに答えてくれる。場所が良かったね。さっきから無意識に先輩が領域外を縫って進んでるから奇跡的に会ってないだけなんだけど。野生の勘ってやつか。
「はぁっ!?」
「あ、やっぱそれが普通の反応ですよね」
「私も正常で安心した」
「おいおいお二人さん、ちょいとそれは酷いのではない?」
「「ないない」」
そんなぁ。驚愕にあふれる先輩方をよそに、私達はそんな茶番を繰り広げる。住んでるもんは住んでるんだからしょうがないじゃーん。ね?
「ちょ、おま、なんつった??????」
「ですから、キリアはこの魔の森に住んでるんですって」
「そうですよー。ま、そう言う事なので上手く飲み込めなくても理解しててください。その分、後悔しないようにちゃんと結果は出しますから。さ、行きますよー」
呆けている先輩たちの背中を押して目的の場所へ私たちは歩いて行ったのだった。
ドドドドドドドドドッッ!!と、急降下した滝の水が滝壺に打ち付ける音が耳を包む中、私達はようやく目的の場所にたどり着いた。道中、元に戻った先輩方に質問攻めをされたが、それはユキに助けてもらいながらなんとか乗り切った。少し納得しきれない点もあるらしいが、それとなくは理解してくれました。
「で、お前が言ってた所ってここだったか?」
「わぁ……凄い光景……!」
「湿気すげーな……」
「そうですね。あの滝の裏に彼らの巣があります。今の時間帯だと巣の中で涼んでいると思いますよ」
「んじゃ、行くか」
先輩たちが動き出そうとする前に、私はその行動を制止する。
「あ、ちょっと待ってください!これ、渡しておきたいんです」
そう言って私が空間から取り出したのは、両手ほどの大きさの蜜色の液体が詰まった瓶と、花の香りがする袋だった。
「これ、何だ?」
「袋の方は、人間の匂いをかき消すための袋です。端的に言えば、襲われないためですね。瓶の方は、後で使うのでそれぞれ持っていてください」
「あ、あぁ」
私は必要なものを渡してグループの後ろ側に戻る。
先輩方が各自、雰囲気を変えて各々の武器に手を伸ばす。ゆっくりと警戒しながら滝の裏側に近づき、滝の裏にある大きな洞窟の中を覗き込んだ。
「…………暗くて見えねぇな。松明……は水あるから無理か。誰か、魔法使える奴いるか?」
「はい。光球です」
ぽうっと魔力を灯した球形の光を送る。すると、洞窟の中が明るく照らされる。ごつごつとした岩壁にぴちょんっと天井から滴り落ちる冷たい水。まさに洞窟と言うにふさわしい成りだった。
「お前…ホントに何でも出来るんだな」
「ここで暮らしていくにはこれ位できないといけないですから。昼間なのに夜みたいに真っ暗な場所とかありますし。さ、早いところ毛皮、貰っちゃいましょう」
驚く先輩たちを誘導するように中に進ませる。ひんやりとした空気が辺りを包み込む中、光球の光を頼りに進んでいくと、ある所からグルゥ……と唸るような声が聞こえてきた。そろそろかな。
「総員、武器の順b…………」
「あ、しなくてもいいですよ。さ、もっと進みますよー」
「え、あ、ちょい!」
「先輩方、諦めたほうがいいですよ。キリアの言うことはそこら辺の猟師よりも絶対ですし」
「そう…か?」
猟師よりも……?いや、流石に対魔物の罠とか、本当に技術が必要なものは私は劣るけどね。流石に記憶があるからって、10年などという短期間で何代にもわたる技術の賜物に叶う訳がないじゃない。
「あ、いたいた。皆ー、久しぶりー!」
「グルワァッ!?…スンスン……ガウッ!」
「あははっ、冷たいってば!」
私は洞窟の奥で構えていた白熊……アイスロックグリズリーたちに手を振る。最初は臭いが分からなかったのか、警戒していたがすぐさま私に飛びついて顔を舐めたりとじゃれついてきた。巨体が乗っかっているが、そんなこと私は知らない。耐えれてるんだからね。
凍ったような彼らの毛皮から発せられる冷気がヒンヤリと頬をかすめる。
「な、なぁ、一年、アイツって…いつもああなのか?」
「「そうですね」」
「えぇ……」
「もう…いつも通りにやらかすんだから……まったく」
後ろで変なことを言ってるユキ?後でどうなるか覚えておきなさい?まったく……
私はじゃれているアイスロックグリズリーを撫でながら、洞窟の奥で居座っている一回り大きく、銀色の毛並みを持ったアイスロックグリズリーに視線を向ける。
見た目からして少し老いた、この群れの長だ。この種族の中で頂点に立っている。それがあのアイスロックグリズリーなのだ。
「久しぶり。体調は大丈夫?」
「グルゥ。ガウッ」
「そう、それは良かった!皆もここに引っ越してきてからもう2、3年くらい経つもんね」
「ガァウ……ウゥ、グアゥウ?」
「あ、今日はね、皆の毛皮を分けてもらいに来たの。ちょっと必要になっちゃって。5人分くらいいるんだけど」
「グゥッ?」
「うん、ちゃんと持ってきたよ」
私は先輩たちそっちのけで長と話し、ちゃんと交渉を取り付ける。承諾してくれた長が「グルルゥ……」と低く声を出すと、群れの中でも特に毛並みのいい5匹が私の前に出てきた。
「先輩方、ユキ、アリス。持ってるその瓶の中身あげてみてください。大丈夫です、この子たち賢いので襲ったりしないですから」
「あ、あぁ……うん…………?」
「やったぁ!それって、ついでに触ってもいいの?」
「いいんじゃない?はい、どーぞ」
まだ慣れない先輩に対して、もう慣れ過ぎている二人は臆することもなくアイスロックグリズリーたちに近づいてその中身をあげる。アイスロックグリズリーたちはその中身に目を輝かせて二人に飛びつく。
それをものともしない二人。さっすが、私の魔法とかを受けて鍛えてきただけある。
「えぇ……今年の一年化け物揃いすぎねぇか?」
「そうだな……でも、今年は怪我もなく演習を終われそうなんだ。それでいいんじゃね?」
「それもそうか。命を無下に奪うのもあんまりだからな」
先輩方もだんだんと納得してきたのか、諦めて瓶の中身をアイスロックグリズリーたちにあげるようになった。肩に手を置かれてめちゃくちゃ重さに耐えてるけどね。4年生よりも私のクラスの方が強い気がする(親馬鹿)
「わぁっ!?え、ちょ、ナニコレ、急に光りだしたんだけど!?」
「わわっ、こっちもだ!」
始めにアリスがあげていたアイスロックグリズリーの体が急に光りだす。続けて、ユキのほうも、先輩方の方もだんだんと光始めた。そして、光が収まると、皆の手の中にはそれぞれふさふさのアイスロックグリズリーの毛皮があった。
「え!?なんでアイスロックグリズリーの毛皮が……?」
「うんうん、成功しましたね。ありがとうね、皆!」
私は手伝ってくれた皆の頭を順番に撫でる。その体には、元の物と同じ……いや、それ以上の毛並みになってご機嫌の様子だった。
「ど、どうなっているんだ?」
「あ、それはですね、キングハニービーから譲ってもらった特上の蜂蜜ですよ。希少種であるハニービーの女王、そこに突然変異で雄が成り代わると作られる蜂蜜は摂取した生物の一部を生まれ変わらせることができるんですよ。今回は毛皮だったので、生まれ変わる前のもういらなくなった毛皮はこうしてもらえるんですよ。生まれ変わった後は蜂蜜の効力でさらに質が良くなるのでウィンウィンの関係として取引させてもらってるんです」
「す、すげーな……」
結構前からやってたからここの長とはそれなりに長い付き合いかな。
「さて、目的も果たしましたし、戻りましょうか。きっと一番乗りですよ」
「そうだね。ありがとう。ええと、熊さん?」
「グルァゥッ!」
アリスは呼び名に困りながらも、何気に頭を撫でていた。まぁ、撫でられている方もまんざらではない様子だからいっか……
私達は長に一度礼をしてから洞窟を出た。再び滝が打ち付ける音が耳を包む。
「やー、何から何までまだ脳が追い付いてねぇ……俺らの出番全くなかったじゃねーか」
「いやいや、まだまだありますよー。さて、私はここから別行動させてもらいます」
「「「「「「ええぇっ!?!」」」」」」
「私にはまだやることが残ってるので。あ、皆は先に帰って待っててください。心配しなくてもちゃーんと時間までには帰りますから。あ、ユキ、これ持っててね」
「あ、うん、行ってらっしゃい」
私は驚く皆をそこに置き、あるものをユキに渡してふわりと空を浮く。
「それじゃあ、またあとで会いましょう。…………帰り道には、どうぞお気を付けて」
「え、あ、うん」
「「………………?!??!」」
「ん?どうしたお前ら」
「い、いや…何か悪寒が……」
「なにこれ……鳥肌止まんない」
「お、おい大丈夫なのか?!」
人聞きが悪いな。二人の勘が異常に良いだけだよ。そろそろ悪戯が勘だけで見破られそうで怖いなぁ。ふふっ。さて、私は私で決闘に全力で勝ちに行きますか。
そして、魔の森の深部へと方向を変えたのだった。
日の差さないほどの樹木の絡み合った空間で、私はただひたすらに襲い掛かってくる魔物を殲滅していた。私よりもゆうに20倍ほどの体格の大きさをもつ大蛇や鷹、毒性のある鱗粉を大量に撒く毒蛾など、それはもう子供が入るような場所ではない場所に。
ここは大体Sクラス級の魔物がぞろぞろと出るところだ。その代わり、倒したドロップアイテムは他と比較するまでもない一級品が揃っている。そして、なぜわざわざここを選んだかというと、最近ここで暴走化&突発的な大繁殖を起こしているという情報が入ってきたからだ。
生態系を守るのも私の仕事。そして、今の私にとっても都合のいい状況だ。これを機に、材料の確保と決闘分の素材を集めようという魂胆である。
「って、言ってもなんでこんなに量が多いんだか……はぁ」
魔物側も魔法を使ってくるため、戦況はぐちゃぐちゃ、ぼっこぼこの地面でやらなければいけない。とっても足場が悪いのだけど……それを直す暇もないんだわ。
右から高速で飛んでくる見えない魔法を気道を逸らして跳ね返し、他の方向に向けて炎の龍を穿つ。足元からは地面を掘って襲ってくる奴もいるし、上空は羽を持った魔物が機をうかがっている。地上にも勿論、魔物はうじゃうじゃいるし、行きつく暇もないという訳だ。
「ふんっ!」
地面に埋まっている魔物をあぶりだすために地面に向けて強烈なかかと落としをする。すると、ビキビキッ!と地面に大きくヒビが入り地面が衝撃を外に逃がすように、爆発するかのように盛り上がって岩の破片を飛び散らせた。
それに合わせて地面に潜っていた魔物たちが地上に姿を現す。私はその位置を見逃さず魔力糸を操作して地上の魔物たちが放ってきた魔法の着弾点に潜っていた魔物たちを移動させる。
見事に魔法が魔物にヒットし、衝撃波が辺りの木々をざわざわと揺らす。
「まとめてかかってこい!全員正気に戻るまで相手してあげるからさぁっ!」
全方位に隙間なく魔法の弾幕を張る。大きい図体の分、的野当たり判定が大きくて助かるな。勿論、素材として生かせる部位は傷つけないよ。ただ、苦しみを与えないように一瞬で命を刈り取るだけ。
「グゥアッ!?!」「シャーーッ!?」
「殲滅完了っと……これ位かな?」
辺りに散らばった魔物の素材、もとい死体を空間の中に入れてそれぞれ処理をする。食べられる肉はまた今度使うとして、討伐照明部位と使えそうな素材を仕分けして…よし。
「んー…そろそろ時間か。戻ろっかな」
光が届かないせいで時間の感覚が狂いそうになるけれど、そろそろのはずだ。この森を抜けてみんなのまっている場所に戻ろう。そう思って、その場を歩きだそうとした時だった。
「———ァァアアァ…!!—————」
「!?」
背筋に悪寒が走る。耳に届いたその森に響く残響に聞き覚えがあったからだ。私は咄嗟にその場を駆け出す。嫌な予感が当たってしまわないように願いながら。
読んでくださりありがとうございます!
(略)グリズリー長「『久しぶりだったが、見ないうちに少し背が伸びたかのぉ……それになんだか髪色も変わったような気が』」
ハニービー「『それ、違う人でしょ』」
グリズリー長「『おや、そうだったか』」
暗い洞穴にいるから目が悪い長。
次話は、森に響いた悲鳴の主とは!?なんだか嫌な予感がする……こういうのは当たってほしくないんだけど!




