帰宅 ーキリア目線ー
今回は、サラッとレヴィアに重要な情報を教えられたキリアちゃん。帰った後にはご褒美()が待ってるよ!
それってレヴィアにも見られてたくない何かがあったっていう事だよね?女の子が何しているかは知らないけど、見に行ってみる価値はある…かな?
「ん?お姫様、どうかしたの?」
「だから、お姫様じゃない。バカみたいなこと言わないで」
「はぅぅ…」
冷たく返すと、またまたレヴィアが頬を赤らめさせてこちらに手をワキワキとさせながら近づいてくる。
結界を張ってゆく手を阻もうとすると、シュンと見えない尻尾を下げた子犬のような表情をする。レヴィアがやっても打算だらけの行動にしか見えないけどね。
「何か特徴とか見なかったの?」
「知らん。オレはお姫様以外見ていないからな。ただの人間の子に特徴も何もないだろう。」
「お前ねぇ…」
全世界の女子に殺されても知らないぞ。レヴィアが興味がないとでもいうようにさっきまで赤らめていた表情を消してそっぽを向く。顔はいいのに、こういう所が残念って言われるんだぞ。
ジト目でレヴィアの事を見ていると、目をキラキラとさせながらこちらを見つめてくる。
「あ、こんなことしてる暇ないんだった。早くギルドの人たちの所に行かなくちゃ」
「え、俺の事は無視?」
「やることないんだったらさっさと帰って。ここにいても他の人混乱させるだけでしょ」
「えーやだー。オレはお姫様のそばにずっといるんですー」
レヴィアがむすっとしながら、いともたやすく結界を割って抱き着いてこようとする。急な事に避け切れず、捕まると、、触れられているところからさぁぁっと体が冷え切るのが分かる。
レヴィアは竜族の中で水を操る竜であり、その体は触れたら凍ってしまいそうなほど冷たい。なので、簡単に私の体温を奪っていくのだ。殺す気か。子供から体温を奪うんじゃありません。
「は・な・れ・ろ!」
「はー、お姫様は暖かいねぇ……」
「やめろキモイ!!」
すりすりと私のお腹にレヴィアが顔をこすりつけてくる。さっきから体中のゾワゾワが止まらない。心の底から気持ち悪いと叫んでいるのが自分でもわかる。
プツと小さく何かがキレる音がする。
「火山にでも突っ込んでやろうか?」
「キャーこわぁーい」
レヴィアの首元を掴んで無理矢理体から引きはがす。竜族の弱点である首元を掴まれても、微動だにせず棒読みでこんなことを言ってくるものだから堪ったものじゃない。
「っと…早く里に帰って嫁探しでもしてろっっ!!」
「えあ?」
体を起こし、竜族の里があるであろう方向に向けて全力でレヴィアをぶん投げる。反論を与える隙も無くやったので、これでしばらくは戻ってこられなだろう。大人しく里まで飛ばされてくれるといいんだけど。
手を叩きながら、ギルドの裏口の方に足を向ける。まだギルド内に怪我人は沢山いるのだ。早く治してあげなくちゃ。
「はい、これでもう大丈夫ですよ」
日暮れになり、もうそろそろ夜が迫る時間になる頃。私はギルドにいる怪我人の治療を終わらせて、広場の方で治療を進めていた。もう何人治したのかは覚えていない。
パチパチと焚火の火が跳ねる音と、治し終わった人の寝息が辺りを包む。
包帯を全て取り外すと、手に負っていた怪我が治ったドワーフが感極まった様子でただただ感謝の言葉を述べていた。
「あんたは凄いねぇ…………もう治らないと思っていたもんだが、こんなにも容易く治しちまうなんてよ」
「えへへ…ありがとうございます。職人の手は大事ですからね。これからは大事にしてくださいよ?」
「ああ、アンタに貰った手だ。有り難く使わせてもらうよ」
涙目になりながらドワーフは治った自分の手を握り締める。ドワーフたち職人にとって手は生活していくうえで命に等しいと言っても過言ではない。
そんな手を治してあげられたのだから、私としても嬉しいことに変わりはないのだ。
「キリア」
「あ、ギルマス。そっちは大丈夫?」
「ああ。お前のおかげだ。今年も死人はゼロで済みそうだな」
「よかった……」
ギルドの方からギルマスがやってくる。
あれからレヴィアの身内として扉の修理代や諸々は払わされたものの、ギルドにいる人たちは全員無事。妖精の子も、その後目を覚まして帰っていったらしい。
妖精の子には申し訳ない事をしたので謝りたかったが、妖精樹に戻ってしまったのか、姿が見当たらなくなっていた。
ヴァイスさんは、まだ目を覚ましていないらしい。が、容体も元に戻って今は気を失っているだけなので安心してもいいだろう。
「誰か倒れた人とかはいない?」
「いないぞ。皆お前からのお説教を逃れるためにちゃんと交代で仮眠を取っていたからな」
「お説教って……ま、無理していないならいいんだけど」
「それより、お前の事の方が心配されていたぞ」
「え?」
説教云々には少し引っかかったものの、心配されるようなことは生憎していない。無理して魔法は使っていないし、あれから神力も使っていない。何ならまだ半分くらいは魔力が残っている。
確かにあれから何も口にしてはいなかったけど、そこまでお腹が減っているわけでもないし……
「『来てくれてから動きっぱなしで、休むこっちが何だか申し訳なく感じる』とな」
「確かに休んではなかったけど、そのくらいでへこたれるような体力は持ち合わせていないんだよねぇ……まぁ、心配してくれたなら気持ちだけ受け取っておくけどさ」
「ほどほどにして帰りなさい。ここからは私たちだけでも大丈夫だ。それと、王都にいる者を待たせているのだろう?心配させないように」
むぅ。ギルマスにそう言われてしまったら早めに帰らなくちゃいけないな。エルさんは就寝までって言っていたけど、日が沈み切る前には帰らないと。転移使えば一瞬だからできるだけここにいるけどね。
「はーい。後何かやることはある?必要なものとかあったら作るけど」
「いや、今は特にないな。お前の持ってきてくれているものでこの町は成り立っているといってもいいのだ。これ以上貰ったらバチが当たりそうだからな」
「当たらないよー。それに、私はギルドに卸しているのであって町に直接渡している訳じゃないから。そう使うかはギルマスに任せているでしょ」
私が魔の森で取ってきたものや作ったものはギルドに卸しているだけだ。町に直接寄付したりはしていない。タダほど高い物はない。どんなに安い物でも何でもいいから対価を要求するというのがフリスアの信条だ。
『ちなみに、家の財政管理は全て僕が行っています☆小遣いは必要以上与えません!byフリスア』
「卸した時の報酬はちゃんともらっているし、バチなんて当たるわけないじゃん」
それに、私がそんなこと許すわけない。神様特権と言うものだ。ギルドは報酬に見合った対価を必ずくれるし、ギルマスは足元を見てこないから取引もしやすい。私が領に直接卸さないのもそのためだ。
領主に直接卸でもしたら一生搾り取られるのは目に見えている。ただでさえここは豊作が続くようになっているのだから、私がいなくても十分やっていけるようにはなっているのだと思うけどね。
「ま、夜までには帰らせてもらうよ。エルさんは心配なんてしていないと思うけど、マナハとナイザもいるからね」
「…………キリア、また誰か拾ったのか?」
「拾っていな……い、と思う…けど。あ、そういえばギルマス。ばk…領主様が王都に行く前にここから誰か連れて行かなかった?女の子と男の子」
マナハとナイザは体に奴隷紋が付いていたはず。となればここから連れてこられたと考えるのが妥当だろう。体質については全く見当もつかないけど、ギルマスが見ていてくれていたら何かわかるかもしれない。
「男の子と女の子?はて…いなかったと思うが。連れてこられた者の中にも沢山おるし、まだ正確な人数は確認していないからな」
「そう……」
「まぁそんなに気に病むな。その子たちは今王都にいるのか?」
「あ、うん。今はエルさん……私についてくれているメイドさんに任せているの。声が出せないみたいだけど、とってもかわいいんだよ」
あぁ、天使たちはもう起きているだろうか。そういえば今日はまだスキアにもあっていない。朝からいろいろあり過ぎたせいで朝の挨拶もしていないや。
考えれば考えるだけ早く戻らなくてはいけない理由が増えていく。
「……それなら、早く帰ってやると良い。待っているものがいるのだ」
「…………任せてもいい?」
「ああ。任せておけ」
短くそれだけ言ってから、その場から転移した。
すとんと王城の自室の床に足をつける。部屋の中は少し薄暗く、夕日の色が埋め尽くしていた。ベッドの方に目線をちらりと移すと、そこにはまだすやすやと眠っている天使二人の姿がある、その隣で、二人の手を握りながら寝てしまっているエルさんの姿も見えた。そしてその隣に黒い髪が見える。もしや…
そーっと音を立てないように覗くと、そこにいたのはやっぱりスキアだった。幸せそうな顔をして眠りこけている。今日一日で疲れたのかぐっすりだ。
「~~~~~~~~~っっっ!!!」
何とか手で口を押えながら叫びたい声を押さえる。
天使が……天使たちが寝てる……!!!ここは天国?私死ぬの?いや、今なら死んでもいい!
床の上でゴロゴロしたい。この喜びを誰かに……!!
起こしてしまわないようにそっと離れ、部屋から出る。
「何あれ可愛い…!」
「だよねぇ…………」
「!?」
隣からポツリと私と同じように呟く声が聞こえてくる。ビックリして思わず振り向くと、そこにいたのはこの国の王太子であるレオンだった。何でここに!?
いや、ここ王族の棟だからいても不思議ではないけど、中の状況を知っているってことはまさか、私の部屋に入ったの…!!?
「レオン兄さま何故ここにいるんですか!?」
「え、悪いか?」
「そーじゃなくて!」
サラッと受け応えられて少し悔しい。何でもないようにここにいるということは、いつからいたのだろうか。と言うか、レオンは私の魔力持っていないのにどうやって中の様子を?
スキアと一緒に中に入ったのか?でも、ここにいる理由が分からないし…
「そうではないというのなら何だというのだ。私がここにいても別に不思議ではないだろう」
「ないけどね!何か用事でもあった?」
「いや、アレクがお前の事を探していたからな。ここにいれば帰ってくると思っていたのだ」
「アレク兄さまが?」
確かに、自分の部屋には帰ってくるからその判断は正しいと思うけど、何故アレクじゃなくてレオンが…要件は棺に関してかな?私もう少し天使たちを眺めていたいのだけど。
先ほどの奇跡ともいえるような光景を思い出していると、ニヤニヤと口元を緩ませながらレオンが見てくるのに気が付く。
「私の妹も可愛いねぇ……」
「兄さま気持ち悪い」
「反抗期早くないか!?」
あ、レヴィアと話していた時の感覚が抜けてない。ついつい本音が…と言うか、反抗期じゃありません。
ただただ事実が口から出てしまっただけです。
心の中で、レヴィアに似ているなぁと思いながらもレオンの事には耳を傾ける。レオンはまだ話が通じる。本当に変な性癖とかを持っていなくてよかったと思う瞬間であった。
「と言うか、私が来たからもうレオン兄さま用はないんじゃないですか?」
「まぁ、そうだね」
「なら早く帰ってください。どうせやること溜めて抜け出してきたんでしょう」
「…何故わかるのだ?」
どうやら、心底不思議そうにしているらしい。何故かって?答えは簡単。廊下の先で護衛さん達がそれぞれ痛むところを押さえながら、焦った様子でこっちを見ているからだよ。
どれだけ護衛さんの頭と胃を痛めさせれば気が済むの…
「護衛さんが困っているから」
「…………あいつら、いたのか」
私の視線を辿ってレオンが護衛さん達の方を見る。はぁ。と一つため息をついたかと思えば何事もなかったかのようにこちらに視線を戻してきた。
おいおい、無視してあげるな。護衛さん達涙目になりながらがっかりしてるよ。
流石に可哀想になったので、護衛さん達の方に向けて手招きをする。気が付いた護衛さん達は、それぞれ頭と胃を抱えながらこちらに少しづつ寄ってくる。廊下の壁に全体重をかけながら殆ど這うように。
「レオン兄さま。やりすぎだと思います。そろそろ護衛さん寝込みますよ」
「……………………」
「視線を逸らすんじゃありません。ここまでついて来てくれているんですから、少しは彼らの胃と頭に負担をかけないで上げてください」
レオンがフイッと顔を逸らして、私の言葉を聞かないようにそっと耳に手を当てる。これは本当に年上なのだろうか?不貞腐れた子供に見えるのは仕方がない。
そのあいだにも、護衛さん達が何とかこちらに寄ってくる。いかんいかん。ゾンビみたいだと思ってしまう。
「仕事したくない……………………」
「溜めるのがいけないんでしょう」
「はぁ~…誰かが代わりにやってくれないかなぁ」
サッと私の背中に隠れて身を隠すように小さくなる。ま、私の方が小さいから隠れられていないけど。
背中側から肩に手をかけられる。背骨辺りに頭をぐりぐりとこすりつけられて痛い。そんなに嫌がるなら普段から早めに仕事を終わらしておけばいいのに。ルアナか。
「やらないですよ。自分の仕事は自分でやってください」
「えー、代わりにやってくれないのか…?」
「誰がやりますか。ご自分でやってください。それと、後ろに回らないでください。邪魔です」
ぎゅうっと肩を掴んでくるのを引きはがし、レオンの背中を護衛さん達の方に押す。いい加減天使たちに囲まれて癒されたいから早く連れて行ってほしい。レオン邪魔。
足をもつらせながら、レオンが護衛さん達の方に倒れこむようにして突き飛ばされる。
「わっとと…お前なぁ…」
「さっさと連れて帰ってください。何かあれば明日の午前中くらいなら聞きますよ。夜に来たらもれなく締め出します」
「「ありがとうございます……」」
レオンの言葉を無視して護衛さん達に声をかけると、少し涙目になりながらこちらに手を伸ばそうとしてくるレオンの肩をもう逃がさないとでもいうようにがっしりとつかんで深々とお辞儀をしてくる。
この人たちの胃と頭がこれ以上悪化しないようにお願いしておこう。治しても治しても再発しそうだから魔法は掛けてあげない。
そのまま、レオンを引きずって護衛さん達は帰っていった。相変らず王太子の扱いが雑なのね………
呆れるような溜息を小さくついて、部屋の中に戻る。そろそろ起こしてあげないと逆に夜眠れなくなってしまうだろう。
「おーい。スキア、マナハ、ナイザ。そろそろ起きないと……………………」
扉を開けながら寝ている三人に声をかけると、それよりも先に目に入ってきたものに目が留まる。さっきはベッドの影に隠れて見えなかったけど……………………
ベッドの横に、見覚えのある白い…棺が置いてある。そしてその中にはとても幸せそうに眠る男の子が…………もしかしなくても。アレク…だよね?
「レオン兄さまだけ残していったのかと思ったら部屋の中にいたのか………………いや、何で棺の中!?」
「んんぅ………………あれ、キリア様…?お帰りなさい」
「あ、ただいま帰りましたエルさん」
納得の後に少し遅れてきたツッコミを入れると、その声で目が覚めたのか、エルさんが眠たそうにしながら声をかけてくる。極々普通にただいまと返している場合じゃない。
どうしてスキアがこの部屋にいるのはまだしも、アレクまでこの部屋にいるんですかね!可愛いけど!頭が追い付かないよ!可愛いけどっ!
「ほらほら皆さん…起きてくださいよー」
「っは、そうだ。スキア、マナハ、ナイザ、アレク兄さま。起きないと夜眠れなくなりますよ」
エルさんが寝惚けながらゆさゆさと隣で寝ている3人を起こそうとする。それを見て、私も棺の中に入っていたアレクを引っ張り出してその頭を揺さぶる。とても気持ちよさそうに寝ているので、夜にちゃんと寝られるかが心配だ。
少しの間、4人が意識の浮き沈みを繰り返していると段々と目が冴えてきたのか閉じていた目蓋が上に持ち上げられていく。
「………………んぁ…キリア?」
「はーやーくーおーきーてーくーだーさーいー」
「わわっ!?な、何だ急に」
ずいっと顔を近くに寄せると、アレクはそれで目が完全に覚めたのか目を見開いてビックリとしていた。寝起きドッキリとまではいかないが、目を覚まさせるのにはこれが一番である。
誰だって、起きた瞬間にいなかったはずの人が目の前で顔を覗き込んでいたら、否が応でも目が覚めるからね。私だってそうだ。
「んー。起きませんねぇ……………………ふわぁぁあ」
「じゃあ、今日はそのまま寝かしておきましょうか。で、アレク兄さま。要件があるのなら15文字以内でお願いします」
「…………手紙が来ていたから渡しに来たぞ」
ホントに15文字。漢字にしたらの話だけど。渋々と言った感じでアレクが棺の枕元から手紙を出してくる。普通に取り出すことは出来ないのか。どうしたら私宛の手紙を、アレクの棺の枕元にしまうことになっているんですかねぇ。
しかも、棺にいつの間にかポケット作られている。あれ、よく見たら色々と改造されてない?私の知らぬ間に………アレクのだからいいけどさ。
「誰からなの?」
「知らん。やること終わったから、俺はこれで」
「あ、うん」
そう言い残して、棺を抱えながらアレクはそそくさと部屋から出て行った。え、あれめちゃくちゃ重たくなかった?改造した時に軽量化でもしたのかな…
色々と疑問が残りつつも、アレクを目線だけで見送り再びベッドの上で寝ている天使’sたちの方に視線を戻す。
エルさんがゆすって起こそうとしても、3人は起きる気配すらない。余程疲れているのだろう、ぐっすりだ。
「キリア様、どうしますー?」
「3人とも起きる気配がないからこのまま寝かせてあげようかなーって。エルさんはどうします?」
「さすがに私はメイドなので謹んでお断りさせていただきまーす。あ、スキアは連れて行かせていただきますので」
「えぇ………」
エルさんが目をこすりながらスキアの体を簡単に抱き上げてその場から立つ。今日は天使たちに囲まれて寝られると思ったのに…残念だけど、従者としての立場もあるから仕方がないよね。
また今度お泊り会でもやろう。その時ならに一緒に寝ても問題はないはず。
「キリア様、御夕飯はどうなされますか?」
「あー…………明日の朝に回します。今日はもう眠たいのでこのまま朝まで寝てしまおうと」
「体調は崩さないでくださいね?それでは、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
少し私の事を心配してくれながらも、エルさんは部屋を出ていく。
ぱたりと扉が閉まり、部屋の中にはマナハとナイザの寝息だけが聞こえている。二人にベッド使わせたから今日はソファーかな。寝られる場所ないし無理矢理中に入っていくのも気が引けるからね。
取り敢えず、寝る準備をする前に手紙だけ読んでおこう。誰から届いたのかも知らないし、何か大事なものだったら早めに読んでおかなきゃ。
「えぇっと、何々?」
手紙の封を開け、中身を見る。
『拝啓、前略。初めまして神子様?メルから話は聞いております。明日の14の鐘がなる頃に、王城の訓練場でお待ちしておりますので。
エルキアス・エル・レイアートより
追記 弟がお世話になったようで。これからも仲良くしてやって下さい』
「…………………………………………」
数十秒。意外な人からの手紙に唖然としたままその場で硬直する。エルキアス様って、うちの次期領主で確か紅莉さんの婚約者…今回学園に編入することになって剣術を教えてもらおうと紅莉さんが頼んでくれていたんだっけ。
明日で7月に入るから、編入試験は後一週間の7月7日。剣術を一週間で体に叩き込む何て、できるのかなぁ……………
「と、取り敢えず、何か返事でも書いておいた方がいいのかな…でも、明日直接会うって言っていたし、書かなくてもいいのか?あぁ、どうすれば…」
対処の仕方にどうするべきか頭を悩ませていると、不意にコンコンと扉をノックする音が聞こえてくる。エルさんが忘れものでもしたのかな?
手紙を机の上に一旦置き、扉を開けると、見上げた先に見えたのは緑の長い髪ではなく、濃い青色の短い髪。廊下にいたのは、エルさんではなくユキだった。
「あれ、ユキ。どうしたの?」
「キリア!…いや、王太子殿下からキリアが帰ってきたって聞いたから…」
「?ただいま……?」
はぁはぁと息を切らしながら、ユキが扉に手をつく。答えが疑問形になってしまったのは、どう答えればいいのかが分からなかったからだ。レオンから聞いて飛んできたっていう事は、ユキも何か用があったのかな。
ユキと会ってから数時間くらいしか経っていないけれど、その間に何か厄介事でも?
「何かあったの?」
「いや…………そういうわけではないんだけど」
「?」
言い難そうにしながらユキが頬を掻く。どうしてここに来たのだろうか。いつでもおいでとは言ったものの、特に約束なんかもしていなかったからビックリ。
王城内でドタバタ騒ぎも起きてはいないみたいだし、困ったことでもあったのか?
「取り敢えず、入って来ていよ。あ、寝てる子いるからあんまり大きな声は出さないようにね」
「あ、うん。…って、寝てる子?」
「ほら、ベッドで寝てる子。ユキが私の部屋に来た後に来たんだ」
「拾ったのか………………」
えー、なんで全員私が拾ったみたいに即解釈するのかなぁ…事実だけど。マナハたちの方から来たから拾われに来た?いや、もうめんどくさいから私が拾ったということでいいや。
ユキを部屋の中に招き入れて、マナハたちが起きないように小さな明かりをつける。茜色に包まれていた部屋の中に白い光が灯る。
「で、要件は?」
「あ…えっと、キリアに読んでほしいものがあって」
「読んでほしい物?」
「そう。借りた本の中に挟まっていたんだけど、俺じゃ読めなくて」
ユキが差し出してきたのは小さなメモ用紙。丁寧に折りたたまれたそれは、少し時間が経っているのか色褪せていた。
開いて中を見ると、そこに書かれていたのはまごうことなき日本語だった。
一瞬、自分の目を疑う。翻訳スキルで見たわけでもなければ、頭の中でそう解釈しているわけでもない。
……ということは、日本から転生、もしくは転移してきた人が書いたっていう事だよね。一番に考えられるのは紅莉さんと歌奏さんだけど、あの人たちが借りた本にこんなものを残すとは思えないし…………一体誰が…?
読んでくださりありがとうございます!
アレク「お前らも苦労してるな…」(肩に手を置く)
護衛's「「第二王子殿下ぁ…泣泣」」
レオン「何やっているんだ?」
アレク&護衛's「「「誰のせいだと?」」」
レオン「知らんな」
アレク&護衛's(((こいつ……)))
振り回して気がつかない人
次話は、手紙の内容から始まります!一体何が書かれているのでしょうか?




