道を知るもの ーミリアスタ目線ー
今回は、ミリアスタ(歌奏)目線のお話です!月下姉妹の知る道とは一体?
瑠逢ちゃんの部屋を抜け出してきたその後、私と紅莉姉は二人で王都のメルリア侯爵邸にある来客用の部屋にいた。いつも紅莉姉が来る時にしか使っていない部屋だ。
紅莉姉が紅茶の入ったカップをソーサーに置くと、カチャと無機質な音が静かな部屋に響く。
「歌奏、どう思ったかしら」
「………瑠逢ちゃんの事?」
「ええ、あなたの目にはあの子はどんな風に映ったかしら?」
「…至って普通の女の子。って言いたいところだけど、やっぱり異常だった」
普通に見れば何の変哲もない、ころころと表情を変える元気な女の子にしか見えない。けど、本質を知っている私たちからしたらソレは異常にしか見えなくてとても恐怖心を煽るものだった。まさか、あの子があんな風に笑っているとは微塵も予想していなかった。いや、笑っていてくれたらと期待はしていたが本当にそうなっているとは思ってもいなかったのだ。
「…そうね。あの瑠逢さんがもしかしたら製作者かと疑ってはいましたが予想の斜め上を行かれましたもの」
「まさか、あそこまで集めていたなんて思いもしなかったよね。これ本当に始まるのかな?」
「そのあたりに関しては問題ないでしょう。ここまで役者が揃っていて始まらなかったら私ルアナ様の所に殴り込みに行くわ」
まぁ、そうだよね。これが私たちの転生時のルアナ様への望みなんだから。始まってもらわなきゃ意味がない。あの子のためにこの命を使う意味がなくなってしまう。今度こそは助けるんだ。
「そう言えば、【蛇】からの報告は何て言ってた?私の方はまだって言ってたけど」
「………当たりよ。名前は固定で決まっているのね」
「……となると、やっぱり伯爵位に!?」
「ええ。こっちに来た時にあの家が伯爵位だった時は驚いたけど、まさか本当に入るなんてね」
本当に入ったのか………いや、紅莉姉の言う事を疑うわけではないけれど信じられない。本当は男爵領に入るはずだったのにやってのけるなんて……
心を落ち着けるために紅茶を一口飲んでから溜息をつく。
「ちゃんと進むのかなぁ………うちのだって予想以上に冷たい反応してたからちょっと寂しいんだよね」
「いいじゃない。私のほうは人見知り全開の引きこもり一歩手前よ?最近は段々治っては来ているけれどこのままじゃ再発してしまうわ」
あぁ………確か紅莉姉の弟さんはそう言う性格だったっけ。あんまり見たことがないから分からないんだよね…紅莉姉はよく話をしてくれるけどそれだけじゃ分からないし、何よりちょっとしたブラコンフィルターも入ってるから尚更。
「ルイ様の方は相変らずかしら」
「ホントにね…この役が羨ましいなんて言ってくる令嬢もいるけど、そんなに欲しいなら喜んで受け渡すよ…あんなに冷たいと心が折れそうだもん」
「あはは…そんなに言うなら破棄しちゃえばいいじゃないの。今ならまだ間に合うわよ?」
むー………私の婚約者であるルイはこれ以上にない程の冷たい令息で、私に対しての物言いはいつもキツイし私に対いて見向きもしない時期まであったのだ。私も政略結婚だからそこまで望むような真似はしないけれど、いくら何でもアレはないと思う。デリカシー、プライバシーなんて一切関係なしに話してくるのだ。
「いや、私の家の方から申し出たことだから断りにくいのは紅莉姉が一番知っているでしょ?それに、私がこうなるのは決められていた事だし」
「………ま、それなら潔く諦めなさい。どうせあの子はキリアちゃんを狙ってくるでしょうし、それまでに仲を修復しておきなさい。あ、でもキリアちゃんを狙うとなると私も入らないといけないのかしら」
「そうだよ。私たちは全員お仕事だからねー。本当にこの世界に労働基準法とかないの?」
「ないわよ…」
あの子がキリアちゃんを狙えば、必然的に私たちも狙われることになる。となると行動は限られてきてしまうが、今回ばかりはどうなるのかが全く分からないので多少の無茶は許されるだろう。
毎回毎回思うけど、この役は本当に損な事しかない。請け負う人数が他の人より多いせいで、出番も多かったのだ。
「歌奏は一番大変な役回りだから仕方ないわね。あの子が一人だけに集中してくれるならそれに越したことはないでしょうけど、そう簡単にはいかないからね。あの子もきっと全力でも私たちの邪魔をしてくるわ」
「………そうだよね。キリアちゃんがここにいる以上、あの子もきっと動きにくいだろうけど、それでも来ないっていう選択肢はないだろうし」
「あと、歌奏に悪い報せ。あの子も、私たちと同じ記憶持ち。そして、あの道を知っている数少ない一人で確定よ」
………本当に知っているのか。だとしたら不味いなんてものじゃない。最悪の事態だ。記憶持ちと言うことは可能性の中に入れてはいたから心配ないけど、あの道まで知られていたとしたら絶対にキリアちゃんを狙ってくる。それ以外の可能性は無に等しくなってしまった。
裏の道を知っているのは、よほど熱意がありその道を5年以上探し続けた人しかいない。それ以外が知っているとしたら製作陣のごく一部しかいないけど、製作陣がこの世界に来ている可能性はまずない。となると。
「特定は任せたわよ歌奏?」
「…任された。まだ情報が欲しいから集めておいてくれる?」
「ええ、分かったわ」
そう言って、紅莉姉が席を立ち扉の前に行こうとうる。私は紅莉姉の服の裾をつかんでニッコリと微笑んでから優しい声をして問いかける。
「紅莉姉、月下家は?」
「………―――――――――。ね?」
「うん」
言葉には出さずに口だけを動かして合言葉を言ってくる。そのあたりは抜かりないのが紅莉姉だ。それだけ言い残して紅莉姉は部屋から出て行った。再び部屋の中に静寂が戻る。
部屋の中で一人、手で目を覆いながらため息をつき、天井を見上げると一枚の絵が目に入る。この部屋は特別。私と紅莉姉しか入ることのできない女神の使徒の間。
読んでくださりありがとうございます!
歌奏「紅莉姉、めっちゃ緊張してなかった?」
紅莉「そ、そんなこと…」
歌奏「いや、足めっちゃ震えてるし」
紅莉「い、言わなくてもいいじゃない!」
実は緊張してました。
次話は、再びキリアちゃん目線に戻って夜のお話!いい加減ちゃんと睡眠が取りたい…




