自然神としての力 -キリア目線-
今回は、魔の森でキリアちゃんが軽くルアナに説教されるところからです!
「『…ま、まさか…ルアナ様!?』」
ウルファが驚いたように目を見開きながらその名を呼ぶと、「あら〜」と言いながらニコニコしているのは、月の女神でありキリアの義母である、ルアナだった。もっとも、その目だけは笑っていないが…
「もうっ!キリアちゃんったらまた怒って森を壊すところだったでしょう!?」
ぷくーっと頬を膨らましながらむにぃっと両方のほっぺをつままれる。これは…怒られてるんだよね…?
「ご、ごめんなひゃい…」
上手く喋れない口で謝りながら不意にも心が安らぐ。女神様の手だからだろうか…。今にもぷんぷんという可愛くて気の抜けそうな効果音がしそう……と思ってしまったのは内緒。
「まだ力が制御できてないんだから、あんまり無理しちゃダメよ?森が消えたらキリアちゃんにも影響が出るんだからね!」
「うぅ…分かってるけど…ちょっとイライラしちゃって……」
自然神である私の体はこの世界の自然と感覚を共有している。木々であれば髪と感覚を共有しており、世界中の木々が生き生きと健康的に有れば、私の髪も同じように健康的になっているということだ。
流石に髪まで神経は通っていないので自然への影響は全て感情に左右されてしまう。今回私が起こるのと同時に空気がビリビリと振動したり、何も無いのに木々が動き出すのも全て私の感情の揺れが引き起こした事だ。
「そ、れ、で、も!!自分で自分の首を絞めるようなことしないの!分かった?」
「…はぁい」
「…これも、貴女の為なのよ?辛い事を背負わせた責任は私にもあるけど…自分の事は自分で守って頂戴…」
フワッとした表情から一転、悲しむような顔をして私を抱きしめるルアナに少し戸惑いを隠せない。でも、どうしろというのだろう。未だにぐるぐると渦巻くこの憎悪にも似た感情は押し込めることはできそうに無いのに。
「『……あの、ルアナ様……そこまでにしてあげてください……キリア様が……』」
「え?あ、キリアちゃん!?」
気づけば目からぼろぼろと大粒の涙が溢れ出していた。それを見たルアナがあたふたしながら顔を覗き込んでくる。悲しいのと、辛いのと、悔しいので胸がいっぱいになって、抑えようとすると更に涙が溢れてくる。
「うっ…ううぅ…」
「わわっ…どうしよう…んーと、んーと…とにかく寝させてあげたほうがいいかな…!?」
「『ルアナ様……とにかく、今は受け止めてあげてください』」
止めようとしても次々と溢れる涙が頰を伝って次々と地面に落ちていく。濡れた地面からはすぐに新しい芽が生え、涙を受け止めていくたびにだんだんと成長し、一瞬だけ紫色のバーベナの花を咲かして枯れる。
同情…かぁ……花言葉を思い出してはまた悲しさが溢れてくる。
「っと、ルアナ様、キリアを貸して下さい」
「!貴方達…どうしてここに…」
「それは後で説明しますので。とにかくこちらに」
……下を向くままで姿は見えないけど、この気配はフェルア…?それに…フリスアとキリルも……
「っ、分かったわ……」
収まらない涙を拭いながらも下を向いたままでいると、ふわっと優しい感触に包まれる。あぁ…この匂いはフリスアだ……
「キリア、もう大丈夫。僕たちが側に居るから……」
「……ぅぅっ……っ」
優しい手つきで私の頭をそっと撫でてくれる。その手からは、ルアナとはまた違った安心感が胸の中を満たしていく。何かがそっと髪に触れると、急に体の力が抜ける。あれ……なんだか眠くなって……
「少しだけ眠っててね。あとは僕たちに任せて……?」
キリルの……こ、え……?
朧げな意識の中で聞こえたのは優しい兄達の声だった。さっきまで無意識に張り詰めていた緊張感がするすると解けていく。
「ウルファ。お前は仲間を連れて戻ってろ。あそこに戻れば色々と目、覚ますだろ」
「『?はい。分かりました』」
??目を……覚ます…?何のことだろう……眠くて…思考がまと…まらない……
「さぁ、どうしてくれるんだろうなぁ……ルアナサマ?」
そこで私の記憶は途切れてしまった。
「……まさか、あの結界を破る奴がいるなんてね…」
「あぁ、一応強い奴なんだろ?」
「勿論だよ!!僕らが無理矢理入ろうと思えば何とかなるけど…」
…なんだか周りが騒がしい…さっきまで寝ていたのか、体が沈んでしまいそうな程重い。
ゆっくりと目を開けると見慣れた天井が見える。ここは…私の部屋?あと…私ベッドで寝てたのかな……
「あっ、キリア!!」
……これは、フリスアの声…?……そういえば、私さっきまで森にいたはず……なんで部屋の中にいるの……?ウルファは…?
「キリア!起きたんだね!」
視界に映ったキリルが人の姿のまま飛びついてくる。ベッドにダイブして…。
「うぐっ…」
「おいキリル…お前人の姿でキリアの上に乗っかったらどうなるか分かってるよな…」
「はっ!ごめんキリア!大丈夫だった…?」
「な、なんとか……」
目覚めました。今の衝撃で寝れる人なんていない…。一応キリルの体、大人と大して変わらない体つきしてるからね?自分でもよく受け止めたと思う…
大丈夫?と心配しながらもキリルは体の上から退く気配がない。心配するなら退いてくれ……
何とか体を起こしていると、フリスアが思わぬことを口にする。
「それにしても、まさかキリアが泣いてる思わなかったよ…しかも知らない奴の前でね……」
………え……?いやいや、ルアナはフリスアも知ってるでしょ?第一、ルアナのことを知らない人はこの世界にはいないでしょ……?
…どうなってるの?
「……っ、フリスア?ルアナのことは知ってるよね?」
「勿論。僕らのこの世界の創造神であり、キリアの母親。そして今日はいつもの多忙な仕事に追われて神界にいる」
「じゃあ、さっき私の前に現れたルアナは誰なの!?」
思わず声を荒げてむせてしまう。あれがルアナじゃないなら…誰だったの?
「あれは魔法でできた幻影だ。多分闇魔法だろ。そして、キリアの目の前にいたのは、黒髪のキリアより少し背が高い子供だった」
「……子供?」
「そうだよー。女の子でね、僕らを見た瞬間キリアを差し出して逃げちゃったんだけどねー」
……じゃあルアナがかけてくれた言葉は?あれが幻影だとしても、言葉までは模倣できないはず……
「……その子は、私の事を知ってたのかな……」
「なんで?」
「だって、フェルア達が来る前に、ルアナの幻影がこの体が自然と繋がってる事を知ってた……その事を知ってるのはルアナとフェルア達だけ……」
なら、どこでこの事を知ったの?もし、シルバーフェルウルフ達を操っていた人と同一人物ならシルバーフェルウルフは囮?
私に幻影を見せるには魔法を使う必要があるはず…でも、私とウルファ以外は魔法を使ってはいなかったはず……どこでかかった…?
次から次へと出てくる疑問に頭を悩ませていると、キリルがぽんぽんと頭を撫でる。きゅ、急にどうしたの?
「あんまり悩んでると大変だよー?もう夜だから早く寝たほうがいいよ?」
「え、夜?」
「おう、窓見てみろ。もう暗いだろ」
窓を見てみると、フェルアの言う通りすっかり夜も更けて星が出ていた。星空にはとても大きな月が辺りを照らしている。
「本当だ…私どれくらい寝てたの?そういえば家事もしてないし」
「大体3時間位かな……家事なら大丈夫だよ。僕が全部やっておいたから」
「ありがとう。あ、ユキは?」
「ユキなら隣でずっと寝てるよ。あれから一回も起きずにそこで寝てる」
ふと隣を見ると、確かに癒される寝顔ですやすやと眠っていた。この顔見れただけで何か全部吹っ飛んだ気がする…。
「お寝坊さんだ…!一体何時間眠るつもりなの…?」
つんつんとほっぺを突いていると「んん…」と言いながらユキが目を覚ます。
「…あ、キリアおはよう。って、俺何でベットで寝てるの…?」
「ブフッ…」
あ、フェルアが吹き出した。
「あっはははははっっ!!」
つられてキリルも笑い出してしまう。その様子にユキがオロオロとしながら助けを求める視線を送ってくる。
「ど、どうしたの…?」
「……んーん。何でもないよ。ただ、平和だなぁって…ふふっ」
誤魔化しながら少し笑ってしまう。その様子を見て、ユキが更にフリスアにまで助けを求める。が、フリスアは声を出さずに撃沈しているので頼りにならないだろう。
「よし、ユキ。これから何かあったときは、私が全部何とかしてあげるから頼ってね!」
「え、う、うん……」
天使だ…天使がいる……!この顔を守ってあげられるなら何でもできそうな気がしてきた……
ユキはまだ知らなくていい。この世界がどんなに残酷なのか、どれだけ悲しみが溢れているかを。
全部全部、私が受け止めて、そして幸せに笑っていればいい。
「じゃあ、今日はもう遅いし、このまま寝ようか!」
「え、も、もう夜なの!?」
「お、キリアと同じ反応してる」
笑いながらフェルアがベッドに飛び込んでくる。今度はちゃんと体の上じゃないところに。フェルア偉いよ。もぞもぞと布団の中に潜ってくると、ちょうどユキと私の間で顔を出す。
「あー、子供体温あったけぇ……」
「これじゃ、どっちが兄か分からないね」
苦笑をしながらフェルアの頭にスリスリと顔を埋めるユキ。いや、私からしたらどっちも年下に見えるんだけど…?
「はー、この姿で一緒に寝るのって久しぶりだねぇ」
いつの間にか私の横に入っていたキリルがそう言う。そういえば、ここ最近はずっと神獣の姿で寝てたもんね…ベッドが物凄い狭いから…
「ほら!フリスアも早く早く!」
「え、僕も?」
「勿論!!俺の後ろはまだ少し空いてるから!」
フリスアが少し照れながらベッドの中に入ってくる羽は邪魔なので消して入ってくれるのが流石だよ…
大人3人と子供2人って……ベッド大丈夫かな…まぁ、いいか。壊れたら作り直せばいいし。
「はぁー…あったかい……」
ユキの顔がだんだんと崩れていく。さっきまでずっと寝てたけど、まだ寝れるのかな…あ…私もか。
ドッと押し寄せてくる睡魔に身をまかせながらそっと目を閉じる。
今日起こった事、明日にはまたやらなくちゃいけないことがあるけど、今くらいはゆっくりするのがいいや。
「おやすみ、キリア……」
最後に聞こえた声は誰の声かは分からなかったけど、不思議と誰よりも安心できるような気がした。
読んでくださりありがとうございます!
一応補足ですが、前回現れたルアナ(?)も幻影であり、あの場所にルアナはいませんでした。つまりまだルアナは名前しか登場していませんw
あと、ユキ君を見て笑ったのはあれだけあった中でずっと眠っていたことがフェルア達のツボにハマったようです。
次話は、ちょっと違う目線になります!




