魔の森で起こる異変 -キリア目線-
戦闘シーンが立て続けに来て大変……
今回は、魔の森で起こる異変をキリアちゃんが解決(物理)します!
冷たい風が肌をサァーっと撫でる。んん…なんだかさっきまであったかかったはずなのに…寒い…。それにちょっと暗い…?
違和感を感じてまだ重い目蓋を開けると、夕暮れの空が視界に1番に入ってくる。…ん?夕暮れ…??
「わわっ!!寝過ごしちゃった!」
急いで体を起こすと、隣でまだすやすやと寝ているユキの姿があった。うん、天使。
そして、ユキの近くにいたはずのフリスア達の姿はなかった。起こしてくれるって言ったのに……!まぁ、起きれなかった私も悪いけどさ…
「ぁぁどうしよう…まだ洗濯とか水やりとか何もやってないや……」
今からでもできることを回らない頭で必死に考える。
洗濯は流石に無理だし…花壇と畑の水やりは…今やったら明日の朝にできなくなるか……掃除は…また今度でもいいけど…
「……ん……?何これ……森がざわざわしてる…」
ふと感じ取った嫌な気配に感覚を研ぎ澄ませる。……何かが近づいてる…いや、暴れまわっている……?
とにかく、まだ眠ったままのユキを抱えて世界樹から飛び降りる。降りる途中の自室の窓から部屋に入ってユキをそっと布団に寝かせると、そのまますぐに家の周りに張ってある結界を抜ける。
「……っと。やっぱり、森が怯えてる…」
周辺の木々や草花から「『怖イ、コッチニ来ル』」「『嫌ダ』」と言った声が聞こえてくる。それに、いくら夕暮れ時とはいえ動物が少なすぎる…いつもなら鳥や兎などが結界の周りにいるのだけれど……
近くの木に話しかけると、怯えながらも答えてくれた。
「『どうしたの?何があったか聞かせて?』」
「『……アイツガ来ル。暴レテル』」
「『あいつ?』」
「『……貴方モ知ッテルハズ。イツモハ奥ニ居ルハズナノニ』」
私も知ってて、奥にいるもの?…それに、暴れてるって……。
もう一度周囲に感覚を研ぎ澄ませながら、森に薄く魔力を巡らせる。……いた。ここから少し進んだ…ホーンラビット達の住処……?
「まさか…今朝ホーンラビット達が結界の近くまで来てたのは……」
警戒心の強い彼らは家の周囲に植わっている魔物除けの桜には絶対に近づかないのだ。それを避けて結界内に入ろうとしていたら……急がないと、ホーンラビット達が全滅してるかもしれない……
私はその場から周りの木々に飛び移り枝を伝ってホーンラビット達の住処まで駆け出す。
「ホーンラビットのSランク級の天敵は少なかった筈……キングブラッドボアと…ブルーエレメントスネーク……あとは…」
走りながら何体か候補を挙げていると、後ろから一瞬殺気が私の背中を刺すような感覚がする。これは……追跡されてる?となると、グリフォンじゃないな……
追手を撒いている時間はないのでそのまま住処に向かうと、目の前の木々から「『ヤメテ、ヤメテ!』」と声が聞こえる。
「もうすぐ着くはず……間に合って…」
バッと視界が開き急に開けたところに出ると、そこでは、無数のホーンラビット達の死体と、それを狂ったように貪っている、
「シルバーフェルウルフ……!」
の姿があった。赤みがかった銀色の毛並みに、蒼い瞳。間違いない。
一体なぜ……。彼らは普段森の奥地に潜んでいて滅多に出てこない。そして、賢いことに獲物は全て取り切らず必要な分だけ狩って増えるのを待つ。そういった狩りの方法をとってきたはずだ……。
それに……この嫌な匂い…綺麗好きの彼らからは到底考えられない……体も血で塗れてる…どうなってるの……!?
「……っ、取り敢えず彼らから話を聞かなくちゃ…聞いてくれそうにはないけど……」
血を流しながら眠るホーンラビット達の腹に牙を立て肉を切り裂くシルバーフェルウルフ達。どうしてこうなってしまったのかはわからないが、存在を教えるように魔力を放出しながら歩み寄る。
「『…ウルファ…ウルファはどこにいるの』」
ウルファは、シルバーフェルウルフ達の群れのリーダーで、昔川で溺れそうになっていた彼を助けた時に知り合った。今、シルバーフェルウルフの中で話がわかるとしたらウルファだけだろう。
近くにいたシルバーフェルウルフに近づきながら問いかけると、目を爛々とさせながら血で汚れた顔を近づけてくる。
「グルゥゥウウッッ!!」
「『どうしてこんなにたくさんホーンラビット達を狩ったの?』」
「グルゥゥァァァアアッッツツ!!!」
私の問いには答えずに、ただ唸りながら私を噛み殺そうと迫ってくる。……いくら食事中でもこんなに理性が外れたところは見たことがない……
サッと攻撃を躱しながらウルファの姿を探していると、段々とシルバーフェルウルフが集まってくる。……これなら拘束して目を覚まさせたほうがいいか。
「っと…ちょっとだけ痛いけど、我慢してね…《衰退ノ風》」
何もない空中から閃光と共に現れたのは一本の金色の扇。持ち手には様々な色の宝石がついている煌びやかなものだ。
《衰退ノ風》を左手に持ち、風下、シルバーフェルウルフの方へ向かって大きく振りかぶって風を扇ぐ。
「《嶺毒・昏睡の波》」
「……グゥゥッッツ!……」
不可視の煙が風となってシルバーフェルウルフ達を襲う。切り裂かれた体には血がついていない。ただ、少しずつ苦しそうに呻きながらバタバタと倒れていく。
わぁー……流石《嶺の血》は効くのが早い。《衰退ノ風》には多種多様の《嶺の血》から作られた毒が入っており、今回使ったのは即効性の神経毒。流石にシルバーフェルウルフ達には毒がキツく、痛みが出たようだけど、結果オーライ!シルバーフェルウルフ達の周りに簡単な結界を張り巡らし、万が一暴れ出しても出られないようにする。
「さてと、話を聞きたいけど…ひぃ、ふぅ、みぃ…ウルファ以外の全員は揃ってるか…」
群れの姿を見ると若いものから年寄りまで。おそらく群れ全体で移動してきたのかな…。とすると、1番のリーダー格がいないってことはないよね……
「グアゥゥゥウウウッッツツツ!!!」
考えていると、後ろから大きい影が覆いかぶさる。他より大きい体と、右目に入った傷……間違いない。ウルファだ。
「っとぉ…危なかったぁ……ウルファ…も理性をなくしてるのか………」
「ウ"ゥゥゥ………グルァアウウゥゥウツツ!!!」
間一髪で横に避けると、先程までいた所の地面がえぐれている。わぁ、怖い怖い。流石にあんな巨体に押し潰されたら死んじゃうよ…
「んー…ウルファとなるとちょっと厄介だなぁ……今持ってる《嶺の血》は薄めてあるからウルファには効果薄そうだし……」
「ガルゥゥウウウッッツツ!!」
咆哮と共に、ウルファの背後に黒い闇を纏った槍が無数に浮かび上がる。
「!?闇魔法!?…なんでウルファが闇魔法を…」
ウルファの種族であるシルバーフェルウルフは、風と雷の魔法を持つ種族だ。勿論ウルファも例外ではなく風と雷の魔法を使えた。生まれ持った属性以外は、魔石などを使わないと使えないのだ。なのに何故!?
「ガァァアアアゥゥッッツ!!!」
再びの咆哮と共に黒い槍が飛んでくる。《衰退ノ風》を使って薙ぎ払いながら身を守るも、数が多くて中々近づけない。
「……これは一体何が起きてるの……!?っ、《聖樹》!」
地面から一気に成長した巨大な苔の生えた木がウルファの体を絡め取る。《聖樹》と呼ばれたその木はキリアが使役する自然の一つで、悪いモノを吸い取って癒やす効果がある。
「ガゥゥアアアッッ!?…グァァゥゥッッ……ガルゥッ…」
段々とウルファから黒いモヤが《聖樹》に吸い込まれ、もがく力を無くしていく。
「『ウルファ、聞こえる?』」
雁字搦めになっているウルファの体にそっと触れて、魔力を流し込んでいく。普通、他の生物に魔力を流し込むのは危険なのだけど、ウルファは前に私の魔力に適応しているので遠慮なく流し込む。
ウルファが消費した魔力を戻しながら、ウルファに語りかける。すると、弱いながらも反応が返ってきた。
「『……の…声、は…キリ、ア……様……?』」
「『ウルファ!!何があったの!?』」
ウルファ!!よかった……意識がなくなってたらどうしようかと思った……!
事情を聞くために問い詰めると、顔を歪ませながらウルファがゆっくりと答える。
「『…?……何を、していたのか…覚えて、いないのです……』」
「『……え!?……さっきまでホーンラビット達を襲っていたことは!?』」
「『…ホーン、ラビット…ですか…?……っは、ここは…』」
ようやく意識がハッキリしたようで、ウルファが飛び起きる。辺りをキョロキョロと見回してようやく事態を認識する。…もう《聖樹》は大丈夫かな。
「『大丈夫?無理に起きない方が……』」
「『いいえ…もう大丈夫です……それより、この惨状は……』」
ウルファはまだ飲み込めていないようだけど、紛れもないシルバーフェルウルフ達が起こしたことだと現実を突きつける。
「『これは、貴方達シルバーフェルウルフが何故かホーンラビット達の住処を襲ってできた事だよ。…他のシルバーフェルウルフ達は全員会話が出来なくて…眠らせておいたけど、いつまた暴れだすか分からない…』」
「『そんな……これが私達が起こした事…』」
誇り高きシルバーフェルウルフには想像もできない無惨な状況なのだ。辺りには血肉で塗れた仲間の姿とホーンラビット達の死骸。荒らされた住処からはどこかに逃げたのかホーンラビットの姿はない。
「『っ、とにかく、覚えていることだけでもいいから何があったのか教えて。そうしないと、また同じことが起こるかもしれない』」
「『……っはい。私がまだ住処にいた時のことです。昼ぐらいでしたでしょうか、仲間が急に暴れ出し、それを止めようとした時に仲間の爪が掠ったのです。それから急に飢えが激しくなりました………そこからは記憶がありません』」
悲しそうな表情で語るウルファからは、仲間を止められなかったことの自分への憤りと無闇に殺してしまったホーンラビット達への自責の念がグルグルと渦巻いているようだった。
急に暴れ出した仲間と、飢餓感……感染性の毒…?いや、それならウルファの闇魔法は……?もし毒だったとしても、シルバーフェルウルフ達が間違って食べたりするものはこの森にはないし…魔法で操るにしてもウルファ達よりも強い魔法使いじゃないと……
「『………まさか、あの人間が……っ!』」
ウルファが何かに気付いたように顔を上げるとグルゥゥ…と低い唸り声を出す。人間…?シルバーフェルウルフの生活圏まで入れる人は極僅かだと思うけど……その人がウルファ達に何かやったのかな……
「『ウルファ、その人間って?』」
「『…あ、それが、ここ最近私達の住処、レルドナ山脈の麓の森によく人間の気配がしたんです…仲間が見に行くと、人間の子がいたと……』」
人間の子……?ここ最近ならユキではないと思うし…第一、ウルファ達の住処はいくら山の麓とはいえかなり険しい立地になっている。町の子供はまず魔の森に入ることが禁じられているし、道中出くわす魔物達から身を守りながら行くメリットがない。
「『そう、教えてくれてありがとう』」
「『いえ…今回は迷惑をかけてしまい申し訳ございませんでした……』」
「『いいのよ。この森の秩序を守るのも私の仕事だから。それに…』」
「『?』」
そう。私は何もホーンラビット達が殺されたことに、シルバーフェルウルフ達が暴れ出したことに怒っているわけではない。
シルバーフェルウルフ達がホーンラビット達を狩るのは何らおかしな事ではなく、この森ではそれが普通なのだ。そして、その事に私が首を突っ込むことも許されない。自然の秩序を守る者として有るべき姿を守り続ける事だけが私に許された事なのだから。
そのためにも……
「『私の大切なものに手を出すって事は……それなりに覚悟はできてるって事だよね…?……ふふっ…どうしてやろうか…!!』」
「『!!!?』」
身体中から溢れ出した殺気が森中に広がり鳥がバサバサと音を立てて逃げ惑う。私の怒りに呼応した木々が、風も無いのにザワザワと揺れだし、空気がビリビリと振動する。滲み出た魔力が髪を浮かし、瞳を爛々と輝かせる。
「はいっ!そこまでよぉキリアちゃん!」
「いたぁっ!!」
突然、後ろから聴き慣れた声と共に頭を手刀でバシッと叩かれる。いたた…と頭をさすりながら振り返るとそこには、月の女神であり、私の義母でもあるルアナがニコニコ笑顔で浮いていた。
読んでくださりありがとうございます!
ルアナ出てきたの何話ぶりだろ…久しぶりの母(女神)登場!!
次話は、ルアナのちょっとしたお説教から始まります…
(´・ω・`)




