12F 戦闘
お久しぶりです。私情により海外へ引っ越すことになり、現地での生活がひとしきり落ち着くまで時間がかかってしまいました。
これからは更新頻度を元に戻していきます。
これからも「蠱毒のダンジョン」をよろしくお願いいたします。
時間が少し戻ります
ヒロトが侵入してきた男たちを確認した後、ヒロトは上位種の蟲たちを待機させている大部屋に転移した。
巨大な蟲たちを余裕をもって置いておけるように造った円柱型のこの部屋は、天井が見えなくなるほどの高さがある上に、壁を螺旋を描くようにくり抜きそこを蟲たちが通れる通路にしてあった。さらにその通路には無数の穴が開いており、そこからダンジョンの各地へ通じる抜け道となっているのであった。
そんな立体ターミナルとなっている部屋にヒロトがやって来たことに気づいた蟲たちはぞろぞろと抜け穴から出てくると螺旋通路の上からヒロトを見下ろした。
百匹を超える巨大な蟲たちに見下ろされヒロトは内心気圧されていたが咳払いをひとつすると持ってきていた拡声器を使い、蟲たちに告げた。
「お前たち!このダンジョンに初めての侵入者がやって来た!これから迎撃にはいる!」
闘いが始まると聞き、蟲たちはギチギチ、キーキーと鳴き出し、蟲たちの感情など今までさっぱりわからなかったヒロトでも闘えることに喜んでいるのだと察せた。
こいつらってこんな好戦的な奴らだったんだと驚きながらもヒロトは話を続ける。
「そうか、そんなに闘えることが嬉しいか!なら侵入者は皆殺しだ!遠慮無くやってしまえ!」
勢いでつい皆殺しなどと口走り、言ったそばからやっぱり捕獲してダンジョンコアの情報からでもわからない異世界の知識を聞き出せれば、と考えたがもう遅かった。
蟲たちは我先にと抜け穴を通りダンジョンの各地へと向かって行ってしまっていた。一人ポツンと大部屋に取り残されたヒロトはがっくりと肩を落としながらメインコアルームに帰っていった。
いまヒロトは中継を観て男たちの様子をうかがっている。
映し出された映像では男たちがちょうど魔幼蟲の部屋に入るところだった。
「アニキなんて呼ばれてる男に軽装のヤツ、そんで見るからに魔法使いって感じのローブか。アニキの獲物はロングソードで多分前衛、軽装は斥候職、ローブが後衛の魔法攻撃係ってところかな」
男たちの装備からパーティの構成を推測する。
男たちが身につけている装備をジロジロと観察しているとアニキに魔法を使うことを指示されたローブがなにやらブツブツと唱え始めた。
「 えっ?!これってもしかしなくても詠唱ってやつですか?」
「『フレイムウェイブ』」
「なぁっ!?」
ローブが呪文と思しきものを唱えるとローブの握る杖の先端から火炎が噴き出た。
その炎は魔幼虫のプールの一画を包むと、炎に呑まれた魔幼虫は一瞬にして灰になった。
しかし【源泉】から新たに魔幼虫が湧き、しばらくしないうちに魔法で減らした魔幼虫の数も元に戻ってしまった。
その様子を見て男たちは埒があかないと考えたらしく来た道を引き返し始めた。
「魔幼虫部屋って意外と防衛能力高いのな。まあ誰だって芋虫のプールに突っ込みたくないよな。しかしこいつらほんとに冒険者か?もっと冒険者って慎重にダンジョンアタックするもんだと思ってたけど、こいつらずっと闇討チノ百足蟲が頭上を這ってるのに全然気づかねぇ……」
そう、ヒロトの指示を受けた蟲たちはすでに攻撃準備を整えており、男たちが魔幼虫の部屋に入った時点ですでに一匹の闇討チノ百足蟲が男たちの頭上にスタンバイしていたのだ。
未探索の道を行く男たちは今まで通ってきた道には魔物がいなかったからと前方ばかりに注意を払っている。これは男たちが戦闘力はそこそこ持ってはいるもののダンジョンアタックの経験が無かったために犯したミスである。男たちがもう少し真面目に情報の収集や冒険者同士のコミュニケーションをとっていれば誰かにダンジョンアタックの心得を教わっていたかもしれないが、素行の悪かった彼らにアドバイスするものはいなかったのだ。
そしてついに闇討チノ百足蟲が動き出した。
他の蟲が待機している地点に近づき、攻めるなら今と闇討チノ百足蟲は素早く天井から男たちの背後に降り立つと最後尾を歩いていたローブの胸に槍のような腕を突き刺した。
後方に注意を向けていなかったローブは自分の胸から突き出る槍にやっと魔物の接近に気づく。襲撃を仲間に伝えようとするも喉から込み上げてきた血が声を出すことを妨げゴポッと音を出すだけだった。
しかし幸いというのだろうか、ローブが血を吐く僅かな音にアニキと軽装は気づき振り向く。そして彼らは胸から槍を生やし、口周りと胸を血に染めるローブとその後ろにいる巨大な蟲を目にする。
「な、い、いつの間に!」
「そんな!来た道には魔物なんて一匹もいなかったのに一体どこから!」
アニキと軽装の男は突然の出来事に体が固まってしまった。
この瞬間にさらに男たちに襲いかかればもう一人殺せるだけの隙はあった。しかし闇討チノ百足蟲それをせずローブから腕を引き抜くとその場で足踏みし、ギギギッと顎を打ち鳴らした。
胸を貫く腕を引き抜かれたことで支えを失ったローブは地面にうつ伏せで倒れ、2度ほど痙攣した後動かなくなった。
仲間だったローブの死体と蟲の魔物のまるで挑発するような仕草にやっと状況が頭に入って来たアニキは瞬時に顔を真っ赤にし、仲間を殺した憎き蟲の魔物に斬りかかった。
「よくも、よくもよくもよくもおおおおおおおおおおお!!ブッ殺してやる!」
アニキの斬撃は鋭く、速い。このパーティの素行は悪くダンジョンアタックも素人ではあったが戦闘力は確かにあったのだった。
中継で見ていたヒロトは俺なら余裕で殺されてると思って冷や汗をかいている。
しかし無情にもアニキの連撃は闇討チノ百足蟲には届かなかった。闇討チノ百足蟲はその長い胴体をうまくクネらせ剣撃をかわしていく。だがアニキも一方的にやられるだけではなく闇討チノ百足蟲の繰り出す攻撃をかわしていく。
しかし普段のような狩りならともかく激昂しているアニキの攻撃は大振りになり、回避行動を取りにくくなっていた。かろうじて致命傷は避けているものの小さな傷は無数にできていた。
そしてアニキを襲う不幸はそれだけではなかった。戦闘を続けているとアニキは自分の体がだんだんと重くなってきたような感覚を感じた。
最初は疲労かと思った。しかし激昂しながらもまだ自分の冷静な部分が言う。
本当に疲労だけなのかと。確かにこれまでに無いほど激しい闘いではあるが自分がこれ程早く疲労するのか、と。
そしてアニキは思いいたる。この体の違和感は疲労だけでは無いと。
「クソ、毒かっ!」
重くなっていく体をどうにか動かし戦闘を続ける。と言ってももう攻撃をかわすのが精一杯で攻撃する余裕は失われていた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「!?あ、しまっ、グハァッ!」
なんとか攻撃を避けていると突然自分たちが歩いてきた方の通路の奥から悲鳴が響いてきた。それは仲間である軽装のものだった。
そしてアニキは反射的に悲鳴の方向を向いてしまった。
これが致命的なスキとなり、蟲の腕がアニキの胸を貫いた。
腕が引き抜かれアニキは地面に倒れ込む。蟲の腕が抜かれたことで胸の穴からは血が噴水のように溢れ出す。体が急速に冷えてくる。指の先ももう動かせない。かすれゆく視界にはローブの死体が映る。
(なんで、こうなっちまったんだ……)
森の異変の調査などかったるかった。しかし幸運にも未発見のダンジョンを見つけた。若いダンジョンだからお宝はそこまで期待できないがダンジョンコアだけでも莫大な金になる。だから仲間と共に……
……と薄れゆく意識の中で考えたところである事に気づく。
アイツはどこに行った、と。あの時聞こえた悲鳴は確かにアイツのものだった。なぜアイツの悲鳴が離れたところでしたのか。
そしてアニキは考えいたる。
アイツは俺を見捨てて一人逃げ出したのだろう。そしておそらく別の魔物にでもやられたのだろう。
「ざまぁ……みろ……ってん……だ」
やがて動くものがいなくなったダンジョンにはただ闇討チノ百足蟲のギギギッという鳴き声が響くだけだった。
・補足
本名はそれぞれちゃんとありますがめんどくさくて考えてないです(正直)
アニキ ♂ 【ヒューマンLv.5】
ジョブ
【ウォリアーLv5】【盗賊Lv3】(隠蔽中)
スキル
【剣術Lv5】【短剣術Lv2】【捕縛術Lv1】【解体Lv2】【力上昇Lv1】
【詐術Lv2】(隠蔽中)【盗むLv2】(隠蔽中)
鉄のロングソード、鉄のダガー、解体用ナイフ、革の胸当て、革のブーツ、マジックポーチ、隠蔽の指輪
軽装 ♂ 【ヒューマンLv.4】
ジョブ
【スカウトLv4】【盗賊Lv2】(隠蔽中)
スキル
【短剣術Lv3】【弓術Lv1】【投擲Lv2】【捕縛術Lv1】【解体Lv2】【解錠Lv3】【マッピングLv2】【俊敏上昇Lv1】【詐術Lv2】(隠蔽中)【盗むLv2】(隠蔽中)
鉄のダガー、弓、矢筒(矢×28)、投擲用ナイフ×6、解体用ナイフ、革の胸当て、革のブーツ、マジックポーチ、隠蔽の指輪
ローブ ♂ 【ヒューマンLv.4】
ジョブ
【スペルキャスターLv4】【盗賊Lv2】(隠蔽中)
スキル
【火魔法Lv4】【水魔法Lv2】【解体Lv1】【MP上昇Lv1】
【詐術Lv1】(隠蔽中)【盗むLv1】(隠蔽中)
魔術師の杖、鉄のナイフ、魔術師のローブ、革のブーツ、マジックポーチ、隠蔽の指輪