ch.8 餌と針
エザキとエドがドアの向こう側にでると、無人の通路に冷蔵庫のコンプレッサーのような機械音が響いていた。
その通路を奥まで進むと、左へ続く通路と上へ続くラッタル。
「どっちだっけ?」
配管だらけの通路を歩きながらエザキが尋ねると、エドが渋い顔をする。
「どっちだ……?」
すると、左の通路の電灯が点いたり消えたりし始めた。
二人が顔を見合わせる。
「ん?」
「あれじゃねえか? エンジニアが合図してんじゃねえか?」
「信じていいのかな?」
エザキを先頭に通路を進む。
調理室の前を通りがかり、中を覗くが無人。
調理器具の保管庫にあるナイフをエザキが回収し始める。
その間、エドは通路を見張り、エザキが戻ってくると、通路の突き当たりにある休憩室へ入った。
ここも無人。静まりかえった休憩室の真ん中を歩きながら、机の下などを用心深く確かめる。
やはり誰もいない。
誰もいないことに表情が硬くなるエド。
そのエドとは対照的に、エザキは平気な顔でスタスタと進み、突き当たりのドアも、無造作に開けてしまう。
だが、そこで静寂は破られた。
ドアの向こうに入ったエザキが、いきなりフルオートの銃撃に見舞われる。
予想外の激しい銃撃に、エドも肩をすくめるほどだった。
攻撃を察知することはできたエザキだったが、フルオートの乱射にたまらず休憩室に転がり込んだ。
「マシンガン! 2人いる!」
その声を聞いたエドが休憩室のキャビネットの影に隠れると、直後にドアを乱暴に開け放つ音がして、武装メンバー2人が入ってきた。
撃ちまくってくる2人を相手に、セミオートのAR-15と拳銃では分が悪すぎる。
こういうときは、エザキに引き受けてもらうしかない。
そしてエドが期待した通り、エザキが机の陰から立ち上がった。
銃撃が再開される。
エザキは長机と椅子という頼りない遮蔽物に沿って駆け抜け、ひたすら銃撃を引き受ける。
同時に立ち上がったエドは武装メンバーの1人を素早く狙い、その両肩に数発の弾丸を撃ち込んだ。
「がっ……」
相手が銃を落としたのを見て、片腕にも打ち込むと、次の1人に狙いをつけたが、今度は向こうがエドに向かって弾をバラ撒く。
エドはキャビネットの影に隠れたが、書籍の隙間から貫通してくる弾丸に目を見張った。
しかし相手方のマガジンが空になるや、物陰から現れたエザキが男の至近距離から鎖骨付近を撃ち抜いた。
撃たれた男が、言葉で表しにくい声を上げて仰向けに倒れると、その片足にエドが一発撃ち込んだ。
部屋がようやく静かになると、エドは倒れている2人の武器を取り上げ、冷たく見下ろして言った。
「まだやるか?」
男たちは顔を振り、上げにくそうに両手を上げた。
「お前ら素人か?」
そう問いかけながら、答えはまたずに歩き出すエドにエザキが小声で言った。
「下手くそだけど、乱射は困るね」
エザキは右手に少しだけ付いた血を休憩室のテーブルクロスで拭うと、無人の通路に出た。
今度は下に降りるラッタルが有る。
「また教えてくれるかな?」
エザキの予想通り、今度は下の通路の照明が明滅する。
エザキは先にラッタルを下まで降りると、周囲を警戒することもなく、スタスタと通路を進む。
少し遅れてエドも続く。
降りた通路の突き当たりに来ると、二人はすぐにそれがMF室の扉と直感した。
ドアが真っ黒くすすけていて、両サイドの構造物がひしゃげている。
「吹っ飛ばそうとしたのか」
エドがぼそりと言うと、エザキは呟いた。
「シェリ……」
するとドアのあたりから、モーターの音とロックの作動音が聞こえた。
「あれ? 開いたんじゃないか?」
エドに言われたエザキが恐る恐るドアを開けようとするが、動かない。
「こっちだろ」
エドが真ん中の水密ハンドルを回すと、ようやく開いた。
2人が中に入ると、メインコンソールに座るベルタとその横に立っているシェリがいた。
「シェリ! 大丈夫!?」
エザキが駆け寄ると、シェリは呆然とエザキを見つめた。
「エザキ……」
ベルタが恐ろしいものを見るようにエザキとエドを見る。
「キュー・エザキと、エド・リンジ……」
エドがベルタに話しかける。
「ANNエンジニアってあんたか?」
「そうだけど?」
「さっさと逃げるぞ」
エドが雑な手招きをするが、ベルタは座ったまま聞いた。
「艦長はどうするの?」




