ch.4 利害関係者
二丁のMP5の銃声。
エミリが耳を押さえてしゃがむ。
シェリが百メートル以上を走りきって後部甲板に出ると、そこにも武装メンバーの男がいた。
男は猛然とダッシュしてくるシェリに気が付くと、慌てて発砲し始めた。
だが、シェリは銃声の一瞬前に、左右に飛びのく。
そうしてタイミングも射線も全て読んでいるかのようにかわすシェリの後ろで、硬い甲板に弾丸が弾かれる音が響く。
シェリは10歩足らずで男の懐に入ると、少し上向きにしたナイフを男の胸に突き立てた。
「ぐっ……」
男は銃口をシェリに向けたが、トリガーを引こうとする指が強張って引けない。
「くぅ……」
ささやく用の声と共に、息を漏らすと、男の膝から力が抜けた。
シェリは微かな音を立てて男の胸からナイフを抜き、逃げ場はないかと甲板を見回した。
前部甲板から走ってくる足音。
逃げ場はない。
シェリが顔を歪ませたその時、背後でガコンという音がした。
シェリが艦尾の方を振り向くと、足元のスライド蓋がガリガリと開いていた。
慌てて駆け寄ると、中にはぎっしりと電子ケーブルの束。
かなり窮屈そうだが、なんとか体をねじ込めそうだ。
シェリが中に飛び込むと、スライドは再び閉じた。
真っ暗な電子ケーブルの束の中。
ケーブルを掴んだり離したりしながら降りていたシェリは、自分の足が空を蹴るのを感じた。
下に青白いぼうっとした光が見える。
シェリはケーブルに捕まりながら、天井からぶら下がり、手を離して床に着地した。
その部屋は小さなロケット管制室のようだった。
左右に分かれて並ぶ、画面と液晶タッチパネルの組み合わせ。
中央の台は一回り大きく、機械の端にはいくつもの鍵穴が付いている。
「シェリ・エザキね?」
シェリがびっくりして横を見ると、金髪の女が笑っていた。
「誰?」
「旦那さんはキュー・エザキ。お二人そろって『超人』なんでしょ?」
「あんた誰?」
腰に手を当てたシェリが少しイラっとした声で聞くと、女は中央のコンソールを操作しながら名乗った。
「ベルタ・クレスタ。ただの外部研究員」
「研究? さっきの奴らはなんなの?」
「テロ屋さん。狙ってるのはあたし、この船、それとあなたの旦那さん」
「え?」
シェリは腰から手を下ろした。
自宅に帰ってきたエドは、いつものようにアイスティーを持ってベランダに出ると、肘掛け椅子にくたりと座った。
背もたれに頭を乗せ、目を閉じると同時にインターホンが鳴った。
「えぇ、うそ……」
臭い物でも嗅がされたような顔で立ち上がると、玄関ドアを開けた。
「はい?」
「エド! いてくれてよかったー! おいで」
エザキが同い年ぐらいの女を連れて入って来るのを見て、エドは険しい顔で聞いた。
「夫婦喧嘩の本当の理由はそれか?」
「ち、違うって!」
そう言ってリビングに入るエザキの服の背中が裂けているのを見たエドは、目を見開いた。
「襲われたのか!?」
「今話すから」
3人はアイスティーのグラス3個が乗ったテーブルを囲んだ。
「何があった?」
エザキが見ると、女は困ったように下を向いた。仕方ないと言った風に、エザキが話し出す。
「仕事中にドローンが爆弾投げて来てさ」
「ドローン? 前に見た奴か?」
エザキは女にグラスを持たせながら、答える。
「いや、今度のは大きさも破壊力も桁違いだったよ」
女が飲まないのを見て、エザキは目で飲むように合図したが、エドは疑いの目で見続ける。
「その女は?」
女がアイスティーを一口飲んだのを見届けると、エザキはグラスを受け取ってテーブルに置いた。
「俺に会いに来たんでしょ?」
女が困っているのを見て、エドもようやく態度を変えた。
「騎炉区。あの街の出身か?」
エドがそう言いながら東のスラム街をグラスで指すと、女は街を見ながらようやく答えた。
「私はサラ。あの街であなたたちに殺されたリエ・ナガヤマの妹」
「君のお姉さんを俺達が?」
エザキが驚く横で、サラは表情を変えずにうなずいた。
エドが記憶の中の何かを探すように視線を泳がせながら言った。
「ナガヤマ。あのテロ集団『ギゾク』のメンバーだった女か……」
「姉さんの自業自得……」
三人全員が、膝の上で強く握り合わされたサラの両手を見つめていた。
外の喧騒だけが、時間の経過を証明している。
最初に顔を上げたのはエドだった。
「俺たちに復讐したかったのか?」」
サラはエドではなく、エザキを見て力なく微笑んだ。
「あなたたちに恨みなんかないし、テロの手伝いなんかしたくなかった。でも姉さんのせいで巻き込まれて……」
油断なく睨むエドの横で、エザキがうなずきながら口を挟んだ。
「抜ければ、追われる身になるだけだもんね。この小さい島で」
「ギゾクに友達もいたし、断りきれなくて……。それで今日、ビーコンをエザキのところに持って行けって言われて――」
「ビーコン? ドローンを連れてくるための発信器か?」
エドの質問に、うなずくとサラは続けた。
「でもギリギリで決めたの。やっぱりやめようって」
「でも、俺を撃とうとしたよね……?」
「だってよけられるんでしょ? 見張りがいても、あたしが撃ってるとこ見せれば、うまいこと騙せるかなって……」
「俺の『感覚』のこと知ってるの!?」
困惑するエザキを無視して、エドは種明かしをする手品師のように、両手のひらを二人に見せた。
そして問いかけた。
「それで? これからどうする?」




