第1話 失われた『幸せ』な日々(1)
その日、ある王族が滅ぼされた。王城は瓦礫の山になり、跡形もない。
そんな瓦礫の中で、13歳の少女が一人立ち尽くしている。
少女は肩を震わせながら、小さな拳を握り締めた。
そんな彼女の少し後ろには青年が一人立っており、少女の後ろ姿をじっと見守っている。
少女は振り返って、涙を目にためて叫んだ。
「絶対に、復讐してやる!」
*****
そんな少女の叫びが起こる半年前のこと。
少女は王宮を抜け出して街に遊びに行こうとしていた。
「こっちのほうが近道なのよね」
その表情は悪戯が成功した子どもの笑顔そのもの。
鼻歌混じりに少女は森の道なき道を歩く。
そして、大きく伸びた草をかき分けた時、ある少年が横たわっているのが見えた。
「え…人……!?」
倒れているのは一人の青年。
気にもたれかかるようにしている彼は、左に大きな傷があり、そこから血を流している。
(うそ……!?)
少女は驚いて体をこわばらせてしまう。
どうしていいのかわからない。そんな様子だった。
その時、ふと少女は青年と目が合った。
彼の瞳は怪我の痛みでぼうっとしながらも、少女への鋭い視線が向けられている。
(怖い……でも、この人、このままじゃ死んじゃう!)
その視線に怯えながらも、少女は青年に駆け寄っていった。
「触ってもいい……?」
「…………」
青年は少女を警戒している様子で、少女の服装や年齢など頭から足まで順に目を通す。
しかし、何も言わない。
「あ…そのっ! 危害を加えるわけではないわ! 治療させてほしいの!」
そう言って少女は包帯代わりに服を千切ろうとするがうまくいかない。
すると、少女は立ち上がって近くにあった木の枝に服をひっかけて穴をあけると、その穴を使って勢いよく服を千切った。
そして青年の腕に包帯のように巻くと、口元に手を当てて考え込む。
(ここではこれ以上治療ができそうもない…)
その必死に何かしようとする様子に、青年は目を細めて警戒を緩めない。
すると、少女は口を開く。
「ここから10分歩いたところに私の家があるわ。そこまで歩ける?」
「なんのつもりだ」
「あなたを治療したいの! 歩けるなら、一緒に来て!」
少女のあまりの剣幕と有無を言わせない意思の強さに青年は少し驚く。
そして、彼は痛みに耐えながら、ゆっくりと立ち上がり、少女の小さな体に支えられて歩き始めた。
*****
そうして到着したのは、立派な王宮だった。
「お嬢様っ!!」
血だらけの少年を抱えて帰ってきた少女に、侍女が驚きの声をあげる。
そんな侍女の声を聞いた少女の母親が急いでやって来た。
「フルーラっ! あなたは一体何度王宮を抜け出せば気が済む…」
彼女の目に血だらけの青年と彼を支える娘フルーラの姿が映る。
「フルーラ……一体これは……」
「お母様! 後で説明するから、まずはこの方を治療してあげて!」
フルーラの母親は戸惑いつつも、娘の真剣な声に頷く。
「わかったわ。エミ、医師を呼んでちょうだい。それから、この方をベッドへ」
「か、かしこまりました!」
母親の指示のもと、青年は手厚い治療を施されていく、
医師の診察やフルーラの献身的な看病を経て、青年の傷はどんどん癒えていった。
あっという間に一カ月が過ぎ、青年は初めてフルーラ家族と食事を共にすることとなった。
あまりに豪華なディナーに言葉が出ない。
「どう? 食べられそう?」
「王女様の食事ってのは、ずいぶん豪華なんだな」
そう言って青年は食事に手をつけた。
「フルーラが連れ帰ってきた時はどうなることかと思ったけど、傷も癒えてきて本当によかったわ」
「お母様、わがままを聞いてくださり、ありがとうございます」
頭を下げた娘に父親である国王が声をかける。
「結果よかったじゃないか。彼が来たおかげでフルーラの脱走癖もなくなったことだ」
「お父様! 脱走じゃないわ、あれは『お忍び』よっ!」
「どっちも一緒じゃない」
王妃の鋭い突っ込みが入った。
仲睦まじく笑うフルーラたち家族を真顔で見ていた青年に、フルーラは尋ねる。
「そういえば、あなた名前はなんていうの?」
その言葉にフルーラだけでなく国王と王妃も興味津々といった様子で青年を見つめて、彼の返答を待った。
青年はその視線に耐えかねて、少し目を逸らしながらぼそっと呟く。
「……シリウス」
彼の返答にフルーラは満面の笑みで答える。
「シリウス、いい名ね!」
その日からシリウスは王宮の客人として過ごしていく。
フルーラと読み書きの勉強をしたり、国王とチェスをしたり、王妃とフルーラと三人でお茶をしたり。
王妃がシリウスに素敵な洋服を着せて満足そうに抱きしめる時もあった。
どうやら一人娘で息子がいなかったから、息子ができたようで嬉しかったそう。
徐々に時間が経つにつれて、フルーラとシリウスの仲も近づいていった。
二人で手を繋いで一緒に街まで行ってお店巡りをしたり、そんなお出かけの日は帰る時間がつい遅くなって王妃に揃って怒られたりもした。
そうして、シリウスはだんだん心を開いていき、表情も和らいでいったのだった。
しかし、そんな日々は数ヵ月で終わりを告げる。




