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10

華やかな王都とは違い、辺境の山奥にある城へ移住することになったリリスの結婚生活に、きっとあの親子はさぞ気分がいいことだろうと思う。


夫のダリウスはリリスに見向きもせず、こちらのことはほったらかし。この状況を見れば、誰もが「リリス王女も落ちぶれた」と考えるだろうと予想がつく。


けれど、面倒なしがらみにまみれた王城内に比べると、こうして自由にできる今の方がよっぽどいい。掃除はいい運動になる上、キレイになった部屋を見るのは気持ちいいものである。


周りの声や態度がどうであろうと、自分のやるべきことをやる。


ダリウスの言葉に、いちいち落ち込んでしまうほどリリスの心は弱くはなかった。


「リリス様、向こうのホコリ叩きは終わりました!」


いまはユーリ以外にも、何人かにお願いして、手分けして城内を掃除しているところだった。


意気揚々と戻ってきたユーリは、「次はどこを掃除すればいいですか⁈」と意気込んでいる。リリスはクスリと笑うと、ユーリの顔に手を伸ばした。


「頬に(すす)がついているわよ」

「あ……っ!す、すみません……」


恥ずかしそうに顔を赤らめるユーリに、弟がいれば、こんな感じなのだろうかと思う。


「おい、ユーリ。何ヘラヘラしてんだ」


と、そこへ場の空気を変える声が聞こえてきた。リリスが後ろを向くと、そこには掃除を頼んだほかの使用人が数人立っていた。


「アベルさん……」


「アベル」と呼ばれた男は、ぎょろりとした目が印象的な男だった。


「俺らに分担された掃除は終わりましたぜ、《《王女様》》。次はどんな仕事をお与えくれるんですかな?」


明らかに軽蔑の意が込められた呼び方に、リリスの頬がピクリと動いた。どうやら、この城内で嫌われているのは夫だけではないらしい。ここでもか、とさすがにため息をつきたくなる。


「俺らみたいな平民は、こんな掃除なんて朝飯前ですからねぇ。王女様は、こんな仕事しないと思いますが」


挑発的な態度。だが、ここで言葉で咎めるような真似をしたところで、根本的な解決にならないだろうとリリスは考えた。側にいたルーナが抗議しようとしたのが分かり、咄嗟に手で制す。


「そうですね……次は、床拭きをしましょうか」

「床拭きですか」

「ええ」


リリスの提案に、彼らはニヤニヤと笑いながら「王女様も一緒にどうです?」と言ってきた。やはり侮辱されているのは明らかだった。


「あなたたち──」


ルーナは今度こそ何か言いたげだったが、またリリスに止められる。ルーナがリリスを見れば、主人は前を見据えたまま、改めて彼らに向き直った。そして、「いいですよ」と返したかと思えば、今度はにこりと笑んだ。


「では、せっかくなので私と勝負しませんか?」


リリスの意外な返答に、使用人たちは呆気に取られて目をパチパチさせていた。

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