学校一の美少女からラブレターを貰ったんだけど。
全10話位を予定しています。
寂しいクリスマスシーズンの貴方に!
え、寂しくない?
彼女の甘い吐息が首筋をくすぐった。密着するようにぼくの肩を強く握りしめて触れるか触れないか程度に優しく唇を合わせる。
ぼくはその日初めて彼女とキスをした。
甘い幸福感が全身に広がり、一瞬にして現実を忘れてしまう。
蓮実 梓はふっと目を細めると舌をチロリと舐める。
ぷるっとした唇がうっすらと濡れていた。
「どう?」
「びっくりした」
「それだけ?」
「……気持ちよかった」
感想を聞き終えると、彼女は腕を伸ばしてぼくと離れた。
昼休みが終わり予鈴のチャイムが鳴り響く。屋上の少し冷えた風が梓の長い髪を煽った。去り際ドアに手を掛けた彼女はぼくを一瞥すると、
「じゃあ、また放課後ね」
ウインクして立ち去った。
ぼくはまだ生温かい唇をそっと撫でる。
ぼくの気もしらないで、彼女はいつも勝手だ。
この関係だってそう、全てはある事実に基づいて成立している。
そうだ。
蓮実梓は1日1回キスをしないと死ぬ呪いにかかっている。
□
天は二物を与えず、と人は言うが本当にそうだろうか。
ぼく───榊 伊織は疑問を呈した。
窓辺の席で頬杖をつきながら、呆然と教室を眺める。
甘い蜜に吸い寄せられる蜂のように、無意識のうちに視線は教室の中心の方、和気あいあいと談笑する女子グループへと向けられた。
それはぼくに限った事じゃない。クラスの男子全員が、羨望の眼差しで一人の女子生徒を眺めていた。
多くの女子に取り囲まれながらも笑顔を決して絶やさない。綺麗な、うすい花びらのような少女。
蓮実 梓は学校の中でも飛び抜けて可愛い。すらりと伸びる長髪に、初雪のように白く透き通る肌。ブラウスの生地をつんと押し出す双丘は彼女の健康ぶりを思わせる。
まさに天から授かった美貌。加えて成績優秀、スポーツ万能、お金持ちというのだから、恐ろしい。
「よう、万年三位。今日もしけた顔してやがるな」
ぼくの肩をキツく叩くのは、親友の藤堂だ。やたらガタイのいい癖に生粋の帰宅部でおまけに彼女もいない。
こうも、天は差を作ってしまうのか……。
「おいてめぇ、失礼な事考えてんじゃねぇのか?」
「そんな事ないよ。あと万年三位って呼ぶな」
「だってこの間の中間試験も学年三位だったろ? 十分凄い結果なんだから素直に喜べばいいじゃん」
藤堂は軽快に笑い飛ばす。
だがこいつもぼくの苦悩を知らない。
「この前の学年一位。誰か知ってるか?」
「そりゃ、蓮見さんだろ。古事記にも載ってる有名な話じゃねぇか」
「じゃあぼくと彼女の間に何点差あると思う」
「さあ。二十点くらい?」
「百点だよ」
「なっ……」
ぼくは「天才」という言葉が嫌いだ。
天才、天才と囃し立てるのは、努力をしない人間か努力する事を諦めた人間のどちらかだ。
副教科含む十三教科の試験で、一位と三位には百点もの差がついた。これ程圧倒的で越えられない壁を感じた事は無い。
ぼくがいくら秀才であろうと、天才の彼女に及ばない。
彼女は……紛うことなき天才なのだ。
容姿やスポーツならまだしも学力すら勝てない。天は二物も三物も与えている。だからぼくは蓮見の事が苦手だ。
ふっと目線を逸らすと重いため息をつく。
「蓮見さん嫌いも相変わらずだなぁ、そんな意固地にならなくても別にいいのに。あ〜俺も蓮見さんと付き合ってみてぇ」
「はは……まあ頑張りなよ」
欲望に忠実な藤堂は放っておいて、さっさと次の授業の予習をしよう。先生に当てられたら大変だ。
「…………」
ぼくに向けられた視線に気が付いた。ほんの一瞬、他の人間なら気にも留めないだろう瞬間、蓮見の双眸がぼくを向いた。何か言いたげな、含みのある表情。
「なんだ……?」
彼女はすぐに前を向いて雑談を再開した。
□
昼休みは食堂だ。親が一々作ってくれないし、まして自分で作るのは論外なので、昼の激戦区へと足を運んだ。
「あれ、先輩今日も学食ですか?」
まるで玩具を見つけたかの如く、ニヤッと口角を上げて近寄って来るのは、明日原 澪だ。同じ剣道部の後輩で、ことある事にぼくに絡んでくる。
「いい加減自分で作ったらどうですか〜、あっ、先輩って料理出来ないんでしたっけ?」
「出来る。面倒だから作らないだけで」
「またまた強がっちゃって〜。今時男でも料理を作れないとモテないですよ〜、せっかくのルックスが台無しです」
トレーに料理を乗せて席に運ぶ。すると明日原はさも当然かのようにぼくの前に座り、「いただきます」と手を合わせた。
「ほうほう、先輩は今日カレーですか」
「なんでいちいちぼくのメニューを確認するんだよ」
「別にぃ。先輩の食生活が純粋に気になって」
「きも」
「なんだとぉ! 生意気な!!」
口をもぐもぐさせながら突っかかって来るな。
あと、生意気なのは後輩であるお前の方だろ。
「まあいいです」と諦めたように席に座り直し水を飲む。明日原も美貌だけなら一流だ。クラスのマドンナ的地位を確立しているとも聞いた事がある。
「まあ、可哀想な先輩の為に私がお弁当を作ってあげなくも無いですけど。そろそろ食堂も飽きてきたので」
「余計なお世話だ」
ぼくはバッサリと切り捨てる。
そんな事をすれば下の学年の男子から何を言われるか分からないし、変な噂でも立ったら最悪だ。というか今でも十分悪目立ちしているのに。
勿論冗談のつもりであろう彼女は、
「あっ……そ」
何故か不機嫌になっていた。
椅子を引いて、スタスタとトレーを返却台に持って行く。気が付くと明日原の容器の中身は既に空になっていた。
「何なんだ?」
ぼくも残りのカレーを口に放り込む。
言うだけ言ってさっさと立ち去る明日原。
歩く災害か何かだろ、あいつ。
□
部屋に帰ってくるといつもの喧騒が出迎える。
男子達は教室の壇上ではしゃぎ、女子達は他愛もない雑談やら、恋バナやらに花を咲かせている。
ぼくは残った休み時間を勉強に使おうと机に手を突っ込む。
「ん……?」
すると、覚えのない封筒が入っていた。ピンク色の可愛らしい装飾の入った手紙入れ。窓際のカーテンにくるまって周りの視界を遮断しながら、恐る恐る手紙の中身を見る。
『今日の放課後、屋上で待っています』
これは……。
筆跡的に女子の字だ。凄く達筆で、その子の几帳面さが伺える。何かのドッキリでは無さそうだ。差出人が気になって手紙入れを裏向けた。名前は───。
「蓮見、梓……?」
「……い、おいってば。何やってんだよ万年三位」
ギクッと思わず背筋を伸ばす。この声は藤堂だ。
「カーテンで新しい遊びでも考案したのか?」
ぼくはガキか! と、心の中でツッコむ。
万引き犯でも驚くぐらい慎重な動きで、手紙をポケットに、ポケットからカバンへと仕舞う。
「あ、あぁ……軍艦巻きってどんな気分なのか気になってなんとなく身体に巻きつけてみたんだ」
「(ぶふっ……なにそれっ)」
視界の端で蓮見が小さく笑うのが見えた。
「で、どうだったんだ?」
「不思議と安心感があるんだ。ストレスが渦巻く現代から隔絶されてふと異界の地に飛ばされたような……」
「擬似異世界転生って事か、マジかよ次俺にもやらせてくれ!」
藤堂が馬鹿で本当に良かった。
ぼくは蓮見がいる方を一瞥すると、彼女は僅かに頬を赤く染めながらそっぽを向いてしまった。
ドクンドクン、とうるさいくらいに心臓が脈打つ。
人生において告白された事は何回かある。それでも相手が、蓮見梓ならより一層特別で、意識してしまうのも無理は無い。
別の要件だろうと、何度も現実主義な脳内のぼくは異論を唱える。これが単なる自惚れで、本当に違っていたらショックで立ち直れないかもしれない。だから期待せず普段通りに接するのだ。
それがぼく、榊 伊織の生き方だ。
でも……それでも。期待せずにはいられないぼくはおもむろに携帯を取り出して素早くフリック。
明日原に個チャで、『今日はクラブ休む』と連絡を入れる。程なくして、『またサボりですか?』と返信が来た。
既読だけ付けて放置してやる。勘のいいガキは嫌いだ。
そして時は過ぎ───放課後になった。
今日は複数話投稿しますのでブクマして頂けると嬉しいです。




