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九話 リンのやきもち

 今の今まで忘れていたけれど、あたしは悪役令嬢である。

 つまりは、攻略対象のある乙女ゲームのライバルキャラであって。

 そう、攻略対象がこのゲームには存在する、という事実があたしは頭から抜け落ちていた。だって、もうエンディング「らしき」ものにたどり着いていたはずだし。


 その割には、お姉ちゃんと王子様の結婚の話は聞かないけれど……なぜだろう?

 最後までゲームをプレイできてなかったあたしには、なぞが解けないけれど。

 だって、プレイ中に死んじゃったんだもん。

 仕方がないと思うんだよね。

 ……ってわけですから、目の前に(元)攻略対象のカイリ王子がいるんですが、自分の役割を久しぶりに思い出したわけ。


「カイリ王子……」

「? 知り合いか?」

「いいえ、名前だけ知ってるだけで」


 いや、フワフワとした甘いピンク色の髪はパッケージで何度も見た。

 設定も覚えている。ふんわり優しい、皆の王子様。天使とすら呼ばれる美貌と温厚さが人気の、メイン攻略対象じゃないか。グッズ展開もすごくて、ゲームを知らずとも彼の顔は知ってる人が多数ってレベルだ。


「なぜ、知ってるのだ? 見目麗しいからか?」

「そんなわけではないけど……」

「……どうしてだ?」


 なんか、リンがしつこいなあ。なんかすねた様子だし。


「……俺のことは知らなかったのに」

「それはごめん……」


 だって、ゲームの中で名前が出てきたキャラではないもん。

 スチルにちょっといたけれど、立ち絵なんかない存在だし。

 たぶん、作品の名前には名前も出てこないんじゃないかな。

 完全に膨れているリンは、不安そうなあたしを見てため息をついた。


「まあ、いい。とりあえず、行くぞ」

「はい」

「おいしいご馳走を用意してくれたらしい」

「楽しみ……!」


 うん、大丈夫。あたしのそばにはリンがいるんだから。

 一人で怖いなんて思う必要もない。

 パーティを楽しめばいいんだよね。

 だって、エンディングは終わってるんだから。

 ……忌み子の話がバラされるかも、とか。


 不安はいっぱいあるけれど。

考えたところで、解決策はないんだから、忘れよう。

今を、楽しむんだ、ローラ。


***


 ダンスはきれいに、優雅にリンがリードしてくれた。

 緊張して手に汗握ったけれど、目の前で華麗に踊るリンに見とれているうちに終わった。


「リン、ダンス上手だね」

「一応は、王子だからな」

「そんな謙遜するレベルじゃないよ。皆見惚れてるよ」

「お前は」

「え?」

「ローラは、見惚れたか?」

「うん! すごく」

「ならよい」


 すっごくすっごく嬉しそうなリンは、あたしの手を強く握った。

 そして、呼ばれてどこかへ消えた。

 まあ、会食中はしかたがないよね。色々話さなきゃいけないこともあるだろう。

 だって、リンは王子様だもん。

 でも、のど乾いたなぁ。あ、この赤いジュースを飲もう。


「ん、おいし……ってうわっ」


 やば、白いドレスにこぼしちゃった。

 トイレへ行って洗ってこないと……。

 しかし、近くにいるのがなぜかもじもじしている、カイリ王子ぐらいで……。

 リンは! リンはどこ!? 

 ああ、もう。時間がたったらしみになっちゃう。

 ここはもう、しょうがないだろう。もらったドレスを汚すわけには行けないし。


「カイリ王子! あたしをトイレまで案内してください! おねがいします」

「……お、お前は」

「ローラですが、今はそれよりもトイレに案内してください! 至急です」

「あ、ああ。ってわけなのですまないが失礼する」


 前のめりなカイリ王子に案内されて、あたしは無事トイレにたどり着くことができた。

 はあ、よかった。無事シミにならなかった。

 トイレを出ると、カイリ王子が恥ずかしそうに待っていた。


「……さっきは、助かった。空気、読めたんだなローラ」

「へ? 何がです?」

「とぼけるほど、とは……おまえ、意外といいやつだな」

「? どうも。こちらこそ、ありがとうございました」

「いや、僕は別に……助けてもらった側だろう」

「何を言ってるんです?」

「……あくまでシラを通す気か。まあ。いい。パーティへ戻ろう」

「はい」


 そういえば、カイリ王子には妹姫がいたような。

 彼女も来ているのかな……?

 とてもカイリ王子に似た綺麗なお姫様だったけれど。

 考え事をしながら、パーティ会場に戻ると、リンが飛んできた。


「ローラ。何でカイリ王子と……」

「お手洗いの場所を案内してもらったの」

「はあ……なるほど? ……って納得するわけがないだろう」

「事実なんだけど」

「何で、他国の王子のカイリ王子に声をかけた」

「それは……名前を知ってるのがカイリ王子だけだったから」

「何で知っている!」

「リ、リン? 何で怒ってるの?」

「俺は怒ってなんか……!」

「焼いているんだね。リン王子は」

「なっ!」


 リンが真っ赤な顔をしてカイリ王子をにらんだ。


「大丈夫だよ、リン王子。僕とローラは偶然顔見知りなだけだからね」


 さらりと嘘をつくカイリ王子にあたしはポカンとする。


「……さっきのお礼だよ」


 と、カイリ王子は耳打ちするけれど、なんのこっちゃ。

 あたし、助けてもらった側だけれど?


「どういういきさつだ」


 きょとんとしていると、リンがいらいらした様子で尋ねる。


「僕がパレードをしている日に、彼女が旅でいらしてね。そこで、僕が落としたものを拾ってもらった関係だよ」

「そうなのか……」

「ふふふ、リン王子はローラがお好きみたいで」

「悪いか」

「別に、僕には関係ないしね」


 それよりも、とカイリ王子は首を傾げた。


「ミシェルを見ていないかい? さきほどからいないんだ」

「妹姫のことか」

「そうだよ、リン王子。まあ、すぐに見つかるから探さなくてもいいだろうけどね」


 大丈夫なのかな、それ。

 まあ、いいって言ってるからいいのか。

 気にはなるけれど……。


「はあ……大丈夫なのですか、カイリ王子」

「……! まだカイリ王子をかまうのか、ローラ」

「ええ……? あ、そうだ。リン。お外を眺めて一緒にあったかい紅茶をいただきましょう。パーティを少し抜け出して!」


 なんか、リンがいらいらしてるのだけはわかるし……とりあえず二人きりになって理由聞くのがいいよね。それに、寒いし、あったかいお茶をもらっていこう。

 リンは、不満げに頷いた。


***


「きれいな星空ね!」

「……そうだな」


 仏頂面のリンが、ぼそりと言った。手には空のカップ。あたしの両手には紅茶セット。

 あったかい入れたてである。もう、苦くならないように茶葉はどかしてある。

 まあ、あったかいものでも飲めば、リンも落ち着くだろう。


「ほら、リン傍にきて。紅茶を飲もう」

「ああ……」

「って、わあ」


 リンの顔が近い……白くて滑らかな肌と、鋭い瞳が間近で……唇も、もちろん近くて。


「うわああああ」


 あたしは、慌てて紅茶を丸ごと放り投げた。


「お、おい。ローラ」

「ぎゃああああ」

「え、まさかの下に人!? やばいやばいやばいよっ」

「誰かの頭上に落ちた……な」

「大丈夫ですか!?」


 あたしが身を乗り出すと……そこには、どこかで見た顔が……。


「ミシェル姫だな」


 淡々というリン。


「え、ミシェル姫ご無事ですか」

「貴女は……ローラ」

「そうですローラですが、それよりも今の悲鳴は」

「今の悲鳴は暴漢です。ミィを狙っていたんです」


 甘い声と長いフワフワで鮮やかなピンクの髪色。特徴的な一人称。

 まぎれもない、ミシェル姫だ。

 確か、ミンと同じ年ごろ。

 その割には見た目は大人びていて、中身は幼い感じがする。


「助けていただきありがとうございました、ローラ」

「え、あたしっ?」

「わざと、熱湯をかけてくださったのでしょう?」

「へ?」

「そうなのか、ローラ。さすがだな!」

「ええええ? あたしは別に」

「ローラらしい、さりげない助け方だな」

「……? らしいって?」


 ポカンとするあたしを無視して、リンはバルコニーから庭に降りる階段を使い、ミシェル姫の横に降りた。


「大丈夫ですか、ミシェル姫」

「ええ、ミィは無事です」


 なんだか、お似合いだなぁと一瞬思う。

 王子様とお姫様。

 ……そう思うと、なんか胸のほうが変な感じがした。


「ローラ、何ふてくされてるんだ? やきもちか」 

「! これがやきもち!」

「なっ、本当にやきもちなのか? ローラが……ローラがやきもち!?」


 なるほど、このもやもやがやきもちというのか……。

 ……なんて実感していると、なぜだかリンはうれしそうに笑っていた。

 すごく満足気である。なぜだ。


「何でリンはうれしそうなの、あたしのこんなみっともない姿を見て……」

「それは、俺がローラを愛しているからだ」

「え」

「好きな人が自分以外の誰かと何かしていてようやく人は焼きもちを焼く、つまりは」

「……あたしは、リンが好き?」

「そうだな。ってそれも素直に認めるのか……ローラのそういうところは好きだがな」

「あたし、リンが好きなんだ」

「何度も言うな、恥ずかしいだろう」

「……イチャイチャですねぇ。とりあえずありがとうございました。ミィはお兄様のもとへ帰ります」


 気が付けば、ミシェル姫はどこかへ消えていった。


「あたしはリンが好き……あたしはリンが好き……」

「連呼するな!」


 実感のないあたしは、繰り返しつぶやいた。


「いいの、かな。あたしなんかがリンを」

「お前だから俺は好きと言われてうれしいんだ」

「……リン」

「別の誰かじゃ、いやだ」


 そう言ってリンはあたしをなでて優しく笑った。

 気が付けば、あたしの瞳からは、一筋の暖かいものが流れていた。


読者様の期待に添えてるか不安ですが、がんばって更新していきます!

読んでくださり感謝感謝です♪

しばらくは12時+気まぐれに番外編を臨時で行きます!

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