十話 初めてのデート?
あの後、あたしが元居た国からはこっそり名産品の果物が送られてきた。
たくさんの果物はお城中の人にふるまわれたけれど、それでも多くて。
どうせなら、とリンにあたしは声をかけた。
「ピクニック行かない? リン」
「また、そんな庶民的な……」
「いいじゃん。きっとリンが一緒なら楽しいし」
「……ローラが言うなら。ただし、二人きりだぞ」
「別にいいけど、ミンとかはいいの?」
「デートだから、二人きりがいいんだ」
「!」
ジツとあたしを見つめるリン。
そんな、口説いてるみたいなセリフ……!
恥ずかしいじゃん! うれしいけれど!
「ついでに山菜でも取ってみるか……」
「何でまた、山菜」
「最近庶民の生活に興味があってな」
「それってあたしが影響してる?」
「当然そうに決まってるだろう」
嬉しそうなリン。
バスケットを持って、手作りのフルーツサンドを二人で作った。
少しいびつなリンが作ったフルーツサンドを、あたしは早く食べたかった。
なれない手で頑張る姿はとても愛しくて。
あたしはリンに少しときめいてしまった。
きれいな指をしていたなぁ……。
「ローラ、なぜか幸せそうだな」
「あたしはいつだって幸せだよ?」
みんなのおかげで!
「そうか。俺はお前が幸せなら幸せだ」
「リンったら」
「いちゃつかないでよ、お兄ちゃん、ローラ」
「!? ミン!?」
「なんでいるんだよ」
「おいしそうなものが見えたから?」
つまみ食いをしながらミンはにやにや笑った。
まあ、一つぐらいいいけれどさ。
おいしそうにミンはフルーツサンドを食べてどこかへ消えていった。
***
ご機嫌に鼻歌を歌いながらあたしたちはピクニックをした。
途中、おなかがすいてきたので適当な場所にシートを引いて座り込む。
「よし、リンの作ったフルーツサンドだ!」
「俺のは見た目が悪いだろう……」
「関係ないよ。リンが作ったことに意味があるんだから」
「……それは俺のセリフだ」
ボソリとリンがつぶやく。
あたしはにこにこしながらリンの作ったフルーツサンドを食べていく。
みずみずしくて、すごくおいしい。
逆にリンは、あたしの作った方ばかり食べていた。
「おいしいね、リン」
「ああ……そうだ。山菜を見てこよう」
「唐突だね」
「……腹ごなしだ」
トイレか何かだろうか。まあ、深く触れないでおこう。
リンを見送ってあたしはフルーツサンドを食べ切った。
おなかいっぱいで眠いので横になる。
そこで、あたしはお馬鹿なことを思いついた!
死んだふりである。
それで、リンをドッキリさせるのである。
よし、決行だ!
「…………」
無言で息を止め、死んだふりをする。
リンはかえってこない。
代わりにやってきたのは。
「なんだこの女。高そうな服を着ているな」
「さらってしまうか? 貴族かもしれないぞ」
山賊だった! やばいやばいやばい!
そう思っていると、フルーツサンドをさりげなく、ひとかけら落としていることに気づく。でも声をあげれない。その時だった。
『そのフルーツサンドは我のものだ!』
リーチェだった。迫力満点な顔で、フルーツサンドめがけて、リーチェが迫ってきたのだ! そういえば、リーチェには果物を分け与えるのを忘れていた。
勢いよく飛んできたリーチェに、腰を抜かす山賊たち。
「……何事だ!? 山賊!? 山賊か!?」
「あ、リン」
「何?! こいつ生きてたのか?」
「……? ローラ、お前、死んだのか?」
「ううん、生きてたよ」
「なにぃいいい」
叫ぶ山賊たち。
そして戻ってきたリンは、本当に手に山菜を持っていた。
本当に山菜目当てだったんですかい。
笑いそうになるのをこらえていると、リンが山賊を取り押さえていた。
気が付けば応援部隊がそばにいて、山賊たちは御用となった。
「ローラ、お前は山賊に気が付いて死んだふりをしておびき寄せたんだろう。危ないことをするなぁ、相変わらず……」
「へ?」
「いくら周りのためでも、やりすぎはよくないぞ」
「はあ……」
違うんだけどなあ。誤解なんだけどなあ。
でもリンがなでなでしてくれるから、もう、説明する気力もなくなった!
山賊が牢に収監された後、あたしたちはリーチェに乗ってのんびり帰宅した。
空がきれいに見えて、うれしくてあたしはにこにこした。
***
「あの山賊は貴族を狙っていたのね……」
さすがに、王兵の力にはかなわず、彼らはすぐに降参した。
リンの国の兵力は、思った以上に強力らしかった。
あっという間に彼らの目的を吐かせることに成功したのだ。
その結果、彼らが貴族専門の山賊だったと判明した。
「そうらしいな。で、色々な王家の宝物を持っていたと」
「だからって被害にあった国々からあたし宛に、表彰状まで届かなくても……」
「当然もらうべきだろう。ローラが命懸けでみんなを助けたのだから」
「ええ……」
命なんかかけた覚えはないけれど。
むしろ悪ふざけしていたんだけれど……ばれたら怒られるよねぇ?
だから、あたしは黙ってにこにこしている。
真面目なリンの激怒は絶対怖い。
それに、王族に実はふざけてましたとバレて打ち首にはなりたくない。
絶対嫌だ、怖い。
「さすがはローラだ。自慢の婚約者だ」
「そんなことは……」
「ある!」
「はあ」
あたしにはふさわしくない、と何度も思うのにどうしてか、あたしはそれをはっきり反論できなくて。
それはきっと、あたしがリンが好きだからだろう。
今の立場を利用して、そばにいたいと思ってしまう。
リンは攻略対象でもないんだから、なんて自己中なことを考えたりして。
問題はそうじゃないってわかっているのに……。
悪役令嬢のあたしなんかといれば、リンは不幸になるに決まってる。
なにせあたしは忌み子だし。
……頭の中で、理解はしているのに。
どうしても、今の状況を喜んでしまう自分がいるのだった。
「好きだ、ローラ」
「うん……」
「? 元気ないな」
「そんなことは、ないよ……きっと、気のせい」
「ならいいのだが。残っている果物で、一緒に何か作るか」
「いいね。そうしよう」
あたしは気分を紛らわすためにそう返事をした。
厨房を借りて、いろんなものを容赦なくミキサーにかける。
すると、酸っぱい香りの何かができた。
「変なにおいがする、飲むな」
「……飲む。あたし飲む」
「おい」
あたしはそれを好奇心で飲んだ。
すると……苦くて、まずくて。
なんだろう。この世の変な味を全部ミックスしたような……泡も立っているんだけれど。
真っ黒なそれを口に含んだ瞬間、思わず涙があふれた。
「大丈夫か、ローラ」
「うん、平気。まず過ぎて泣けてきただけ」
「いっただろ、飲むなって」
「わかってたんだけどね」
「じゃあ。何で」
どうしてだろう。
あたしはわざとこの苦いジュースを飲んだ。
もしかして、不安をごまかして泣きたかったのだろうか。
今までが今までだったから、幸せすぎて怖いのだろうか。
幸せが、不安だなんてほかの人にはきっとわからない。
自分にはこの環境が釣り合わない、なんて人はきっと考えない。
「不安そうな顔をするなローラ。俺がついてる」
「リン、ありがとう」
その言葉は信用に値するのに、どうして不安がる必要があるのだろうか?
理由は、あたし自身にもわからなくて。
あたしは、残った苦いジュースをすべて流しに捨てた。
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