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百五十五話目

 とうとう金曜日。今日が平日最後の合奏練習だ。基礎練の時から気合いが入っていたみんなの演奏はすさまじく、思わず身震いするほどだった。そして、部活を終えた時、先生が土日のことについて語り始めた。

「明日は朝七時から始めるよ。で、終わりは五時」

「五時!?」

 トラが度肝を抜かれたような声音で告げる。しかし先生は落ち着きはらった様子で、

「そうだよ。結構明日は楽器の運搬に時間を取られると思うからね。早めに終わっておいた方が暗くなる前に終わるだろうし、それには前日はゆっくり休んでおいた方がいい。だから、明日は朝は早いけど、総合的な時間から言ったらいつもと同じかそれ以下だ」

 つられて全員の表情が険しさを増す。明日は休日と言うこともあって少しばかり心に余裕があったのだが、それが見事に打ち砕かれた。さらに先生は意味深に頷き、

「もうわかってると思うけど、あと二日だ。つまり、ここから先、爆発的に成長するなんてことはまずありえない。漫画なんかではピンチになったら奇跡が起きるけど、あれはフィクションだ。俺たちには今まで培ってきた技術で、最善を尽くすしか道はないんだよ」

 もっともな意見だ。奇跡も、覚醒も、この世界ではありえない。それまでにどれだけ努力したか……それに尽きる。

「でも、不安になることはない。周りを見てごらん」

 チラリと視線を横にやると見えるのは部員たち。そして楽器たち。なんてことはない。いつも通りの光景だ。だが、先生だけは嬉しそうに破顔して、

「自分たちじゃ気付かないかもしれないけど、みんなは成長してる。進歩してる。進化してる。それこそ、一か月前とは比べ物にならないくらいにね。だから、ここまで努力してきた自分を、共に歩んできた仲間を、そして絶えず傍にいてくれた楽器を信じな。それらはきっと、力になる」

『……はい!』

 先生はたまにこういうことを言うから卑怯だ。つい目頭が熱くなってしまったじゃないか。普段は高校生同然にちゃらんぽらんしてるくせに。

「ま、お堅いことは置いとくとして本番は楽しもう! いいね?」

『はい!』

「よし! それじゃ、今日の練習を終わります!」

『ありがとうございました!』

 ――そうだ。楽しもう。吹奏楽とは、吹いて、奏でて、楽しむ音楽なのだから。


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