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第38話 漢ディアボロス、光を抱く

まばゆい光の奔流の中、ディアボロスの意識は、一瞬、完全な白に包まれた。


(――ここで、終わるのか)


そんな考えが、ふと脳裏を過ぎった。だが、不思議と、その考えに恐怖は伴っていなかった。むしろ、これまでの人生で感じたことのない、奇妙な充足感すら覚えていた。


(この想いを、正面から受け止められたのだ。それだけで、十分ではないか)


彼は、迫りくる光の質量に、全身全霊で対峙した。


魔界の絶対君主として培ってきた、あらゆる魔力と経験。それらのすべてを、この一瞬に注ぎ込むように、ディアボロスは、両腕でその光を、力の限り抱きしめた。


「――受け取ったぞ、セシル!」


彼は、意識が薄れゆく中、最後の力を振り絞って、そう叫んだ。


 



 


次の瞬間、魔王城の敷地全体を揺るがすほどの、凄まじい爆発が巻き起こった。


轟音と共に、まばゆい光の柱が、天高く立ち昇る。その光は、遠く離れた人間界の街からも、はっきりと視認できるほどの規模だった。


「な、なんだ、あの光は!?」


「魔界の方角から、また何か、とんでもないことが起きているようだぞ!」


人間界の人々が、恐る恐る空を見上げる中、魔王城の敷地は、まさに壊滅的な有様となっていた。


これまでにも、セシリアの様々な「愛の表現」によって、城の一部が半壊するという事態は、幾度となく起きてきた。だが、今回の爆発は、その規模において、これまでのどれとも比較にならないものだった。


魔王城の敷地の実に三分の二が、跡形もなく消し飛び、巨大なクレーターが、そこに新たに刻まれていた。


 



 


爆発の煙が、ゆっくりと晴れていく中、そのクレーターの中心から、もうもうと立ち込める土煙をかき分けるようにして、一人の人影が、ゆっくりと姿を現した。


「デ、ディオ様……!」


セシリアが、驚愕と不安の入り混じった声を上げた。


土煙の中から現れたのは、全身がボロボロになりながらも、辛うじて二本の足で立っているディアボロスの姿だった。


彼の纏っていた衣服は、ほとんど焼け焦げ、原型を留めていない。肌のあちこちには、擦り傷や火傷の跡が痛々しく刻まれている。


だが――。


その顔には、これまでの彼からは想像もつかないほど、穏やかで、そしてどこか満足げな表情が浮かんでいた。


「――受け取った、ぞ」


彼は、かすれた声で、そう告げた。


「貴殿の想い……確かに、この身に受け止めた」


「ディオ様……! ああ、ディオ様!」


セシリアは、涙を溢れさせながら、彼の元へと駆け寄ろうとした。


「――っ、待て、セシル」


ディアボロスは、辛うじて片手を上げ、彼女を制した。


「もう少しだけ、その距離を保っていてくれ。今、貴殿に触れられれば、俺の体は、もう保たぬかもしれん」


「あ……! す、すみません!」


セシリアは、慌てて足を止めた。


 



 


「――だが」


ディアボロスは、痛みに顔をしかめながらも、力強い声で続けた。


「俺は、逃げなかった。貴殿の想いから、目を逸らさなかった」


彼は、震える足を叱咤しながら、一歩、また一歩と、セシリアの方へと歩みを進めていった。


「その理由が、何であるか、貴殿には分かるか」


「――え?」


セシリアが、涙に濡れた瞳で、彼を見つめる。


「俺も――」


ディアボロスは、満身創痍の体で、それでも真っ直ぐに、彼女の目を見つめながら、告げた。


「俺も、貴殿のことを、愛しているからだ」


その言葉が響いた瞬間、辺り一帯の空気が、しん、と静まり返った。


セシリアは、しばし言葉を失ったまま、大きく目を見開いていた。


やがて、彼女の瞳から、これまでとは違う種類の涙が、次から次へと溢れ出し始めた。


「ディオ様……! 本当に、本当に、嬉しいです……!」


セシリアは、感激のあまり、その場に崩れ落ちそうになりながらも、必死に自分の感情を抑えようとしていた。先ほどの、想いの解放によって城の三分の二を消し飛ばしてしまった記憶が、彼女に、ある程度の自制を促していたのである。


だが、それでも、彼女の内側から溢れ出す幸福感は、抑えきれるものではなかった。


崩壊した魔王城の敷地に、二人だけが、静かに向き合って立っていた。


その光景は、これまでの数々の破壊の爪痕とは裏腹に、どこまでも穏やかで、そして確かな絆に満ちたものだった。

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