「黒帝、その正体」
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黒帝。
その名は、恐怖そのものだった。
だが――
“本体”を見た者はいない。
「……来たか」
低い声。
廃工場の奥。
影の中に、男が一人。
「遅ぇよ、坂寺」
「……悪いな」
黒帝総長、坂寺。
だが、その声音には、
“主”の前に立つ者のそれがあった。
「で?」
「どうだった」
「……皇丸」
「噂通りだ」
「いや――」
「それ以上だな」
影が、わずかに揺れる。
「……そうか」
「面白い」
その一言で、
空気が変わる。
「坂寺」
「お前は、どう見る?」
「……正面からやれば、勝てるかどうかは分からねぇ」
「だが、あいつは――」
「“見えてる”」
「組織も、人も、流れも」
「だから厄介だ」
沈黙。
やがて、
「……なるほど」
影が、笑う。
「なら――」
「壊してみるか」
その言葉は、
軽い。
あまりにも軽い。
だが、
坂寺の背に、
冷たい汗が流れる。
「……どうやってだ」
「簡単だ」
「“仲間”を壊す」
「一人ずつな」
一方――
皇丸。
「総長」
緋村が口を開く。
「……嫌な情報があります」
「言え」
「黒帝ですが――」
「坂寺が“トップではない”可能性が高いです」
沈黙。
「……ほう」
「さらに」
「こちらの動き」
「かなりの精度で“読まれています”」
空気が、変わる。
源田が笑う。
「はっ」
「面白ぇじゃねぇか」
藤原は黙る。
武田は、空を見ている。
山下は――
何も言わない。
世古だけが、
静かに、
考えている。
「……なるほど」
「そう来たか」
そして、
ゆっくりと、
笑う。
「いいね」
「上等だ」
「俺の想定を超えてくる奴がいるなら――」
「ぶっ壊す価値がある」
だが、
その瞬間。
緋村が、
わずかに目を細めた。
(……違う)
(これは、“超えている”んじゃない)
(最初から――)
(“上にいる”)
戦争は、
始まる前から、
もう、
始まっていた。




