魅力(琉依視点)
美香ちゃんが仮の付き合いをしていたと知って以降付き合った日の記念日を毎月お祝いするのはどうなんだろうと思いつつお花を渡すだけにしていた。美香ちゃんにとっては付き合ってからの2年間も大切なものだっていうのはわかるけど美香ちゃんが僕とちゃんと付き合い始めたのは僕が好きだって言った日だからその日が付き合った日記念になるんじゃないかって思った。それで同棲を始めてから美香ちゃんに付き合った日はあんまり記念じゃなかったねって言ったら僕が好きって言った日も仮の付き合いが始まった日もどっちも大切ですって言ってくれた。だから1月毎に仮の付き合いを始めた日をお祝いするのは止めて、これから結婚記念日や僕と美香ちゃんの子供が生まれた日とか記念日がたくさん増えていくだろうからねって言って僕が好きだって言った日は毎年レストランにディナーをしにいこうって言った。結婚しても子供が生まれても必ず毎年する決まり事にしようと言った。平日でも定時で帰るしどれだけ忙しくて定時は無理って状況でも僕は仕事はできるんだから終わらせて必ずその日をお祝いするんだ。そうならないように人を雇って育てないといけないんだけど美香ちゃんと特別な日を過ごすために昇たちに毎年この日に仕事が溜まらないようにスケジュール立ててよねって言ったらそれは僕次第だって言われた。
そういうわけで同棲を始めてから始めての記念日は僕の誕生日だった。バレンタインとホワイトデーもイベントではあるし美香ちゃんもチョコレートをくれて僕もお返しするけどお祝いとはちょっと違う。まあ、この前みたいな美香ちゃんが高校卒業前で登校しないで僕が仕事なのを良いことに関さん不在の関さんの家で美香ちゃんを独り占めされる……3人占めされるのは面白くなかったけど。美香ちゃんが僕が仕事終わりに急いで行ったら喜んでくれたから良い。とにかく僕の誕生日だ。せっかく美香ちゃんと一緒に暮らしてるんだから家で過ごしたいって言ったらケーキとごちそうを用意してくれた。ハッピーバースデイの歌を歌ってくれてろうそくを消して少しくすぐったい気持ちになったけど嬉しかった。手紙も読んでくれてばっちり録音もしてイチャイチャしてとんでもなく幸せだと思った。
それから数日後、美香ちゃんが初めてパーティーに行く日になった。絶対ないと思いつつ翠さんたちに本当に大丈夫なんだよねって念のためもう一回聞いたらくどいって言われてからこう言われた。
『琉依さんは悪意を向けられたことのない美香ちゃんはドロドロした感情を知らなくて良いとおっしゃっていたことがありましたが例え知っても美香ちゃんなら自分でどうにかできます。琉依さんが大切に大切に美香ちゃんの目をふさいでいては美香ちゃんのためにはならないのですよ。可愛い子には旅をさせよです。全ての人を無条件に受け入れなさいとも言いませんし信じなさいとも言いませんが美香ちゃんのことから信じてみたらいかがですか?宗一郎さんたちのことを信用するために自分が実際に見聞きしたことしか信じないのも悪いとは言いません。むしろそれが良い場合もあります。ですが自分しか信じられないのでは気を張って自分だけでなにもかもを背負っていたこれまでと変わりませんわ。美香ちゃんは確かにぼんやりしてのんびりしてぽやーっとしてて守ってあげたいと思います。でも同時にしっかり自分を持っていますし美香ちゃんには誰にでも好かれるという美香ちゃんの一番の魅力があります。それが私たちが美香ちゃんなら大丈夫だと思うもう1つの理由ですわ。ですから美香ちゃん自身を信じたらどうですか?』
何もかもを美香ちゃんから遠ざけているのは守っているとは言えないと知った。いつも通り長い翠さんの話がすっと僕の中に入ってきた。僕は美香ちゃんを信じて最低限必要そうなマナーだけを教えた。学校の勉強で覚えることがたくさんだから覚えてられるかわからないって言う美香ちゃんに僕がそばにいるから大丈夫だよって言ったけどそれくらいは良いはずだよね。
そしてパーティー会場の坪井さんのお店に行く。
「わー!!いつもと雰囲気が違いますねー!!人もたくさんでお料理もたくさん並んでてすごーい!!」
「あ、美香ちゃん!?」
店内に入ってすぐに美香ちゃんが料理が並べられてる所に走っていっちゃう。走っちゃ駄目なのと食べる前に坪井さんと奥さんの真理子さんに挨拶だよって言ってたんだけどな。
目の前に行っただけで美味しそうって感動してるだけの美香ちゃん。
「美香ちゃん、坪井さんに挨拶したら食べよう」
「はい!!」
周りが僕たちを見てるのがわかって思わず美香ちゃんを急かして坪井さんの所に行く。
「坪井さん、本日はお招きいただきありがとうございます。5周年おめでとうございます」
「ありがとう。美香ちゃんも来てくれてありがとう」
「あ、えっと、おめでとうございます!!」
「妻を紹介するね、真理子だよ」
「ごきげんよう美香さま。主人や琉依さまからお話をお伺いしておりました。お会いできて嬉しいですわ」
真理子さんを見てぼんやりしてる美香ちゃんの肩を軽くトントンと叩く。
「あ、初めまして!!藤井美香です!!よろしくお願いします!!」
「ええ、よろしくお願い致しますわ」
「坪井さん、お料理美味しそうでした!!お店で食べた鴨のコンフィは柔らかくて、でも皮がカリッとしてて美味しいしキッシュは私のよく作るお料理ですけど坪井さんのお店のキッシュみたいにはどうしてもできませんよー。それにタルタルステーキがありました!!坪井さんのお店で食べたことなかったです!!美味しそうです!!」
お料理が上手くなった頃は料理名までは覚えられてなかったのにあの一瞬で何があるのかも食べた時のこともいろいろすぐに出てくるなんてって僕が驚く。
「あはは、そうだったね、食べてみて。本当に美香ちゃんは面白いなー。そんなに料理の感想言ってもらえるなんてなかなかないよ、嬉しい。ね、真理子。昔の自分みたいでしょ」
「本当に。昔の自分を見ているようですわ」
「真理子さんに似てますかー?こんなに素敵な人なのにー?」
「うん。真理子は女子校でテニス部にいて動くからお腹が空くんだっていつでも食べてばっかりだったし食べ物の話ばかりしてたよ」
「美香ちゃん、翠さんたちが通ってた女子校だよ。異端児だったんだって」
いつの時代もあの3人みたいな変わり者がいたんだなって思った。真理子さんは昔からお嬢様然としてない変わり者だって言われてたらしい。
「そうなんですかー!!で、異端児ってなんですかー?」
「型破りな人ってことだよ。翠さんたちと同じね。代がずいぶん違うけど」
「まあ琉依さま?私がおばさんだっておっしゃってますか?」
「滅相もございません。ね、美香ちゃん、翠さんと違った意味で貫禄があるよね」
真理子さんも圧力が強い。坪井さんと仲良くなって真理子さんを紹介してもらったけどちょくちょく怖い。
「どうせ翠さまは私と違ってスリムですわよ」
「あ、そういう意味じゃ……」
真理子さんがふんって子供っぽい仕草をする。30代後半なのに……そう思ってたら口に出してないはずなのに睨まれた。
「そうだ琉依くん、美香ちゃん、今日橘さんを呼んでるから紹介させて」
「橘さんってあの有名な?」
「そうだよ。若くしてフランス料理の世界大会で日本トップになったお店の。実はその人と一緒に働いてたことがあるんだ」
「そうだったんですか?坪井さんってすごい人だったんですね」
「すごいでしょ。なかなか店から離れない人だけど是非来てくださいってお願いし続けたら来てくれることになったんだ。お世話になった人だから琉依くんと美香ちゃんにも紹介したくて。奥さんとお子さんはパーティーによく来てるんだけど琉依くん会ったことないでしょ」
「んー多分ないと思います」
「だからあとで紹介するね」
「はい」
そのあと料理を取りに行くと気付いたら美香ちゃんの持ってるお皿に同じ料理がたくさん取られてた。
「美香ちゃん美香ちゃん、1つのものをとりすぎないようにするんだよ」
「ハッ!!」
びっくりして僕の顔を見て手元のお皿を見る美香ちゃん。
「琉依さーん……どうしましょー……」
「今度から気を付けたら良いよ、大丈夫」
僕がそう言っても肩を落として落ち込んでしまう美香ちゃんにもっと気を付けて見てれば良かったって後悔する。
「美香ちゃん、食べてごらん。あとで坪井さんに美味しかったって言ってあげよ」
「……はい」
美香ちゃんが非常識だと思われたらどうしよう。美香ちゃんは一生懸命覚えようとして頑張ってたのに。
落ち込みながらタルタルステーキを食べた瞬間美香ちゃんが顔をあげる。
「んー!?美味しいー!!」
「本当だね、美味しい」
僕も同じものを食べて言うと美香ちゃんの笑顔が弾ける。
「琉依さん!!すごく美味しいですよ!!」
「そうだね」
美味しそうに食べる可愛い美香ちゃんの良いところをみんなにわかってほしい。
「琉依くん」
そう思ってたら声をかけられて振り向くと原口さんがいた。
「原口さん、こんにちは」
「彼女が例の秘蔵っ子ちゃんだね。やっと会えた」
「秘蔵っ子ちゃん?」
僕の美香ちゃんはみんなに秘蔵っ子って呼ばれてる。美香ちゃんは首をかしげて不思議そうにする。
「初めまして美香ちゃん」
「初めまして!!琉依さんのお友達ですかー?」
「そうだよ。美香ちゃんのポスター作ってるよ」
「わー!!私私のポスターに囲まれますよー!!」
原口さんの言うことも美香ちゃんが言うことも事実だけどおかしくない!?ポスターは僕の大切なものだけど普通そういう反応する!?
「そっかそっか、面白いねー」
原口さんは面白そうに笑う。知ってる人は知ってる家の中だけど美香ちゃんがみんなに赤裸々に言いそうでヒヤッとする。いや、お義母さんたちに知られなきゃ別に知られても良いのか?でもそんな変態とは別れた方が良いとか言われたら困る。僕はそんな危険な変態じゃないけど。
そのあと次から次へと仲良くなった人たちが話しかけてきて楽しそうに僕をからかってくる。
「琉依さま、美香さまとご一緒いたしますわね」
「え、翠さん?駄目だよ駄目」
困ったなって思いつつ、ニヤニヤ笑いながらついに秘蔵っ子ちゃんを表に出す気になったのかとか言われて隠してたんじゃないって言ったりしてるといつの間に来ていたのか、翠さんと加代子さんと佳代子さんがいて美香ちゃんの手を握ると翠さんに邪魔される。
「駄目ではありませんの。どうぞお話を続けてくださいまし」
「いやいや」
何言ってるの、僕は美香ちゃんのそばにいるって決まってるんだよ。
「椎名さま、失礼いたしますね」
加代子さんが僕と話してた椎名さんにそう言う。ちょっとちょっと、翠さんたちは存在自体が脅威で牽制になって美香ちゃんを守ってくれてるんだからそばにいなくても良いんじゃないの?あれ?そばにいた方が良いって言うのも言ってた?でも僕も美香ちゃんのそばにいるねって約束してるのに。
翠さんも美香ちゃんに行きましょうって言って美香ちゃんが僕に行ってきますって言う。あう……僕のそばにいてほしかったのに。
「琉ー依、ふてくされないの」
「関さんー僕の美香ちゃん取られたんですけどー!!旦那なんだからしっかり止めてくださいよー!!」
「いやー翠が美香ちゃんと会えるの楽しみって言ってたから」
「いつもメールとか電話とかしてくるじゃないですかー!!」
「琉依、関さんまだ旦那じゃないよ」
「良いんだよどうせあと少しなんだからー」
小林くんもちゃんと加代子さん止めてよね、まったくもう。関さんは本社で働くようになったけど今度はアメリカ出張が多くなった。将来的には独立して開業するけどいろんな経験を積むんだって。そこで関さんは通い妻の翠さんに家で待っていてほしいって言ってついにやっと結婚することに決まったんだって。
「とにかく翠たちに任せてれば大丈夫だよ」
「もー……仕方ないなー」
人が多すぎて見えなくなっちゃった美香ちゃんが歩いていった方向だけを見た。美香ちゃんの魅力がみんなに伝わりますように。
「そうだ、小林くん小林くん」
「なに?」
「昇がいないとこで聞こうと思ってたんだけどね、昇が人を雇う雇うって言ってなかなかちゃんと動いてくれなかったのって僕のせい?」
「ん?」
「今は僕か僕と昇が2人でお客さんの話を聞いて設計図を作って僕がプログラミングしてるけど人を雇ったらいずれは僕はその人が作った設計図だけを見てプログラミングをすることになってお客さんの要求をとらえ間違えたりとか無茶苦茶なのを作られたりするかもって僕が信用してできるのかとかそもそも昇たち以外の人たちと会社で1日中一緒にいて大丈夫なのかとか思ってたんじゃないかな。ほら、僕みんな以外の人がいるとこじゃ警戒して壁を作ってたでしよ」
「うーん、まあそれもなくはないかな。単に忙しかったからっていうのもあるけど」
「琉依は話そうと思えば壁を作りつつ話せるし自分から人と衝突することもないだろうって思うけどストレスになるだろうとは思ってたよ」
関さんにも言われてやっぱりそうだったんだって思う。
「昇も自分1人では簡潔させないでしょ。琉依が自分で聞いて自分で確認してやるだろうなって思ってるからだよ」
「僕昇のやることなら信用してるけどな……」
「琉依自分で気付いてないだけで僕たちの言うことやることを全部鵜呑みにしてないよ。良いんだけどね」
「うん、俺たち琉依に口から出任せしたりからかうの面白いから適当なこと言ったりしてるし」
「なんですかそれ!!酷いんですけど!!」
「まあまあ。琉依が僕たちを信頼してるからこそ違ってた時僕たちを信じられないって思いたくないから初めから自分で見聞きしたことしか信じないってわかるから今までずっとそうやってやってたんだよ。琉依が在宅勤務状態だった頃はいつも僕が昇とお客さんが話してる内容全部聞き取って伝えてたでしょ。なんて面倒なんだって思ってたよ。引きこもり卒業してくれて本当に助かったよ」
「がーん!!そうだったの!?」
「こっちの気も知らないで琉依が営業だけでも良いけどシステムエンジニアもほしいな僕プログラミングだけしてれば良いって言われてたのにって煩いから昇がイライラしてたよ」
「えー怖いー」
「昇は粗っぽいけどそういうの察するのにも長けてるよね」
「木村が学校終わってから夜中まで仕事してた時はいつも好きなもの買ってきて差し入れたりあれで意外と気遣いが良いところでくるんだよね。僕もどうしようって迷っても自分で調べてる時は放っておいてくれるけどやっぱり駄目かもって思った時にタイミング良く話聞いてくれるし」
「「あれでへたれじゃなきゃなー」」
関さんと小林くんがハモって同時にため息もつく。
と、その時周りがざわついてるのに気付いた。
「どうしたんだろう」
「あ、琉依あそこ」
小林くんが指さす方向に美香ちゃんがいた。翠さんたちと足早に出口のドアから外に出るところだった。
「美香ちゃんなにかあったのかな!?」
「待って待って、まだわからないよ。とにかく落ち着いて行ってみよう」
関さんに言われて美香ちゃんたちがいたと思われる近くまで行くとかこさまがなんだとかみんなが話してるのを聞く。関さんが近くにいた女の人に聞く。
「わからないのですけど、急にかこさまが声をあらげて」
「あんなかこさま初めて見ましたわ」
佳代子さんは公の場所では普段とは真逆の淑女に大変身する。それなのにどうしちゃったんだろう。やっぱり美香ちゃんに何かあったのかな、どうしよう。とにかく僕も美香ちゃんを追いかけよう。
「待って琉依、加代子たちに任せよう」
「でも……」
「翠たちは美香ちゃんにとって悪いことはしないよ。美香ちゃんが自分でどうにかできるように背中を押すだけ。美香ちゃんが自分で頑張ってみるのを邪魔しちゃ駄目だよ」
「あ……そっか、そう……平気かな……」
そう思いながらしばらく経つとドアから勢い良く美香ちゃんが飛び出してきて2人の女の人のところに駆け寄って何か話してるみたいだ。その様子を見守ってると話し終わったのかまた走り出そうとした美香ちゃんが立ち止まったかと思うと話していた2人が美香ちゃんの背中を擦ったり頭を撫でていた。
「ほら、大丈夫なんじゃない?」
美香ちゃんは歩いて他の人にも話しかけに行った。
「うん……」
「美香ちゃんは誰にでも好かれてその人たちが美香ちゃんを助けてくれるんだよ」
「見て、美香ちゃん楽しそう」
「うん、そうだね」
この感じだとすぐにみんな美香ちゃんに魅了されるんだろうなって思ってほっとする。
「あ、いたいた、琉依くん」
「あれ?坪井さん」
声をかけられた方を見ると坪井さんと真奈美さんがいた。
「関くんと小林くんも一緒だったんだね。さっき話した橘さんを紹介しようと思って」
坪井さんはそう言って隣にいた大柄な男の人を紹介してくれる。
「初めまして。佐々木琉依です」
「初めまして。話はよく聞いてるよ」
「どんな話ですか?」
「秘蔵っ子ちゃんのこととかね。妻の沙希だよ」
「沙希と申しますわ」
橘さんの隣にいた奥さんはなんだかキリッとした感じの人だ。
「よろしくお願いします」
「沙希さまは私の先輩なのですわ。部活も同じでしたの」
「それはそれは……」
この人も真理子さんみたいに変わり者なのか。
「お子さんもいるんだけどどこか行っちゃったんだって」
「え、大丈夫なんですか?」
「人見知りをして誰とも話せないと言っていつも逃げてしまうのです。本当に困ったこと」
なんだろう、この人も翠さんみたいな圧がある。怖い。
「そろそろお開きになるから見つけた方が良いかもしれないですわね」
「せっかくの社交の場なのだからお友達とお話ししなさいと言ってるのに今日も駄目でしたわ……はあ」
「あの、とりあえず僕探してきましょうか」
「まあ、ありがとうございます」
「どんな子なんですか?特徴は?」
「沙希さまにそっくりですのよ」
「初等科の6年生なのですけど見た目は4年生くらいといいますか、とにかくおどおどしてる子を見つければ沙織ですわ。気が小さくて、誰に似たのかしら」
「沙希さんではなさそうですね」
「そうですわ、主人に似たのです」
「あはは、とにかく小心者なんだ。見つけても逃げるかもしれないから私たちを呼んでくれれば良いよ」
「わかりました。あ、あれ?美香ちゃんもいない」
いつの間にか美香ちゃんがいなくなってた。
「あ、本当だね」
「いろんな人に話しかけにいってるんじゃない?」
「美香さまというのは秘蔵っ子ちゃんと呼んでる方ですわね」
「そうですわ。とっても可愛らしい子でした。昔の私みたいで」
「お転婆なのね」
「昔の私みたいに可愛い方でしたわ」
「昔の真理子さまのように食べることが好きでお勉強ができなくて私に泣きついてくる困った子なのでしょう?」
「ち、違いますわ沙希さまー!!」
「私も美香さまにお会いしたいですわ。婚約者なのでしょう?」
「はい、とっても可愛いんですよ僕の可愛い美香ちゃん。可愛い僕の美香ちゃんと一緒に沙織ちゃんも探してきますね」
そういうことで僕の美香ちゃんと橘沙織ちゃんを見つけるために会場の中をうろうろする僕。だけどおかしい。人が多くていろんな人に話しかけられながらもキョロキョロ探してどこにもいない。お手洗いかなって思って行ってみるけどいなさそうだ。どこにいるんだろうって探し続けているとテラスに誰かいるのが見えた。近付いてみると美香ちゃんが小さい子と一緒にいた。
「美香ちゃん」
「ほえー?あ、琉依さん!!」
振り向いた美香ちゃんが僕の顔を見てへにゃって笑う。なんだか一段と大人になった気がするけど笑顔はいつまでも変わらないなって誰からも好かれる美香ちゃんが誇らしくもあるし愛しく思う。
「探してたよ、何してたの?」
「沙織ちゃんと遊んでましたー」
「あれ?もしかして橘沙織ちゃん?」
小さい子をよく見ると沙希さんによく似た子だった。6年生と聞いてたけど本当にもっと幼い感じがする。
「わー!!琉依さんどうして沙織ちゃんの名前がわかるんですかー!?すごーい!!」
沙織ちゃんは美香ちゃんの後ろに隠れて伺うように僕を見てくる。
「そっか、琉依さん、沙織ちゃん人見知りです」
「そうらしいね。お母さんが探してるよ」
これは本当に人見知りらしい。美香ちゃんがいなかったら言われた通り橘さんたちを呼びにいかないといけなかったな。
「えー!?大変です!!沙織ちゃん迷子の沙織ちゃんだったのー?」
「違うの。私お母さまにちゃんとお花を摘みに行ってまいりますって言ったもの」
「お花をー?そうなのねー!!私もお花大好きなのー」
美香ちゃん、それは違うよ、お手洗いに行くって意味だよって思うけどそう言う美香ちゃんに沙織ちゃんはニコニコしてるだけ。どうやら沙織ちゃんにも好かれたらしい。
「とりあえず行こう、美香ちゃん」
「はーい。沙織ちゃん行こー」
沙織ちゃんと手を繋ぐ美香ちゃんが可愛いと思いながら橘さんを見つけてそばに行く。
「沙織!!またあなたは!!お友達とお話ししてなさいって言ってるでしょ」
ぎゃー!!さっきは静かに怒ってたけど沙織ちゃんを叱る沙希さんが怖い。でも沙織ちゃんは変わらずニコニコする。
「お母さま、私お友達と遊んでたわ。ね、美香ちゃん」
「うん!!お友達です!!」
「あら、そちらの方は……」
「沙希さま、先ほどお話しした美香さまですわよ」
「まあ!!琉依さんのご婚約者の!!」
美香ちゃんを見て可愛いって興奮する沙希さん。沙希さんも可愛いものに弱いみたいだ。美香ちゃんはとびきり可愛い。
「お母さま、私美香ちゃんがいるならパーティーに行くわ」
「あらあら!!まあ!!美香さま!!」
「ほえー!?」
沙希さんがさらに興奮して美香ちゃんの手を握る。
「ありがとう!!この子毎回毎回パーティーに行きたくないって大変だったのよ。せっかくの社交の場なんだからお友達と仲良くしなさいって言ってるのに」
「だから美香ちゃんと仲良くするわよお母さま」
「沙織、美香ちゃんではなく美香お姉さまと呼ぶのよ。学校でも教わるでしょ。それからきちんと敬語でお話ししなさい」
「はーい。ね、美香お姉さま、次はいつ会えますの?」
「えっとえっと、琉依さん?」
そう言って僕を見つめる美香ちゃん。本当に沙織ちゃんに好かれたんだな。
「じゃあ来月にあるパーティーにも美香ちゃん一緒に来る?ファッション関係ので加代子さんしかいないんだけど」
「行きます!!」
「うん。来月の高梨さんのパーティーなんですけど」
「ええ、私たちも招待されてるわ」
「やったー!!美香ちゃん、また遊びましょー」
「沙織!!」
「美香お姉さま!!楽しみにしております!!」
「美香さまは他の方ともお話しするのよ。邪魔しないようにしなさいね」
「はーい!!」
お母さんに注意されても意に介さないみたいな沙織ちゃんは気が小さいそうだけどタフでもあるみたいだ。訂正しても結局美香ちゃん、になって敬語でもなくなっちゃう沙織ちゃんに沙希さんが頭を抱えてしまう。しかも沙希さんは見た目だけじゃなくて興奮した時なんて沙織ちゃんに似てる。なんだか面白い子になつかれたんだな。
「美香ちゃん、どうだった?」
お開きになって外で関さん小林くん翠さん加代子さん佳代子さんと合流してから僕は美香ちゃんに聞く。
「たくさん間違えちゃいましたけどたくさんお友達ができました!!」
「そっかそっか、沙織ちゃんにもすごいなつかれてたね」
「沙織ちゃん可愛い子でしたー。小さいお友達です!!」
「良かったね」
「はい!!」
うう、可愛い美香ちゃんが可愛い。
「なんだか早くも美香ちゃんのファンクラブがって話になってるみたいだよ。懐かしいね」
「ほえー?関さんそうなんですかー?」
「小耳に挟んでね」
「あーあ、またみんなの美香ちゃんに……」
僕も美香ちゃんと沙織ちゃんを探してる間に女の人たちが話してるのを聞いた。みんなに受け入れられる美香ちゃんに嬉しくなるけど翠さんたちだけじゃなく他の人たちにも美香ちゃんが取られちゃうと思うと悲しくなる。
そう思ってると美香ちゃんがどうしたんですかって聞いてくれる。
「うん、美香ちゃんは本当に誰にでも好かれるね」
「そうですかー?」
「そうよ。さすが美香ちゃん。私たちの思っていた通りだったわ」
偉そうな翠さんはいったい外にいる間美香ちゃんと何の話をしていたんだろう。翠さんにさっき聞いたけど内緒だって言われてしまった。
「思ってた通りってなんですかー?」
「美香ちゃんの得意なことよ」
加代子さんにも言われて美香ちゃんが首をかしげる。
「誰とでも仲良くなれるのが美香ちゃんの魅力よー」
「ひゃー」
美香ちゃん自身の魅力をわかってない美香ちゃんが可愛いと思ってたら佳代子さんが美香ちゃんを抱きしめる。ぎゃー!!美香ちゃんが佳代子さんの馬鹿力で潰れちゃう!!
「だいぶ斜め上でびっくりしちゃったけどねー!!」
「ほえー?あ、私は佳代子さんにびっくりでしたー!!佳代子さんじゃないみたいでした!!」
「かこさんは公の場所ではきちんとしてるから」
そう言いながら早く美香ちゃんから離れてって思う。
「なによー琉依さん!!私がいつきちんとしてないのよー!!」
「普段だよ普段。ね、美香ちゃんもびっくりしちゃったもんね。僕も普段からそうしてくれって思うよ」
「かこちゃんのお母さんは厳しい人だから家と親しい人しかいないところではこれで良いけど学校やパーティーの場所では淑女でいなさいって子供の時から言われてるんだよ」
「まさに立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花って言われてるよ」
美香ちゃんには難しい言葉で美香ちゃんが僕を見る。
「仕草や話し方が美しい人のことだよ。どこの世界に男を投げ飛ばすそんな美女がいるんだって感じだよね、ってちょっとちょっと、今はやめて、いつでもやらないでほしいけど」
佳代子さんが僕の腕を掴んでこようとするから慌てて関さんの後ろに隠れる。
「ま、とにかくかこさんは筋金入りの猫かぶりってことだよ」
「卑怯ものー宗一郎さんの後ろに隠れるなんてー!!あ、そうだ、美香ちゃんとイチャイチャしたら良いんだわ」
そう言ってまた美香ちゃんを抱きしめる佳代子さんに、だから力が強いんだってって思いながらヒヤヒヤするけど美香ちゃんは嬉しそうにへにゃって笑う。
「ぎゅー。美香ちゃんお疲れさまー。良くできましたーパチパチー」
「えへへーありがとうございまーす。でも、たくさん間違えちゃったので次は間違えないようにしていろんな人と仲良しになりたいです!!」
頑張り屋さんの美香ちゃんは偉いな。
「偉いわ美香ちゃん!!それでこそ私の美香ちゃんねー!!」
「ちょっと!!美香ちゃんは僕のだよ!!」
「みんなの美香ちゃんよー」
「そうね、美香ちゃんは頑張り屋さんだわ。偉いわね」
「とても素晴らしいわ。次も頑張りましょうね」
「はーい」
くう……翠さんにも加代子さんにも褒められて喜ぶ美香ちゃんが可愛すぎる。
美香ちゃんの初めてのパーティーは失敗もしたけど美香ちゃんらしく頑張って、美香ちゃんの魅力が活かされて素晴らしかった。心配して連絡してくれた慶太くんにそう答えた。




