卒業後のこと(美香視点)
4月、高校3年生になった私は目の前の紙を前に考え込んでいる。
「んー……」
「美香ちゃん」
「おーい、美香ちゃーん」
「美香!!」
「ひょえー!?」
突然大声と優菜のドアップが現れてびっくりしちゃう。
「美香ちゃん、進路希望調査で悩んでるの?」
「去年だって書いたじゃん」
真紀ちゃんと晶子ちゃんに言われちゃう。
「だって去年はまだ2年生だもんってなんにも考えてなかったんだものー」
「あららー。面談とかでも聞かれてたのにどうしてたの?」
「進級と卒業できるようにこれからも優菜と琉依さんに協力してもらって頑張ってねって言われて終わりー」
「美香ちゃんには進路よりそっちがまず問題だったか」
「でも無事進級できたしあとは無事に卒業できると良いよね」
「まあ私がヤマ張って琉依兄が図書室と村っちの家で丸暗記させて卒業したらあとは琉依兄と結婚するだけだし、結婚って書いて出したら良いじゃない」
そう言って私の進路希望用紙に結婚って書いちゃう優菜。
「もー優菜ったらー……」
紙を見つめながら考える。真奈美さんや村岡さんや琉依さんのお母さんとお父さんは私と琉依さんは結婚するものだって思ってるみたい。1月にはお付き合いしてなくても結婚できたって話も聞いたし、結婚できるのかもしれないけど、それでもお母さんたちは珍しいことだったはず。だってみんなお付き合いしてから結婚してる。杉本さんたち常連さんたちにも聞いた。だからやっぱり仮の彼女じゃなくてちゃんと本物の彼女になって、そしたら結婚も夢じゃないのかなって思える。もし高校生のうちに本物の彼女になれたとしてもいつ結婚できるかなんてわからない。結婚したらお仕事しないで良いかもしれないけど。うちはお店をしてるからお母さんも働いてるけど私のおうちの周りには専業主婦が多い。優菜のおうちも真紀ちゃんも晶子ちゃんだってお母さんは働いてない。だけど高校生のうちに本物の彼女になれるかもわからないし卒業してすぐに結婚できるかなんてもっとわからない。それにこのまま仮の彼女の関係が続くかもわからない。だって琉依さんはあいかわらずいろんな女の人に好きになられちゃってそんな女の人はみんな綺麗だし可愛いしこの前なんてチケットの裏に連絡先を書いて渡されたのを見ちゃった。ハラハラしながら琉依さんを見てたら大丈夫だよって言ってニコッてされたけどそれって大丈夫だよちょっとお誘いに乗って危険な遊びをするだけだって意味だったらどうしようって思った。村岡さんに相談したら、ないって一言だったんだけど私は心配で心配で仕方ない。あいかわらず手も握ってくれないしキスもしてくれないしその先だってしてくれない。半年でおかしいって言われてたんだから今はもっとおかしい。昇さんに秘密でそういう関係の人がいたらどうしようって思ってる。琉依さんたちは基本的には秘密がないそうだけど絶対じゃないし、だから私との約束もみんな守ってくれてたそうだけど、だからこそ琉依さんもみんなに秘密にしてることがないとは言い切れない。うう……3月から一人暮らしを始めて1ヶ月以上経ってるのに遊びにいかせてくれないし。どうなってるのー。真紀ちゃんと晶子ちゃんに先週どう思うって聞いたらそれなら大丈夫だそうだよって言われちゃった。優菜に心配ないって聞いたから安心しなよって言われちゃった。今まであんなに怪しいって言ってたのに急に態度が変わっちゃって困っちゃう。それにその話をすると怖いとかキモいとか言って話も聞いてくれなくなっちゃったし。もうこうなったらこのことも村岡さんホットラインで聞こうかな。なんでも聞いてるって言ってもそういう関係の話って恥ずかしいし聞いて良いのかなって思ってキスって甘い味だそうですけど本当ですかって聞いてそんなもの知りませんって言われただけ。
「琉依さんは結婚する気はあるんだよね?」
「もちろん。だから結婚。永久就職っと。これでオッケー」
また私の進路希望用紙に書いちゃう優菜から用紙を返してもらう。
「なによ。まだ早いとは言ってたけど高校卒業したらさすがにするんじゃないの?」
「まだ早いって言ってたんだ?でも琉依さんって学生のうちに起業して働いてるんだよね?」
「そう。だから金銭面がとかなんとか言ってたけど大学卒業して仕事に集中するようになれば全然問題ないと思うんだよね」
「ほら、美香ちゃん結婚って書いて出しちゃえば?」
「むー!!だから優菜は違うのー……」
優菜は本物の彼女だと思ってるからそういうことを言ってるけど本当はそうじゃない。でも言えないってモヤモヤしてると優菜が頭をポンポンってしてくれた。
「わかったわかった。じゃあ結婚以外の進路を考えたら良いのね?」
「優菜ー!!」
さすが親友!!優しい!!仮の彼女がこの先どうなるのかわからないからちゃんと卒業のあとのことを考えないと!!
「そうねー美香は子供が好きなんだから保育士とかが良いんじゃない?」
「わー!!保育士さん!!」
「美香ちゃん似合いそう」
「どっちが子供かわからなくなりそうだけど」
「むー晶子ちゃんの意地悪ー!!保育士さん良いかも!!」
「でも学校行かなきゃいけないよ。試験もあるし。美香には無理だろうね」
「そんなー……」
「美香ちゃん実家のお花屋さんで働けば良いんじゃないの?」
「あー!!その手があったー!!」
「晶子それ先に言えば良かったのに」
「えーだって普通最初に考えるでしょ」
「いや、だからこそ私もそれ以外で悩んでるのかなと思って」
「悩め悩めーどうせ無駄だしー」
優菜にポカポカ頭を叩かれながら考える。お花屋さんは楽しいし常連さんたちは私が結婚しておうちを出ちゃうって思って残念がってるけどずっとお花屋さんにいたら喜んでくれそう。でも真奈美さんは私がお嫁にいっちゃってからが心配って悩んでた。結果上手くいってるけど私がお嫁にいかないってなったら逆に……どう思うだろう。今度は邪魔だなとか思われちゃうかな!?でもでも、それはないよねーだって真奈美さんだもの。優しいお姉さんだもの。ちょっと今度聞いてみよう。そういうわけだから……。
「保育士さんかお花屋さんっと。これでオッケー」
私は結婚という文字と永久就職という文字に二重線を引いてその下に保育士さんかお花屋さんって書いて先生に渡した。
そしてその日帰ってお店の手伝いが終わった真奈美さんに聞いてみた。
「あのね、あのね、真奈美さん私が高校卒業してお花屋さんにずっとお手伝いでいたら嫌?」
「え、どうしたの急に」
「あのね、今日進路希望の紙を書いて思ったの。仮の彼女がどうなるかわからないから将来のことはちゃんと考えなきゃって」
「美香ちゃんってあいかわらずたまにまともなこと言うね」
「むむ!!それは褒め言葉?貶し言葉?」
「褒めてるよ」
「わーい!!」
真奈美さんはお店にある椅子に座って私もそばにあった椅子に座る。
「ねえ美香ちゃん。琉依さんって本当に美香ちゃんのこと仮の彼女だと思ってる?私まだ数回しか会ってないけどそんな風には思わないけどな」
「それは琉依さんが本物の彼女みたいに接してくれるからよ」
「そうなのかなー」
「ねえ真奈美さん。お化粧もできるようになったし髪の毛も長くなったしお料理でアピールもしてるのにどうしてまだ仮の彼女なのかな。琉依さんの周りには綺麗な人も可愛い人も集まってくるしその人たちはみんな大人だし明莉さんとよりを戻すことはもうないかなって思うけど琉依さんも綺麗で可愛くて大人の人が良いんじゃないかな。早く大人になりたい。でも私成長したわよ?テーブルマナーもお料理もできるようになった。どうしたら大人になれるのかな。お勉強ができないのはそのままだけど、それのせいかな。でもね、私学校のお勉強はできないけどみんなが言うほどお馬鹿じゃないのよ?」
「そうだね、美香ちゃんはそんなにお馬鹿じゃないよ。ちゃんといろんなこと考えて、考えすぎてよくわからなくなっちゃってる。それに琉依さんに出会った高校1年生の時からたくさんのことを経験して難しいことも頑張って考えてきたね。私びっくりしちゃうよ。美香ちゃんが難しい言葉を言ったりちょっとした英単語を言えてたり。この前もお店にお母さんと来た子とゲームしてタイムリミットだよって言って。高校1年生の時はタイムリミテッドとかタイムリブートとか逆になんでその単語が出てくるのって感じだったのに。それに最初の質問、美香ちゃんがそんな風に気にしてくれるなんて思わなかった。前は私も不安で美香ちゃんがいなくなったあとどうしようって思ってたけどお客さんみんな良い人ばかりだし美香ちゃんがお花のことたくさん教えてくれるから楽しい。あの時本気でプロポーズ断ろうか悩んでたけど断らなくて良かったって思ってる。美香ちゃんがいなくなっても頑張ろう、お店を守っていこうって思ってる。だけど美香ちゃんがいてくれるほど心強いことないよ。美香ちゃんが卒業してお店で一緒に働けたらすごく嬉しい。だから心配しなくて良いんだよ」
「そっかあ……」
「美香ちゃんはちゃんと成長して大人に近付いてる。でも琉依さんはいつも見守って応援しててくれたでしょ。綺麗だとか可愛いだとか大人だとかそういうのは気にしてないと思う。美香ちゃんが今まで頑張ってきたことをちゃんと見ててくれてるんじゃないかな。だから大人にならないとって焦らなくて良いんだよ。私もあと数ヶ月で20才になるけど自覚ないし。気持ちはまだ全然大人になれてない」
「真奈美さんがー?」
「そうだよ。私もまだ子供だよ。だから美香ちゃんもゆっくり大人になれば良いんだよ」
「うん、わかったー。あのね、真奈美さん、進路希望にはね、保育士さんかお花屋さんって書いたのよー」
「保育士さんかあー。美香ちゃんにぴったりね」
「えー本当に?」
「美香ちゃんちっちゃい子と遊んでる時イキイキしてるし、本当に子供大好きでしょ。保育士さんって大変だけど、だからこそ子供が本当に大好きな人じゃないと続けられないと思うし」
「大変かなー?」
「学校に行ってお勉強して資格も必要だよ」
「あー優菜も言ってたー……無理かなー」
「でもだから諦めるのは早いよ。やってみたいって気持ちがあるなら挑戦してみたら良いんじゃないかな。私はお花屋さんで働いてくれるのも保育士さんになるのも応援するよ!!」
「わー!!ありがとう真奈美さん!!」
保育士さんを目指したいなら図書室に行ってお仕事のこと調べてみたらって言ってくれたから次の日学校のあと図書室に行って調べてみたら保育士さんになりたいって思った。
お母さんとお父さんとお兄ちゃんに話したら結婚はって言われちゃった。お母さんたちまでなの?って思ったけどいろいろ考えて仕事も考えておかなきゃって思ってって言った。
琉依さんには何て言おうって思って仮の彼女がお仕事をするために学校に行くなら専業主婦になってくれる年の近い大人の女の人を新しく見つけて結婚しようって思われちゃうかもって思った。待って、それなら仕事をしない方が良いじゃないって思って、でもでも、それで働かないでのほほんってしてて仮の彼女が終了で別れようって言われたら全て終わっちゃう。ここはとりあえずまだ秘密っていう方が良いかもしれない。そう思った私はお母さんたちに学校受からなかったら恥ずかしいから琉依さんにはまだ言わないでって言った。お母さんたちはそりゃそうだ、受かるはずないしって言った。むー!!酷い!!
酷い酷いって思いながら今月買ってもらったばかりの携帯で村岡さんに電話をかけた。
「村岡さん村岡さん、お母さんたちが酷いんです」
『……はあ』
「村岡さん!!ちゃんと聞いてくださいー!!」
最近いつもやる気の無さそうに聞く村岡さん。もっとちゃんと聞いてくださいって言う。
『しつこいんですよ。隔週から週1になって最近は全く琉依さんの話じゃない時の方が多いんですけど』
「だって琉依さんえーぎょーもしなきゃいけないって忙しくて月に1、2回しか最近会えないんです。悩むより楽しまないともったいないんです。でも悩みもありますから聞いてください。それで先にお母さんたちのことなんですけどね」
『はいはい』
「私高校卒業したら学校に行くんです」
『無理です』
「むー!!無理じゃないんです!!」
『結婚するでしょう、琉依さんと』
「村岡さんまでー!!もー!!とにかく卒業したら保育士さんの勉強をするために学校に行くんです!!」
『そうですか。せいぜい頑張ってください』
「わーい!!応援してくれるんですね!!ありがとうございます!!」
『チッ』
「なんで舌打ちー!?」
『なんでもないです』
「それでお母さんたちが受かるはずないって言うんですよー。酷いですー」
『それは誰が聞いてもそう言います。そもそもなんで仕事を?専業主婦で良いじゃないですか』
「村岡さんも専業主婦が良いですか?」
『良いというか世の中は圧倒的に専業主婦が多いですから。そういえば優菜さんがこれからは夫婦共働きの時代がくる気がするって予言めいたことを言ってましたけどそれでですか?』
「あーそういえば優菜がそう言ってお化粧品を売るお仕事をするって言ってましたね」
『っていうことは関係ないんですね』
「そうですねー。この先琉依さんとのお付き合いがどうなるのかわからないですから」
仮のお付き合いが良い方に進むのか駄目になっちゃうのか。
『はあ?またおかしなことを考えてるんですね。何も言わない琉依さんも悪いですけどあの人はちゃんと考えてますよ』
「むー……でもこのまま何もしてないよりは将来のことをちゃんと考えたいんです」
『まともなことを言いますね』
「私はお馬鹿じゃないんです!!」
『で、悩みの方はなんなんです?』
「あのですね、あのー……」
『早くしてください。そもそも琉依さんの話じゃないから聞く義務ないんですけど』
「あーあのですねー。琉依さんはどうしておうちに入れてくれないんでしょう。手も握ってくれないしキスもしてくれないしその先もないのはなんでですか?」
『切っていいですか?』
「えー駄目です!!」
『そういう話は優菜さんに聞いてください』
「それが優菜やお友達はみんな最近そういう話を聞いてくれないんですよ。怖いとかキモいとか言うだけで」
『それはわかります』
「そしたら村岡さんしかいません。私そんなに魅力ないですか?本当に琉依さんそういう関係の人いないんですか?昇さんに、みんなに言ってないだけじゃないんですか?だって秘密はないのは絶対じゃないんですよね」
村岡さんは黙っちゃって少し経ってから仕方ないですねって言ってくれた。
『さっきのこの先がどうとか今のは同じことですね。美香さんが考えてるのは全部違います』
「全部ですか!?」
仮の彼女だからできないのかなとか言ってないこともあるのに全部違うってわかるの!?村岡さんすごい!!
『全部です。そうじゃなくて琉依さんはちゃんと美香さんのことを考えてるからです。琉依さんは馬鹿で煩くて迷惑な人ですけど美香さんのことに関してはすごく真剣に考えてますよ。本気すぎて怖いです。普段はいい加減ですけど美香さんとのこれからのことはちゃんと考えてるから大丈夫です』
そっかー。琉依さん私を本物の彼女にできるか真剣に考えてくれてるんだな。真紀ちゃんたちも初めては特別だって言ってたし、してくれないのは大切に思ってくれてる証拠なのかも。
「そうだ、琉依さん大切って言ってくれたもの」
10月に私を大切って言ってたし。仮の彼女なのに大切なのって思ったけど。だけど私とのことをちゃんと考えてくれてるんだ。仮の彼女だからできないんじゃなくて大切に思ってくれてるからしないんだ。
『美香さんは知らなくて良いことですから詳しくは言いませんが誰ともしなくても平気な方法はいくらでもあります』
「そうなんですか!?」
『はい。だから美香さんと付き合ってから1度もしてなくてもおかしくないです。やってることは引くほどおかしいですが』
「方法ってなんですか?」
『だから美香さんは知らなくて良いんです』
「いくらでもっていくつかあるんですね?」
『本当にたまにまともになりますね』
「1つで良いので教えてくださいー」
『嫌です』
「そこをなんとか!!」
『言ったら電話切って良いですか?』
「良いですよ!!」
『……気合いです』
「は!?気合い!?」
あ、電話切れちゃった。そっかあ。気合いと他の何かでなんとかなるんだ。良かった。これで一人暮らしになって女の子を連れ込んでるってことはないってわかった。でもおうちに呼んでくれない理由はわからないままだった。
でもまあ、良いかな。今度の琉依さんの誕生日まであと少しだから早く匂袋を完成させないと。クリスマスは手作りじゃなくて大人っぽいものをプレゼントしたいと思ってお財布を買った。琉依さんは喜んでくれたけどこの前村岡さんに琉依さんは私の手作りが好きなんだって教えてもらった。それならそうとお財布のこと相談した時に言ってほしかったけどそれならお部屋に飾ってもらえるような匂袋を作ろうと思った。
私はクリスマスにお正月につけていた髪飾りをもらった。可愛くてとっても嬉しかったけどやっぱりジュエリーじゃないってちょっと落ち込んだ。でも琉依さんが振り袖楽しみにしてるって言ってくれたから嬉しかった。琉依さんは手作りが良いみたいだし私との間ではこういったものが良いのかなって思った。私も高いものをもらったら壊しちゃったらどうしようって思っちゃうだろうしこれで良いのかも。
私は琉依さんに喜んでもらえますようにって思いながら匂袋を作った。




