願い事(琉依視点)
10月の文化祭のあとの1年2ヶ月記念日は決めていた通りボウリングに行って11月は僕が泊まり掛けで仕事に行ってたから電話して12月は映画を観に行ってクリスマスにはショッピングをしたりイルミネーションを見たりした。美香ちゃんはやっぱり記念日が好きで朝から今日は記念日って喜んでるって慶太くんが教えてくれて実際に会ったり電話したりしても特別特別って言って嬉しそうで可愛い。19時までに帰ることを止めてイルミネーションも見れるようになったし美香ちゃんは僕と長くいられて嬉しそうにしてくれるし僕も美香ちゃんとずっと一緒にいられて嬉しい。前は美香ちゃんが可愛すぎて僕の心臓がもたなくて早く切り上げてたら心配されてもっと一緒にいたいって手紙で言われちゃったけど美香ちゃんは僕と一緒にいたくてたまらないらしい。もちろん僕もだけど。まあ本当に1日中一緒にいるといろんな問題で無理だから家に帰らないといけないんだけど。ああ、早く美香ちゃん大人にならないかな……。いや、大人に成長していく美香ちゃんを見てるのは幸せだからやっぱりゆっくりで良い。
ゆっくりだけど確実に月日は経っていて新しい年になった。例年通り1日は親戚が集まっていつも通りイライラピリピリしたけど2日の今日は美香ちゃんと過ごせるから幸せだ。朝昼兼ねてお雑煮を食べてから年跨いで喧嘩している父さんと優菜の言い合いを気にせず家を出てきて美香ちゃんの家に行って上がらせてもらって挨拶をした。真奈美さんも来ていて初めて会ったけどしっかりした感じでまだ婚約者だけどすっかり馴染んでてすぐにコーヒーを出してくれた。出来た婚約者だねって慶太くんに言ったら照れてた。
そしてなにより美香ちゃんだ。僕がコーヒーを飲んでると琉依さーんって言いながらお母さんとリビングに入ってきた美香ちゃんはオレンジ色の振り袖姿でくるりと回ってどうですかって聞いてくれて可愛すぎてどうしようってなった。どうもしちゃ駄目だって思って冷静になってとっても可愛いよって言った。僕が初詣に行こう、美香ちゃんの振り袖姿は可愛いだろうねって言ったら振り袖着ますって言ってくれた。楽しみにしていた美香ちゃんの振り袖姿はとてつもなく可愛すぎた。僕がクリスマスにプレゼントしたオレンジ色の花の髪飾りもすごく似合ってる。あげた時はなんだか最初嬉しくなさそうな顔をしてたけど振り袖楽しみにしてるって言ったら楽しみにしててくださいって笑ってくれた。クリスマスに和が合わなかったのかなって思って聞いたけどそうじゃないらしい。なんだったのかは教えてもらえなかった。美香ちゃんはお財布をくれて初めてお花に関係ないものだって思ったけど村岡くんに聞いて買ってくれたそうだ。一生懸命迷って買ってくれたのかと思って嬉しかった。
村岡くんはどうやら美香ちゃんに僕の苦情を聞いているそうだ。律儀に僕に言ってくれた。僕には言えない悩みを聞いてくれてて守秘義務があって内容は話さないけどこれは浮気ではありませんって言ってた。うん、浮気じゃないね、ありがとうって言った。僕への不満は僕に言ってほしいけど美香ちゃんは僕以外のみんなには打ち明けていたとあの日知ったから誰かに言って美香ちゃんの不安が和らぐならそれで良い。村岡くんは僕のことをよくわかってるし美香ちゃんの悩みを解決してくれるだろう。
そう、文化祭には帰ってこれなかったけど10月の末に竜二さんが帰ってきて関さんも予定を合わせて美香ちゃんも優菜もみんな集まって会ったあと、夜は飲むからって美香ちゃんと優菜を帰らせて村岡くんの家で飲んだ。それで関さんと竜二さんにこの前は大変だったねって言われた。電話ではそういうことがあったって全員がそれぞれに話してたから。それで関さんと竜二さんがいたらあんなこじれたことにはならなかったって木村くんが言い出して確かに逐一電話してたものの2人がいてくれればもっと美香ちゃんをフォローしてあげられてたって言って昇も小林くんも木村くんも村岡くんも駄目だなーって言ったらみんなにそもそも僕が悪いってバッシングされた。それはそうなんだけどーって落ち込んでたら関さんと竜二さんが慰めてくれた。年上の2人はやっぱり違う。優しいって思った。
「行ってきまーす」
「琉依くんに迷惑かけないでねー」
「琉依くんから離れないでよ?」
「琉依さん、美香のことよろしくお願いします」
「美香ちゃん、気を付けてね」
コーヒーを飲んでからじゃあ行こうかって言ってた家から出る時にお母さん、お父さん、慶太くんにそう言われて子供じゃないのにって真奈美さんしか優しくてくれないって子供っぽく怒る美香ちゃんが可愛いって思いながら挨拶して家を出た。
「琉依さん琉依さん、どうですかー?」
さっきと同じようにくるりと回ってくれる美香ちゃん。なんて可愛いんだろう。
「可愛いよ。美香ちゃんは世界一可愛いね」
「えへへー」
喜ぶ美香ちゃんが可愛い。何回でもくるくる回ってほしい。
「お姉ちゃんからおさがり私憧れてましたー」
「良かったね、優しいお姉さんで」
「真奈美さんとっても優しいですよー」
真奈美さんはまだお姉さんにはなってないけど美香ちゃんにとってはもう昔からお姉さんみたいな存在だったそうだ。話しながら車に乗って神社に向かう。
「琉依さん琉依さん」
「どうしたの?」
「優菜はお父さんと仲直りしましたかー?」
「まだ喧嘩してるよ」
僕と美香ちゃんが去年最後に会ったのはクリスマスだけど美香ちゃんと優菜と真紀ちゃんと晶子ちゃんはそのあとに遊んでる。クリスマスに別れた優菜に美香ちゃんは電話で僕に別れたのも父さんと喧嘩しちゃってるのも心配ですって言ってくれたけど優菜が別れるのも父さんと喧嘩するのも日常茶飯事だから心配ないよって言った。
「前よりは長く続いてるんだけどね。カレーは辛口か甘口かで喧嘩して別れちゃさすがになー」
「優菜はカレーは甘口って決めてますもんねー」
「辛いの駄目なわけじゃないんだから辛口だって良いのに強情だよね」
「優菜ですからねー」
「困った妹だよ……」
なにもクリスマスに初めてカレーなんてオーソドックスな食べ物を食べなくても良いだろうに。チキンを食べれば良かったのにな。
それから優菜の強すぎるこだわりの話をしたりお父さんが僕が一人暮らしをするのに今さら反対してきた話をした。
「今月から物件探し始めるのに今さら駄目とか無理だよね。今になって僕がいなくなったら優菜の元カレが押し掛けてきた時に自分しかいないことに気付いてたよ。父さんも馬鹿だね」
「おうちまで来ちゃうのは困っちゃいますねー」
「優菜も普通に別れてくれれば良いのに」
もう僕の中で美香ちゃんに埋もれて美香ちゃんに浸れる夢のような部屋を作る計画が進んでるのにいまさら駄目なんて冗談じゃない。
神社について参道を歩く。
「すごい並んでるね、やっぱり」
「そうですねー。並びましょ」
拝殿の前にはたくさんの人が並んでいて僕たちはその列に並ぶ。
美香ちゃんはなんだかぼーっとして何か考えてるみたい。そういえばおみくじとかお守りとかどうしよう。美香ちゃん好きそうだけどお守りは……。美香ちゃんは文化祭のあとお守りがなくなっちゃったのを気にしてた。あとから思えば木村くんが川原さんの話を最初にしたのは駅から大学まで来る時だったそうだからあの話をした時にはいろいろ戸惑っていたのかもしれない。僕と別れてから留学に行って帰ってきたばかりって聞いて不安だったのかも。現に川原さんは未練があるって言ってたし復縁するとか思ったのかな。そんなのあり得ないけど。だって僕の初恋は美香ちゃんで今までもこれからも美香ちゃんだけが好きなんだから。でも美香ちゃんを不安にさせてたのは僕自身だもんな。もしかしたらなくしたのは嘘だったかも。どうして川原さんの話を聞いてお守りを渡したくなくなったのかはわからないけどお守り完成したので楽しみにしててくださいって電話で言ってたのに渡したくないって思うほどの何かがあったみたいだというのはわかった。本当になくなっちゃったって残念がる美香ちゃんがもし見つかったら僕にくれるかはわからないけど美香ちゃんには美香ちゃんがそばにいてくれるのが一番安心するってだけ言った。お守りもお手紙も美香ちゃんがくれるから嬉しいけどなにもなくても美香ちゃんがそばにいること以上のことはない。
「美香ちゃん」
「ほえー?」
参拝の順番になって美香ちゃんに声をかける。それでお賽銭を淹れて手を合わせる。美香ちゃんがもう僕のせいで傷付きませんように。
もう幸せにすることがどういうことなのかわかった。でも僕は美香ちゃんだけを見ているけど美香ちゃんが不安になって悲しむことはこれからもあるかもしれない。村岡くんに隔週で相談するくらいには僕への不満があるみたいだし。だから美香ちゃんが逃げ出したくなるほどいっぱいいっぱいになって傷付く前に村岡くんに話してくれると良い。神様に願うことではなかったかもしれないと思いながら目を開けると僕を見ていた美香ちゃんと目が合う。
「行こうか」
「はい!!」
美香ちゃんに何をお願いしてたんですかって聞かれて美香ちゃんのことって言ったら美香ちゃんは嬉しそうに僕のことをお願いしてたって言ってくれた。それからおみくじを引いたら凶だった。怖い。今年もなにか悪いことが起きるの?どうしよう。そう思ってると美香ちゃんが大吉の私が琉依さんを守ってあげますって言ってくれて僕が悪いことって思うのは美香ちゃんのことしかないから美香ちゃんのことで何かが起こるらしいのに美香ちゃんが守ってくれるとはどういうことだって思ったけど美香ちゃんが安心してくださいって言うから嬉しかった。結局お守りは買わずに甘酒を飲んでレストランに行った。
「明けましておめでとー美香ちゃん」
「明けましておめでとう」
「明けましておめでとうございます!!」
そっぽを向いて機嫌の悪い優菜に美香ちゃんが言う。
「優菜ー明けましておめでとうー」
「あけおめーことよろー」
「ひい!!優菜が怒ってるー!!」
「まだ怒ってるの優菜」
機嫌の悪い優菜に怖がっちゃう美香ちゃん。家を出るまで喧嘩したままだったから変わることはないだろうとは思ってたけどそれにしてもいつも以上に長い親子喧嘩だ。
「新しい年なのにムスッとしちゃ駄目って言ってるのにねー」
僕があと少しで一人暮らしするから父さんも必死なのかも。いつもは引くか逃げるかするのに。
注文をしてから母さんが美香ちゃんと優菜を見ながら言う。
「振り袖はやっぱり可愛いわよねー。私もお着物にすれば良かったわー」
「えへへーありがとうございます!!優菜ー可愛いって。優菜お着物似合うものねー去年、じゃなかった、一昨年の優菜も可愛かったものー」
「ふん、そんなの当たり前よ。私だもの」
「そうよねー!!優菜さまだもの!!」
「そうよ、私は優菜さまなの」
「琉依さんが世界一可愛いって言ってくれたの!!優菜は世界一の美人さんだね」
「この世で一番美しいのは私よ」
「わー!!悪い魔女さんみたいねー」
「どうせ性格の悪い悪女ですけどー!!なにさらっとのろけんのよー!!」
「えーん!!優菜が怒ったー!!」
立ち上がって美香ちゃんを叩こうとする優菜を母さんがまあまあって言って宥める。僕は優菜の腕を掴んで止めた。親友同士の戯れでも僕の美香ちゃんだよって目で言うと口パクでキモいって言われた。どうして?
「本当に仲良しねー。やっぱり娘が2人だと賑やかで良いわねー」
「ママー気が早いよー」
「早くないわよー。美香ちゃんは17才だもの。結婚したって良いじゃない」
「さすがに高校生のうちはちょっと。美香ちゃんも嫌だよね」
「ほえー?」
「ほら、まだ早いよね。早く結婚すれば良いってものじゃないんだから」
母さんは気が早い。美香ちゃんがぽかんとしちゃってる。僕と美香ちゃんは結婚して一生一緒にいるけどまだ美香ちゃんには結婚はピンとこないだろう。僕も美香ちゃんを養うために十分貯金をしないといけないし。そうは言っても仕事をして美香ちゃんとの時間がなくなったらもともこもない。一生平社員で美香ちゃんに不自由な思いをさせないくらいの蓄えをしないと。
「そうかしらー?私は早く結婚して良かったわよー」
「とにかくまだ時期尚早なの。ほら、料理きたよ」
料理を食べながらなぜか母さんと父さんの話になった。
「それでね、日本語も教えてくれて会ってくれるだけで付き合ってはいなかったんだけど康介が日本に帰る前に一緒に日本にきてほしいって言ってくれたのよー」
「お付き合いしてないのにですかー!?」
「……してただろ」
「してないわよー!!いつも私が会いに行って日本語を教えてくれてただけじゃない!!でも良いのよー。康介は口にするのが苦手だものね」
「ほえー……」
「ねー美香ちゃんは子供好きなのよね。子供は何人ほしいのー?」
「え?」
「母さん……だから早いってば」
母さんはどうしても早く美香ちゃんと結婚させたいらしい。僕も早くしたいのはやまやまだけど金銭的な問題じゃ仕方ない。
「ママすごい話の戻し方ー」
「良いじゃないのー。美香ちゃん子供好きでしょ」
「えっと、えっと、子供はとっても好きですよー」
「じゃあたくさんできると良いわねー。私もたくさん孫がほしいわー。康介と最近話すのよー。孫ができたらたくさん甘やかして可愛がりましょうねーって。琉依もグチグチ、優菜はガミガミ怒ってばかりだから私たちがいっぱい甘やかしておばあちゃんおじいちゃん子にしましょって」
「なによそれ!!ガミガミ怒らないし!!」
「僕もグチグチ言わないよ」
「絶対ママ煩いパパ煩いって言われるわよー。美香ちゃんと琉依の子も優菜と未来の旦那さんとの子もきっとねー。ね、美香ちゃん」
「えっと……」
ほら、また美香ちゃんが戸惑っちゃったじゃないか。そういうことはゆっくり考えていくものなんだから。
「将来のことはこれからだよね。子供は1人でもその子を大切に大切に育てるから」
「そうねー。1人ずつでも2人孫ができるわよー。康介、楽しみねー」
「ああ」
「パパになんてなつかないよ。顔怖いし喋り方も固いし。ムスッとしてたら子供も泣き出しちゃうよ。顔は変えられないしせめて頭を柔らかくして喋り方も変えたらー?」
「そうか」
また優菜が父さんを怒らせた。いや、眉間にシワを寄せてるけどこれは落ち込んでる顔だ。父さんも孫になつかれたいのか。なんだか意外。
「お父さん大丈夫ですよー。ちっちゃいうちは怖い顔見て泣いちゃうかもしれないですけど琉依さんの子と優菜の子ですもん。お父さんが優しいのわかりますよ。おじいちゃん子になりますよー」
「そうか」
美香ちゃんが優しく言って安心したみたいな父さんに苦笑いする。それにしてもまた父さん美香ちゃんが好きになったな。
「ふふ、良かったわね康介」
「ああ」
「チッ」
「優菜、舌打ちしないで」
舌打ちをする優菜に注意する。まったく、優菜の考えは手に取るようにわかるけど物事はそんなに都合よくいかないよ。
「せっかくパパを口煩くしないチャンスだったのにー。琉依兄もそうやって子供に細かく注意して嫌われちゃえばー?」
「な……嫌だよ。言わないし美香ちゃんの子だから注意しなくても良い子だよ」
そうは言ってみたけどどうしよう。自分の子に嫌われるなんて絶対嫌だ。父さん邪魔とか煩いとか言われちゃったらどうしよう。そうだ、褒めて育てよう。
「美香に似たら頭が悪すぎて困りそうだね」
「優しくて可愛くて誰にでも好かれてとびきり可愛い子だよ」
「男かもよ。美香どっちが良いのよ」
「えー?えーとー……男の子かな」
美香ちゃんは男の子が良いんだ。初めて知った。それは聞いたことないから当たり前だけど。でも男の子でも僕たちの子は可愛いに決まってると思って言う。
「男の子でも可愛いよ」
「私は女の子が良いなー」
「あら、どうして?」
「だって女の子なら可愛い洋服を着せておめかしが楽しそうだし」
「僕優菜の子は困った子にならないようにちゃんとドアはノックするとかテーブルに乗りかからないとか教えてあげよーっと」
「今はノックしてますー。琉依兄が変態すぎるからー」
「ちょっと優菜。僕変態じゃないよ」
「変態以外のなにものでもないから」
「そんなわけないよ」
優菜に変態と言われて僕が違うよって言うのを何度か繰り返す。
「美香ちゃんは今でも洋服を泥だらけにして遊ぶんですってねー子供たちと。優菜と琉依もやんちゃで3人でお洗濯してたわー。川に洗濯板を持っていってごしごしって」
「してないから。庭でやったから」
母さんがすっとぼけたことをいうから冷静に訂正する。
「あら、そうだったかしら?」
「昔話で読んだわってつれていかれそうになって今はやらないよって言って僕と優菜で全力で反対したよ」
優菜が泥団子を投げつけられたけど母さんに苛められたって知られたくないって僕に言ってきたから僕も同じように泥を服につけて帰ったことがあった。それも何度もあった。母さんは気付いていたんだろうか。僕の安易な考えに。母さんはお転婆さんねって笑ってたけど。母さんはボケたことを言うし抜けてるところもあるけど全部知ったうえで笑ってるのかもしれないともたまに思う。
「そうだったわー。やってみたかったのに」
「美香ちゃんは僕とデートしてても公園とか動物園とかで子供たちと一緒に遊び出しちゃうよ」
デートをしていると美香ちゃんが本当に子供に好かれると思う。自然に近くで遊んでる子供たちが寄ってきて美香ちゃんも遊ぼーって遊んじゃう。僕は子供たちと遊んでる美香ちゃんを見ているのが幸せで一緒に遊ばないで見ている。美香ちゃんは僕が運動が苦手だからだと思ってるみたいだけど。それに動物園に行ってみた時にもごく普通に隣の子供たちと話し始める。その様子を見ているとすごく心が温かくなる。
「可愛いわねー。琉依は面倒見よくて優菜のお世話もよくしてくれたのよー。良いパパになるわよー」
そうかな?そうだと良いな。かっこいいパパって思ってもらいたい。
「パパよりは良いパパになるんじゃない?だってパパなんにもしてないもん」
「康介はお仕事が忙しかったもの。けど夜はすぐに起きて泣いちゃう琉依と優菜をあやしてくれてたのよ」
「えー嘘だー」
「僕も知らないよ」
「夜だもの。琉依は自分の部屋で眠ってたから知らないわよー」
「そうなの?」
「パパは子育てなんてしないと思ってたー」
「ふふ、ちゃんとしてたのよー」
父さんは仕事ばかりで子育てなんて母さんに任せてばかりだと思ってたけど違ったらしい。でもやっぱり僕も優菜も父さんの顔が怖いから泣いていたそうだ。覚えてないけどそうだろうなって思った。
そういえば母さんと父さんのアメリカでの交際ゼロ日婚のことは聞いたことがあったけど日本に来てからのことや僕たちの子育ての話を母さんが話すのは珍しい。というか初めてかもしれない。楽しい話でもないし辛いことばかりだっただろうからおしゃべり好きの母さんが話さなくても不思議に思わなかったけど懐かしい、楽しかった、僕より優菜の方が手がかかって大変だったとかって話す母さんを見てると辛いことだけじゃなかったんだなって思った。美香ちゃんを送って家に帰ってから母さんにそう言うと当たり前じゃない、子育ては大変なことも楽しいこともあるものなのよ、みんなねって言われた。だから早く孫の顔が見たいわって言われた。だから気が早いってばって答えた。




